第105話

 久しぶりにマルと二人きりの……一人と一匹の夢世界なので、朝食後に『道具屋 グラストの店』を訪れることにした。

『マルねレベルアップしたい! もっと強くなってユキちゃん守る』

 すっかり、しっかり者のお姉ちゃんの風格を漂わせている。確かマルの中では涼も妹枠のはずなのだが、ここまでお姉ちゃん度を上げはしなかった。

 これは間違いなく、涼に可愛い妹としての素養が無いせいだろう。俺や兄貴の中でもお兄ちゃん度が息をしていなかったので間違いない。


「そうだな一緒にユキを守ろう──」

『タカシは要らない。マルとお母さんで十分!』

 マルはユキへの独占欲が最近酷く、自分と母さん以外が構うのを嫌がる……赤ん坊とペットが無条件に可愛いと思えるのは、彼らが口を利けないからだというのは本当だと思う。

 とりあえずマルが謝るまで上顎と下顎をまとめてぎゅっと握りしめてやるのであった。



「いらっしゃいませリュー様。おはようマルちゃん」

「おはよう。今日は──」

 視界の隅に二号の姿を発見してしまった。

「久しぶりだねリュー。本当に久しぶりだね」

「そういうのは何年も会ってないかった相手に言うんだな」

 たった数日で久しぶりと呼ばれるほどこいつとの仲は深くは無い。精々月一で会えば十分だ。


「人を置き去りにしておいて良く言うね!」

「無人島に置き去りにしたとかならともかくグダグダ言うな。ホモの愁嘆場の様で気持ち悪いから止めろ」

「失礼な。僕にはそんな趣味は無い!」

「万が一、俺にそんな趣味があったとしても、お前は趣味じゃないから安心しろ」

「……何だこのほっとした様な、悔しいような気持ちは?」

「黙ってほっとしておけ、そういうのが本当に気持ち悪いんだよ!」

 二号の顎を殴り飛ばして失神させた。



「先日お納め頂きました材料にて、大甕三口(こう。大きく口の空いた器の数え方)分を用意出来ました」

 失神した二号だが、三秒ほどで復活しているので、ミーアは気を利かせて特定されるような名前を使わずに報告してきた。


「分かった。とりあえず出来た分を貰っていこう」

 俺も話を合わせるが──

「何を意味ありげに話してるんだ?」

 ……まあ、不自然に思うわな。

「安心しろ。お前には全く関係ない話だ。心置きなく聞き流しておけ」

「そうまでして隠そうとする話。聞かずに擱くべきか」

「そのお喋りな口と聞きたがりの耳を今すぐ塞ぐか、二度と戻って来られない暗くて寒い遠い遠い場所に一人で放り出されるの、どっちが良い?」

 固く握りしめた拳を前に突き出し包み問いかけると、その場所が物理的な何処かではなくあの世だと気づいたのだろう。快く肯いてくれた。



「お願いがあります」

 今の俺にとって主食ともいうべきカロリー汁を受け取り、ついでに海龍を買い取って貰い(料金後払い)戻ってくると、二号が土下座していた。

「俺に頼みがあるのにあんな態度だったのか?」

「それは緊張を解そうと思って」

「何で俺がお前に緊張しなければならない」

「いや、僕がね」

「……さて帰るか。また来るけどその馬鹿は入店禁止にしておいた方が良いぞ」

「無視しないで!」

 まるで俺が悪いとでも言わんばかりにこちらを憐れみを誘う目つきで見るが、どうにも演技臭さが鼻につく。


「そうですね。お客様という訳でもないのに居座られても迷惑ですし」

「こいつ、どれくらい居座ってるの?」

「この数日は毎日数時間ほどは……」

「帰れこの野郎!」

 そう怒鳴りつけたのは人として当然の行為だと思う。


「待ってくれ! 本当に大事な話なんだ。この国の存亡に関わるんだ」

「……俺、この国の人間じゃないし」

「当店は複数の国で営業しておりますので」

 俺とミーアは冷静に塩対応する。


 一方マルは二号には全く興味が無く、「そんなミツバチがいるかっ!」と叫びたくな超巨大ミツバの巣から採れる名状しがたきハチミツ。そして謎の動物から採れるミルク。更に常識的な範囲の素材として数種類の果汁・香辛料・薬草を加えて作られた。超高カロリーで吸収も良い。KKKKドリンクを旨そうに深皿から飲んでいる……ミーアが与えたようだが、犬が飲んで大丈夫なのか不安だ。


「だ、だがしかし。このその件に関して君の仲間が関わっているようなんだ。それで敵の大規模な侵略を許して……」

 俺の仲間? ……心当たりがあるとするなら大島達だが、あれは俺の仲間じゃないので、何があろうと責任は取らない。取る気は全く無い。


「俺の仲間と呼べる相手は国の存亡に関わるような事には手を出してないはずだし、仮に俺の知り合い(大島達)が何かをしても、俺が責任を取る義務は無い」

「仲間じゃなければ同じ力を持っている連中が南方での紛争に介入している節があると言ったらどうだい?」

 同じ力……オリジナルシステムメニュー保持者という事か?

「顔色が変わったね。少しは話を聞く気になってくれたかな?」

「はっ」

 してやったりと言わんばかりの二号に冷や水を架ける様に鼻で笑ってやる。


「何故に?」

 あからさまな否定に戸惑っている。

「そいつらは良く言って中立、まあ敵だな。既に一人始末している」

「だったら!」

「だが別に俺や俺の仲間に手を出さなければどうする気も無い。ただ連中が態々俺と敵対するような馬鹿な真似をしなければ死なずに済むのにと心配しているだけだ……優しいだろう俺?」

「……優しい?」

 疑問形なのを無視して「そうかやっぱり優しいよな俺は」と返すと、何も言えずに固まってしまった。


「つまり、もう欲しい情報は手に入ったからお前は必要無い。つまりお前に協力してやる必要も無いという事だ」

 要するにリートヌルブ帝国と紛争が起きている──つうか攻め込まれている──南の国境付近に御同輩が出没している。これだけで俺には十分だ。


 【所持アイテム】と【マップ機能】を利用すれば、この世界でなら戦争の概念すら変えてしまう事すら可能だ。

 【所持アイテム】を使えば、食料・水、消耗品である矢などの補給物資のみならず、陣地を構築するための資材。大型の攻城兵器などを人一人、つまりシステムメニュー保持者を移動させるだけの労力で、好きな場所に用意する事が出来る。


 【マップ機能】は、システムメニュー保持者を連れて戦場を偵察させる手間が必要だが、戦場の全てを把握出来なくても、表示可能範囲を敵が横切るのを把握できれば相手の動きは把握出来る。

 これはレベルが上がって身体能力が上がり、システムメニューで覚えた【魔術】を使えても単に強くて便利な力を持った個人に過ぎない二号には真似の出来ない活躍だろう。

 つまり奴が俺から引き出したいのはパーティーへの再加入だろうが、お断りだ!」

 途中から声に出していたのは当然わざとだ。


「そんな、ひどい!」

「酷いのはお前の依頼心だ。いい加減俺に頼るのは止めろ。むしろ俺に頼りにされろ。お前に協力したのもそういう約束だろ。お前が何か俺に返してくれたか?」

「女性を紹介しよう」

 何?!

