第86話

 龍の生息地目指して更なる森の奥へと踏み入った俺達はオーガの群れと遭遇した。

「龍との前に一度、こいつらと戦っておくのはどうだ?」

「これは……想像以上に大きいね」

 何せ全長四メートルほどの巨体だ。

 人間は下から見上げると、対象を実際以上に大きく見えてしまう生き物だ。

 より巨大な生き物を見慣れているならばともかく、オーガの身体は数字よりも遥かに大きく見えてしまうものである。


「大きいだけじゃない。想像より早く動けるし、力も人間を単純にスケールアップさせた上で二倍とか三倍と考えていると痛い目に遭う。だが今のお前達ならオーガの数倍の速さで動けるし、もし腕相撲が出来たとするなら人差し指と中指だけで勝てる」

 おかしいな一月ほど前に、初遭遇した時は恐ろしいほどの強敵だったのに……紫村と香籐の手によって七体いたオーガは一分足らずで全滅。まさに秒殺だった。


「どうだ? 魔物とはいえ、人に近い生き物の命を奪うと中々来るものがあるだろう?」

 オーガの首を刎ねて倒すも、その人に似た姿の生き物を殺した感覚に香籐は耐えるように顔を歪ませている。


 一方、紫村は本当に飄々としたもので『高城君の言う通り、大体お化け水晶球一個分の経験値だね』と【伝心】で話しかけてくる……今まで何人か殺した経験があっても不思議じゃない冷静さだ。


「安心しろ。奴は最初はゴブリン相手にビビッて殺されてたからな」

 二号を引き合いに出して香籐を慰める。


「それは言わないでくれ。何なら土下座して謝るよ」

「……まあ良いか」

 目つきが余りにも必死だったので、それ以上からかうのは止めた。


「それじゃあ今度は龍を狩りに行く。相手は火属性を持つ火龍。飛行能力を持ち、硬い鱗に守られた強靭な身体を持ち、巻き込まれたら確実に助からない炎のブレス攻撃と角からは更に厄介な謎の熱線を放つという化け物だ。戦う前にセーブを実行しておくから心置きなく死んでくれ」

「死ぬほどの目に遭うという言葉があるが、実際に死の経験する事が出来るというのは凄いね」

「恐ろしいけれど、生き返られるなら試してみたいです」

 二人の前向きな発言に、二号と俺はちょっと退いた。確かに死ぬ経験というは戦う者にとっては得がたい経験であり、それが自分を成長させるだろう事は分かる。実際、二号がその経験を得て成長しているからこそ、羨ましく思うことが出来るが、最初から「死んでみたい」とまでは思わない。

「何でこの二人はそんなに前向きなの?」

「根っからの戦闘民族だからだろう……多分」



 地図に示された火龍の狩場へと移動すると、一度上空から周囲を見渡して地形などの情報をマップに落とし込む。これで半径九キロメートルの紫村達の広域マップも範囲一杯に網羅出来たはずだ。

「ここから先はお前達に任せる。順番に一人ずつでもいいし二人掛りでも自由にしてくれ」

 【結界】を張り、セーブ処理を実行した後でそう告げる。


「主将。飛び道具を貸して貰えませんか?」

「そう言うと思って用意してある」

 二丁、もしかしたら二張りと呼ぶべきかもしれないが、形状が銃に似ているのでそう呼んでいる弩(おおゆみ)を取り出す。


 現実世界でネットで落としたクロスボウの図面を、こちらの世界の職人に渡して作り上げても貰った物で、ちゃんとライフルのように銃尻を肩につけて構えられるように銃床が付いた改良タイプだ……自分で改造? 一体何の話だ。素人には無理に決まってるだろう。


 更に今は取り付けていないがスコープ用のマウントベースも既に取り付けてある。

 また特注なので最初から、弓部分の以前の弩より丈夫で大型のものになっており、弦はアラクネーの糸という魔力を帯びた素材を縒って作ったものらしく滅茶苦茶高かったが、その分威力も大きくシステムメニューの【所持アイテム】の物品リストの説明では張力は600ポンド以上で約300kgにも達していた……そしてそれを腕の力だけで軽々と引ける自分が怖い。


 このクラスなるとボルトには鉄以外の選択肢が無い。幾ら張力を高めても空気抵抗は速度の二乗に比例するためボルトの速度には限界があり、威力を上げるためには速度よりもボルトを重たくする事が重要になってくる。


 重さと丈夫さを考えると常識の範囲内で選択されるのは鉄しかない。

 理想を言うならタングステンのような高比重で硬い金属製のボルトだがこの世界では無理なのは言うまでも無い……現実世界でも用意してくれと頼んで簡単に出てくるものでもない。


 また、いくらここがファンタジー世界とはいえファンタジー金属製のボルトはおいそれと用意出来るものではない。

 比較的安価で手に入りやすいミスリルは軽くて用途に向かないし、アダマンタイとはミスリルの数倍の価格で、確かに高いが加工が難しい上に比重は鉄よりも若干軽いほどだ。

 ファンタジー金属の決定版ともいうべきオリハルコンは、ボルト一本作るのに控えめに見積もっても角付きで龍四体分は掛かるそうだ。


 待つ事三十分ほどでマップ上に火龍のシンボルが出現したために【結界】を出る。

「火龍の飛行速度はどのくらいかな?」

「速さだけなら時速二百キロ以上は出るみたいだが、それほど小回りは利かないし器用には飛べない。大型の猛禽類をイメージしてくれればいいだろう」

「それじゃあ回避される可能性は低いですね」

「かもしれないが、死にたくないなのなら火龍を本気にさせるなよ。火龍を倒すには奴が角を使い始める前に倒す必要がある」

 特に遠距離から角の能力を使わせたら勝ち目は無い。ほとんど無敵といっても過言じゃないだろう。


 そんな厄介な角は、龍にとって命とも言う存在だが、角にとっては龍本体よりも角が優先されるようだ。

 何を言っているのか自分でも困るが、龍は自らの命の危機に際して角の力を開放して危機を退ける。

 そして角は力を使った事で失われた魔力が完全に満たされるまで、龍から吸い上げるのは止めない。

 使われた力が大きければ、限界を越えて角に魔力を吸い上げられ龍は死ぬ。そして角だけを残して龍の身体は崩壊し砂埃となって風に舞い散るのみ。

 だがそうなると角には魔力が満たされていない状態になるので価値としては二級品、三級品扱いとなり売り物としては旨みがなくなるので、角の力をあまり使わないようにというのがミーアの言葉だ。


 今の俺達にとって必要なのは金よりも経験値なので余り関係ないが、それでも出来るだけ楽に倒すという意味では角の力を使わせるべきではない。調子こいて遠距離から弩による攻撃を続けて火龍を本気にさせたら地獄を見る事になる。


「でも一度は龍の本気というのを見ておきたいよ」

「そうですね。死んでも問題ないなら経験しておきたいです」

 前向きすぎるだろこいつらは……分かったような気がする。要は人生もリセットボタンがあるゲーム感覚で、これが今時の子供って呆れられる奴だな。うん、色んな意味でブーメランのように自分に戻ってくる言葉だな。



