第108話

 上空百キロメートルの飛行というのは飽きる。

 雲を遥か眼下に見下ろす景色は確かに素晴らしいが変化が全く無い上に、地球の自転速度の倍以上の速度で西に向かって飛んでいるので、夜明けを追い抜いてしまい景色は真っ暗になってしまう……ただ星空だけは本当に素晴らしかったが、何時間見てても飽きないと思えるほどの感性は、俺にはまだ備わっていなかった。


 俺が浮遊/飛行魔法を使いながら、同時に風防魔法内の酸素濃度の維持を行っている間、母さんは夢中で星空を飽きもせず眺めている……そしてこんな事を言い出す。

「こんな素敵な星空の下を英さんと二人で空中散歩なんてしたら……隆に妹か弟が出来ちゃうわね」

 うわぁあぁぁっ! 母親が息子に生々しい事を聞かせるな! むしろ家族団欒中にテレビで濡れ場のシーンが出た時はチャンネルを変えろ。そしてお茶の間に気まずい空気を作れ。

 全部台無しだ。この美しい星空が汚されてしまったよ。




 予定よりもかなり早くインド上空──と言っても宇宙だけど──たどり着いてしまった。

 片道八時間と見ていた移動時間が三時間を大幅に切ってしまった。


 予定とは違い、勢い(主に母さんの)に任せてきてインドまで来てしまったが、アムリタの現在位置は今は分かっていない。

 そもそもアムリタは自分のいる周辺の地理情報を全く『認識していなかった』のだ。

 せめて、自分が居る場所がどこであるか認識しようとする意識が働いていれば、自分がそれまで辿った位置情報はシステムメニュー獲得後に反映されるが、幼い彼女にはそんな意識は全くなかった。

 ただし現在位置だけはピンポイントでマップ情報として反映されていたので確認してもらったが、それをワールドマップ上では、インドの大雑把に直径数百キロメートルの範囲を示すだけだった。


「インドの西岸北部としか言いようがない」

 俺の説明に、母さんは呆然とした様子で「……それは大変ね」と答えた。


「巨大なゴミ集積場というかゴミの山があって、スラムが形成されているという話なんだよ」

「位置的にはムンバイが気になるけど、あそこってインドの首都ってだけじゃなく、世界第六位の大都市で観光でも有名よね?」

「美しいビーチと世界遺産ってフレーズは聞いた事があるよ」

「イメージに合わないわね」

 この時、インドと言う国をまだ理解していなかった俺達はムンバイを痛恨のスルーしてしまい。かなりの時間を無駄にした。


 母さんと手分けして直径数百キロメートルに渡る範囲を飛び回り、最終的に残った都市部はムンバイだけだったのだ。

『やっと見つけたよ』

 広域マップには【アムリタ】記されたシンボルが表示されている。


『随分遠回りしたわね』

 合流した母さんが疲れ切った様子で話しかけてくる。

『まさかムンバイだったとは……』

『本当ね……』



『タカシ! アムリタ起きた!』

 いきなりアムリタからの【伝心】が来た。

『おはよう。すぐに行くからちょっと待ってて』

 アムリタが起きる前に見つけて、起きたらところをおはようと言って上げようと思っていたのだが、今まで努力は兄貴の弾道ミサイル式の浮遊/飛行魔法で出来てしまった暇をつぶす作業となってしまったよ。

『……す、すぐ?』

 何か拙い事があるのかアムリタの様子がおかしい。

『ああ、すぐ近くにきてるんだけど──』

『ま、待っ──』

 アムリタが言い終えるより早く母さんは俺のシステムメニューから伝わったマップ情報を元に、ムンバイの空港から五キロメートルほど離れた場所へとダイブを開始した。

 アムリタが何か言ってる気がするが「抜け駆けすんな!」と俺もスカイダイブを実行する。


 五千メートル上空からの高速ダイブ。フライングした母さんよりも、目的のほぼ真上にいる俺の方が距離的に近い。

 つまり、ほぼ垂直に降下するという事であり……やっぱり怖いんだよ! 自由落下より加速が大きいのは怖いんだよ! 垂直降下は緩やかな角度で高度を下げるのたあ訳が違う。


 ……しかし眼前には随分と俺のイメージと違う光景が広がっている。

 眼に入るのは風防魔法で外部とは空気が遮断されているのに臭って来そうなほどの薄汚いゴミの山。

 火事なのか数ヵ所から黒い煙が立ち上っている。

 この街の姿から美しいビーチと言うのが全く想像出来ない。

 目的地はゴミの山の東側、川沿いの林の中──俺がたどり着くより一瞬早く母さんの影が俺の前を横切って着地……やられた!



 目的の幼女は薄汚れボロボロのシャツを頭まで引っ張り上げて顔を隠して地面に蹲っている。

「アムリタ?」

 俺の声に無言でシャツの中で首というか頭を振るが、周囲には他に人影は無くマップ上では検索対象として赤い矢印が指すのがお前以外誰だというのだ?