「先程とは比べ物にならないくらいはっきりと顔色が変わったね」

 変わるに決まっているだろう。女性を紹介すると言われてどんな形であれ反応を示さないオスなど生物学的にありえない。

 その証拠に、窓を指さして「あっ、風でネエチャンのスカート──」

「えっ! ……何処? 何処? ……はっ!」

「……そういう事だ馬鹿野郎。男として当然な事をネタに譲歩を引き出したいなら、金玉千切り取ってから出直せ!」


 例えば街を歩いていて悪戯な風に、スカートの裾がふわりと舞い上がるのを視界の端だろうが捉えていたならばコンマ三秒で反応して振り返ってしまうのが漢ってものだ。

 心理学においてカクテルパーティー効果の視覚版として認められている……勿論嘘だ。


 男と言うのは、ただ舞い上がったスカートの裾がかたちどる人為と自然が織りなす造形美と、その下に隠されていた神秘をとらえる天性のハンターである。

 その結果、相手の容姿や年齢が自分のストライクゾーンを大きく外していたとしても、それどころか相手が女装趣味の汚いオッサンだったとしても後悔はすれど反省はしない。そして何度後悔しようとも、その瞬間が訪れたのなら光の速さで振り返るのだ。


 同様に、女性を紹介すると言われた瞬間に「どうせ、こいつが紹介するのに期待なんて出来ない」なんて考える判断力を神は男に授けてなどいない。

 その瞬間「女」の一文字が脳裏の百二十パーセント、未使用領域まで溢れてしまう欠陥品なんだよ男ってのは。

 まあ、大抵は一瞬で醒めるけど。


「とりあえず、何だ……話し合う余地はあるようだな」

 おい! 何を言ってる俺? ……仕方ない。

「サイテーです」

 背後からミーアの非難の声が届くが無視だ。そもそも俺にとっての「女」の範疇から丁重にピンセット抓みだされた姉妹の片割れに「男」としてのあり方を問われる筋合いなどない。

「お前が俺に望むのは、この国を救うために俺と同じ能力を持った者の排除だな」

「そうだ。出来るのか?」

 よし言質は取った。顔がにやけるのを堪えながら「誰に訊いてるんだ?」と返す。


 はっきり言って戦場の状況は全く分からないので、出来ない可能性だって十分にある。しかし十中八九出来ると確信しているなら自信たっぷりにしている方が格好がつく。

 一方大島は、勝率が五割を超えるなら虚勢を張って堂々としていろ。背伸びしているくらいの方が勝率は上がると言っていた。たまには教育者らしい事も言うのだなと驚きつつも、その頻度の低さに呆れ、そして、奴自身は挙句に失敗しても不敵な態度を崩さないのだろうなと……諦めた。


「明日南方戦線に向かうけど、そっちの都合は良いのか?」

「都合は構わない。だが俺は先に行くから、お前は後から来い」

「えっ」

 驚く、二号に対して逆に驚きながら、声をひそめて「お前が使える初期バージョンの浮遊/飛行魔法では俺について来れないから」と告げる。

 当然だ。先程、建前とはいえ「国を救うため」という理由を口にしたのだ。こいつ個人の功名など配慮してやる必要なんてないのだから。

 二号が使えるのはとりあえず飛べるだけで風防魔法も無い旧式魔法。

 速度を上げると自らが発生させた乱気流で錐揉み回転を始めて墜落するだろう。

 ちなみに大島や元早乙女さんの人は、反射神経と運動センスで多少バランスを崩しても力づくで回復する。


 もしも二号が、何とかバランスを維持して速度を上げても呼吸が出来ないので長時間の連続飛行には耐えられない。

 それに対してこちとら超音速、いや超音速クルージングを目指して日々進化を遂げる浮遊/飛行魔法の最先端だ……衝撃波の問題がクリア出来ないんだ。衝撃波の発生で風防魔法が歪み発生する後方乱気流……超音速で飛行中にそんな事が起こるとどうなるかなんて考えたくも無い。


「それを教えてよ!」

 何故こいつが強気に要求してくるのか意味が分からないので、耳に手を当てて「……はぁ?」と聞き返す。

「教えてくれたって良いじゃないか?」

「教えてあげたって良いなら、教えてあげなくたって良いじゃないか? その境界線上からどちらに俺の心情を落とし込むのかはお前次第だ」

 我ながら恐ろしいほど血も涙もない正論だ。

 当然ながら二号に俺の心を震わせるようなネタがあるはずも無い。そもそも女紹介する云々だって怪しいのだ。

 KKKKドリンクをたっぷりと飲んでおねむになってしまったマルを収納すると、二号を置き去りにして南へと旅立った……マルは多分太ると思う。



 そして長い長い旅路を一時間足らずで踏破した……距離的には十分長い。ただ移動速度が速かっただけだ。

 別に目印に『ようこそ戦場へ』なんて分かりやすい看板が出ている訳では無く、国境線の一部である湖が眼下に広がっているからだ。

 他のオリジナルシステムメニュー保持者のマップに引っ掛からない様に飛んでいる上空一万二千メートルから見下ろすと、琵琶湖を大きく超える巨大なミシニワード湖が一望出来る。

 直径七十五キロメートルほどのほぼ円形。間違いなくカルデラ湖であろう……カルデラ湖は好きだ。地図を見ていていきなりポコッと丸い地形が現れるとほっこりする。

 南北を分ける中央に国境線が設定されているはずなのだが、現在は北岸に拠点を築かれて、既に砦と呼べるレベルに成長している。

 オリジナルシステムメニュー保持者による一人補給大隊が一晩で必要な資材を運び込んだのだろう……墨俣城というより、これはもうジョパンニの仕業だよ。

 他者の所業に、改めてシステムメニューの基本機能の恐ろしさを再認識させられた。


 砦には三千人ほどの人間が居て、広さは四百メートル四方を土塀でも石垣でもなく板壁に囲まれている。南側がすぐ湖になっていて、岸から百メートルほど湖に三本の突き出した長い何か、多分桟橋が架けられている。それを使って直ぐに船で運ばれた人や物資を中へ運び込め、更に帝国領への脱出も容易になっているのだろう。


 一方、地上にいる人間の姿は、流石に今の俺の視力でも捉えられるのは自分の真下を移動する何かの列を、辛うじて集団で進む人の列と認識するのが精一杯で一人一人を視認するのはとても無理だ。

 視力は低レベルの頃と比べて余り上昇していない。眼自体の能力の問題ではなく大気中の埃や水蒸気、そして気温や風による大気自体の密度のむらにより正確に像を結ぶのが難しいためだ。これは機能の向上した脳による補正処理の範疇を超える。

 それでもマップ機能は地上の直径一キロメートル程度の範囲ではあるが「視認出来ている」と判定してくれているようでマッピングをしてくれている。

 ちなみに双眼鏡も持ってきているので、それを使えば目に入る情報量が増える分だけより遠くを見通せるが、その代わりマッピングされる範囲は双眼鏡の視野のみとなり逆に狭くなる。

 わざわざそんな高い位置からマッピングしているのは、当然俺以外のオリジナルシステムメニュー保持者を警戒しての事だ。

 俺よりも遥かに視力や脳の補正機能が劣るとは言え、連中もマッピングを行っているのでその表示可能範囲に引っ掛かるのを避ける必要があった。

 そうは言っても、マッピング行うのに上空まで範囲に入れるような酔狂な奴はいないと思う、しかし絶対にいないとも言い切れない……どうやら心配は無駄ではなかった。

 眼下、高度五百メートルほどを飛ぶワイバーン。その背の上に人間と思しき姿を見つけた……ワイバーンって乗れるのかよ。


 双眼鏡を取り出してワイバーンの背の上を確認すると確かに兵士のようだ。帝国側の兵士ではない。

 戦争している一方でワイバーンを偵察に使っているのなら相手が使ってない可能性は低い。つまりリートヌルブ帝国側に付いたオリジナルシステムメニュー保持者は、ワイバーンに乗ってマッピングしたと考えるのが妥当だ。

 だとするなら、ゆっくり足で移動しながらマッピングするのとは違い、移動速度の速いワイバーンの上では上空を確認する余裕はないはずだし、何より偵察手段のワイバーンが千メートル以下を飛行するなら、今より高度を上げる必要も無いだろう。

