そうだ、中央へ行こう

 上司からくらった精神的な傷が癒えぬまま、俺は中央へと向かった。


 前にも説明したが、天界ってやつは大陸のように全てが繋がってはいない。小さな島が各地に点在している形だ。


 島から島への移動手段は、魔法飛行。

 俺がいたのは近畿地方で、王宮や本社があるのが「中央」。

 わかりやすく言うと東京の上空にある。


 本社では主に下界の監視が行われていて、その結果が各地方に送信される。そうして俺たち下請けが、その指示書に従って因果応報を実行する、という訳だ。

 大手企業と傘下の中小企業、そんな感じ。


 ヘルメット(風圧回避のため)を被り、飛行機などにぶつからないよう考えられた『高速飛行空路』を使って移動する。


 阪神高速空路を上り方面へ。途中『空の駅』で休憩をとり、夜は危ないので名古屋で一泊。

 約一日かけて翌日の昼頃、何とか目的地にたどり着いた。


 いつ来てもこの壮大さには圧倒される。

 地方とは比べものにならないくらい大きい。

 とはいっても、下界でいうところの一市町村くらいだ。


 典型的な円形構造の都市。

 『城下町』といえば語弊なく伝わるだろうか。

 王宮の周りを本社の超高層ビルが取り囲み、その外側に民家や農地などが広がっている。

 ビルがデカすぎて、中の王宮が見えない……。


 

 突然だが、ここでみんなの疑問を一通り解決しておこう。


 えー、まずどうして王、すなわち最上神が日本に住んでいるのか。

 答えは簡単。


 気候がいいから、ただそれだけ。


 北欧は寒いし、中東は暑いし、かといって人間の住んでるところじゃないといけないし。と、あれこれ考えた結果、日本が一番だと先祖が思ったらしい。

 個人的な意見だが、四季があるからじゃないだろうか。


 Q:高層ビルとか建てれるの?

 A:建てれます、魔法でどうにでもなります。


 どうも人間のみなさんは神様が原始的な生活をしていると思っているようだが、こちらも文明は進化しているのだ。


 何か薄っぺらい布とか着てないからね?

 

 なぜかって? 

 

 そりゃ、寒いからさ。


 閑話休題。

 俺は王宮、否、高層ビルを目指して目の前の通りを歩き出した。


               ※


「失礼しまーす」

 

 受付をすませ、エレベーターに乗ること約十秒。七階の床を踏み、廊下とオフィスを隔てるドアを押し開いた。

 途端、無数の音に身を包まれる。

 キーボードの打鍵音、電話のコール音、保留音、会話音。

 こちらには一瞥いちべつもくれず、みな慌ただしく何かしらの作業に追われていた。

 

 そう、これが本社、久方ぶりの本社。

 

 ああ、心の古傷(トラウマ)が数年の時を経て、今鮮やかによみがえる。

 

 少し気分を悪くしつつ、元直属の上司である部長――通称「裸の部長」を探して、オフィス(どうやら配置換えが行われたらしい)を挙動不審にさまよっていると、


「おー! お前久しぶりだなー!」


 後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこに立っていたのは、


「覚えてるだろ? ほら同期のマツモ!」

 ……だった。


「おー! 久しぶりだなー!」


 疲れもあったが、俺は精一杯の笑顔で応える。

 こいつは同期の中でも一番親しかった奴だ。

 明るく元気で気さくな奴。一番に声をかけてくれたことが素直に嬉しかった。

 それにしても。


「変わらねーなお前は」

「お前はなんか……」

 

 マツモは一拍おいてから、


「老けたな!」

「おい! まだ一八だぞ!」

「ハハハッ! 相変わらずいじり甲斐あるなー」


 確かに苦労してきたが、老けてはいないと信じたい。


「ところで、今日は急にどうしたんだよ?」

「ああ、ちょっとした用でさ。部長の席ってどこ?」

「あー、……それがさー」

 

 そう言うと、なぜかマツモは不愉快そうな顔で軽く腕を上げ、「ふん」と上を指さした。


「出世しやがったんだよ」


「あー、なるほどね」

 俺は上の階を目指して歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る