いそしぎ

言葉は漢方薬

後で効いてくる


俺はジャズ屋の店主

今日も店を開けてある。


今日は雨、5月に入って雨ばかりで、客の入りも悪い。雨は降るのに俺は干上がってしまう。あー難儀やで


今日のミュージャンはギタートリオ

ミスタースモーキー モンゴメリーを敬愛してやまないギタリストである。若いのだが人生をミキサーにかけて煮詰めて木綿の布で絞った時に出るような一音を出すギタリストである。人生の煮汁を音にできるのだ。いい音は人生が乗る。彼は若いけどその音をたまーに一音出せるこのギタリストにライブしてもらっているのかも知れない。


「マスター」

「聞いてくれます?」

なんや

「この前 ストリートしたんですよ」

どこで?

「そごうに渡る歩道橋 知ってますか?」

ん?駅の南側のかな?

「そうそう あそこで久しぶりにストリートをしたんですよ」

珍しいなー

「毎日毎日 キャベツばかり食べているのでストリートしてちょっといいもん食べたいな〜と思ったんですよ」

ストリートなんか儲からへんやろ?

誰か生徒をとって安定収入を増やすべきやで

「人に教えるのは 苦手なんですよ」

「ストリートやってたら人とも触れ合えるし 曲も聴いてもらえますやん、まあ あんまり儲からへんけどね」

「いつものように ギターケースを開けて、見せ金千円札一枚入れてやり始めたんですよ、そうしたら 割と早めにお客さんが聴きに来てくれて少し黒山になって来たんですよ。調子に乗って何曲もやって悦に入ってたらお客さんが一人になってたんですわ、ワチャー やってもた。弾き過ぎたー!と落ち込んでたら一人残ってくれた女の人がお金を入れてくれたんですよ、

「良かったよ」と

ありがとう って頭を下げて挨拶したらその女の人は小走りに走って帰っていったんですよ

あー 一人でも気持ちが届いたかな?と

ギターケースを覗いてお金を見たら、なんと

500円玉ひとつ

100円玉みっつ

50円玉よっつ

えーーー 千円札ないぞ

どこ行ったんや!

小銭千円だけやないかい!

という事はなんや!両替えしたんかい!

えーーー あの女の人かいな?

どういう事なんやーー

俺の音楽は良かったと言ってくれたやん!

俺の音楽 どこに行ったん?

こんなことマスターありますかー???

辛いわー」



俺は何も言わず

リンゴを一切れ手渡した。


俺はジャズ屋の店主

辛い話は星の数 聞いてきた。

俺はジャズ屋の店主

今日もジャズのライブ 始まります。

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