 元々視力二.〇の俺がレベル一桁台の頃にマッピング範囲が一万メートル程度だったのだからワイバーンの飛行高度を多少多く見積もって千メートルしても少し余裕がある。


 更に列をなして進む集団を見つけたので再び双眼鏡を覗き込むと、二列になって進む二百人ほどの隊列だった。

 兵装は特にお揃いという訳では無く、兜に縦に太く赤い線が入っているのが敵味方の区別を付けるための印なのだろう……それだけで良いのか疑問に思ったが、他にも何か敵味方を見分ける方法があるのかもしれない。

 とにかく湖の十キロメートル以上北側を悠然と行進しているので、兜の赤い線が王国側の兵である事は間違い無い。

 そう言えば、先ほどのワイバーンに騎乗していた兵の兜にも赤い縦線が入っていたので王国側の竜騎士で間違い無い……ワイバーンを竜と呼んで良いのかは知らないけど。



 三時間ほどかけて、戦場とその周辺のマッピング作業を終える……ここ一帯のマッピングを完成させた訳じゃないけど。

 本来の予定なら明日一杯までかかるはずだが、流石に単調と呼ぶのも生易しい、ただひたすら飛び続けるだけの作業に音を上げてしまった。

 そして冷静に考えてみて気付く。俺と違って低レベルのシステムメニュー保持者にとって、この広い範囲をリアルタイムで監視出来るのはワールドマップだけで、ワールドマップ上に表示出来る対象は、周辺マップ内にエンカウントして個体識別情報を入手した対象のみだという事……こんな事にすぐに気づけなかった自分が悲しい。

 つまり、実際に相手が偵察に出て視認出来る範囲に俺が入らない限り、俺の事は相手に捉える事は不可能なので、俺が相手のオリジナルシステムメニュー保持者の個体識別情報を手に入れたなら、その範囲外を上空二千メートルほどで飛び回れば、短時間にマッピング作業は終わるのだ。

 それに気づいた俺は大雑把に五キロメートル幅の格子状にマッピングし、アクティブ部分を通過した人物の情報を【ログデータ】へ放り込む様に設定した。

 これもマップ機能の二度目の拡張時に実装された機能なので俺以外には使えない……はずだ。



 マッピング作業を中断した俺は、湖から北西に五十キロメートルほど離れた村の一軒しかない宿屋で余裕を見て三日分の料金を先払いして部屋を借り、その部屋のベッドの上に寝転がりマップを拡大表示して眺めていた。

 マルは収納したままにしておく。これから俺がやる事はマルの教育上良くないと思うから……俺自身の教育は? そもそも中学校で受けた教育が九十九パーセント間違っているのだから今更だ。


「来たか」

 網目状に張り巡らせた表示可能の範囲に【オリジナルシステムメニュー保持者】が表示される。

 同時に【システムメニュー保持者】の条件でも検索をかけているのだが、オリジナル以外のシステムメニュー保持者は現れていない。

 やはり、パーティーに加入させた相手が居ないと考えて良いのだろう。正直、この世界の人間である二号をパーティーに加入させたのはちょっと考えなしだったと反省をしない訳でもない。

 何故、奴を簡単に加入させてしまったのか正直自分でも良く分からない。今思い出してもおかしいと思う。紫村と香籐を仲間に入れた時は十分な理由があったが、二号の場合は理由が弱い。特に初めてのパーティー加入者なんだから、もっと慎重になるべきだったのだから、奴に対して精神的な壁が極度に低くなっていたとしか思えない。


 話は逸れたが、オリジナルシステムメニュー保持者、長いからオリ保で良いか? だったらオリジナル以外のシステムメニュー保持者はシス保か……

止めておこう。

 オリ保、いやオリジナルシステムメニュー保持者は湖を多分船で北上している。物資を【所持アイテム】に詰め込んで王国領に侵入するつもりなのだろう。


 ……きっと俺は今、凄い悪党面をしているだろう。だけど心の中はもっと悪人だから大丈夫。ちゃんとバランスはとれている。

 拉致して、殺してシステムメニューを奪い取り、ついでにボーナスでレベルアップして、蘇らせて放置して逃げる……なんて悪党なんだろう。

 対象をロックした状態で、検索条件を『男』に変えると消えた。

「また女かよ」

 何だろう野郎相手なら何やっても特に罪悪感は湧かないのに……

「ズルいな女は!」

 自分でも訳の分からない愚痴がこぼれる。

 仕方ない当面は拉致収納で勘弁してやろう。拉致監禁だと体裁が悪いが拉致収納なら何となく許される気がする。

 ……まあ、現実世界でのこの女を捕らえたら、現実世界の身体を殺した場合のこちらの身体がどうなるか? その逆の場合はどうなるのか? 実験するんだけどな……べ、別に無理に悪ぶってるわけじゃないんだから、やる時はやる子だから俺。


「テンション下がるわ~」

 やっぱり気は進まない。システムメニューなんて面倒事から解放してやるという錦の御旗があっても、女を殺すのは俺達を拉致しようとした野郎を返り討ちに知るのに比べると当社比で三十五倍くらいは気が進まない……当社って何?

 だけど、俺も心情的には王国側に立っている。侵略しているのは帝国な上に、何だかんだとこの国に居続けているので「俺の縄張り(シマ)に余所者(他のオリジナルシステムメニュー保持者)が手を出しやがって」的な意識も多少は芽生えてしまっているのも事実だ。

 とはいえ、いざこの国を出て他の国に行って色々風習が違ってたり、通貨が違ってたりと面倒くさい事は御免だと思う程度だが。


 まあ、この戦争の原因とかによってはその心情もどちらに傾くかは分からないが、ずっと昔から湖を挟んで攻めたり攻められたりしているようなので、一方的な理由なんてものは無いのだろう。

 それを踏まえても、相手が女子供だろうが排除する必要性は弱いけどある……あるのだが、やはり「テンション下がるわ~」という事になる。

 しかし、やる気が無くてもやらねばならない。そういうシチュエーションに対して慣れと諦め一杯で立ち向かうのが空手部魂である。

 再び【迷彩】で姿を消すと、部屋の窓から空へと飛び立った。



 現在安全圏内の上空一万二千メートルで待機している。

 対象は天幕の中に入っているのでどんな顔をしているかどころか人種すら分からない……年齢とかどの国の人間かなどはマップの検索機能を使えば総当たりで調べる事は出来る事は出来るが、面倒なのでやってない。


 相手の探知範囲の外側から一方的に相手の状況を把握する。犯罪臭ぷんぷんだが別にスケベ根性どころか好きでやっている事ですらない。

 相手のマップ表示可能範囲に踏み込むのが難しいと思えるが、塞ぎようのない大きな穴がある。寝込みを襲われたら対応を取れない。こればかりは俺自身にもどうしようもない穴だった。

 故にこちらの素性は絶対に知られてはいけない。

「長丁場になりそうだ」

 相手が寝るまで起きて無ければならないのだから当然だ。

 一向に天幕の中で移動する様子は無いので二千メートルまで高度を下げた。


 最悪、日付が変わるまで粘るのを覚悟していたのだが、まだ七時前だというのに対象のシンボルは睡眠/失神を示す灰色に変化した。

「早っ! 小学生か!」

 しかも低学年並みのだ。

 もっとも現代社会と違い、夜暗くなれば寝て朝日が昇れば起きる。一部の都市部に住む者たちを除けば、圧倒的多数にとってそれが常識なのだが、それにしても子供にとっても長すぎる夜だ。

 昼間の長いこの季節ですら現実世界のS県なら十時間近い。正確には分からないがこちらの世界も季節は春の様なので似たようなものだろう。暇を持て余した大人が子作りに励むはずである。