「アムリタ」

 再びシャツの中で頭が左右に回転する。

「アムリタ!」

「待ってって言ったのに……」

 ヒンディー語で返事される。日本語のつもりで名前連呼してたので一瞬分からなかった。

「待つって何を?」

 そう言いながら一歩近づくと「駄目!」と拒否された。


 何が駄目なんだ?

「隆、どうなっているの? お母さんインドの言葉は分からないんだけど」

 質問してくる母さんを右手を上げて制止すると「今大切な所だから黙ってて」と無下に答える。


 頭を隠すために上へ引っ張られたシャツの裾の下が覗け、ふとそこに向った視線。

 幼女の背中。そこには異様な程くっきりと浮かび上がる背骨に、思わず駆け寄り、後ろから抱き上げてシャツを引き下げる。

「これは……」

 思わず声を無くす程に幼女の顔は骨と皮としか言いようがないほどだった。

 これなら帝国軍に捕まってた方がまだマシだったのかもしれない。少なくとも飢えるような状況では無かったのだから。


「見ちゃ嫌ぁ~!」

 必死に顔を隠すアムリタ。この年齢でも今の自分の姿を他人に見られたくないという羞恥心があるのかと思うと罪悪感を覚える──どころではなかった。顔を隠そうとする彼女の左腕はボロ布が巻き付けられているが、その長さが明らかに短い。


「ごめん!」

 そう言い放つと幼女の返事を待つ事無く、その左腕を掴むとボロ布を一気に剥ぎ取る。

「駄目! 駄目ぇぇぇぇっ!」

 目に涙を浮かべて叫ぶ幼女の左腕の前腕は肘から先は無く、食い千切られたかのように無惨な傷跡を晒していた。

 これは……野犬だろうか? 確認すると明らかに食い千切られていた。幾ら六歳児の細い腕たとしても、刃物で切り落したのではなく食い千切るためには傷口の近くを押さえなければならない。

 その跡が彼女の腕には刻まれていた。何度も肌を引き裂かれた傷跡だが、それらは全て平行する四本のラインで構成されている。


 しかも歩行時に爪を隠す事が出来る猫の様に鋭い爪では無い。更に四本の爪痕の端と端の間は七センチメートルほど、猫にしては大き過ぎ熊にすると小さ過ぎ、丁度マルの様な大型犬位の…………

 幼女が呆然となった俺の手を振り切り「治すから」と言って【中傷癒】を使おうとするのを慌ててギリギリで制止した。


「俺に任せるんだ」

 そう言って【浄化】を使って傷口を消毒し、更に彼女の顔に浮かび上がる酷い脂汗から感染症、特に心配なのは狂犬病による発熱の疑いがあったので【大病癒】を使って病原性の細菌やウィルスを駆除した上で【弱風】で風を送り体温を下げる。


 俺が処置を続ける間も泣き続ける幼女に、遂に我慢出来なくなった母さんが近寄って抱き締める……くっ、良いタイミングでカットインしてきた。美味しい所どりを狙ったな。

「隆、この子と私を【伝心】でつないで」

 俺をオリジナルとするシステムメニューで繋がっている者同士はマップ情報と同様に【伝心】もメールリストのように共通化されているが、異なるオリジナルシステムメニューと連なる者同士では、互いに認識し合った者同士でないと【伝心】は使えない。

 その為、現状で母さんがアムリタと【伝心】で会話するには、俺を中継する必要があった。


 また母さんが美味しいとこ取りをする気なのかと疑うが、大島のとは違うベクトルで背筋がぞっとする目に俺は直立不動で「イエス、マム!」と答えて自分を中継点にして【伝心】で幼女と母さんをつないだ。


 自分を抱きしめる知らないオバさ──綺麗な女性に、驚いて身体を強張らせる幼女に『大丈夫だから泣かない、泣かないの』と優しく語り掛けながら背中を撫でている……【伝心】で中継している為、下手な事を考えると母さんに漏れてしまう。