「撃て!」

 紫村の指示と同時に二本のボルトが唸りを上げて飛んでいく。

 僅か百メートル足らずの距離から放たれた音速の半分を越える物体を迎撃するには、ファンタジー生物の頂に位置する龍にすら角の力を使う以外に方法はないが、完全な不意打ちになったのでボルト火龍の左右の翼の飛膜を貫くとそのまま背後、遠くへと飛び去った。


 一の矢を放った後に、銃尻を右肩につけたまま素早く弦を引き、クイーバー(ボルトを入れる矢筒)からボルトを抜き取り弩にセットするまでに掛かった時間は僅かに十秒ほど……こいつらもう少し練習したら一分間に十射以上する様になるな。

「撃て!」

 すかさず二の矢を放つと、再びボルトは火龍の飛膜に穴を穿ち、目に見えて火龍の空中での姿勢が崩れていく。


「弩収納。突撃!」

 その掛け声と共に二人は地面を這うような低い位置を木々の間を縫うように火龍に向かって駆けて行く。

 速い! 速度は僅か三歩で時速六十キロを優に越えているだろう。

 地面すれすれにまで身体を前傾しながらも足は地面を蹴っておらず、足場用の岩を出現させては蹴り前へと進む。

 更にバージョンアップした浮遊/飛行魔法(改五型)──もう、浮遊/飛行魔法でいいや──と新しく作った風防魔法を組み合わせて、高速化と高起動を両立させている。


 四種の龍の中で飛行能力を持つのは風龍と火龍の二種のみ。しかし最初から空を飛ぶ事を宿命付けられている風龍に比べると火龍の飛行能力は遥かに劣る。


 風龍は翼が無くても、それどころか魔力が無くても空を飛ぶと言われている。

 空を飛ぶからこそ風龍のなのであり、翼や魔力を失った程度で飛ぶ力を無くす事は無い。空を飛ぶのは風龍の種族特性であり、水龍は水を従え、土龍は土を従える。そして火龍は太陽の中でも生き続ける……それは言い過ぎだろうと思う。


 繊細な飛膜を傷つけられた事で飛行能力に障害が現れたのだろう火龍は墜落を免れるために、必死に姿勢を制御しながら高度を下げていく。その結果二人の接近を許す隙を与える事になった。


「はっ!」

 火龍の落下地点に先に回りこんだ紫村が上空の火龍へと目掛けて跳び上がりすれ違いざまに槍の穂先で火龍の左の翼の飛膜を切り裂く。

 紫村は直後に跳ね上がった尾の鋭い一振りによって弾き飛ばされるが、火龍は左の翼の機能を失い更に無理な体勢からの尾の一撃を放った事で完全にバランスを失う。

「貰った!」

 そこへ香籐が身体の巨大さに比べると『たおやかな』とすら形容したくなる、その首筋へと鋭く剣の一撃を送り込んだ。


「その『貰った!』はフラグだろ」

 香籐は一撃は火龍の鱗を切り裂くことは出来なかった……丈夫さに拘った香籐の剣は切れ味はさほどではなく、一点に力を集中出来る突きならまだしも斬撃では火龍の丈夫過ぎる鱗には歯が立たなかった。

 全くダメージが無かった訳ではない。香籐の全力の一撃に火龍の首はくの字に曲がって弾き飛ばされる。


 だがそれが悪かったのだ。

 火龍は紫村と香籐の攻撃に自らの命の危険を覚えた。

 弾き飛ばされて明後日の方向を向いている頭の上の角が光を放つと同時に香籐の身体は空中で爆発的な勢いで燃え上がり、一瞬で消し炭どころか灰となり熱風によって上空へと吹き散らかされた。

 紫村も危険を覚えて、鋭く軌道を変えて回避行動をとるが、再び火龍の角が光を放つと燃え上がった。



『ロード処理が終了しました』



「一瞬過ぎて、何の事かさっぱり分かりません」

「そうだね痛みすら感じなかったよ」

 おかしい。こいつらの反応は何かが違う。

「死に方に不満を漏らす前に、死んだ事への恐怖とか無いのか?」

 少しも怯えてくれないので楽しくなかった。


「……特に無いね。死んだと言われて、死んだのかな? と思うくらいだよ」

「何の経験にもならない死に方でした」

「いや十分凄い経験だから。普通は人生に一度しかし経験出来ない事だからな!」

「高城君、希少と貴重はたったの一音違うだけだけど意味は全く違うよ。希少だから貴重だとは限らないからね」

 噛んで含めるように優しく諭された? 間違った事を言ってるのはむしろ紫村達なのに、正論を述べているはずの俺が何故か諭されるという理不尽な出来事に言葉を失う。


「もしも火龍が本気になったら、角から奴自身の身体を盾にするように動けば、例の攻撃は出来ないはずだ」

 何も分からない内に一瞬で焼き殺される事に意味を見出せない二人に、一応対処法を示しておく。

「なるほど、やってみる価値はありますね」

「……いや、本気出させないで一気に倒してしまえよ」

「それなら死角を増やすためには火龍を落としては駄目だね。僕が翼を斬ったのは失敗だった訳か……」

「俺の話し聞いてる?」

「さすがリューの兄弟弟子だけあって他人の話を全く聞かないね」

 人差し指と中指を揃えて作った指剣を二号の鳩尾に突き刺す……どうせ、すぐにロードし直すので二号のことは全く気にならなかった。




『ロード処理が終了しました』


 再び火龍へと挑む紫村と香籐は、一度目と同じように弩で翼にダメージを与えた後、同様に接近した。

 その後は、火龍の落下予定地点で待ち構えていた紫村が、真上へと跳躍し下腹部から心臓を狙い槍を深々と突き刺して動きを止めたところを、香籐が首と顎の付け根の辺りを剣で突き刺す事に成功したが、痛みに暴れた火龍に振り払われて飛ばされた後に角の攻撃を貰って燃えたのだった。


「ヒグマでさえライフルで心臓を撃ち抜かれても、数十メートル離れたハンターまで駆け寄って反撃するのに、火龍がヒグマ以下のはずがないだろ」

「僕は首の頸椎をねらったんですが……」

「骨に弾かれたんだろ」

「……はい」

 想像はつく。頸椎を断ち切られてなお、狙いをつけて攻撃出来るような生物は存在しない。ファンタジー世界でも常識はたまには仕事をするんだ。



「そろそろ本気を出して仕留めて見せろよ。今日は火龍だけじゃなくお代わりして、倒せるだけ倒したいんだからな」

 二度目のロード実行後にそう切り出した。別に何度ロードしても実際の時間は経過しないので問題はないのだが、何度も死ぬと精神的疲労がたまってしまい、その後がダレてしまう。


