3

 「星ねこ号」は午後二時に発車した。


 開いた窓から夏の風が車内を通り抜けてゆく。車窓にはさきほどの河原が遠ざかってゆくのが見えた。


 するとガヤガヤと多人数の気配がして、連結部分の扉が開いた。


 入ってきたのは、そのユニフォームから見て、先ほどの猫ラグビー選手たちに間違いなかった。


 選手たちは車内のトキ子たちに気がつくと軽く会釈して、ぞろぞろと次の車両に移動していった。


 背丈せたけは子どもくらいで、思ったより小柄こがらである。どうやらキャンプの宿営地しゅくえいちが次の駅にあるようだ。


 ところが、しばらく経ってのこと。


 トキ子はちょっと違和感を感じた。


 どうも気になる。次の車両が静かすぎる。気配がないのだ。

 もっと前の車両に移動して行ってしまったのだろうか? しかしそのような気配もない。


 トキ子はさりげなく立ち上がり、次の車両の扉を開けてみた。


 すると。


 車両には誰もいなかった。


 開け放たれた窓。


 しかし通路や座席の上には、選手たちの荷物が散乱している。


 (じょ、蒸発した?)


 驚いたが、よく見てみると。


 網棚あみだなに何かがたくさん載っている。


 見るとそれは、疲れた選手たちだった。


 みんな涼しげな網棚あみだなに上って、思い思いの姿勢で転がって眠っているのだ。


 トキ子は肩をなで下ろし、少しほほえんだ。

 そして、乗り過ごさないでね、と小さく声をかけてから、扉をそっと閉めた。


(第二話完)

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