『……アムリタ汚いから駄目だよ』

 そう口では理由を見つけて拒みながらも幼女の右手は母さんの服の脇の下あたりをギュッと握りしめている。

『後で一緒にお風呂に入って新しい服に着替えるのよ』

『お風呂?』

「母さん、インドにはお風呂の習慣はないよ」

 温かいというより暑い。いやむしろ熱い国だ。セレブでもシャワーで、庶民は良くてぬるま湯、それでなければ水をバケツに汲んでそれで身体を洗うお国柄。


『……お湯に身体ごと浸かるの、温かくて気持ち良いわよ』

『水の方が涼し──』

『これから行く日本はここよりも寒い場所だから』


 特にS県自体が全体的に標高が高いので年間を通して気温は低い。

 しかし夏でも涼しい場所にもかかわらずS県独特の前時代的な田舎臭さが不人気で避暑地にはならない。

 まあ、当然だろう。県全体の雰囲気を昭和レトロと勘違いして、もてはやされる様な時代でも来ない限りは無理……というより、そんな時代は来るべきではないと思う。

 まあ、お陰で暑さに弱いシベリアンハスキーのマルを飼う事が出来る訳である。



『日本? 何処かに行くの?』

 彼女の目に不安気な色が浮かぶ。

『ここから離れたくない?』

『……ううん、ここは嫌い。でもここしかいる場所がないの』

『日本は天国みたいに素晴らしい場所ではないけれど、ここにいるよりはずっと良くなる。約束するよ』

 つまり何が何でもアムリタにとって、今よりも幸せだと感じられる生活を保障する必要がある。

 逆に言うなら、その程度の事も出来ないなら、彼女にとって俺は存在する意味が無い。

『日本にタカシも行くの?』

『勿論だよ。俺も母さんも日本に戻るよ。家と家族が待ってるからね』

『お母さん……タカシのお母さん?』

 自分を抱きしめている相手の事だと察したのか、アムリタが母さんに首を傾げながら訪ねる。

『そうよ。そして今日からは貴方のお母さんよ』

 母さん飛ばすな……

『お母さん?』

『お母さんよ!』

 慎重に間合いを削っていくような駆け引き無しの力技……小心な俺には徹底的に追い込まれない限り決して出来ない真似を平然とする。

 俺は父さん似で良かったと胸を撫で下ろしております!

『家の子になってくれる?』

 ぐいぐいと距離を詰めていく母さんに脅威を感じる。これは失敗しても母さんごと俺までアムリタとの溝が深まり、成功すると母さんだけがアムリタとの距離を詰めるパターンだ……なんて卑怯な。


『アムリタ。無理しなくてもいいんだよ。本当のお母さんの事はまだ忘れられないだろう?』

 はっはっはっは! 母さんの作戦を全部ひっくり返してやった……後が怖くて笑うしかない。

『うぅ~……うん』

 俺の作戦通りアムリタは小さく、しかしはっきりと意思を明らかにした。

 しかし母さんからは離れようとはしない。認めたくないが母さんと言う存在はアムリタにとって離れ難いものになってしまった様だ……まあ、別に良いんだよ。ちょっと俺が悔しくて納得出来ないだけで、アムリタが幸せなら良いんだよ。納得出来ないけどな。


『でも家に来て欲しいんだ』

『……タカシも一緒?』

 勝ったッ! 一巻の終わり!

 もう、何というか大団円? 隆君の活躍はもうこれまでだ! で良いよ。母さんに殺されるかもしれないし。

 でも勝ったんだ。満足だよ……アムリタの背後で母さんが凄い瘴気を放っている気がするが気のせいだろう。



『じゃあアムリタちゃんも家族ね』

 俺に向けて指向性のある瘴気を放ちつつ、アムリタに向けて慈母の微笑みを向ける母さん。

『家族……』

 その言葉を噛み締めると、ふにゃっと表情を崩すと幸せそうに微笑みながら両の眼から大粒の涙を流しながら、一言『嬉しい』と応えた。


『アムリタちゃん!』

 母さんはアムリタをしっかりと抱きしめると頬ずりし、そのまま失神した。

 そう余りにも臭過ぎたのだ。むしろ今まで堪え続けていた母さんの精神力に拍手を送りたい。


『あっ!』

 アムリタ自身も思わず仰け反り涙目になるレベルの臭いだ。母さんが倒れた理由がすぐに分かった様だ。

『タカシ。あれやって』

 そう言いながら、素早く服を脱ぐアムリタに『はいはい』と応える俺だった。



 身体の汚れを落として綺麗になったアムリタに、涼の子供の頃の服を着せる。

 年齢別に分けて保存してあった涼の服をまとめて全部収納して持ってきたのだが、ちょど良いサイズは涼が四歳頃の服だった。

 孤児になる前も栄養状態はよくなった事が伺われる。



「それにしても、この頃は涼も可愛い服……そこそこ可愛い服を着てたんだな」

 思わずつぶやく俺に、日本語が分からないアムリタは首を傾げる。


 六歳頃の服は完全に男の子の服だが、アムリタに似合う大きさの服はまだ女の子っぽい服だった。

 多分、この辺りが母さんにとって最終防衛線であり、死守しようと頑張ったがゴジラに対する自衛隊のように防衛線は蹂躙されてしまったのが手に取る様に分かる四歳から六歳頃の服装の変遷が激しい。

 四歳頃の服には辛うじてスカートがあったが、五歳からはぎりぎりキュロットスカートで、六歳からは腕白小僧な半ズボンである。

 兄貴と俺が色々と足掻いた様に、母さんも頑張っていたんだと思うと、何か共感めいたものを感じた。


 俺が選んだ出来るだけ可愛い服を着たアムリタはやせ細っていたが可愛らしく、復活した母さんも親指を立ててくれた。

「今度、もっと可愛い服を買ってこないと駄目ね」

「それは分かる。確かにもっと可愛い方が良いけれど、それはアムリタを迷子として警察に届け出た後じゃないと面倒な事になるよ」

「えぇぇぇっ!」

 文句言うな。



『じゃあ、お家に帰るわよ!』

『うん!』

 母さんに幼女も笑顔で答えた……や・ら・れ・た。

 浮遊/飛行魔法を使う俺に対して、乗客扱いの母さんはアムリタを抱き上げて勝者の笑みを浮かべていた。


 だが、俺はまだ負け犬に甘んじる気はない。

『アムリタのその腕は俺が必ず元通りに治すから心配するなよ』

 どうだ圧倒的なアドバンテージ。幼女の小さな身体の中は俺への好感度ではちきれそうになること間違いなしだ!