 これは二号の観察結果なので二人にも通用するかは分からないが、正直見ている俺の方もダレてくるので、そろそろバシッと決めてもらいたい。


「分かったよ。本当ならブレスという奴も受けてみたかったんだけど、それは次の龍に期待するよ」

「僕もそれで構いません。ところで次はどんな龍なんですか?」

 香籐よ。少しはビビれ、そして目を輝かせるな。


「行ってからのお楽しみだ。どちらが狩る?」

「僕もそうだけど、香籐君も本気でやってみたいだろうから、僕が先に倒した後にロードしなおしてから香籐君が倒すって事でどうだい?」

「良いんですか?」

「……良いんじゃないか」

 もう俺はあきらめていた。立場が違えば俺も大して変わらないのだから。


 最初の弩での攻撃は香籐と二人で行うが、そこから本気を出した紫村は凄かった。

 前回の五割増し以上の速度を出して真下から跳躍し、槍を火龍のV字状の下顎の骨の真ん中の隙間から突き刺し、そのまま頭頂部を貫通させる。

 割れた頭蓋骨から角と折れた槍の穂先が吹っ飛んでいく……丈夫さが取り柄の槍ですら火龍の頭蓋骨を内側からぶち抜くには強度が不足だったのか、もう少し丈夫な武器が必要だな……火龍の返り血を浴びて火達磨になっている紫村を他所に俺は紫村の武器の心配をしていた。



『ロード処理が終了しました』


 速攻で一撃必殺をかました紫村に比べて香籐は慎重に見えた。


 火龍に対して上をとれば角に対して身体を晒す事になる。だが下に入れば紫村の様に火龍の血で燃え上がってしまう。

 そこで香藤が選んだポジションは火龍の尻尾を挟んだ後ろだった。

 今回も真っ先に翼を傷つけられた火龍は姿勢制御に苦労しながら少しずつ高度を下げているので、後ろに張り付き続ける香藤への攻撃が出来ない。

 ……地上で決着をつける気だろうか? まだ高所恐怖症を克服出来ていないのでそれもありなのかもしれない。


 俺の予想は外れていた。

 火龍が地上まで十メートルを切ったところで安全な高さと認識したのか飛ぶのを止めて一気に地面に降下する。

 その瞬間を待っていた香藤は火龍の背後に接近すると、尻尾を付け根と先端の間半分辺りを裂帛の気合と共に……裂帛って何?

 裂帛の気合は良く使われる慣用表現だが、実際のところ裂帛の気合なるものを音として自分の耳で聞いた事が無かった。


 文字から意味を拾うならば裂とは「さく」であり、切り裂く引き裂く。そして帛とは絹の布だ。

 普通に考えれば「絹を裂く」という事だ、ここまで来るとどうしようもなく「絹を引き裂く女の悲鳴」という慣用表現が頭を過る。

 つまり音的には「きゃーーーっ!」って奴だろう。


 うん間違いだ。少なくとも香藤は「きゃーーーっ!」なんて可愛い気合の声を上げない。

 俺が今まで読んだ本の中で、裂帛の気合と共に必殺の一撃を放った剣士達は全員オネエである疑惑が──そんな事を考えている間に香藤は着地直前の火龍の尻尾を両断。

 バランスを取るのに必要だった尻尾が半分になった事と痛みでバランスを崩したのだろう、火龍は着地と同時に地面に倒れ伏した。


 火龍の横っ腹を蹴って、上昇した香藤は両腕を左右横に伸ばして掌の先に足場岩を連続的に出して火龍へと落とす。

 しかし火龍もしぶとかった。角からレーザーサイトの様な細い光を岩に目がけて放つと次の瞬間、岩は中から溶岩を吐き出しながら破裂した。

 上空から岩を落とす香藤とそれを迎撃する火龍の均衡が三秒ほど続いた後、加藤は一気に数十の岩を出現させてまとめて落とした。


「複数同時に?」

 俺は今の今まで【所持アイテム】から同時に幾つも取り出せるとは知らなかった……悔しい。


 火龍は数の暴力の前に屈すると我々に経験値を献上するのだった。


 紫村と共に香藤を褒めるが、紫村でさえも『やられたな』とうい表情を隠しきれていなかったのが救いだった。




「次は──」

「ロケーションから水龍だと分かるよ」

 そりゃあ移動した先が湖だったら気付くよな。だがそんな風に言われれば、近くに生息域を持つ土龍とでもチェンジしてやりたくなる。


 しかし大きな問題がある……土龍は倒しづらいのだ。

 奴は土の中を泳ぐように移動するという、龍の中でも一番インチキ臭い存在で、常に地中を移動して時折足元から襲い掛かって来る。

 二号への教育方針から装備すると同時に刺さってる戦法は使えないので、土龍に対する攻撃方法が一つしか思い浮かばなかった。

 だけどもその方法の評判は悪い。楽して勝ちたいのが本音の二号からも「こんな倒し方を僕が出来たとして、それで『龍殺し』を名乗ったら後々拙い事になるよ。絶対に」と言われたくらいだ。

 ましてや紫村達からはどんな非難が飛び出すか想像も出来ない。



「それで、今回は水龍にとってホームと言うべき湖で戦う事になるので当然圧倒的に不利だ。ちなみに俺が最初に倒した水龍は酒で陸におびき寄せてから倒したが、それでもかなり苦労した。そこで二人には、水龍を陸に上げさせない。そしてシステムメニューの機能に頼らない。この二つの条件の下で戦ってみて貰いたい」

 あっさりとそう告げたが、正直この条件では俺が紫村だったとして勝てる気はしない。だがこの二人ならば今後の戦いの参考になるような面白い戦いを見せてくれるかもしれない……そのくらいの役得はあってもいいと思う。


「水龍の攻撃は水自体を好きな形にして操る事が出来る。色々あるが一番厄介なのは角の力で、ウォーターカッターみたいのを使って最低でも半径十メートル以内の固体は何でも真っ二つだな。ただし水球などで遮られるとただのジェット水流になるから、水球などを利用して防げ……後は、水に落ちたら助からないと思ってくれ」

「それなら一度は水に落ちて、それからウォーターカッターも食らってみても良いって事だよね?」

「……好きにしろ」

 自分が食らって腕と足が切り飛ばされた事を思い出して嫌な汗が出る。

 もう十分堪能したので羨ましいとは感じない。


 先ずはオークの死体をまとめて三体ほど湖に投げ入れる。何時狩ったオークかは履歴を確認しないと分からないが最低でも数日は経っているはずにも関わらず、【所持アイテム】内にあったそれらは殺したててそのままで血はまったく固まっておらず、投げ入れた水面には鮮やかな赤が広がっていく。

 その様子に香藤が残念そうな表情を浮かべる。やはりオーク肉は香藤をも魅了してやまないのだった。



『セーブ処理が終了しました』


 眼下にオークの死体から流れ出した血の臭いを嗅ぎ付けた水龍が姿を現している。

「先ずは二人掛りで行くよ」

「はい!」

 二人は浮遊/飛行魔法で流れるようなスムーズな動きで水龍との距離を詰めて行き、水龍が操る水の塊で湖に叩き落される。そして周囲全ての水が水龍の思うままに操られるという状況で何も出来ずに水圧に潰されて死んだ。



『ロード処理が終了しました』


「流石に死ぬかと思ったよ」

「死んでたよ!」

 紫村のボケに鋭く突っ込む。

「でも、やっと殺されるって言う恐怖を味わう事が出来ましたよ。あの状態でも最後の最後まで抗うという目的も果たせました」

「だけど最終目的は、心臓を潰されたり、喉笛を掻っ切られたりして、もう死ぬと決まった状態でどれほど戦えるかというのが一番大事だね」


「……お前らおかしいだろ?」

 命を落とすまで戦い続ける経験が出来るというのは戦う者として何よりも貴重なものかもしれないが、こいつらは何か違う。

 まるでリセットボタンのあるゲーム感覚でやっている様だ。だから俺が今感じているようなトラウマを負う事も無い。だから完全に究極の疑似体験として純粋に良い体験だと楽しむ事が出来るのではないか?


