転生した世界はまさにゲームのような世界だった。

89話 一つの決着

「作戦を立ててたんじゃなかったのか？ バートの相手をするとてっきり思っていたもんだけど」

「俺が戦ってる相手はお前だからな、途中で鞍替えってのは気分が悪いだろ？」

　槍と矛を打ち合わせつつ俺とクリフは談笑するかのように言葉を紡いでいた。

　神器解放による大幅な能力値の強化によってその刃のやり取りで周囲の地面には多くの切り傷が出来ていた。

「イザナギ！ もっと俺に力を！」

「エリス！ 私たちも思いっきりやっちゃう！？」

「いや、相手に合わせる形でいい、アツくなりすぎるのもまた危険だからな」

「どうにも燃え切らないなぁエリスは、まぁ私もそれでいいと思うけどね！」

　今後サラやカオリへの援護に行く事、もしくはどちらかが負けて敵が加勢してくる事を考えるとどういう手を打っても良くも悪くもなるだろう、俺はこういう時に出来るだけ温存しておきたいと考えるタイプだ、レアな回復アイテムを出し惜しみしてクリアしても残っているようなタイプだ。

　それに対してクリフは惜しみなくアイテムを使い速攻するタイプなのだろうか、アイギスのおかげで防げてはいるがその攻撃の激しさと言うものまさに鬼神の如し激しさだ。

　大技を使ってくる気配は無いが、その分大技に使うだけの力を自らの強化に使用しているような、そんな感覚だ。

「流石はアテナだな！」

「そっちこそ流石イザナギだ！ 鬱陶しい攻撃だ！」

「はっ！ そろそろ決着といこうじゃねえかエリス！！」

「望むところだ！！」

　クリフは少し距離を取り、腰を落として矛を低く構えた。

　ミネルヴァが無意識に本気を出そうとしているのかかなりの力が湧いてきている事、そしてキャパシティを超えているのかMPが減り始めていた。

「ミネルヴァ、ちゃんと後の事も考えてるんだろうな？」

「勿論、でもそれで今潰れても意味が無いからね、パパッと決めるよ！」

　お互い同時に地面を蹴り、矛を、槍をそれぞれに向かって思い切り突き出す。

「何て威力だ……お互い突っ込んでったってのもあるんだろうが……これほどとは」

「全くだ、死なないと分かっていても死ぬかと思ったレベルだ」

「これが戦争だかの独自ルールの上じゃなかったら実際死んでんだ、死ぬって事は頭に入れた方がいいだろ」

「だな」

　俺とクリフは残心を取りお互いに向かい合っていた、あの瞬間槍がどうなったのか、クリフの矛がどうなったのか、正直なところ頭に残っていない。

　一つ確かなのは俺もクリフも神器解放が切れていつもの姿に戻っているという事くらいだ。

　俺は自分のHPバーに目をやる。

　俺のHPバーは満タンであった。

　それを確認するとほぼ同時にクリフが地面へと倒れた、どうやらクリフの矛は俺に当たる事はなく、俺の槍はクリフへと命中していたようだ。

「お前の勝ちだエリス、後は好きにするといい」

「あぁ、そうさせてもらうさ」

　俺は他の2人の戦いへと目をやると、2人共神器解放は終わっているようであったがどちらもまだ決着はついていないようだった。

　時は少し巻き戻り、サラの視点へと移る。

　正直なところ俺は神器解放についての作戦の事は頭にあったがやはり結局お互いに自分が対峙していた相手との戦闘を続行と言う形になっていた。

　そもそも俺は最初からカリーナと戦う上に神器解放もカリーナにぶつける予定だった為に、これ以上バートが爆発しなければ何の問題もないのだが。

「チッ……やっぱ刀ってのは使いづらいな！」

「上手く扱えていますけどね、心配する事はないですよサラ」

「あくまでスキルでそうなってるってだけなのは分かるんだよ、どうにも気持ちよくねえ！」

　カリーナの召喚したヨモツシコメを天叢雲剣で切り裂く、流石に神器解放をしている状態であればヨモツシコメは少し鬱陶しい雑魚程度にしか思えないものであった。

「やっぱり相手も神器解放しているとなると効果が薄いわね……イザナミ、腹を括っていくわよ」

　カリーナは紙垂のついた矛を出現させて握りしめる、紙垂とはよく神社のしめ縄などにぶら下がっている四角が連なったようになっている紙の事だ。

「はぁっ！」

「このっ！」

　どうにも和装というのは動きづらい、単純に慣れていないだけであり、何よりスキルのおかげで問題なく動けてはいるのだがどうにも操られているような感覚がして俺は実は好きではない。

　カリーナもやはり近接戦闘そのものに慣れているわけではないのか、エリス達に比べると捌くだけならそう難しい物では無いが、こちらも成果を上げられそうにはない。

「いっそアマテラス、神器解放の間俺の体を使ってみないか？」

「完全に受け渡すという事ですか？」

「スキルなんて腐る程あるんだ、そういうスキルだってあるもんじゃないのか？」

「どうでしょうか……」

「試してみて無理なら諦めるさ！」

　俺はカリーナから距離を取ってその場で寝るかのように全身を脱力させる、正直なところこれに失敗すれば俺は下手をすれば一撃で沈められる可能性は高い。

　しかし成功させられれば神を俺の体に憑依させる事となる、能力は据え置きかもしれないがそれでも神器の使い方については一番理解している事だろう、そんな彼女にバトンタッチ出来れば勝利できる可能性は格段に上がるはずだ。

「何をするかと思えば……疲れたのかしら？」

　いきなり距離を取り、脱力した俺に警戒したものの、俺が本当に脱力しているだけだと気付くと一気に間合いを詰めてその矛を振り上げた。

　俺の意識が乗っ取られるような感覚は訪れず、その殺気に呑まれるような感覚が俺を襲った。