88話 作戦と気持ち

 俺とクリフはそれぞれ武器を手に対峙していた。


「今回はお互い万全といったところだな」


「だな、流石に戦争も長引きすぎているし今回は全員倒れるまでやり続けるぞ、前みたいにお前を逃がすと言う事は無い」


「今回はタイマン……のようでそうじゃない、だろ?」


「あぁ、いくぞエリス!」


 短く言葉を交わした後俺たちは同時に剣戟を打ち合わせる。

 俺は槍を、クリフは剣を振るい、僅かな隙を見つけては体術をも使い相手のHPを削るべく本能的なやり取りを短い時間で何度も繰り返す。


「中々慣れてやがるな!」


「そっちこそ、エリスお前元ゲーマーだろ?」


「分かるのか? まぁそう言うクリフだってそうなんだろうけどな」


「まぁな」


 一度間合いを取りお互いに消耗したHPを回復しつつ再び仕掛ける機を伺う。

 クリフの戦い方は俺に非常に近い上に、何度かお互いに絶対回避を発動させているのだ、捉えたと思った攻撃が当たっていないというのは体感する側になると理不尽に思えるものだ。


「しかしフレーム回避されるとは思ってなかったぞ、回避狩りもしっかり反応しやがって」


「それはお互い様だろ? ま……どっちにせよこのゲーム、どっちかが勝って、どっちかが負けるしか無いんだ、泥試合になるだろうがそろそろ続きをしようじゃないか!」


 剣技を使用して思い切りクリフが突っ込んでくる、素直に対応してもいいのだがゲーマーの分かりやすい行動というものは大抵の場合は罠だ、しかしそれを疑って罠では無かった場合むしろ痛い目を見る可能性と言うのは十分にある。

 知識というものは邪魔になるものだ、しかしこれの解決策というのは非常に単純なものだ。


「はぁっ!!」


「ッ!!」


 俺は単純にその攻撃へと絶対回避を行い、クリフの後ろから槍を突き刺した。

 読み合いにおいて刺さりやすい行動はバカになる事だ、深読みしすぎる相手には即行動というものが一番刺さりやすいというのはゲームでよく感じている事だ。


「小細工は無用ってか!」


「その通りだ!」


「ならコイツはどうかな!」


 クリフは再び剣技を発動させて俺へと斬りかかろうとする、俺はそれを再び対応しようとするがそのモーションから本来であれば行動出来ないであろうはずの軽めの袈裟斬りが俺の肩を捉える。


「モーションキャンセルッ!?」


「アクションゲームでの基本だろ? もしかして初心者か?」


「生憎PvP系のゲームはやりなれてはいないもんでな!」


 戦技による攻撃のモーションキャンセルは練習をしていなかった、今思えばそれを考える事は簡単だっただろうが、そもそも戦技を使わない俺達にはその事が頭から抜け落ちてしまっていたのだ。

 しかしそれが可能と分かれば対応するのは難しくは無い、クリフも俺がすぐに対応するタイプだと踏んで戦闘を組み立てようとして来たところを対応し返しと、まさに泥沼のような戦いが繰り広げられていた。


「っと……」


 カオリの方の戦闘の雰囲気が変わった、こう変わったと断言できるようなものではないのだが、何とも言えない空気というものがゲーム内での戦闘ではある。

 俺はサラの方へと少しずつ移動しつつクリフと剣戟を合わせ続ける、クリフにサラの方への移動が気付かれているのかどうかは正直なところ分からないが今のところは気付かれではいなさそうだ。


「――かましてやろうか、シヴァ!」


「ミネルヴァ!」


 ついにバートが神器解放を行った、神器解放中のバートの相手は俺だ、少なくとも範囲爆破だけはどうにか守らないと難しい所だろう。


「イザナギ!!」


 俺が神器解放したのを見たからなのかクリフも神器解放を行う、それに続いて次々と神器解放が発動されていき、この場にいる6人全員が神器解放を発動させる事となった。


「はああぁっ!!」


 バートが周囲を吹き飛ばす大爆発を発生させるが、ミネルヴァの神盾アイギスと高い防衛能力により、近くにいたサラとカオリをその爆発から守ると言うのはそう難しい物では無かった。


「どうしますかエリスさん! 私の個人的な事を言えばこのままバートさんと戦いたいのですが!」


「俺も出来ることならカリーナとそのままやらせて欲しい」


 防御中にカオリからの希望を出される、これは予想内であり別に承諾してもそこまで問題は無い。

 あくまで本音は俺がバートと神器解放でやり合うというのは爆発の対処がしやすい、というだけで全員無事に神器解放を対処すると言うのが目的なのだ。


「ちゃんと周りを見て戦うんだぞ? 勝ったら問答無用で他の仲間の増援に行く事、いいな?」


「はい!」


 正直俺もクリフとやり合いたい気分だ、こういう戦い方は効率的かと言えばどうかとも思うが恐らくこういった気持ちの高ぶりが騎士道精神だとかの元になっているのだろうか?

 爆発を凌いだ後、俺たちは再び自分が相手していた相手へと向かっていった。

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