『元通りになるの!?』

 指一本を生やすのに二十回は掛けなければ【大病癒】と違い光属性レベルⅥの【真傷癒】は四肢の欠損どころか重要臓器の復元も可能……流石に骨しか残っていないルーセの臓器の再生は不可能だけど。


『治して!』

 肘から先を失った左腕を俺に突き出してくるが、流石に──

『今すぐは無理だよ。今の弱ったアムリタの身体では腕を元通りに治すと死んでしまうから』

『し、死ぬの?』

『腕を生やすんだよ。無くなった部分を作るための、肉や骨、そして血はアムリタの身体中から集めて作るんだ。でも今のやせ細った身体ではそれには耐え切れないんだ。だから先ずアムリタには一杯美味しい物を食べて太って貰います』

『太っちゃうの?』

 六歳の幼児とはいえ女の子、太る事に抵抗がある様だ。本当に女の子は小さくても女だよな。

『そうだな。ほっぺたがプニプニになるまで太って貰うよ。それくらいになって貰わないと治してあげられないよ』

『うぅぅプニプニじゃない……頑張る』

 自分のほっぺたを右手で触りながら肯いて答える。


『頑張ってねアムリタちゃん』

『うん……どれくらいで治るの?』

『一週間くらいは一生懸命食べて太って欲しい。そうしたらすぐに腕は元通りにしてあげるよ。でも体重はしばらくは多めにしておおかないと将来大きくなれなくなってしまうよ』

『アムリタ大きくなりたい! 小さいと犬に襲われる!』

 これが日本人の幼女が言うなら微笑ましい光景を想像するが、アムリタが言うと凄惨な生存競争しか頭に思い浮かばない。

 やっぱり左腕は野犬にやられたので間違いないか……となるとマルは怖がられるぞ。


「母さん。アムリタの腕は野犬に襲われてせいみたいだけどマルの事はどうしよう?」

 アムリタには聞かせないように日本語で話しかけた。

「マルガリータちゃん……拙いわよ!」

「マルはもう、妹だ妹だと凄い喜んでたよ」

「ああ、どうしましょう?」

 このままだと、頭の中で想像するアムリタに怯えられ嫌われ、落ち込んで拗ねるマルがそっくりそのまま現実になってしまうだろう。

 怖い顔している癖に近所のお子様達には人懐っこい性格が人気で、自分は子供達に好かれていると疑うことも無く信じ切っているマルだけに反動が大きく、餌も散歩も拒否して不貞寝して体調を崩してしまいかねない。


 俺と母さんが大問題に頭を悩ませているとアムリタが服の背中の部分を引っ張る。

『どうしたの?』

『早く太りたいから、何か食べるものが欲しいの』

『そうか』

 俺は前を向いたまま【所持アイテム】内からKKKKドリンクの入った壺と、合宿の時に用意しておいた紙コップを取り出し、【操水】でKKKKドリンクを紙コップに注いで【暗手】を使ってアムリタに差し出す。