 そんなどうでも良い事を考えながら降下を開始する。


 きっちり三分後に地上に降り立った……余り早く降りると怖い。

 どんなに慣れてもやはり怖い。こちとら生まれてから十四年間一緒に過ごした高所恐怖症をあっさりと捨てられるほど薄情ものでは無い……物は言い様である。

 ちゃんとやる事はやってるんだから、怯えるくらいは良いよな? 心の中の膝がガクガク震える自由は誰にも奪う事など出来ないのだから。


 目標の天幕の傍に姿を消したまま音も無く降り立つ。天幕の前には兵士が一人立っているだけで周囲には人の姿が無い。

 様子がおかしい。単に周囲に人気が無いのではなく天幕を中心とした十メートル四方に柵が張り巡らされ、こそれはまるで帝国軍にとっては重要人物であるオリジナルシステムメニュー保持者を守るというよりもむしろ隔離されているようだ。


 嫌な予感がしたので、とっとと目的を果たしてドロンさせて頂くことにした。

 素早く天幕前の兵士に近寄り、足音に反応してこちらを怪訝そうに振り返ったその腹の鳩尾に内臓が破裂する勢いで拳を叩き付ける。

 そして実際に破裂した内臓を魔術で治療する……当たり前だが、大怪我を負わせずかつ、声を上げる事も出来ない一撃でを喰らわせて失神させる。そんな妙技を使えるほど他人の腹を殴って失神させた経験は無い。


 崩れ落ちる兵士の脇に腕を差し入れて支えながら素早く天幕の中に入る。

「なんだとぅ?」

 俺が目にしたのは、天幕を支える中央の柱に鎖で繋がれた五歳くらいの女の子だった。

 首輪をはめられ、むき出しの硬い地面の上に横たわる、その目元に浮かんだ涙が見えた。

 抱えていた兵士を地面に叩き付ける。こいつが嫌々ながらも上官の命令に従っただけだろうと、家に帰れば良き夫で良き父親だろうが関係ない。

「死ね」

 驚くほど冷静な思考に基づき首元に振り上げた足の踵で脛骨を踏み砕いた。


 女の子の元に歩み寄る。

 浅黒い肌。黒人種というより南方に住む黄色人種といった感じ。顔立ちは中東系に近いがモンゴロイドの影響も感じられる……良く分からないがインド辺りか? 確かインドは人種の坩堝と呼ばれていたな。


 彼女の顔にはどす黒い痣があり、首輪の下の皮膚からは出血すらあった。

 女の子の傍に膝を突くと【大傷癒】をかけて治療を施した。こんな小さい子供に何故こんな真似が出来るのか俺には分からない。

 首はめられた頑丈そうな鉄環は俺の腕力でも簡単に破壊出来そうになかった。

 右手の中にナイフを装備してみる。そのして何度か収納と装備を繰り返して現れる刀身の位置関係を確認してから、鉄環と女の子の首の間に左手を差し込んで隙間を作ると、嵌められた鎖付きの鉄環にナイフの刀身を当て、一度収納して少し右手の位置を少女の首元に近づけ、ナイフを装備する。

 鉄環の八割ほどに刀身が食い込んだ形でナイフが出現すると、刀身の分だけ押し広げられた事により、残りの二割に亀裂が入り甲高い金属音を立てて割れた。。

 鉄環の反対側にもアムリタで同じ処置を行い。真っ二つになった鉄環を女の子の首から外した。


「さて……」

 女の子を収納する。これからこの場で起こる事は彼女に見せるには教育上良くないからで、決してやましい目的のための拉致ではない。

 システムメニューを開いて時間停止状態にしてから【所持アイテム】のリスト検索で女の子を探し出して、彼女の情報をチェックする。

 名前:アムリタ……うん、不老長寿の霊薬の名前だったな、というかそれだけ?

 国籍:インド……やっぱり、だけどインド人って何か色々、沢山名前があるイメージだったんだけど。もしかして孤児とか?

 年齢:六歳

 身長…………

「と、とりあえず保護しないと駄目だよな……」

 流石に、帝国軍から解放して放り出すという選択肢は無い。

「その前に落とし前は付けてさせて貰うか」

 頭の痛い問題を先送りにして、別のやり易い方を選択する。


 システムメニューを解除し、マップで食料などの物資を集めている場所を検索すると、湖岸から少し離れた位置にある大きな天幕に集められているのが分かったので、姿を消して入り込み中身や数など関係なく手当たり次第、全て収納する。


 全部が食料だったとしても三千人規模の軍勢の食料としては随分少ない。一週間程度分しか無いじゃない?

 食料などの物資はアムリタに運び込ませればいいので、緊急時の撤退を想定して必要以上の物は王国領に持ち込まない様にしているのだろう。

「セコイな」

 たっぷりせしめてやろうと思っていたのに当てが外れた……金に困っている訳でもないのにセコイのは俺じゃない? と思ったが多分気のせいだろう。

 更に武器を集積した天幕を見つけて、当然の様に全て収納する。

 槍と弓と矢がほとんどで、剣の類は兵は持たされないだろうし、士官クラスは自前だろうが、食料などと違って三千の規模にふさわしいだけの数が用意されていた。


 次に移動したのは湖岸の桟橋。当然連中の退路を断つのが目的。

 三本が川の字に並ぶ桟橋には大小四十隻程の船が係留されているのだが、小型の手漕ぎの舟などはともかく、大型の輸送船──これは兵を載せて撤退するための船だろう──は何かあれば動かせるようになのだろう。必ず船員が数名、甲板や帆柱の上で周囲を警戒していた。

 その為に船を収納するという方法は使えなかった。


 無人の小型の舟を二艘収納し、残りは『俺のポケットには大きすぎらぁ』という事で、上空から足場岩を落下させて漏れなく全て撃沈させる。

 幾人もの船員が巻き込まれて命を落としたのだろうが、先程の見張りの兵士も含めても経験値は雀の涙ほどにもならない。

 一方で人を殺した事には対しては、現実世界で感じたほどの後悔は無い。


 相手が非戦闘員への虐殺も辞さない軍人であるという事。そしてアムリタへの仕打ちに対する憤りもある。だがそれ以上に割り切ってしまったという部分がある……この世界では人命がそれほど重く無い事が原因だ。


 アムリタが船で湖を渡っていた数時間を、彼女がリアルタイムでマッピング出来る範囲外を一気にマッピングした際に、緑ばかりの景色の中に黒く焼け焦げた場所が見えたので降りてみたら、そこは焼き討ちされた村だった。

 崩れた石塀に木製の張と屋根が焼け落ちた石造りの家々、埋められる事無く放置されたのだろう遺体は、獣か魔物に食い荒らされたのだろう村のあちらこちらに散乱していた。

 そうした村や集落は他にも幾つもあり、昨日、今日襲われたのだろう村ではオオカミに似た魔獣が村人達の遺体を奪い合うように食い漁っていた。

 軍による略奪行為がこの世界では常識だとするなら、仕方のない事なのかもしれない……だからといって俺が納得するかは別問題だ。


 平和とか隣人愛とか道徳とかマナーは、互いに相手の大事なものを尊重し合う事によって互いに利を得る互恵関係であって、一個人が一方的に周囲にそれらを適用しようとするなら、ただのお人好しの変わり者で終ってしまう。

