第5話「犯人は黒い服を着ていた」
夜の冬は寒い。
「
寒さが体に
「白崎くん。ちゃんと聞こえているかい?」
耳に付けたイヤホンから黒川の声が聞こえる。俺は引いた
「聞こえないよ」とふてぶてしく答えると、黒川は少し笑いながら「そうかそうか、それは良かった」と返す。
辺りを
白崎はアパートの表の路地に車を止め、俺はアパートの裏側の通りにある公園のベンチからそれぞれスマートフォンで連絡を取り合い、怪しい人間や異常があったらすぐに報告することになっていた。
また、大井青子にはブザーを持たせた。これは黒川の私物で、ブザーを鳴らすと、俺と黒川のスマートフォンに通知が届く仕組みになっている。そして、その通知を確認したらばすぐに俺は大井の部屋へと向かい、黒川は警察に連絡する手はずだ。
なっていたのだが、今夜は恐ろしいほどに静かだった。人どころか車さえもアパートの前を通らないまま午前の二時をとうに過ぎてしまった。寒さは
「白崎くん、何か気になることはあったかい? こっちは暇すぎて眠くなってきた」
耳につけたイヤフォンから黒川の声が聞こえる。
彼のそのセリフはこれで十八回目。
「絶対に寝るなよ」
そして、この俺のセリフを十八回目となる。
「わかっているよ。僕だってそんなアホじゃ……ん?」
黒川が何かを言いかけた時、車のドアを開く音が確かに聞こえる。その次に風の音、そして寒そうな、彼の
「黒川?」
俺は
「なあ、君。ちょっと待ってくれるかい。なあ——!」
黒川は
柄にもない?
それは嘘だ。
「黒川! 状況を説明しろ。おい!」
「刃物を持った男が。いや、説明する時間も
早くこっちに来て——」
「待て、
俺はすぐさま
「黒川! 黒川?!」
黒川は彼が
しかし、そう思いながらも俺は一瞬、自分の目を疑い。黒服が居た場所を
俺はその時、黒服がまるで魔法でも使ったかのように消えたように思えたのだ。しかし、それについて考える暇はない。俺はすぐに黒川の近くへと
「黒川、どうした! 何があった⁉︎」
俺は黒川に声をかけると、もしかして刺されたのではないか、と反射的に彼を
「黒川、聞こえてるか! 誰かに刺されたのか⁉︎」
「……ああ、聞こえているよ。刺されたよ。
にしても、刺されるって、メチャクチャ痛いもんだね」
「当たり前だろ——じゃなくて、意識があるんだな。良かった。とりあえず警察と救急を呼ぶ。それまで我慢してくれ」
どうやら見た目ほど
「そんなことはどうだっていい。
……白崎くん、さっき走り逃げた男を見たかい?」
「見たよ。後ろ姿だけどな。
だけど、あんまり
「いいや、やだね。血が抜けて頭が
「
俺はそう言って、スマートフォンを取り出し、急いで一一〇番に
その疑問はすぐさま思考の
「止血のためのビニールとガーゼをコンビニから貰ってくる。
ちょっと待っててくれ」
俺は黒川に一声かけて、すぐさま走り出した。不幸中の幸いというやつで、コンビニは俺達のいる場所のすぐ近くにあった。その数分後には救急車のサイレンが
午前三時。夜はまだ深い。黒川が病院に運ばれたとはいえ、だ。大井青子からの依頼のため、俺は彼女のアパートから離れるわけにはいかなった。俺は
夜の冬は寒い。
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