「何故ですか? 例えば命に代えても守らなければならない人。命に代えても倒す必要のある奴がいたならば、自分が死ぬなら尚更最後の瞬間まで戦わなければ──」

「まずは魔術で怪我を先に治せ。千切れた腕がくっつくレベルの治癒魔法があるのに、何故すぐに死ぬ事を前提にする?」

「…………あれ?」

「あれじゃねえよ! もう自分が簡単には死ねない身体だと理解しろ。そしてお前らが死ぬような場合は一撃で叩き潰されるような一瞬の死だ。大体だ、お前達は【セーブ】と【ロード】のせいで気軽に死ねると思い過ぎだ。死の恐怖に慣れるとか言ってる割に死ぬ事に恐怖を感じてないだろ。肝心な死の恐怖を克服するのではなく安易に死に慣れ親しんでいる。俺は何度も死にかけて、その一つ一つをトラウマとして背負っている。戦いの中でこそ死の恐怖に囚われる事はないが、日常の中でふとした瞬間、その恐怖を思い出す事はある。現実世界と夢世界を行き来すするせいで夢を見る事が無くなったが、もし今、夢を見る事になったなら、そレは間違いなく悪夢のはずだ」


「君の言いたい事は良く分かったよ。確かに僕自身そんな気分だった事は否定しない」

「確かに僕は恐怖を背負ってませんでした。戦いの中で感じるべき恐怖を感じないなんてあってはいけない事です。申し訳ありません」



『ロード処理が終了しました』

『ロード処理が終了しました』

『ロード処理が終了しました』

『ロード処理が終了しました』

『』

『』

『』


「無理! 絶対に無理です!」

 香籐の緊張の糸が切れた。多分俺ならば別の意味で切れるだろう。

 何せ水の中にいる水龍はまさに難攻不落。無敵の城塞のような存在だった。その城壁を破壊するには飛び道具が必要であり、本来なら上空からの足場岩などの投下が効果的だが、システムメニューの機能は使わない条件によって縛られている。

 無茶な条件。しかもその条件を出した本人である俺自身が、効果的な攻略法を見つけていないのだから理不尽としか言いようがない。

 俺なら二人に比べて圧倒的に魔力が高いので、得意の魔力の圧縮から開放を用いて、水龍の魔力に関わる能力を封じて倒す方法があるが、二人の魔力では難しいし、そもそも二人に魔力を高密度に圧縮する事が出来るのかもわからない。

 あれ? ちょと待てよ。魔力は魔力でも二人の魔力か……何とかなるかもしれないな。何とかなるかもしれないが俺が教えるのは駄目だよな。


『』

『』

『』

『ロード処理が終了しました』


「と、とりあえず……今日のところはこの辺で勘弁してあげるという事で……」

 すっかり憔悴した紫村がらしくない発言をする。


 何度も繰り返し、しかもただ何の策も無く挑むのではなく、常に新しい方法を模索しながら戦った挙句が、自分の攻撃が届く範囲に近寄る事すら出来なかったのだから、その徒労感がもたらす精神的疲労は……空手部の部員ならよくある事だった。


「主将。何かアドバイスのよなものは頂けないでしょうか?」

「香籐君。それは高城君にだって無いと思うよ」

「実は俺。お前達次第では何とか出来そうなアイデアが思い浮かんだよ」

「本当ですか!?」

 本当ですよ香籐君。尊敬の目を向けてくる後輩に不敵で素敵な笑顔で応じる。


「それは張ったりだよ。まあ、そんな虚勢を張ってしまう高城君も可愛いとは思うけど──」

 俺の拳が唸りを上げて紫村の腹に突き刺さる。俺を嘘つき呼ばわりしたのは許そう。だが俺に対して邪な情愛を向けるは許さん。

 最近、紫村の言動が加速度的に怪しくなってきている。たかが秘密を共有したくらいで俺との仲が深まったと勘違いしていると怖いので、ここらで釘を刺しておく必要があった。


「アドバイスは魔力だ。お前達が持つ魔力。二つの魔力を利用して水龍の水を操作する魔力を封じるとだけ言っておこう。ちなみに練習が必要だと思うから、それに気付いても今日中には無理だと思うぞ」

 常人ならば胴体に大きな風穴が開くような一撃を貰って、小刻みに身体を震わせてうずくまる紫村を無視し香籐にアドバイスをする。


「リュー。君って誰に対しも変わらないね」

「俺は差別はしないが、色んな意味できっちり区別するタイプだ。そしてお前は『区別される』対象だ」

「こんなにあっさりと酷い事を言う人は君以外はしらないよ」

 褒めるなよ二号。



 水龍狩りは宿題として後日に持ち越すことになったので、近場の土龍の生息域へと移動して狩りを始めた。

 


 土龍も正攻法では水龍に負けじと倒しづらい相手だ。

 水の中の水龍、土の中の土龍と俺が勝手に評価するほどの難敵であるが、実は土龍が下から攻撃するために開けた穴から大量に水を流し込んでやると溺れるという弱点があった。

 下から湧き出る地下水は上へ逃げる事で避けられるが上から流れ込んでくる大量の水からの逃げ場は地中にはなく、土龍は地上へと逃げ出す事になる。

 だが土龍には他の龍のように全身を強固な守る鱗がない。多分狭い穴の中で鱗があると後進する場合は、鱗が引っかかり動きが取れなくなるのためだと俺は勝手に推測している。


 そのため、地上に出た土龍には防御手段が全く無い。また地中とは違い動きも満足に取れない。

 更に肝心の角が口の中にある。これも鱗と同じように土の中では角という突起物が体外に出ていると移動に大きな支障が出るためだと推測している。

 そのために攻撃範囲が狭く限定され、自分の身体に遮られていなければどの方向にも攻撃可能な他の龍とは違い、開いた口が向いている方向にしか攻撃出来ないので簡単に避けられる。


 またグダグダとロードを延々と繰り返す展開はお断りしたかったので、今回はあっさりと攻略法を教えた。

 二人は足元から襲い掛かる土龍の攻撃を素早く避けると、香籐が【巨水塊】で作り出した水を、紫村が【操水】で穴へと流し込む作業を始め、そして十分後に【巨水塊】十回分の水を流し込んだところで地上へと逃げ出して来た土龍に二人が襲い掛かる。