 例えるなら、この世に一台しかない電話を持つようなものであり、やはり電話は話したい相手にも所有して貰わなければ意味が無い。


 そして人命が等しく尊いものであるというのは、国家の様な巨大な集団が内包する個人を平等に扱う必要があるが故に使われる言葉であり、個人にとっては全く意味が無い。

 俺個人としては明確に命に順番を持っている。

 一番大事で尊いのは自分と自分にとって大切な存在である。

 第二のカテゴリーに属するのは、自分にとって無害などうでも良い存在。

 そして最後は、その他の存在。自分や第一・第二のカテゴリーに属する人々の生命や財産を脅かす存在だ。


 大事な場面で、その順序を守れず全員を等しく尊いなどと考える奴は、守るべきものを守らない、人としての心を持たない者と断言出来る。

 博愛という概念は個人にとっては重過ぎる。個人個人が自分と自分の大切な相手を大事にし守ろうとする。その人と人の強い結び付が社会全体に広がり、結果として人々の中に博愛と呼べる空気が生まれればそれで良い。

 個人個人の人間関係を重視せずに、いきなり世界規模で博愛とか抜かす奴が頭がおかしいか、そもそも自分で思っても居ない事を口にしている詐欺師だ。



 その後、更に三本の桟橋も破壊して帝国側が救助の船を出しても接舷出来ない様にすると、連中を砦に封じ込めるために三か所ある扉の場所に足場岩を数十個単位で落として扉を開けられない様にし、その後は砦内の天幕に火を点けて回る。


 防水の為に帆布の様な丈夫な生地に樹脂などを塗布してあったのだろう。天幕は一度火が付くと黒い煙と鼻の奥を突くような刺激臭を放ちながら激しく燃え上がり、たちまちの内に周囲の視界は煙に閉ざされ、帝国兵達は突然の火事に武器も持たずに墓地の様に整然と区画割りされた砦内を怒声上げながら右往左往する……我ながら放火魔の才能があるようだ。


「駄目だ。門が開かない!」

 そんな絶望の叫び声がパニックの引き金だった。

 扉を押し開けようと兵達が門の前に押し寄せるも、皆が協力して力を合わせも簡単に開くものではない砦の扉とは、号令に息を合わせて集団で押しでもしない限り開かない強度を持っているものだ。烏合の衆が集まってバラバラに押した程度で破れる訳も無い。

 なまじ数が多いだけに、火と煙に混乱状態の兵達を統率する事が出来ないのだろう。個々の指揮官がそれぞれに別の命令を上げて混乱に拍車をかけるばかりだ。

 扉に取り付いた前列の兵士達は後ろから押し寄せた兵によって押し潰され、血反吐を吐きながら次々に倒れていく。

 倒れた兵士達のシンボルは次々に生物から物体へと変わっていく……それに対して後悔も反省も無いが、ザマアミロと笑えるほど爽快でも無い。


 やがて壁の一部を押し倒す事に成功する。壁は構造上、外部からの力を受けても耐えられるように柱を支える様に斜めに柱木が渡さているのだが、逆に内側から外へと押す力に対しては、ある程度としか言えない程度の対策しか施されていない。

 倒れた壁は壁の外側に巡らせてある堀を渡す橋となり、他にも破壊された箇所から兵士達は脱出していく。

「まあ、仕方ないか」

 もっと人数を減らす予定だったが、多くの兵が着の身着のまま脱出したので戦力にならないだろう。

 俺がすべきは、砦を使う事が出来ない様に完全に燃やし尽くす事だ。先ほど奪った物資を【所持アイテム】内で検索をかけると灯り用の油が入った壺が幾つかあったので取り出して、【操水】で壁の下側に満遍なく撒きながら着火していく。

 四方を取り巻く壁が燃え上がると、やがて中心で火災旋風が起こり、砦の中央に竜巻状の火柱が立ち上がり炎の奔流が全てを飲み込んでいく……門の扉で圧死した者達、炎と煙に巻かれた者達。その死体すらも飲み込んでいった。



 帝国軍は、兵士の殆どが武器を持たず着の身着のまま焼け出され、帰る手立ての船も失い。敵地に放り出されたという事実に項垂れ座り込む。

 その数は五百人ほど減って二千五百人足らず。

 この状況なら同程度の人数の王国軍とぶつかれば即敗走だろう。

 逃げた先で近隣の村を襲ってそこを拠点にしてしのぎ援軍を待つという方法も普通ならあり得るが、こいつらが焼き討ちを掛けたので近隣に拠点として使えそうな無事な村なんて存在しないので本当に詰んでいる……自業自得としか言いようがない。


 それにやがて王国軍がやって来るだろう。あれだけ大きな狼煙を上げたのだから到着は今日中は……無いな。

 まず斥候を立てて情報収集し、その報告が届くのは夜になるだろう。この世界の軍隊が夜間行軍や野戦に耐え得る練度を持ち合わせているのかは分からない。だが敵軍を包囲殲滅、または捕縛するのに夜の暗闇は無いだろう。必ず大量に取り逃がして後々厄介な事になる。


 素人の俺が直ぐに思いつく程度の事をプロフェッショナルである軍のお偉いさんが気づかないはずが無い。

 馬鹿な敵将を山盛りで登場させれば主人公達が賢く見えるというどこぞの戦記物のような事は現実ではあり得ない。

 歴史上、馬鹿な指揮官の話は数多くあるが、それはその愚行が洒落にならない大事だからこそ後世にまで語り継がれているのであり、愚将が数多くいたという意味ではない。


 多くの兵士の命と国家の命運すら握る軍の指揮官というのは"Right stuff"(適任)であるのだから、基本常識外れな判断は下されない。

 時に馬鹿が神輿として担がれても、それを支える優秀な人材がそれを支える。

 国家規模の大事業である戦争に誰が見ても分かる様な馬鹿をトップに据えられ余裕があるなら戦争を回避するのも余裕だろう。

 同様に馬鹿がアメリカ大統領になっても、優秀なスタッフと政府の高官が己の権限と世論を利用して大統領を掣肘して愚かな真似を抑え込み、何となく無難に大統領として任期を終えさせるのだ……ただし再選は無理。


 明日の早朝に出立……積極的行動を好む指揮官ならば、多少のリスクを冒しても夜間行軍をして十キロメートル程度の距離まで接近し、先行させた斥候の報告に従って布陣も済ませるだろう。そして夜明けと共に攻撃という可能性もあるかもしれない。

 いや、それ以前に普通の野生動物とは違う魔物が闊歩するこの世界で軍隊といえども夜間に行軍出来るのか?


 この世界の人間は、現実世界の日本人に比べても体格面ではかなり劣り、平均的な身体能力でも運動不足になりがちな現代の日本人と良い勝負だろう。鍛え上げられた者同士を比較するなら確実に日本人に軍配が上がる。

 一方でシステムメニューの恩恵が無い状態でかつ、【気】を使わない状態の俺は、オーク三体以上を同時に素手で相手にすれば遅れをとりかねない。 分厚い脂肪と筋肉に守られた身体や頑強で徒手空拳では鳩尾にすらダメージが通るかすら怪しく。更に見かけの割に動作もかなり素早い。

 正面から闘って一撃で戦闘能力を奪えそうなのは、膝の皿を割るとか、それほど手段は多くは無い。

 しかし、その程度のネイキッド隆クンに勝てる人間が、この世界にどれほど居るのか疑問だ。

 多分、夜間行軍中に数十頭のオークの群に、視界の利かない状態で奇襲を受ければパニックを起こして軍が壊乱し為す術も無しなんて状況が予想される。

 勿論、夜間行軍の訓練を普段から行っているとするならば対応策もあるのだろうが、今や敗残兵の群れに過ぎない奴等に魔物対策を実行出来るか……まあ無理だろう。


 とりあえず日付が変わる前には王国軍は来ないのは確かだし、帝国の敗残兵も本国から救出が来るのを信じてこの場をギリギリまでは離れないだろう。

 時間はたっぷりあるので、やる事を済ませて退散すれば良い。

 いや、たっぷりは無い。さっさと要件を済ますべきだ。何故なら二号は今日中には到着するだろう……やったね二号。手柄立て放題だよ!