『凄い! これも魔法? 早く使える様になりたい!』

『今のは魔術だよ。そうだ魔法は俺の兄の大が詳しく教えてくれるよ』

 新しい妹の歓心を買うために必死に教えてくれるだろう……所詮兄貴は、母さんやマルと違って俺にとって脅威とはならないので気にしない。


『マサルは魔法使い?』

『兄貴はサイエンティストだよ』

『サイエンティスト? それって魔法使い?』

 何やら大きな誤解が生まれた様だが、面白くなりそうなので放っておくことした。


『まあ、とりあえずそれを飲んで欲しい。かなりの栄養があり身体への吸収も良いから、それを飲み続けていたら、もっと短い時間で腕を治せるようになるよ』

『本当!?』

『本当だよ』

 俺の答えを聞くなりアムリタは一気に飲み干すと『美味しい! もう一杯』と紙コップを突き出して来た。

 再び【操水】でKKKKドリンクを紙コップに注ぎ込む。

 レベルアップしたアムリタの身体はKKKKドリンクの栄養を一滴も残さず搾り取る様に吸収し血肉に変えてくれるだろう。

『お母さんも飲んでみたいんだけど?』

『俺みたく。レベルアップで向上した身体能力を限界まで使って戦うならともかく、マルとの散歩以外は今までと同じ生活を送ってる母さんが飲むと……太るよ』

 そう告げると『やっぱりやめておくわ』とひきつった笑みを浮かべながら返事をした。


『タカシ。これって何? ミルク?』

『ミルクに特別なハチミツ、沢山の香草や薬草で作ったもので、今のアムリタの身体にとっては薬だから頑張って飲み続けてね』

 とはいえ、既に三杯を飲み干してアムリタは膨らんだお腹をさすってる状態だ。


『これで頬っぺたプニプニになるの?』

『ちゃんと毎日三食しっかり食べて、さっきのを飲み続けていれば五日くらいで治しても大丈夫な身体になるよ』

『じゃあ、もう一杯飲む!』

『お腹は大丈夫か?』

『……大丈夫!』


 ちょっと不安になった。

 日本への移動中催されてしまうと、風防魔法の外側は宇宙空間、酸素濃度の管理は出来るが、換気は不可能なので大参事、閉鎖空間でやられて俺と母さんも吐き気が大催事祭り状態になる事が予想される。


『ゆっくりと、少しずつ身体に馴染ませるように軽く口に含んでは何回も噛むようにして飲み込むのを繰り返すと身体への吸収がよくなるよ』

 そう注意しながら四杯目を紙コップに注ぎ込むと、先程までの一気飲みではなくゆっくりと少しずつ飲んでいく姿に、母さんは感激して『可愛い』と言いながら後ろからアムリタを抱きしめる腕に力を込める。

 アムリタは一瞬、不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに受け入れて嬉しそうに目を細めている。


 またもや母さんに美味しい役どころを奪われた俺は【所持アイテム】内からユキを取り出し、まだ寝ている優しく抱き上げてその温もりに心を癒す。


 その内にユキが目を覚まして俺の指を吸い始めたので、KKKKドリンクの材料の一つである謎のミルク──これも単体で牛乳よりも美味いので仕入れておいた──を【操水】で球状にしてユキの目の前に浮かせると、最初は驚いて、次に不思議そうに警戒するも、匂いに気づいて興味を持ち、ついに一舐めすると、後は夢中で鼻先を突っ込みながら飲み始める。

 夢中な様子に癒されていると背後から「ユキちゃん。アムリタちゃんが興味あるみたいだからこっちに来て」と母さんがのたまう。

 母さんの呼ぶ声に、俺の腕の中から肩に乗り、そのまま母さんの肩へと跳んでいくユキ……く、悔しいよ!




 往路よりも速度を上げたので家にたどり着いたのは二時間後だった。

 予定よりかなり早く家に帰りついたが、午前中とはいえ既に授業は始まっている時間だが兄貴が出迎えてくれた。


「……大、学校はどうしたの?」

「八時に中学校に電話を掛けて隆の欠席を伝えた後、高校にも電話を掛けて欠席を伝えたよ」

 学校を休んだ事に、明らかに怒っている母さんに気付く事なく兄貴は飄々として答える。

 この無神経なまでに空気の読まなさ。学校中からハブられても不登校になるどころか、悲壮感も無く登校し続ける事が出来るの所以であろう。


 同じくハブられている俺だが、教室には前田が居て、放課後は空手部の仲間が居なければ……ファイト オア フライト、闘争と逃走のどちらかの選択を迫られただろう。兄貴の様に気にせずに乗り切るほどの強靭な対ボッチ能力はない。


「ま~さ~るぅ~」

「いや待って、この子の居住スペースを確保する時間が必要なので休んだんだ」

 切れる直前まで怒りのレベルを上げた母さんに、流石の兄貴も危機感を覚えたように弁解を始める。


「居住スペース?」

「ほら、台所の室(むろ)があるでしょ。あの使ってない奴」

 我が家は古い家を買ってリフォームしたので、昔ながらの室がキッチンに二ヵ所、そして脱衣所に一ヵ所の計三ヵ所もある。

 床と一体になった四十五センチx六十センチメートルの蓋を開けると、深さ八十から-百五十センチメートルで床面積も一番小さいのが一畳程度で、一番大きいのは一坪を超える。

 だけど場所が地下なので冷たく、そして湿気があるので基本的に野菜や酒。そして漬物位しか入れない。すると必然的に室を使用するのは母さんだけなので深いと使い勝手が悪いそうだ。

「室から入れる地下スペースを作ったんだよ」

「【巨坑】を使ったんだね」

 【巨坑】なら出来た空間に遭った土などの物体は周囲に押し固められる仕様なので、地下空間を作っても地盤の強度が下がる訳では無い。

「その通り、先ずは庭の方向に斜め四十度の角度でスロープを作り、そして庭の地下に居住スペースを配置した。そこを快適空間にするべく苦労した! 凄く頑張った。先ずスロープの床の部分を加工して階段に──」


「さあ、アムリタちゃん。お風呂にしましょうね」

 母さんは兄貴の話に興味を失い。半ば夢の世界に浸っている幼女を抱いたままお風呂場へと向かって行った。

「……俺、その地下室に興味あるよ」

「同情なんかいらねぇ!」

 取りあえず自分が同情される立場だとは理解出来る冷静さが残っていてくれて良かった。



「この壁の風合いには気を使ったんだ。この柔らかい薄桜色を出すのには──」

 兄貴を促してキッチンの室から地下室へと入ると、結局は自慢したくて仕方なかった兄貴は尋ねても居ない事を説明し始める。

 壁はコンクリートの層、砂利の層、土の層関係なく表面は滑らかでゆがみの無いガラス状にコーティングされている。

 これは火龍の巣の高熱で溶かして出来たガラス状のトンネルと同じだが、この均質な仕上がりの謎は分からない。

 確かに【巨坑】で作られた壁面自体は滑らかだが、高熱で融かしたら重力によって引っ張られることで表面は歪むはずだ。

 この短時間にそんな無駄に高度な技術をどうやって編み出したのかは疑問だが、尋ねたらまた得意気な長説明が追加されるだけのなのでスルーしておく……どうせ、憶えても使う事は無いムダ知識なのだから。


 僅か数日で固体褐無圧縮の状態で存在する転移温度摂氏ゼロ度を超える超伝導物質を作り、片手間に魔法に頼っているとはいえ携帯可能な核融合炉を完成させるような頭の良い馬鹿が『新しい妹』の為に暴走して為した事なので何があっても不思議では無い……その認識だけで十分だった。


「ところで兄貴、気づいたか?」

 自分が処置した壁の手触りにうっとりとしている兄貴(ばか)に声をかける。

「ん? 何の事だ」

「アムリタの左腕だ」

「どうしたんだ?」

 母さんが見えない様にしていたのもあったので気付かなかった。

「彼女の左腕は肘から先が無い」

「何だって! ……義手か? 義手が必要だな!」

「腕は彼女の体力の回復を確認してから再生させるから義手は要らん。問題は失った理由だ」

「えっ……義手ぅ」

「義手は忘れろ!」

 兄貴の事だ、チタン合金のフレーム内に核融合炉を搭載し、出力一.二一ジゴワットの荷電粒子胞を発射するようなとんでもない義手の開発計画案が既に頭の中で完成していても不思議ではない。


