グッドライフ

涙は心の汗だ


俺はジャズ屋の親父

今日も店を開けている。

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今日はお客さんが多い。

アルトサックスとピアノのデュオ。

人気がある。深く甘いサックスの音とそれを包みこむようなピアノ、そら 人気が出るわなーって思う。



「グッドライフが聞きたい」

カウンターの端に座ってる親父さんがバーボンを飲みながら静かにサックス奏者に声かけた。

「わかりました」と

すぐに演奏しだした。

フランクシナトラが歌っていた曲だが

メロディーがとにかく美しいのでインストでも十分聞ける。

歌詞はあんまりわからないのだが、この曲のファンは多い。俺もその一人だ。

一音出すと店の中が湖になった。

小石がポツンと湖に投げ込まれ静かに波紋が広がって行くような演奏だった。


親父さんも固まっているように見えた。

「良かった」と一言 感情が溢れた。



ライブが終わって親父さんが帰るときに余分にお金を置いていった。

誰も知らんからネコババしたろかと思ったがやっぱり心が痛んだのでミュージシャンに渡した。

「今日は素直に受け取るんやな?」というと

「あの日はお金で横っ面叩くような事言うから腹たったんすよ」とサックスの遼君が言った。

あの夜は酷く酔った女のお客さんがお金出すからアレしてくれ!これしてくれ!としつこくリクエストしてきてざわついた夜になってしまい、サックスの遼君が少し怒って、お金も受け取らずリクエストにも答えずで二人の間に入って難儀した夜だった。

「俺やったら ささっと演奏していい額のお金やったからサクッとポケットに入れて終わらすけどな」と言うと、何にも答えず笑うだけで帰り仕度を急がせた。


もっと柔軟に生きたらいいのに、

苦労するで

と俺は心で呟いた。

ミュージシャンはこんな奴が多い。


難儀な世界やで



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