第8話「うどん/そば、パン/ご飯、白/黒、俺/お前」
彼女を事務所に送り届ける。案内したのは
俺がそれをぼんやりと
「大井さん。自分は黒川を、あのちゃらんぽらんな雰囲気の男を迎えに行かなければいけません。無いとは思いますが、誰かが事務所を訪ねても、
彼女は俺の言葉に頷くと、再び
どうも
再び警察署まで車を走らせる。車に備え付けられたラジオをつけると、CDのヒットチャート、外交のニュースに続いて、例の連続殺人事件へと話題が移る。耳を傾ける。しかし、目新しい情報はない。
別に、黒川の言ったセリフが気になるわけではなかった。ストーカーと連続殺人犯が同一人物なわけがない。ただ、元刑事としてかつての仲間を心配してしまうのが、人情というもの。マスコミは連日、まるでサッカーワールドカップの中継のように特番を組んで報道している。
いったい、何がそこまで事件の捜査を
自分が刑事ではなく、ただのサラリーマンであることを再確認した俺は、目の前の依頼に心を専念させなければいけないことに気づいた。だから、そのことのみを今だけは考える。
彼女の部屋が荒らされていたということは、ストーカーがアパートの近くに居たということ。状況から考えれば、黒川を刺した黒服はストーカーに違いない。
刺した。
黒服のその行動に俺は
一つ、黒服とストーカーは別人である。そして黒服はシリアルキラーであり、黒川は運悪く
二つ、黒服とストーカーは同一人物である。ストーカーは黒川に話しかけられて驚き
三つ、同一人物である。さらに、その人物はシリアルキラーであり、次の狙いは大井青子だったが、そこで黒川が邪魔になった。
「まさか」
俺は思わず
耳をすませば外では子供を連れた父と母の笑い声や、居酒屋の
遮断機が響かすサイレンの音もタイヤと道路が
「おーい、ちょっと? 何無視してんだよ!
コンコーン! 白崎くん? 僕なんだけど。黒川ですけど」
アホの黒川が俺を起こす。「疲れているんだから、起こすんじゃねえ」と言いたかったが、そこはぐっと
「なんか君、疲れてないか?」
「お前のせいでな」
「僕なんかした?」
疑問を呟く黒川をよそに、俺は車を走らせる。やれやれ、今夜はゆっくり眠りたい気分だ。少なくとも、日付が変わる前には。俺は
「……つまり、三途の川のスイマーになるわけだね、僕らは。睡魔だけに」
「うるせえよ。まあいいや。それで? そろそろ『話すべき段階』なんじゃないか。お前の推理どおり、大井青子の部屋は荒らされていた。どうしてわかったんだ?」
「ほう、本当かい? なるほど、僕の推理を
だけれども、部屋が荒らされていたからと言って、それは僕の推理が当たっているという確信にはまだ繋がらないぜ?」
「……?」
俺は黒川の言葉の意味をよく分からず。首をかしげる。とにかく、彼の推理の真か偽にか関わらず。ここで黒川の答えを聞いてしまった方が
黒川はわざとらしく
「ふむ、それでは探偵らしく。推理を披露しよう。
小説のように容疑者を集めることもできないし、する必要もないけれどもね」
黒川はニヤリと笑ってそう答えた。ああ、こいつはやはり。夢を夢のまま叶えることのできた男なのだ。俺はそれを少しだけ羨ましく感じた。うどんとそば、パンとご飯。白と黒のように。
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