 勿論、ここまでお膳立ては済ませてあるのだから、後は自分で何とかして貰いたい。


「静まれ!」

 突然、響き渡る良く通る渋い声に、混乱し右往左往していた兵士達が一斉に声の主を振り返る。

 まさか「静まれ」の一言で本当に静まるなんて事が起きるとは思っても居なかった俺も声の方を振り返ってしまったよ。


「司令部付き中隊は我前に集合。工兵大隊は我右に集合。歩兵大隊は左手に集合。司令部付き中隊は速やかに必要な分隊を編成し拠点内の状況確認を急げ……自時間は無い! 各大隊は被害状況を確認し報告。その後、工兵大隊は桟橋と船の残骸から可能な限り多くの筏を……」

 三角巾で右腕を吊り、頭と顔半分を包帯に覆われた指揮官らしき男が次々に命令を下している。

 面白く無い。折角の負け犬の集団が軍隊へと返り咲こうとしている。


「……くたばれ」

 【装備】した弓に矢をつがえると引き絞り、五十メートルほど離れた上空から標的に狙いを定めると放つ。

 今更、一人を殺す事に躊躇いなど無い。むしろ帝国軍がやらかした事についての責任は、現場責任者であるこいつに帰すのだから、こいつが生きていたら先に死んだ五百人の兵士達の立場が無いってものだろう。


 暇を見ては練習してた弓の腕は結構上がっていたので、放たれた矢は指揮官の頭を目掛けて突き進む。しかし的を射る直前、横切った銀光によって切り落された。

「何奴かっ!」

 指揮官を自らの背に庇うように立ってそう叫ぶは、ファンタジーRPGに出てきそうな実用性を無視しデザイン重視のお洒落っぽい剣と鎧を身に付けた……決してイケメンじゃなく、むしろ親近感を抱く俺と同じで岩山で形容するな顔つき、さらに言えば結構不細工だった。

『許す!』

 何を許すのか知らないが、その言葉が胸に湧き上がった。お洒落鎧を着こんだ身体に対して顔が妙に浮き上がってるこの男に対して、俺はそれ以外の感情を持つことが出来なかった……もしウザいくらにイケメンだったら足場岩をマッハ三十で射出し、一瞬で二千五百の軍勢と共に蒸発させた上にほぼ円形の湖を瓢箪形に変え、更に世界中の皆に少し涼しい夏をプレゼントして上げる事になっただろう。


「はっ!」

 余計な事を考えている間に奴は傍にいた槍を持った兵士から槍を奪うと気合と共にに正確に俺を目掛けて投擲してきた……えっ? 俺って【迷彩】で姿見えないはずだけど。

 驚きつつも槍を避けようとした時、嫌な予感が脳裏を過り、咄嗟に穂先の根元を掴む。するとと手の中で槍がもがくように暴れる。

 別に意志を持って動いたという訳では無く、突如外から力が加わった様に回転しながら力を増して押し込んで来た。

 しかし、俺の馬鹿みたいに強い握力から逃れられるはずも無く大人しくなったところを、そのまま投げ返した。


 自分が投げた倍の速度で帰って来た槍を、男は難なく掴み取る……どういう事だ? 奴の直前でいきなり減速したぞ。

「英雄イースフィグ!」

「イースフィグ。風の勇士!」

「精霊の導き手イースフィグ!」

 一連の攻防に兵士達が奴の名前なのだろうイースフィグが連呼して讃える。英雄ね……まあ、放たれた矢を剣で切り落した技量からそう呼ばれる実力者である事は分からないでもない。

 だが風戦争で非戦闘員、女子供まで虐殺する類の連中に讃えられる英雄様だ。死んだ英雄にしてやるのが世の為、人の為、俺の為。

 遊んでやろう……ちなみに、五十メートルの距離はとにかく、三十メートルほどの高さに居る俺に槍を投げつける事からして身体能力はネイキッド隆クンを間違いなく上回る、しかも圧倒的に……そんな奴、この世界にどれほど居るか? 何て言わなきゃ良かった。


 俺だって、空手に振り分けられたリソースの全てを槍投げの練習に注いでいたら、何かの間違いでどこかのスポーツ弱小国のオリンピック代表になるポテンシャルは秘めている自信はある。

 だが槍投げの世界記録は百メートルにも満たない。奴が投げた実戦用の槍ではなく競技投擲用の八百グラムの槍を投げてそれである。

 軽く三キログラムは超える重量の槍を五十メートル地点で高さ三十メートルを通過させる、しかも勢いを失って穂先が下がっての三十メートルじゃなく、ピンと糸を張ったように直線に飛ばすなんて、人類がその域に到達にするには百年以上未来に、俺の子孫が「昔は精々薬の力だけでオリンピックをやってたなんて信じられないね」と笑い話にするのを待たねばならない……俺の子孫はいるよ……きっと、多分。

 つまり、何だ……こいつは何か知らんがインチキ野郎だ。俺が言うのも何だがチートだよ。


 俺は親父のプロレス関連グッズのコレクションからパクっておいた白地に黒の模様で額に赤でkが刻まれた覆面レスラーのマスクを取り出して被る……大文字のKではなく小文字のkだ間違えられると困る。

 マスクはこっちの世界で被るためにパクったではなく、先日の事もあり現実世界で何かやらかす時に有った方が便利だと思ってパクったのだが、こちらの世界で役立ってしまうとは備えあれば嬉しいなって訳だ。

 パクッた翌日の朝。父さんが「僕の大事な『キロ・マスカラス』の覆面が無いんだけど誰か知らない?」と青い顔で尋ねて来たが華麗にスルーして見せた。

 更に言うと、レベルアップ後の母さんと兄貴もそれぞれ父さんのマスクをパクッた……合掌。


 ちなみに小文字なのは、十の三乗を意味するキロを表すのが小文字のkであり、大文字のKを使うと二の十乗である1024バイトを意味するKバイトと混同すると千の仮面を持つ男が、千二十四の仮面を持つ男になり座りが悪いからだそうだ。



 自分の手の中の槍を信じられないと言わんばかりに睨みつけたイースフィグは、こちらを振り返って叫ぶ。

「この力、貴様も精霊の加護を持っているのか!」

 精霊の加護? 聞いた事があるような無いような……今の俺の記憶力で思い出せないなら聞いた事が無いのだろう。

 奴との三十メートルほど距離をおいて地面に着地し【迷彩】を解く。

「貴様、名を名乗れ!」

「自ら名を名乗りもしない田舎者の帝国っぽが」

 名を名乗れと言われたこう答えるのが世の情け……かな?