「彼女は多分、犬に襲われて腕を失ったんだと思うんだ」

「良しインド中の犬を皆殺しにしよう」

「気持ちは分かるが落ち着け。俺が言いたいのはそんな事じゃなく。マルの事だ」

「マル? ……そうか、マルを怖がるかも……いや、怖がるな……だったら猫の着ぐるみを着せ──」

「そういう小手先の誤魔化しは良いんだよ……大体、マルだって自分に関係無いことで嫌われたら落ち込むぞ。向こうの世界で寝ている彼女を見て妹だと喜んでいたんだから」

 自分の守備範囲を外れた途端にポンコツだ。


「妹? マルはまだ一歳にもなってないだろ?」

 ……マルは幼女の倍の年齢の涼の事も妹だと思ってるんだから仕方ないだろう。

「知らないよ。とにかくマルの中では妹なんだよ。その妹に怖がられたらマルが可哀想だろ。だから何かいいアイデアが無いか聞いてるんだ」

「アイデアと言われてもなぁ~、カウンセリングとか心理学的な素養なんてないし、かと言って何も出来ないなんて兄としての威厳が~」

 威厳? そんなものあっただろうか………………追える限り十年以上遡って記憶をほじくり返しても出てこない。


 その後、ポンコツなアイデアで兄貴の威厳がマイナスの領域へと足を踏み入れた辺りで、一つの結論が出た。

 それは、先ずは【伝心】を使い、マルが姿を見せず犬だと分からない状態でのコミニュケーションから始めれば良いのではないか? である。

 結局その程度しか思い浮かばないのが、コミュ障とは言わないがボッチで対人関係の経験値が不足している俺達兄弟の限界である。


 【所持アイテム】内からマルを床の上に出す。

「マル」

 俺の声に耳をピクリと立て、それからスンスンと小さく鼻を鳴らす。

 微睡みながら前脚で宙を掻き、そしていきなり目を見開く。

 次の瞬間、スクッと立ち上がり何かを探すように辺りを見渡し、更に大きく鼻を鳴らしながら臭いを嗅ぐ。

『何処? マルの妹何処? それにここ何処?』

 ……いきなりだな。

『マル。その前に話がある』

 ここは家の地下で幼女は今、母さんと一緒にお風呂に入っているとありのままに伝えたなら、止める間もなくお風呂に突入するだろう……懸けても良い。

『マルは新しい妹に挨拶する大事な仕事があるの!』

 床を前脚でドンドンと叩き不満をぶつける。

『その妹についての重要な話だ』

『話を聞こう!』

 耳と尻尾がピンと立ち、顔つきも心なしか男前になっている……雌なのに。



『あり得ない。可愛くって子供達に大人気のマルと愉快な犬の仲間達が子供に嫌われるなんてないの!』

 愉快な仲間って最近のマルは母さんと一緒にテレビを観る事で語彙や一般常識などを身に付けているが、余計な語彙ほど身に付けてしまうのは人間と同じだ。

 確かにマルと友達な子供達もいるが中にはマルを怖がって近寄らない子もいるだが、それには気付いてないようだ……とにかく凄い自信だ。


『あの子は左腕を犬に噛み千切られている。そんな目に遭ってマルを見たらどうなると思う』

『タカシ冗談が下手。マル笑えない』

『冗談ではないよ。犬にやられた以外考えられない』

『タカシ~犬は人間の友達だよ。特に子供は可愛い。だから襲うはずが無いの』

 そんな事も分からんお前は馬鹿かと言わんばかりの上からな態度にイラッとするが、事実を受け入れられない憐れな生き物と考えると許せた。


『人間に飼われたことも無く、集団で行動する野犬の群れは、野生を取り戻し狩猟本能に従い特に子供の様な弱い者を狙って狩をするよ。野犬はマルは別の生き物だと考えた方が良い』

 同時に幼女の腕を見た時のイメージをそのまま伝える。

 父さん曰く。父さんの少し上の世代では、子供の頃に町外れの人気の少ない場所で友達と遊んでいたら、そこは野犬の巣で戻ってきた野犬達に追いかけられて高い場所によじ登ってギリギリ難を逃れたというエピソードはよく聞くそうだ。

 更に父さん方の爺さんから聞いた戦後間もなくの時代は、野犬に襲われて大怪我を負うどころか死亡者も出ていたそうだ。子供だけじゃなく大人でさえも。


『これを本当に犬がやったの?』

『犬以外には考えられないだろ。虎とか大型のネコ科なら傷口はもっと鋭く切り裂かれているし、小型の熊だったら爪痕は四本じゃなく五本だよ。ワニなら噛み付いた後で全身を回転させながら食い千切るから腕を押さえる必要はない』

 マルはテレビ番組の中でも特に動物物の番組にハマっているから俺の話は理解出来ている……と良いな。


『……許さない。マルの家族に手を出した以上、同じ犬でも許さない!』

 兄貴と同じような反応を……

『それは後で良いだろ。腕はあの子の回復を待って治療して必ず元通りにするから心配するな。問題は多分マルの事を怖がるという事だ』

『マルのせいじゃないのに……』

 その場に身体を投げ出し、目を閉じ耳は伏せ尻尾も力なく床の上に這わせている。すっかりやさぐれてしまった。

『それでだ。あの子とマルが仲良く出来る方法を見つける必要がある訳だ』

『仲良くなれるの?』

『やって見なければ何も前には進まないだろ』

『じゃあ、あの子にご挨拶してくる! ……キャン!』

 立ち上がり出口へと向かうマルを追っかけて尻尾を掴む。

『尻尾ダメ!』

 恨めしげに俺を見あげる姿は可愛いが心を鬼にして頭をポカリ殴る。

『何でもやれば良いってもんじゃない。下手な真似をすれば取り返しがつかなく……一生嫌われるかもしれないんだぞ』

『い、一生!?』

 漫画なら『ガーン』と効果音を付けたくなるような衝撃を受けた顔をしている……犬なのに。


『それは嫌だろ?』

『絶対に嫌!』

 ブンブンと音を立てて首を振り、そのまま自分の尻尾を負う様にグルグルと回り出す。

『一発勝負で、そのままお風呂に突入して、もしかしたら受け入れて貰えるかもしれない。でも失敗したらもう取り返しがつかないほど深い溝が出来る可能性もある。だが少しずつ距離を詰めて行く方法だって確実に成功する訳でもないし時間もかかる』

『それでも取り返しが着かないのは嫌なの! マルは妹と仲良くしたいの!』

 自分が勝手に妹だと思っている涼とは、いまいち仲良くなれてないから必死だ……ズボンの裾を引っ張るんじゃない!


『先ずはアムリタに会う時は完全服従のポーズだな』

『完全服従?』

『ゴロンと転がってお腹を見せた状態で尻尾を振りながら、切なそうにク~ンと鳴くのが良い』

『嫌っ!』

 即答である。

『あれは駄目。犬としてのプライドが無い』

『プライド?……しょっちゅうやってるだろう』

『……タカシ何言ってるの? 他の犬がテレビでやってるのは見たけど、あんな情けない恰好はマルはしない』

『いやいや、二日と開けずマルがやってるのを見てるから』

『確かにやってるな』

 兄貴も頷く。


『……二人でマルをだまそうとしている!』

 毛を逆立ててウゥ~と唸るが、実際やってる事だから兄貴と顔を見合わせて肩をすくめるしかない。

『マルはあんな恥ずかしい恰好はしないの! した事ないの!』

 牙をむき出しにしてさらに大きく唸り始めるた。

 兄貴は一瞬俺に目線をくれると、マルの前でしゃがんで「ヨシヨシ」と声を掛けながら頭を撫でてやり始める。

 途端に目をつぶって尻尾を振り始め、更に俺もしゃがんで背中とお腹を同時に撫でるとク~ンク~ンと甘えた様に鳴き、兄貴が下顎から首へとロングストロークで撫でると自発的にゴロンと転がってお腹を見せ完全服従のポーズが完成する。


