黄金の雪
遂にその時は来た。
その丸が青く光り輝いたのだ。
青信号――それは始まりの合図、通行禁止の解除。
巨大交差点、途端に四方から動き始めた人混みは、ややあってその一点に合流する。
ここだ!
アスファルトの黒が人並みに隠れきる瞬間、俺は高らかに叫んだ!
「皆に大いなる
光一閃、詠唱に応えて手のひらから放たれた特大の幸福魔法は、通行人たちの頭上に降り注ぐ。
まるで黄金色の雪が降るような、とても美しい光景。
宵闇がより一層、その
「うわー、めっちゃきれー」
ようやく千里眼を解除して横を見る。
すると、すぐとなりまで来ていた先輩もあまりの美しさに見とれ、思わず感嘆の声を漏らしていた。
この絶景を目にして、感動しない者はいないだろう。
そう言い切れるくらい、美しい光景が広がっている。
本当に、人間には見えていないのが可哀想なくらいだ――
「って何してくれとんじゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
――絶景に見とれていたのも束の間、先輩はふと我に返り、喉がつぶれるほど叫んだ!
至近距離での絶叫は地味にダメージを受ける。
「あの辺の人みんな幸せになっちまったじゃねぇか!」
「え? 良いことですよね?」
「よくないわっ!!」
慣れない大声を張り上げて懸命に叱る先輩。
しかし、優しい顔立ちと高めな声質のせいで全く怖くない。性格の良さがにじみ出ている。
俺の
「おいどうしてくれんだよ!? 下手したら監督不行き届き《ふゆきとどき》で俺までクビだぞ!? どうしてくれんだよ!?」
「うーん」
俺は少し考えてからこう答えた。
「…………
それを聞き、揺さぶっていた先輩の手が一瞬止まり、
「ふざけとんのかぁぁぁぁぁぁぁあ!」
さらに激しく動き出す。
俺は揺さぶられるがまま、首がガクンガクンとなっている。喋るのも一苦労だ。
「こちとら今さっきまで十分幸せだったんだよ! おまえが変なことしなきゃなァ!」
「うっそだー! だって今、奥さんと娘さん実家に帰ってるんでしょー?」
痛いところを突かれたと言わんばかりに先輩の顔が引きつった。
「よーしクビだ。クビだクビ! 俺の権限でクビにしてやる!」
「先輩も平社員じゃん!」
「リーダーだ! こう見えてもリーダーだ!」
そうこうしている間に、騒ぎを聞きつけた他の同僚たちもその剣幕にビビりつつ、恐る恐る集まってきていた。
ついにはこの円形のフロアで中心の柱を隔てた対角線上、つまり一番遠くにいたはずの熱血漢がやってきて、
「何があったんですか!」
「とりあえず落ち着きましょう!」
「いったん離してっ!」
などと叫びながら、リーダーの手を俺の襟元から引き剥がした。
その途端、俺は地面に後ろ向きで――倒れた。
理由は簡単だ。特大魔法を放ったことによる魔力切れ。
襟を掴まれていたことでかろうじて立っていたんだ。実は結構前から限界だった。
「おい!」とか、「大丈夫か!」という声が降ってくる。
何だろうか、この達成感にも似た心地の良い脱力感は。
地面に引っ張られているみたいに自分の重さを強く感じる。意識がほろほろと、優しくほどけていく。
「おい誰かこいつを運んでやってくれ!」
リーダーの鶴の一声で、俺の体を四本の手が掴んだ。脇に二本、足に二本。せーの、というかけ声でふわりと地面から剥がされ、腰のあたりにも腕が増えた。
その間にも、俺のやらかした事の説明と対応の指示がなされていた。
「今言ったとおりにやってくれ! いいか、絶対に一人も逃すな! もしそうなったら連帯責任で全員減給になっちまうぞ!」
『おぉぉぉぉー!』
途切れかけた意識の片隅で、みんなの怒鳴り声がせわしなく響いていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます