黒いオルフェ

1音で変わる夜もある

一言で変わる人生もある

俺はジャズ屋の親父

今日も店を開けている


「おーいマスター!元気か!」

エジプト料理屋の親父だ

右手をあげて応えると

「俺はもうあかんわ!嫁がやな又

新しい指環を買いよった!指は10本しかないんやでー何本買ったら気が済むんや!ほんまかなわんでー、娘は娘でバイオリンのレッスンやと1時間3万のレッスンを受けとる。猫が風邪ひいて困っとるような音しか出せんのに

3万のレッスンって意味あるんかいな?

難儀やで!親の気持ちを全く考えてない!俺は昼は昆布うどん、夜は店のあまりもんや!始末の極みやで あー腹立つ!

マスター!ちょっと痩せたんと違うか?

ええもん食べなあかんでー

ほな今日も頑張ろな!」

手を挙げて応える前にドアが閉まった。


言いたいだけやろ!


まあええわ

今日もゴングがなったわ

アイツのグチが夜が始まるゴングや


今日は

ボーカルとギターのデュオ

ボーカルの女の子は顔は可愛いいとは言いにくいが、声が抜群に良く 又歌も上手く表現力も抜群だ。でもお客さんはすくない。

みてくれだけのボーカリストの所にお客さんは流れてホステスまがいにお酒を注いでもらったら あの子の歌は絶品やと他の店でも街でも言いまわる。

その噂を聞いた又 おじさんたちが

歌を聞きにいくのではなく、見に行くのだ。

確かに可愛い容姿をしている。でも

それだけだ。

あの子の歌を聞いてまだ温もりがある遠い思い出を思い返したこともないし、明日への勇気をもらったこともない。

でも 

ジャズ歌手やと言い 周りもチヤホヤする。

おかしなもんやわ

タレントと違うねんよ ジャズ歌手は!

良い声で

良い音程で

良いリズム感で

全てを包んでくれるような包容力を持ち

明日への勇気をもらえるようなのが

ジャズ歌手やで

ほんま

俺がおかしいのかな?

なあ 平山!


「良い音聞いたら あそこが痒くなります」

はー!

アホか お前は!

まあ

人それぞれやから何でもええけど

それでか

ライブ中に時々アソコ触ってもじもじしてるんわ


ほんま

かなわんなー

アホなこと言うとらんと

テーブルを拭いて準備せえよ!


ほんまアホやでー


でも 気持ちはわかる。


良い音が正しく認められるように願うわ


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