 体表には僅かに退化した鱗の痕跡が伺えるが、触るとヒンヤリ、そしてプヨプヨする土龍の柔肌を二人は力の限り殴り続けた。

 身体が破壊されていく痛みにのた打ち回る土龍。その動きを読んでかわしつつ、拳を叩きつける度に、どこか人間の赤ん坊が泣き声めいた甲高い土龍の悲鳴が轟く。


 俺はその光景から目を背けた。とても見ていられなかった……貴重な土龍の肉が破壊されていく様に。


 そう土龍の肉は実は美味い。実はオーク、ミノタウロス、コカトリスという三大食肉の上位にある幻の肉なのである。

 その肉はほぼ赤身である。土竜と同様に、常に獲物を探して地中を動き回り、獲物を捕らえては食べる。生活のほぼ全てがそのサイクルで成り立っている土龍には脂肪を蓄えているような余裕は無い。


 だがその赤身は驚くほど柔らかく、そして水っぽくならないギリギリの水分を含むため、脂身などなくてもとろける様な柔らかな食感と、旨みの濃い溢れんばかりの肉汁が口にあふれ出る……らしい。

 前回、土龍を狩って売り払った後に知ったので、まだ食べた事はない。


 ちなみに他の龍の肉も三大食肉に匹敵するほど美味しいらしいが、希少価値のお陰で三大食肉の中でも一番高いミノタウロスの肉の十倍以上の価値があるので庶民の口に入る事はほぼ無く、裕福な商人や貴族などの間では食事というより半ば薬という感覚で持て囃されているようだ。


 それともう一つ問題がある。それは龍の肉はそのままだと食べても美味くないって事だ。秘匿された魔法的な処置を施した上に、魔法を使い表面を一瞬で黒こげ状態に焼いて、その状態で3ヶ月以上低温暗所で保存熟成させる必要があるそうだ。


「肉を殴るという感触。それをこれほど強く味わった事はなかったよ。素晴らしい体験だったね」

「この大きさの肉を殴ることで、力がどう伝わり広がるのか……殴るという事に関して、何か新しい可能性があるんじゃないかと思えるようになりました」

 そんな事を言っているが、先ほど嫌というほど水龍に梃子摺ったせいで、土龍があっさりと倒せてしまった事に関して文句を言うつもりになれなかっただけだろう。

 やはり順番って大切である……どうするんだよ肉? 食うどころか売り物にもならんだろう。土龍って角より肉を含めた身体の方が高いんだよ。

 ここはやはり……



『ロード処理が終了しました』




 そして最後に風龍。

 何て言えば良いのか……思えば風龍って可哀想な存在だよ。

 本来は大空の覇者として、空において敵無しの存在であったはずなのに、あっという間の王位陥落。

 勿論、現在の空の支配者は俺達だった。

 浮遊/飛行魔法(改五型)と風防魔法によって最高速度は、まだ試した事はないが理論的には音速を越える事も可能。

 そして足場岩も使用すれば、静止状態から時速百キロメートルまでの加速は一秒もかからず、機動性はほぼ速度を落とすことなく直角に曲がる事も可能という出鱈目さだ。


 風龍は自分よりも速く、そして自由に空を駆ける紫村と香籐の姿に驚き、動揺を隠せぬまま二人に左右から首を刎ねられて死んだ。

 正確には先に紫村が槍で横殴りにした事で、風龍の首は香籐の方へと弾き飛ばされ、香藤の斬撃をカウンターで受け止める形になり首の骨ごと切り落とされたのだ。



 四種の龍との戦いを終えてなお、昼間ではまだかなり時間を余していた。

 まあ、戦い自体は長時間続くものではない上に、何度も死んだ分をやり直しているので、かかった時間はほとんどは獲物を誘き寄せる時間と移動時間であるので、進化した浮遊/飛行魔法で移動時間が短縮されれば当然の結果だった。


「よしお代わりだ」

 地図を広げて各龍の縄張りを確認しながら次の獲物に良さそうなのを見繕う。

「ただし水龍は除く。でお願いするよ……今日はもう水龍とは戦いたくない」

「火龍がいいと思います!」

 すぐさま返事が戻ってくる。明日までには水龍の攻略法を実践出来るようにしておいて欲しい。

 俺も別の攻略法を考えておこう……



「ところで僕の『龍殺しへの道』はどうなるの?」

 いきなり二号がそう話を切り出してきたが、俺に言えるのは「頑張れ!」の一言だけだった。

 すっかり忘れていたので、咄嗟にそう返す事しか出来なかった。


「散々君という人間に触れて、良いだけ驚かされ続けた僕でもびっくりするほど投げっぷりだ」

「冗談だ。次の……そうだな火龍を見つけたら、十回死ぬ権利を与えよう」

 ちっとも冗談じゃないけどな。事実、背後では紫村と香籐が「いいかい、あれは冗談じゃないよ」「冗談じゃありませんでしたよね」と声を潜めて話しているのが聞こえる。


 基本的に土龍と水龍。土龍と火龍。土龍と風龍はテリトリーが重なっていても問題はない。

 水龍と火龍。水龍と風龍もテリトリーが重なっても問題はない。

 だが繁殖期を除く同種の龍。そして火龍と風龍はテリトリーが重なる事はない。

 つまり風龍を倒した後で、火龍のテリトリーへと行くには長距離の移動が必要になる。

 そこで俺は寄り道を提案した。

「この先で、ミノタウロスの反応があるんだけど狩って行くか? 嫌だと言っても狩るけどな」

 今までは料理をした事のない二号と、料理が『余り得意』では無い俺の二人だ。流石に現実世界の各種調味料や調理器具を持ち込んでも美味い料理が出来る訳もない。

 だが今は紫村と香籐がいるので最低限まともな料理が作れる。すなわちこちらの美味い食材と現実世界の調理法のコラボレーションに、もう気分は「やったねパパ今夜はホームランだ!」状態だ。



 牛ならば群れを作って生活するだろうが、ミノタウロスは単独で生活する。

 また草食ではなく何でも残さず食べる雑食性だった。


「意外に普通にミノタウロスだね」

「まるで普通にミノタウロスを見た事があるような言い方だが、俺もそう思う」

 オーガがRPG知識のモンスター情報のイメージよりも大きかったので、それを好んで捕食するというミノタウロスは六メートルくらいの牛コスプレ巨人かと思っていたが、実際はオーガよりも小さく三メートルを下回る程度しかなかった……十分デカいんだけどね。


「ここは俺にやらせてもらう。まだミノタウロスとは戦った事は無いんだ」

 そう言って前に出る。

 牛なら群れなので、全滅させない範囲で数を狩れるが残念。

 しかし、本当に顔が牛に似ているだけだ。手は偶蹄でも奇蹄すらなく人間と同じ五本の指が生えている。


 多分ミノタウロスにとっては、自らのテリトリーに踏み込み、そして目が合いながらも何の躊躇う様子も無く歩み寄ってくる相手など初めてであろう。

 戸惑いと警戒を抱くミノタウロスを他所に、俺は一定の速度で距離を詰めて行く。

 やがて緊張感に耐えかねたミノタウロスが唸り声を上げて襲い掛かってくる。

「速い」

 思わず呟く。だがその言葉には『想像よりも』という言葉が枕に付く。レベル五十の頃の俺なら対応出来たかは五分といったところだろう。

 火龍と戦ったのがレベル四十一だと考えると破格の速さだ。そりゃあ誰も正面切って狩ろうとはしないのも肯ける。


 ミノタウロスは俺の一歩手前で左足を思いっきり踏み込み、左膝を屈めて体重を預けると、上体は慣性により前方へと流れながら沈み込む。

 これは斜め下から突き上げる頭突き、いや角による突き上げ……良く分からない相手に対して最初の一手から最大の攻撃力をもってあたるとは中々の古強者だ。


 しかし、そう冷静に思う事が出来るほどの余裕が俺にはあった。出来るならもっとレベルが低かった頃に……レベル一などと身の程知らずな事は言わないが、レベルが三十程度の頃に、こいつと死闘をして勝つ事が出来れば、俺は大島にも挑めるだけの何かを掴めたかも知れない。