 マルに声を掛けると『ナ~二~?』と寝惚けた様な返事が来たので今のマルの状況のイメージを送り付けてやる。

「ヒャン!」

 変な泣き声と共に床から跳ね上がり、身体を捻って四本足で着地する。

『今の無し!』

『無しも何も、母さんに撫でられながら毎日何回もやってるはずだから』

『そ、そんなはずは……』

『最近はユキが良くやってるだろ』

『ユキちゃんはまだ子供だから……猫だから……』

『ユキが来る前まではお前があんな風だったんだよ』

 マルは項垂れ『本能が……犬の本能が……マルが犬じゃなかったらこんな屈辱は受けなかったのに……』と落ち込んでいるので、兄貴と二人で撫でながら慰め……当然の様に再び完全服従のポーズに持ち込んでやった。


『次やったら噛む!』

 拗ねた時に良くやる床の上で丸くなった状態でそう言い放つ。

『いや既に噛んでるから』

 俺も兄貴も血が滲むほど手を噛まれたよ。

『それじゃあ残念だけど、もうマルを撫でるのは止めるよ』

 兄貴がわざとらしく寂しそうに告げる。

『俺もだ。もうマルを撫でて上げられないのは寂しいけど……』

『えっ!』

『お腹を上にして気持ち良さそうに目を細めるマルの姿が、勉強の合間の一服の癒しだったのにもう見れないんだね』

『散歩上がりに、ブラシをかけて上げるのももう駄目なんだな』

『ちょ、ちょっと……』

『母さんも噛まれたくないだろうから、そう伝えておくよ』

 兄貴の言葉と共に二人でマルに背中を向ける。

『待ってぇぇぇぇっ!』

 心のこもった悲痛な叫びに振り返った俺と兄貴が見たのは、こちらに頭を向けてお腹を上にし、尻尾フリフリで両の前脚で掻くように動かし、最後に目線で可愛く訴えてくる……完璧な構ってのポーズだった。


「隆、プライドを投げ捨てて来たぞ」

「服従どころじゃないな……」

『プライド捨てた訳じゃないの、これはタカシやマサルに心を開いてるだけなんだからね!』

 こちらのひそひそ話をも犬の耳は聞き逃さなかった。それにしても何処で憶えたのかツンデレのテンプレの様なセリフだ。



 結果的に【伝心】で語り掛けてアムリタが気を許したところで姿を見せる作戦は功を奏した。

 最初こそ大型犬のマルの姿を目にしてアムリタは怯えたが、マルのプライド丸ごとポイの捨て身の服従のポーズを繰り出すマルを前に笑いだしてしまった。

『この子はマルガリータっていうのよ』

 そこに母さんがフォローを入れて、マルを撫でて安全をアピールしてあげている。

『マルだよ! マルだよ! アムリタの事大好きだよ!』


「……マル必死だな」

「ああ必死だ……」


『こんにちはマル。私はアムリタだよ。これからよろしくね』

 自分の身体を優しくなでるアムリタの手に感極まったのか、起き上がってアムリタの顔を舐めまくりながら『よろしくね! よろしくね!』と繰り返し続けた。


 風呂上がりのアムリタの顔をよだれ塗れにしたマルは母さんに叱られ、尻尾を力なく振りながら俺のところにやって来た。

『お母さんに怒られた……』

『だけどアムリタとは仲良くなれただろ』

『うん! アムリタ可愛い。良い子!』

『ちゃんとお姉ちゃん出来るか?』

『マルはやるよ! やれば出来る子ってお母さんも言ってた』

 やればな……呑気で頑固はシベリアンハスキーの信条だが、マルは興味のない事に関しては現状を変えるのを嫌がる。

 その点母さんはマルの興味を上手く刺激して躾を施してきたのだ。

 あれ? そういえば俺もそんな風に誘導されてきた憶えが……飴を大きく見せて鞭を大したことじゃないと思わせる……そう飴に目がくらんだ俺は思わず「やる!」と言ってしまった経験がかなりある……やられた!


『今日は、アムリタとお母さんとユキちゃんと一緒に寝るから、向こうには行かない』

『そうか、アムリタは向こうの世界にもいるから母さんはユキと向こうに行くんだけどマルはお留守番だね』

『あれ~?』

 首を傾げるマルが可愛い。

『さっきのは無し、マルも向こうに行く! タカシよろしく』

 興味がある事に関してはフットワークが軽過ぎる。


------------------------------------------------------------------------------------------------


ストックが完全に切れました。残ってるのはわずかに五十行程度


ここまで追い詰められておきながら……ここしばらく遊びまわっていました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る