スカイ ラーク

人間関係で一番大事なのは 距離である。


俺はジャズ屋の店主

今日も店をあけている。


20年前 ここら辺らりにもは ジャズの店が5.6件はあった。今じゃ 2件しかジャズの生演奏を聴けるお店が無くなってしまった。寂しい話だ。喫茶店に行っても 美容室に行っても 居酒屋に行ってもジャズは流れている。需要はあるのだが 悲しいかな全てBGMだ。

何で生演奏のジャズを聴きにこえへんの?人生を変える音に出会えるかも知れないし明日への元気をもらえる演奏に出会えるかもしれへん。皆んな チャンス逃してるでーと大声で街中で言ったろかなーと思う。

携帯から流れる音楽でいいし、ユーチューブで動画もライブも観れるからワザワザ行かなくてもいい、

そんな声をたくさん聞くが そんな意見は鼻クソと一緒に丸めてゴミ箱に入れてしまいたい。

海に行っても海に入ってもいないのに俺は海を知ってるとか、富士山の山頂にヘリコプターで行って俺は富士山を知っていると言ってるようなもんだ。

海の匂い 温度 怖さ 塩辛さなど経験しなくてもいいのだ。山を登るしんどさ 登って味わう達成感などは必要ないのだ。ゴールを知ればいいのだ。音に質は問わないのだ、と言うよりもしかしたら実際の音を味わったことがないのかも知れない。音楽が変わってしまったのかも知れない。いや 世界が変わってしまったのかも知れない。携帯電話があれば何もかも手に入る。便利な時代だ。だが 便利は不便だ。

本物を知らない、味わえない。本物とは何かという事さえわからないという不便、もはや不憫だ。

こんな事を言うと煙たがれて余計にお店に来てくれなくなるんだろうけど、これが俺の本音だ。随分喧しくなったもんだ、俺も。


ぼーっとしていると

扉が音もなく開いた。

お客さんかなと思ったら バイト志願のいつも来る奴だった。

考えてみたらこんな俺の所で働きたいと言う奴はかなり変な奴で 俺と似て社会とうまく迎合出来ない奴なんだろうなーと思う。

そう思うと何やら愛しくなってくる。

今日はゆっくりこいつと飲みたい!

ライブはもう終わっているのでこいつの好きなリーモーガンでもかけて話をしたい。


ジントニックを静かに二つテーブルに置いた。

「こんばんは」


又 妙な言葉だ。なぜ今なのか?という言葉ばかり飛び出してくる。変な奴だ。

でも今夜はそれも愛しく感じる。


俺はジャズ屋の店主

今日はライブは終わりました。



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