サマータイム
春なのにまだ夜は寒い
俺はジャズ屋の店主
今日も店を開けている。
重い扉が何度も開けようとしては閉じる、
これで何回目かな?イタズラなら帰ってくれ
と文句を言おうと扉を閉めに行くとそこには
小さなおばあちゃんがいた。
母さんだ
「どうしたん?」
「あんたがなーんも連絡くれへんから来たんよ、たまには 連絡ぐらいしなさい」
「あー この扉重たいよ!母さんには無理だ、
早く持ってくれ!店に入られへんよ」
扉を右手で開けながら 母さんの荷物を持とうとすると 手で払われた。
「年寄り扱い するな!」
いや 扉も開けられへんのに、、、
その次の言葉は飲み込んだ。
カウンターに母さんは座ろうとするが これまたうまく座れない
「あんたの店は 昔から 年寄りに厳しい店だ」
だから 助けようとしたのに、、、
と言おうとしたら
「焼酎の麦茶わり」
と母さんが言ってきた。
ごめん
麦茶を作ってないねんよ
他ので割ろうか?
「えー あんたとこには 麦茶もないんか?!」
「この暑い時期に!あんた 商売をなめてないか?!」
だって ここはバーやし 麦茶など頼む人はおらへんし と言おうと思ったがその言葉も飲み込んで
「ごめんなー」と返した。
「もー しっかりしなさい!」
「お湯割りでいいわ!ちょっとぬるめやで」
母さんでなかったら 腹が立つと思う。
ややこしい客が 一番の身内におったなんて、、
難儀やで
演奏も始まり
母さんはお湯割りを飲みながら 身体で演奏に合わせて体を揺らせてリズムをとっていた。楽しんでくれてるみたいなんでホッとした。
と思ったら急に
「帰るわ」と
「ジャズはよーわからんわ」
と
今身体ゆすってたやないかい!と
この言葉も飲んだ。
母さんには 何かといいにくくなって言葉を飲む事が多くなってしまった。
なんでやろ?
自分自身の中で親不孝してるなあと思っているからかもしれない。大学に行かせてもらって色々考える時間ももらって結局 ジャズ屋の親父、
自分自身が親だったら反対してたやろなあと思う。それを何にも言わないで見てくれてる。そこから 何にも言えなくなってしまった。愛情の深さに触れてしまい突っ走ってた車が 急な山道に入り山を登れず減速したようなかんじだ。己の車の性能に気づいてしまった。自分の浅さに気づいてしまったのかもしれない。
母さんはカウンターに一万円を置いてカバンを肩にかけた。カウンターの椅子から崩れ落ちるように降りると
「また 来るよ! アンタも元気で居なさい」
というと 演奏中なのに そそくさとドアまで行き 今度は簡単にドアを開け 帰って行った。
見送るにも演奏中やし見送れなかった。
母さんはいつもそうだ。勝手極まりない。
なんとかこの道で食っていかないと
という想いが胸を突いた。
母さんの子で良かったと思った夜だった。
演奏もあんまり記憶になく
気持ちが違う意味で震えた夜だった。
俺はジャズ屋の店主
死ぬまでジャズ屋の店主
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