 戦いの場で「たら、れば」は無粋と知りながらもそう未練を抱かせるほどの敵だった。


 何せオーガはデカ過ぎるし龍はただの怪物だ。そういう意味ではミノタウロスはギリギリ人型の敵と認識出来るサイズでしかも技まで使いこなす。

 大島直伝の空手風の何か──空手と呼ぶことすら怪しい──の使い手として、一武術家として、ミノタウロスは一連の異世界騒動において出会った最高の敵となるはずの相手だった故の未練。


 突き上げてくるミノタウロスの左角を、左脚を半歩引いて上体を反らしてかわすと同時に胸の前に両腕をクロスさせて輪を作る。

 その輪の中を角が通過した次の瞬間、強い衝撃が腕と肩に伝わり身体が上へと引き上げられる。

 遅れて伝わる上半身への力を腕力による引き寄せと体幹をのコントロールで後方ではなく前方への運動に変えて、右膝をミノタウロスの喉下へと叩き込む。

 想定外の喉への攻撃に半ば突き上げた状態で首の筋肉を弛緩させたミノタウロス。

 そこへ追い討ちをかけ、右膝の一撃だけでは殺しきれなかった力を左脚を大きく振る事によって右回転運動へと変える。

 そして両腕で抱え込んだ状態の左角に捻りを加え、筋肉の緩んだミノタウロスの首をへし折った。




 結局、風龍、土龍、火龍がそれぞれ二体ずつと、ミノタウロスが一人一体ずつ狩って四体。オーガが七体。そしてコカトリス三羽が今日のスコアだ。

 コカトリスは三人がかりで百メートル離れた位置からクロスボウで倒した。

 木で視界を遮られてこちらに気付いていないコカトリスが無防備に移動しているのを、マップで確認しながら木の陰から姿を現すタイミングを計っての予測射撃だった。


 既に龍は買取停止中だが、代わりにミノタウロスを捌いて貰う為にミーアの店に顔を出す。

 何故なら、前回狩ったコカトリスは解体を業者に頼んだ上に三羽の内二羽を売った……俺達二人では、精々肉に塩を振って焼いて焦がして駄目にするのが精一杯だから、持っていても仕方ないからだ。

 そのせいで、かなり話題になってしまったので、今回は情報の守秘に信頼がおける相手としてミーアを選んだのだ。


「皆様、いらっしゃいませ」

 まるで俺達が来る事が分かっていたようなタイミングでミーアが出迎えてくれた……いや間違いなく知ってるんだろうけどさ。

「今日は買取じゃなく、捌いて枝肉にして貰いたい獲物があるんだが頼めるか?」

「本来、そのような依頼は引き受けておりませんが、リュー様からの頼みとなればお聞きしない訳には参りません。しかしあえて当店に持ち込む獲物とは一体──」

「コカトリスとミノタウロスだ」

 考えてる相手に時間を与えず答えを告げる。まさに外道!


「それをどうす──」

「市場に流すつもりは全く無い。全て俺達で食う」

「な、何て──」

「ちなみにミノタウロスは墓場で死体を漁った物じゃない。病死でもなければ老死でもない。生きの良いのを戦って倒した。しかも例によって殺してたてのままの超極上品だ。そしてコカトリスは殺してすぐに毒を全て取り除いてあるので肉の傷みは全く無く、しかも内臓まで食べられるだろう」

 食が細いせいで精霊魔法を使いこなす事が出来ず、森を離れれるしかなかった胸のあるエロフでさえ体育会系中学生すら上回る食欲を持つ食いしん坊種族だ。

 こんな美味い話を聞いて黙ってはいられまい。


「そ、そんな貴重なものを自分達だけで……なんて酷い」

「コカトリスは三羽、そしてミノタウロスは四体だ」

 コカトリスは大型犬に匹敵するサイズで体重は六十キログラムくらいはある。


 空手部の合宿で罠で捕まえたウサギを捌いた経験があるために、獲物の体重に対して得られる食肉の重さの比率を調べた事があるのだが、鶏は精肉の部分と心臓や砂肝などの食べられる内臓部分を含めると五割から六割くらいになる。

 コカトリスの場合、ミーアには食べられるとは言ったが、毒を抜いたといえども内臓は他人が試しに食って大丈夫か確認しないと抵抗があるので、半分くらいが精肉になるとして三羽分合わせて九十キログラムくらいになるはずだが、鶏に似ているが鶏には付いてない食べられそうも無い部分もあるので七十キログラムくらいと考えよう。


 そしてミノタウロスをプロレスラー体型で三メートル近い巨体と考えると、身長二メートルクラスのプロレスラーの体重を一.五の三乗倍にすれば求められる。

 プロレスラーの体重を百二十キログラムだとすれば、約三.四倍すればよいのだからおよそ四百キログラムになる。

 ちなみに牛から採れる精肉の割合は全体の三分の一鶏に比べて少ないが、内臓も含めると四割近くにはなる。

 しかしミノタウロスは牛じゃなくむしろ人間に近い。だけど人間から取れる精肉の割合なんて調べた事はないし、調べても出てくる数字じゃない。

 仕方ないので、少な目に見積もり精肉の割合を三割と仮定して、体重四百キログラムの三割で取れる精肉の重さは百二十キログラム。その四体分で四百八十キログラムで約半トン……単位が変わってしまったよ。


「そ、それほどの量があれば私にも──」

「どこぞの誰かさんは、土龍を売った後で面白い話を聞かせてくれたしな」

 そう、ミーアが土龍の肉がこの世界の肉の最高峰であることを教えてくれたのは、土龍が俺の手元を離れた後のことだった。


「それは……酷い人がいたものですね」

「そうか、そう来たか。それじゃあ今日狩った土龍はどうするか困る事になるな」

「申し訳ありませんでした。どうか当店に卸してくださいませ」

 速攻で頭を下げてきた。


「主将。意地悪は止めてあげましょう」

 エロフの色気にすっかりやられてしまった童貞野郎が口を挟む。同じ童貞だけに気持ちが良く分かるのが悔しい。

「ありがとうございます。ガトー様」

 うわぁ~……こんなみえみえの笑顔にあっさりと顔を赤らめて鼻の下を伸ばしてしまってるよ。いかん、このままでは香籐が道を踏み外しかねない。


 やはり女だ。全ては思春期真っ只中なのに女っ気の無さがいけないんだ。どうすれば良いんだ? 俺は先輩として香籐にどうやって普通の女性との縁を作ってやれば良いんだ?