「……俺は──」

 顔つきは怖いが根は真面目な良い子なのだろうきちんと答えようとするが、顔つきは怖いが根は真面目でも良い子でもないのが俺だ。

「貴様の名を聞く耳など無い!」

 貴様に名乗る名前など無いの逆バージョンを勢いだけでぶつけてやる。

「おっ……おう?」

 想定外の状況に相手も見事に混乱している……ちなみに勢いで言った俺もどうオチを持っていけば良いのか着地点が見いだせない混沌状態。


「な……ならばこの剣に懸けて問うのみ!」

 良い子は何とか自力で着地点を発見したようだが──

「剣ではなく槍です、そして返してください」

 奴が手にしているのは、そう抗議した兵士の槍だった……着地失敗。


 イースフィグ死んだ魚ような目で兵士に謝ってから槍を渡す。

 そして一度大きく深呼吸をすると、腰の剣を鞘から抜き放ち「おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」と勇ましくウォークライを吠え上げてこちらに突っ込んでくる……気不味さを誤魔化す為の方法がそれしか見つからなかったのだろう。


「剣を抜け!」

 走りながら剣を振り上げてそう叫ぶが俺の剣は【所持アイテム】の中だから、こいつには俺が剣を持っているようには見えないはずなのに何を言ってるのやら。

 さらに言えば、この高城隆は飛び道具以外の武器を恐れた事など一度も無い。剣で俺に脅威を感じさせたいならライトサーベルでも持ってくるんだな……ライトサーベルはマジ勘弁だけどな。


「貴様が抜かずとも斬る!」

 本人は格好良いつもりで言ってるのかもしれないが、単に武器を持たない相手に斬りかかる言い訳だろう。良い子だって切れる時は切れるのだ。


 驚異的身体能力で間合いを詰め、人外の力で斬りつけてくる英雄(笑)に対して、俺は奴の剣の届く範囲の内側へと速度で対抗するのではなくタイミングを読んで踏み込んで行く。

 俺とイースフィグの視線が交差する。そして奴の目が驚愕に見開かれた時には鎧越しに掌底を鳩尾へと打ち込み終えていた。

 俺に反撃を喰らうまで全く反応出来なかったことから、こいつの力は加護とやらの借り物だけの力だと確信した。


 口から血反吐を吹き出し、その場に崩れ落ちる姿に帝国兵達から悲鳴のような声が上がる。

「英雄がぁ……精霊の加護がぁ……」

 湖を挟んだ敵地で拠り所である砦を失い。更には精神的支柱とも呼ぶべき英雄様が一撃で倒されたんだから、そりゃあ泣くさ俺でも泣く……だがこれでこいつらの心が折れてくれ──

 いきなり下から掬い上げる様にして俺の首目掛けて走る斬撃を横から右脚で蹴り付けると、折れて刀身が飛んでいく。


「き、貴様も……やはり……精霊の加護……」

 付け根から刀身を失った剣を握りしめ、鋭い眼光でこちらを睨みつけながら、必死に膝や肘をカクカクブルブルさせながら立ち上がろうとする英雄様。その鎧の腹部は俺の掌底で大きく陥没していた……やっぱり見た目重視で防御性能はお察しレベルか。

「知らねえな。精霊の籠だの瓶だのなんて」

「馬鹿な……加護も無に……我に、勝てる者など……」


 折角煽ってやったのに、軽やかにスルーされただと?

 まあ良い。とにかくこいつに勝つのは難しい事ではなかった。加藤以外の空手部の二年生でもマジモードなら同様の結果になったはずだ。

 確かに奴は人類に出せる速度をはるかに上回ってはいたが、最後の踏み込みの時点で速度は時速百キロメートルを超える訳では全くないし、振り下ろされる剣の切っ先の速さがバドミントン男子のトップクラスの選手のスマッシュの速さを越えている訳でもない。

 つまり、人類の枠内に楽勝で留まっていたネイキッド隆クンの目で追えない速さでは無いどころか、身体が反応出来ない速さでも無かった。

 しかも全力で走り込んで来て全力で振り下ろす。その目標が俺と決まっているのだから、何処に最後の一歩を踏み下ろして、何処に振り下ろすのか予め決まっている。


 その走る歩幅と速度からどのタイミングで振り下ろすのかも丸分かりだから、その瞬間、俺は奴が振り下ろす場所より一メートル足らず前へ踏み込んで奴の鳩尾目掛けて掌底を打ち込めば良いだけだった

 左足で踏み込んで前進する力を受け止めて、左足から身体の左側を軸として右回りに発生した回転力を使い右側から袈裟懸けに剣を振り下ろすという動作において、左足を踏み込むタイミングを読まれて相手に懐に飛び込まれた場合。

 力を加減しているならともかく全力ならば止める事も大きく軌道を変えたりタイミングをずらす事は、こいつが自分の速度に対応出来る反射神経を持っていたとしても不可能。分かって居ても止まれるモノではない。

 ちなみに、そのタイミングを読む程度の事が出来ないなら生きていく資格は無いと、空手部員は一年の二学期中には気づかされる……ちなみに物覚えの悪い方だった俺は目覚めた病院のベッドの上で気づいた。


「嘘だ……ありえない……加護も持たない……者に負けたなど……」

 加護加護うるさいな。何か気に障るフレーズだ。

「精霊の加護を……持つ我が……」

 イラつくのできっぱりと言ってやることにした。

「精霊の加護とやらを持つ割にはお前弱いな。俺の知る精霊の加護を持つ……」

 俺の知る? ……来た来た! いつもの頭の中を掻き回すような不快な感覚。

 毎回毎回ふざけるな。ふざけるな。ふざけんなーっ!

 気合全開で抗う。だが気合が足りないのか次第に不快感が強まっていく。このままでは押し負ける。気合が足りないなら【気】も持っていきやがれ!

 次の瞬間、頭の中で何かのスイッチが入ったように『プチっ』という感覚と共に不快感が引いていく。

 勝った。逆転勝訴! 第一部完! ……そんな状況ではない。同時に頭の中に俺の知る精霊の加護を持つ者。ルーセの記憶が思い浮かんだ。


 だがじっくり思い出に浸れる状況ではない。即座に目の前の英雄様の顎を蹴り砕いて失神させる。

 さてどうしたものだろう……すぐにでもコードアに行ってルーセの行方の手掛かりを探したいが、こいつらを放置という訳にもいかない。


 皆殺しか、二千五百人も……それは面倒過ぎる! それなら龍を数匹狩る方が楽だ。

 まとめて気絶させて、収納して……その後はどうする?

 開放したらこいつらの口から『全員いきなり気絶させられた』『気付いたら元居た場所とは別の場所だった』『目覚めたらかなり時間が経過していた』等々の余計な情報がリークする事になる。

 ……そうか、どこか遠くで幸せになって貰えば良いのだよ。遠い無人島にでも置き去りにすれば良い。

 自分の手で殺さなくても男しかいないこいつらは、放っておいても数十年後には全滅するだろう。

 脱出しようにも周囲に数百キロメートルに陸地の無い絶海の孤島を探してあげよう。二千五百人が生きていくのに十分な広さを持つ島。食べ物に困らないよう、果物が豊富にとれる南の島が良い。魚も沢山獲れるサンゴ礁に囲まれてるのが良いな……絶望の楽園で死ぬまでゆっくりと余生を過ごせるようにな。



「殺した方が楽だった……」

 見通しが甘すぎた。二千五百もの人間を半径十メートルほどの【昏倒】を使って失神させ、収納するという作業は逃げ惑う兵士達との果てしの無い追いかけっこであった。


 下手に指揮を執らせれば厄介だと思って最初に指揮官とその周辺にいた上級士官等にまとめて【昏倒】を喰らわせたのが拙かったのだろう。

 彼らが倒れた事で、二千五百の兵士が完全に烏合の衆と化してそれぞれがバラバラに逃げ散ってしまったのだ。

 これが「待てよ~!」「つかまえてみなさい~!」的なキャッキャウフフ要素満載なら楽しいのだろうが、むくつけき兵士共を相手に盛り上がる要素など何一つなく、心が疲弊するだけだった。

 仕方が無いので、再び【迷彩】で姿を消すと、浮遊/飛行魔法を使い上空から【昏倒】の爆撃を喰らわせては時間停止状態で収納するのを繰り返す事になった。

 レベルⅥやⅦに【昏倒】の上位魔術が無かったのが悪いんだ。

 相変わらず実戦的だったり実用的だったりする魔術は少なく、多くがしょうもないのがレベルが上がる事で規模を拡大するだけのパターンが多い。



 最後にマップ上に兵士の残りがいない事を確認してから、コードアに向けて移動を開始する。

 時折、懲りずに例の不快感が襲ってくるが【気】を高めて排除する。

 使い方に慣れていないので常時【気】を高めておくには集中力が必要で、少しでも気が逸れた途端に襲ってきやがる。


 途中で二号とすれ違う。互いに【迷彩】を使っているので、マップを使える俺は奴に気付けたが、二号は俺に気づかずに高度二百メートル程をチンタラと時速百キロメートル以下で飛んでいる。

