冬 スノウフレイク
1
灰色の雲が全天を覆っていた。
地面は一枚石のように固く冷え、どこまでも広がっている。山々に囲まれた盆地はどこまでもやせて乾き、薄白くこごえていた。
どっと寒風が走り、地面にしがみついているわずかな草と灌木をふるえさせ、砂塵をまきあげて走り去ってゆく。
山のきわから、一対の黒いレールが土地を横切って延びていた。
ここにある人工物はこの単線だけであった。家屋や倉庫はおろか、畑や水路すら存在しない。灰色の地面を縫うように、それは一条の線を描いていた。
遠くから羽音のような異音がかすかに風の中に交じる。ディーゼルのエンジン音。
やがて山の
「冷えこんできたなぁ」
トキ子はオーバーコートの
車窓の
「星ねこ号」は
「ここは普通車だからニャ」
クリはそう言って、トキ子の膝の上で立ち上がり、くるりと一回りしてからふたたび丸まった。
「探偵さん、どこにいるのかな?」
「知らんニャ。さっき食堂車の方に行ったみたいだけど」
クリは興味なさそうにあくびをして、鼻先を自分の腹に埋めた。
トキ子は車窓からぼんやりと外を眺める。
遠くの山が少しずつ動いてゆく。ほとんど変わらない風景。
暖房が効き始めたせいか、少し寒さはましになった。レールのきざむ規則正しいリズムを聴いているうちに、少しずつ眠くなってくる。
そのとき。
それが起こった。
ハッと目を開く。
レールの音、暖房機の運転音、そして風。なにも変わらない車内。
気のせいか。
再び目を閉じようとした時に、もういちどそれが聞こえた。
「クリ、ごめんね」
トキ子は
トキ子はひとりで後尾の車両へ向かった。
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