『どうすれば香籐を女の色香に迷わないようにする事が出来る?』

 思わず紫村に助けを求めた。

『彼がこちら側に来れば良いと思うよ』

 駄目だ駄目だ駄目だ! 女という性を持つ者を路傍の石程度にしか認識していない奴に聞いた俺が馬鹿だった。

 ご免な香籐。こんな頼りにならない童貞糞野郎な先輩でご免な……俺は状況に任せる事にする。俺に出来るのはそっと見守ってやる事だけだから。


 結局、色香に迷った香籐が間に入った事でかなりの譲歩せざるを得ない形になり、ミノタウロスとコカトリスをそれぞれ1体が解体の報酬となってしまった……目茶高いよ。毒を持ってて処理が難しいコカトリスが割高になるのは分かるが、ミノタウロスなんて要は大きなオークの解体と同じだ。しかし俺は口を挟まなかった……別に胸のある方のエロフの興味だけでも他に向かってくれればいいなんて考えないから。



 ついでに場所を借りて料理を作る事になった……俺以外が。

 台所のテーブルの上にはガスコンロ、鍋やフライパンなどの調理道具の他に、調味料が用意される。

「断っておきますが、僕に出来る料理は所詮男の料理の域を出ませんから」

「家畜の餌作りの域を出ない高木君の料理よりはましだけど、過剰な期待は止めて欲しい」

 随分な言われようだが言われ慣れすぎて怒りも湧いて来ない。人間は叩かれ続けると負け犬根性が骨の髄まで染み付いてしまうのだ。


「構わない。肉々しいまでの肉料理祭りに小手先の技など不要! 男の料理大歓迎」

「……そういうところが家畜の餌を作る原因だと思う」

「料理以外はそんなに大雑把な人ではないんですけどね……」

 あれぇ~?


「大体、今まで包丁すら触った事の無い奴まで戦力に数えてるくせに、俺だけ『席について一歩も動くな』と言われなければならないんだよ!」

 テーブルをバンバン叩きながら抗議する。

「未経験者の彼には伸び代がありますが、主将にはありませんから……」

 痛ましげな表情でこちらを見ないでくれ。


「高城君には……ほら、一合カップに入った米粒の数を数える仕事を上げるよ」

「いらんわ!」

 どんだけなんだ俺は?


 俺は不貞腐れて、新たな魔法の開発を始める。

 懸案の通信魔法は問題があって開発が進まない。元々魔力にはその人間の考えや感情が込められる。そして魔力の中の考えや感情に反応して魔力に似て異なる波を出し、その波を受けると多少劣化した魔力を発信者の考えや感情を乗せた状態で復号する魔粒子は存在するのだが、その波が届く範囲は精々十メートル以内といったところで、遠距離間での使用が出来て初めて通信魔法だという俺の仕様は満たされていない。


 通信を行うためには、相手側も通信用の【場】を用意し待機していなければならない。つまり考えや感情をやり取り出来る魔粒子以前に、遠く離れた相手に、しかも相手側に【場】の無い状態でも信号を送りつける事の出来る方法が必要で、更には通信相手のみに情報を送り届ける方法も用意する必要がある。

 これは無理だ。もっと他の魔法を研究しながら何らかの新発見によるブレイクスルーを、幾つか果たさないと問題点を解決出来そうにない。


 とりあえず風呂だな。圧倒的に需要があるのは風呂だ。何せ夢世界には風呂が無い。無い事は無いのかもしれないが未だお目にかかったことが無い。


 しかし魔法で風呂は無理だ。

 空気中にも水蒸気として存在する水分はあるが、一気圧、気温二十四度、湿度六十パーセントの状態で、一立方メートルの空気中に含まれる水分の量はわずかに十三グラム。

 浴槽の容量が二百リットルとして、肩まで身体をお湯に浸けてもこぼれない量を百三十リットル程度とすると、周囲一万立方メートルの範囲の空気から全ての水分を奪い去る必要がある。

 きっと洗濯日和だ……多分、草花や木の葉などは枯れるだろうな。


 他には酸素と水素を化合させて水と電気を発生させる方法だが、酸素は空気中にあっても水素はほぼ存在しない。

 全く発生しない訳ではないが発生しても軽いので地表近くに留まり続ける事は無い。


 一方、魔法ではなくシステムメニューを使うならば多くの問題が解消する。

 水は【水塊】で十分以上に確保出来る。むしろ多すぎて浴槽を大きくする必要があるくらいだ。

 浴槽も足場岩を加工してかなり大きめに作れば問題ない。

 後は、男所帯と言えども、紫村がいる以上は奴を刺激しない為にも目隠しが必要になるだろう。

 どうせなら野営時にも使える小屋でも作って中で風呂に入り、寝られる様にもして、浴槽も小屋ごと収納して持ち運べば問題ない。




 風呂のアイデアが固まり、米粒を数えるべきか考え始めた頃に料理は完成しテーブルに配膳された……流石の俺でも配膳すら断られるとは思っておらず傷ついた。俺が触れたら飯が不味くなるとでもいうのか? おぼえてろよ!


 テーブルの上に並べられたのは、ガーリックバター醤油ソースが掛かった分厚いミノタウロスのステーキ。そしてコカトリスの腿肉の龍田風から揚げ。さらに夢世界の各種野菜と蒸したコカトリスの胸肉を和えたサラダにQPの梅シソドレッシング。そしてコカトリスの腿肉入りのチキンコンソメスープ。最後にご飯大盛りだ……また一つ、人類の夢が叶ってしまった。


「それでは皆さん席について下さい」

 紫村の指示で皆が席につき、目の前の料理に目を輝かせる。それはミーアも変わらない。

 このメンツの中で一番恐れるべきはエロフ以外に居ない。


「ではいただきます」

 その声に合わせて俺と香籐、そして二号──俺と軽く十回以上は食事を共にしているので知っている──も声を揃えて「いただきます」と返して、食事を始める。

 だがミーアだけは「いただきます」の目的や意味が分からず戸惑ったのが命取りになった。反応が遅れた次の瞬間には彼女の前からステーキ皿が消えた。


「えっ!」

 慌てて振り返る彼女が見たのは、ステーキを指で掴みで口の中に押し込む自分の妹の姿だった。

 俺はこのドMエロフが店内に進入してきた事をマップで知っていたが敢えて何も言わなかった。

 むしろいただきますと言いながら「ヤレ!」と目で合図を送ったくらいだ。


「アエラ……一体何を……あっ、私の私の……あぁぁっぁぁぁっぁっぁああっ!」

 ミーアの口から悲痛な叫びが突いて出るが、ドMエロフは健啖な食欲と強靭な顎をもってステーキを噛み砕き嚥下していく。

 それだけでは済まなかった。無慈悲にもに姉のから揚げ皿を掻っ攫うと、口の中に放り込んでいく。

 肉の奪い合いとなることが容易く想像出来たため、大皿に盛らずにそれぞれの分を更に分けたのが致命的であった。もしも全員分を盛った大皿ならば、そうのような暴挙を俺達が許すはずが無かったのだ。


「だ、駄目よ。それは私の、私の、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 絶望に泣き崩れるミーアをよそに、俺達もドMエロフに負けない勢いで食べるペースを上げる。妹に自分の分を食べられたなら、他から盗れば良いじゃないと彼女が気付く前に決着をつける必要があったのだ。


