87話 落ち着いた戦闘
「前回は神器解放が切れちゃったから不覚をとったけど、今回は負けないよ!」
「どうかしら……あと、無理にかわい子ぶらなくていいのよ?」
「かわい子ぶってなんかいないよ! 美少女サラちゃんはこれが素なんだけどなぁ」
「可愛い子っていうのはそんな物騒な目はしていないわ、それに前回少し素が出ていたのに気付いてないの?」
「マジ?」
「マジよ」
美少女らしく振舞っていたつもりだが、どうやら切羽詰まって素が出てしまっていたらしい。
カリーナの俺を見る目に殺意は見られなかった、どちらかと言えば優しさを感じさせるような目だ、しかしそんな彼女の手に握られた杖はしっかりと俺へと狙いをつけており、隙は全く見えなかった。
「どうやったら女らしく振舞えるんだ?」
「変な質問ね、まぁ……普通にしているのが一番じゃないかしら、男らしいだとか女らしいだとかって説明するには結構難しいと思うわよ」
「そういうもんか?」
「えぇ、それにどうせ上辺だけ誤魔化したところでいずれは素が出るものよ……さて、そろそろ私たちも始めましょうか」
「そうだな」
既にカオリとバートとの戦闘は始まっていた、エリス達も何か話していたようだがいつの間にか戦闘に入っており、悠長に話しているのは俺達だけになっていた。
腰を落とし、俺と対峙するカリーナにはどうにも怖さを感じない、しかしその事が俺の恐怖心を煽り立てる。
「はっ」
「っと、危ない危ない」
敵意を感じさせずにカリーナは俺へと魔法を放ってきた、この敵意を感じさせないというのは何気に厄介なもので、害意無き相手を本気で相手すると言うのは並大抵の人間では出来ない事だ。
そういう時の俺流の対応方法はこちらも敵意を消す事、まるで的を撃つかのように感情を乗せずにただひたすらに引き金を引くのだ。
「結構遠慮なく攻撃してくるのね」
「そっちこそ、澄ました顔してえげつないお嬢さんだ」
お互いの魔法と弾丸がぶつかり合い、空中で爆発を起こす。
カリーナの実力はやはり本物だ、彼女のMPの枯渇を狙いひたすら防御に徹して持久戦に持ち込むという作戦も思い付きはしたが、彼女は大技を使う事なく確実に初級魔法をこちらへと撃ち込んでくるようなタイプだ。
ペース配分をミスするようなタイプでは無いと見ていいだろう、そんな相手に持久戦を仕掛ければ下手をすればこちらがやられてしまう。
魔法を使わせない為にも接近しての肉弾戦を試してみるとしよう。
「はぁっ!」
「大胆ね、でも生憎近接戦闘は嫌いじゃないわよ!」
剣へと変形させたレーヴァテインをカリーナは杖で受け止める、杖から伝わる力はやはり強く、剣と杖による攻防がすぐさま展開される。
流石に近接戦闘では落ち着いたままを維持するのは難しいのかカリーナの語気がやや強まる、近接戦闘はあまり練習していないのかやや動きにぎこちなさを感じさせるものの、スキルによる補正なのか俺の攻撃は有効打にはなっていないようだった。
「爆ぜなさい!」
「チィッ!!」
杖と剣が衝突するその瞬間、爆破魔法を行使したようで私の体が宙へと吹き飛ばされる。
ダメージは無いものの間合いが開いてしまったが為にすぐさまカリーナから光弾による追撃が展開されていた。
「この程度ッ!!」
すぐさまレーヴァテインを拳銃へと変化させつつ、空いた手に拳銃を装備して光弾を全て撃ち落とす。
「中々厄介ね、オールラウンダーっていうのは」
「お互い様だろ、転生者はみんなこうだ、特に人間として生まれた奴ってのはな」
「味方だったらどれだけ心強いか……今回は生憎敵だけれども」
「いずれ共闘できる時があったらよろしくしてくれ、ま、俺達が組む必要が起きるような敵がいたら世界の終わりだろうけどな」
魔法を、銃弾をぶつけ合いつつ淡々と台詞を続けていく、カリーナの表情からは相変わらず強い敵意は見られないが彼女の放つ魔法からは強い殺意のようなものを感じさせる。
着地と同時に再びレーヴァテインをライフルへと変化させ、カリーナへと照準を合わせる。
「あんまり使っても有効打にならなさそうだが……試してみるか」
剣技と違って銃の戦技は動きを固定化されるものが少ない、簡単に説明すれば弾丸の変更といったものが多いのだ。
ただこれには欠点があり、調子に乗って使いすぎるとあっという間にMPが枯渇してしまうという点だ。
魔法と違い消費MPだけで見れば非常に燃費がいいのだが、弾かれる危険性や回避される可能性、さらにハナから当たらない可能性というものもある。
「くらえ!」
「っ……!?」
俺の放った弾丸はカリーナに防御させる暇なくカリーナの胸へと命中する。
高速弾だ、通常の弾丸の数倍の速度で飛翔する為にこの弾丸を弾くと言うのは非常に難易度が高い、しかし消費MPも弾丸系戦技の中で多い方であり、威力もそこまで高いというわけでもない為に堅実な攻めの為の弾丸という立ち位置だろう。
「あんまり銃持ち相手は戦った事が無いみたいだな」
「えぇ、対人なんてこの戦争が初めてだもの」
「ま、普通なら多分そうなんだろうな」
最初こそ意表をつけた為に命中したが、すぐに高速弾も弾かれるようになってしまった。
やはり僅かな隙から少しずつ相手のペースへとねじ込むようにして攻略するのが彼女へ勝つ為への一番の近道だろう。
「ったく……しぶといヤツは嫌いだ」
長期戦になるという事は覚悟の上だ、可能ならエリスかカオリと協力して倒したい所だがそれはあまり期待できないだろう。
俺は削り合いによって消耗したHPを回復し、再び銃の引き金を引いた。
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