 飛行中に余り高度を取らない事は俺にとっては速度を上げるためにはメリットがあるが、逆に二号にとってはデメリットだ。

 音速を超える際の衝撃波が壁になっている俺は、気圧と温度が高く音の伝播速度が速い低高度を飛ぶ事でより速く飛ぶことが出来るが、逆に風の抵抗が速度を上げる壁になっている二号は、空気の薄さと寒さに耐えられる範囲で高度を上げた方が空気の抵抗が少なく速度を上げられる。

 ちなみに高度三千メートルでの音速は地上の秒速三百四十メートルに対して秒速三百メートルと一割以上も低くなるので、俺は有り余る魔力をつぎ込んで二百メートル以下の低高度を音速を少し下回る速度を維持して飛んでいる。

 衝撃波の問題をクリア出来たなら成層圏を飛ぶ。それに成功したなら上空百キロメートルの先、宇宙を狙うと誓う。勿論何の意味も無くただのロマンな自己満足だが、男って奴はいつだって浪漫の欠片を追い求める生き物だ。




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お久しぶりです

GWの終盤から風邪ひいて寝込んでました


五月五日

朝、快調に目覚める

新聞を読んで折り込み広告を読んで、近所のスーパーに買い物に出て、帰りに寄り道して札幌の隠れた桜の名所と呼ばれる川沿いの散歩道を自転車で走る


中でも一番大振りで枝で枝垂桜のように見事に咲き誇る桜を眺めてから家路に向かうと土手を降りた河原の遊歩道を小型犬と一緒に散歩している白いブラウスのとベージュより少し濃いロングスカートのお嬢さんを見かける

犬は舞い散る桜の花びらにはしゃいでお嬢さんの制止も利かずに動き回り、いつしかリードが一周して足元に絡んでしまう

するとお嬢さんはスカートの裾を翻しまるでバレリーナのように綺麗に一回転してリードを解いたが、周囲の目に気づき少し照れた様子だった

「なんか良いもの見たな……」(スカートの中が見えたとかではない)

これで一句作れないかと考えながら家に帰る

桜・散歩・犬・お嬢さん・リード・一回転……いかん最低限のワードだけで五・七・五の十七文字をオーバー

これは無理だよ。これを俳句にまとめるのは俺には無理だよ……つまり短歌という事だ

風が呼び

舞う花片に

はしゃぐ犬

リード絡みて

クルリ一舞い

……うん、全くセンスが無いプレバトのババアに殺される。虐殺だ!

何により、逆に文字数が多すぎて状況を全部説明していて受け手が想像の翼を広げて解釈する余地ねえ!


家に帰り、遅めの朝食を取る……食欲絶頂!


「さて、今日は何をするか?」

思い浮かんだのは久しぶりに自転車で遠出して、当別ダム(家から四十キロ先)に行ってダムカードの令和版を貰って来よう!だった

「問題はメインのダムに何を絡めるかだ……」

そこで思いついたのは先ず真っすぐダムへ向かい、途中のジビエ工房で鹿肉料理を食べてから、ダムの管理棟でダムカードを貰う


そしてダム湖の景色や、山の中なのでまだ咲いているだろう山桜を見ながら西岸を北上し、ダム湖の中央を横断する望郷橋を渡り東岸を南下して国道に出て、更に西南に向かいJRの秘境駅石狩金沢を出て正面の秘境温泉、開拓ふくろうの湯で、露天風呂の温いお湯につかり景色を楽しみながら筋肉をクールダウンしつつ長湯し、その跡は西南のかばと製麺で美味いうどんとこの季節限定の行者ニンニクの天ぷらを食べるプランを立てる。

(ニンニクよりもニンニク臭い行者ニンニクだが、天ぷらにすると良い匂いだけが引き立ち、いわゆる臭いと言われる部分だけが飛ぶのでめちゃめちゃ美味いと思う。ただし自分で揚げると美味くないw)

「素晴らしいプランだ。旅行プランナーじゃない事が実に悔やまれる!」


しかし、その行程だとかばと製麺(11:00-15:00)はとっくに閉まっている

かといって、かばと製麺を先に行ってから最後に温泉だと秘境系の温泉なので夕方以降はアブやブヨが出てしまう


それならと、うどん→温泉→ダム湖→管理棟→ジビエ。これなら問題ないだろう! でも管理棟の時間を確認しておこう……土日祝日閉鎖


「全く問題ない! 素人ならいざ知らず、おれ知ってるもんね! ダムカードは管理棟だけじゃなく他のところで貰えるんだから」

……土日以外の配布場所:道民の森神居尻案内所


「僕ちゃん知ってるよ。そこって結構遠い山の中だって。行程表にそこを組み込むと全行程が最初の八十五キロから百二十五キロを超えて、ロードバイクに乗ってた昔ならいざ知らず26incのMTBだったらかなりきついって」


そもそも矢を受けた訳じゃないが左膝が駄目になりロードバイクに乗るのを止めて街中をまったりと移動するのにMTB、そして更にママチャリへと移行したので、ロードバイクすら久しぶり……きついというか無理


人間は自転車に乗る時に前傾してはいけない。前傾すると目の前を行く全てを抜き去りたくなるよね?

特にロードバイクのドロップハンドルの下を握ってはいけない。握ったら最後、目的地に着くか、公園のベンチでスポーツドリンクを片手に息荒く、滴るほど汗を流して項垂れるかの二択。俺はそんな生き方から降りた。ただそれだけなんだ


そんな事を考えていると突然寒気が襲ってくる

今日の最高気温は二十五度で室温は既に二十四度越え……それなのに寒い? 熱が出ていると理解できるが──

「全然体調に問題は無かったのに何で? 自覚症状も無しっておかしいだろう!」

身体がブルブル震える寒さに、そのままベッドに潜り込む。ベッドの中でも全身が震えるというか、マッサージ器のように振動し続け、そのまま気を失う


二時間後、頭の中が重たく感じるが寒気が消えていたのでベッドを出て体温を測ると三十九度五分

「二年ぶりの三十九度越えだね」

 平温が三十七度近い特異体質の為四十度越えも何回かあり、子供の頃には四十一度を突破し丸一日意識を失っていた経験もあるのでそれほど気にしない


それでも寒気がするからといって身体を温め続けると簡単に四十度を突破する体質なので、ベッドの中で温かくしながら頭や脇を冷やして体温を調節しながら過ごす


五月七日

朝 「復活!」

明らかに体温が下がり頭の中がすっきりしている。高熱とずっと寝ていた為に身体の節々が痛く、身体に力が入らないがそれも意識がはっきりしているのがありがたかった


十一時 調子こいていたのがいけなかったのか突然頭痛に襲われる。頭が割れる様に痛いので、いっそのこと試しに割ってみたらどうだろうかと真剣に考える

自分の人生の内、丸三年くらいはずっと頭が割れる様に痛かったのでさほど気にしないが、やはり寝込む


五月八日

調子は良くなったが、頭がぼんやりしている昼にまた頭痛。

普段は夕方から起こる疲れ目による視界がかすむのが昼から起こる

そして十三時三十分。何故か突然絶好調! 自分の身体だけどon/offがさっぱり分からないw


しかし、やはり夕方を過ぎると目が霞む。文字は目で見るのではなく心で読むものだと思う(全体の誤字修正をすると言って、文字数的にはわずかな十話までの修正で疲れ切ってしまったオッサンの言い訳)

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