「何だこれは一体? こんな美味いのは初めて食べた。えーい、シェフを呼べシェフを!」

 サラダまで食い終わったドMエロフが、興奮して訳の分からない事を叫ぶ。

 しかもちゃっかり、まだ俺の皿に残っていた最後のから揚げにまで手を伸ばしてきたので、指を掴んで捻り上げた。


「痛い、痛いよご主人様、ああっ……あぁぁ、あっあっあぁぁん!」

 しまった。これはドMエロ孔明の罠だ。最近俺に相手にされず色々と溜め込んできた孔明の狡猾な罠だった。

「ご、ご、ご、ご主人様?」

「高城君、君は一体……?」

 二人の顔には『疑惑』の二文字が刻まれていた。もしも立場が逆なら俺も彼らと同じ思いを抱くという確信が、腋に嫌な汗が滲むほど説明するのが難しい現状を意味する。


「待て、先ず信じて欲しい。俺は無実だ」

 このような場合は、最初に前提となる事実をはっきりと示しておく方が良い。結論が決まっているなら、これから話す内容を聞き手は結論に向かって頭の中で組み立てていけるが、結論が無ければ全く違った方向へと誤解していく可能性が高くなる。


「……勿論、僕は信じるよ」

 お前は信じなくてもいいよ。お前が信じているのは何時か俺がホモに転ぶ事なのだから。

「でも、どうすれば一体、ご、ご主人様なんて……」

「分かった最初から全てを話す……二十日前ほどのことだ、朝に宿の食堂で相席したのが始まりだ。初対面で顔つきと態度と話し方から彼女が男か女か判断が柄なったのだが、纏っていたマントを外した瞬間に男だと確信してしまった」

「……なるほど」

「……無理もありませんね」

 随分と失礼な二人の態度にも、ドMエロフはむしろ無い胸を張って当然という顔をしている。


「その性別を間違った事から口論が始まり、話の流れから胸のサイズに言及してしまった事から決闘騒ぎに発展し、面倒なので縛り上げて放置して逃げたんだが、その後すぐに再会した時には完全にドMになっていた」

「ちょ、ちょっと待ってよ……残念だけど何を言っているのか良く分からないよ」

「俺だって分からねぇよ!」



「事情は分かったよ」

「僕は信じていましたよ」

 ……真摯なる説得の末に、とりあえず冤罪は晴らされた。

 だが根本的な問題は解決していない。この件に関してはドMエロフに俺がご主人様では無い事を理解させるのが唯一の解決手段だ……俺は絶対にご主人様を受け入れる気はないから。


「何を問題は解決したみたいな空気を漂わせているのですか? 私の私の……アエルゥァァァァっ!」

 ミーアが巻き舌で吠えた。メッキが剥がれたとも言う。神秘的ですらある美貌に上品で落ち着いた物腰、それでいて大人の女の妖艶さすら感じさせる彼女が豹変する様子に香籐が固まる……ショックの余りにホモに転ばなければ良いのだが。


「な、何ですか姉さん?」

 素早く俺の背後に回り込んで盾とする。そんな奴隷がいてたまるわけが無い。

「どうして私の大切なお肉たちを食べてしまったのかしら?」

「それは、良い匂いがしたから……仕方なく」

「仕方なく? 仕方なく……そうね、確かに仕方が無いのかもしれないわね。あんなに美味しそうな匂いをさせていたのだから……」

 メロン熊だ。メロン熊が降臨した。メロン熊にメスがいたとは夕張市観光協会の受付嬢でも知るまい……そもそも受付嬢が居るのかも知らないが。


「そ、そうだよね。仕方ないよね?」

「ええ、だからお姉ちゃんがあなたに殺意を抱いてしまっても仕方が無いわよね? あんなに美味しそうなお肉を食べられてしまったのだから」

 ドMエロフが両手で俺のマントの生地を鷲掴みにしながら、俺をミーアに向かって押し出すように背中を突こうとした瞬間、装備品の解除でマントを収納するとギリギリで体をかわす。


 力一杯俺を突き飛ばそうとしていたドMエロフは前につんのめりながらたたらを踏んで、ミーアの下へ自分から進み。顔面を鷲掴みにされた。


「アイアンクロー!?」

 五本の指先を顔面に食い込ませて、五本の指の力だけでじりじりと身体ごと持ち上げていく。やがてドMエロフは片足のつま先を僅かに地面に触れさせるだけになった。


「痛い。痛いよ……痛いのに姉さんにされても嬉しくない!」

 よ、余裕じゃないか変態め、チラチラとこっちに熱っぽい視線を送るな。

「あんな、ハンサム系なお姉さんが変態だと凄く……嫌ですね」

 ミーアの豹変から少し精神的に立ち直ったのかドMエロフをそう評する香籐。女なんて面の皮一枚下はそんなものだよ……と女性経験の無い自分が言っても悲しくなるので口にせず「俺も凄く嫌だ」とだけ答えておいた。


 ドMエロフのお陰で、せっかくの料理をじっくりと味わう事が出来なかった事に気付いたのは宿に戻ってからであった。


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 宿を出て市場で合流直後。

「高城君。お待たせ」

「……高城は止めろ。こちらではリューと名乗っている」

「了解。なら僕はケイ……響き的にはケーが良いのかな? それともケンとかどうだい?」

「馬鹿やめろ! ……そ、そうだなケインとかはどうだ?」

 ケンは駄目だろう、お前の苗字的に。


「そうしようかな。じゃあ香籐君も名前を考えた方が良さそうだね」

「僕の千早は……余り良さそうな略称が思い浮かびませんね」

「チハヤか……そうだな、ぱっと思いつかないな」

「チハヤ、ちはや……チャーなんてどうだい?」

「お前はさっきから何を言ってるんだ! 香籐の下の名前がチャーで良いと本気で思ってるのか?」

 そう言いながら、胸倉を掴んで揺すってやる。


「じゃあ、チャイなんて──」

「馬鹿かお前は! 意味的にはどストレートじゃねぇか! わざとだろ、わざとやってるんだろう?」

 胸倉を掴む手に力を込めて、首が締まるように掴んだ服の生地捻り上げていく。

「く、首が……君だって高城の下の名前がリューじゃないか?」

「リュウと名乗っても、みんなリューと呼ぶんだから仕方ないんだ! 大体、高城リューだとそんなに目立たないだろ。お前らと一緒だから目立つだけなんだよ!」


 誰も弄ってくれないので、主人公達の名前のネタバレです。

 メンバーは旧メンバーを含めて6人揃っています。

 ちなみにリーダーの名前が特徴的過ぎてさりげなく登場させるのが難しく諦めかけたのですが、突如良い名前が閃いたのでその名前に沿った設定のキャラクターをでっち上げて作中にぶち込んであります。


 それにしても、大幅レベルアップの度に覚えていくだろう【魔術】の設定が間に合わず(微妙に役に立たない魔術ばかりを考えるのがキツイ)に、説明を省いていたら、既に設定してある【魔術】を作中で使わせようとしても、作中で一度も触れられていない事に気付く悲しさは半端無いよ。

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