86話 バートとカオリ

「なぁ、神器解放は勿論使える状態なんだろうな?」


「勿論、あなた達相手に神器解放無しというのは流石に私でも荷が重いですから」


「ま、神器解放があろうがなかろうが俺はお前には重い存在だろうけどな」


「どうでしょうか、今の私をあの時の私と一緒とは思わないでくださいね?」


「それはこっちも同じさ、どうせレベリングもしっかりしてきたんだろ? 負けたヤツってのは次こそは勝とうとかなり強くなるもんだしな」


 バートは私を真っすぐと見据えながら大剣を肩に乗せながらニヤニヤと口上を述べていた。

 バートは明らかに見た目で言えばパワータイプだ、しかしスピードや器用さ、魔法全てにおいて高水準であり何をやらせても殆どの事をこなす事の出来るタイプだ。

 しかしそれは私にも言える事だろう、今の私は相変わらず防具の見た目は魔法使いらしい軽装だ、しかし二刀流である為に魔法使いと思われる事は減り、スピードタイプだと思われるような見た目だが、実際のところは良い防具を装備している為に下手な重装歩兵よりも耐久力には自信がある、私たちプレイヤーにおいて第一印象は殆ど役に立たないどころか、むしろ判断を鈍らせる要素になりえるのだ。


「今どちらが上か、試してみましょうか」


「あぁ、望むところだ……っと、先に名前を聞いておこう」


「カオリです、相棒の神はティウ、ええと……北欧神話? の神様なのだそうで」


「北欧か……俺はバート、相棒はインド神話のシヴァだ」


 私は殆どのプレイヤーとは違い、前世の記憶が無い、その為に何とか神話の誰だと言われても正直なところピンと来ない、ただ頼れる相棒であるという事だけは前世の記憶無しでもハッキリと理解出来る。

 確かサラさんの話ではシヴァは破壊と再生の神なのだそうだ、その為に神器解放は非常に破壊力の大きい範囲攻撃のものなのだろう、という話だ。


「バートさん、関係のない人達は巻き込まないでくださいね」


「それは保証しかねるな、巻き込みたくは無いが野次馬で近寄ってくるようなヤツらはどうしようもないからな」


「それならいいんです、それでは……お手合わせ、よろしくお願いします」


「あぁ、行くぞ!」


 バートが大剣を構えて強く地面を蹴り、私への距離を一気に詰めながら剣を振り上げていた。

 私は迎撃の体勢を取りつつ補助魔法を同時発動させて彼の動きに集中する。


 バートの攻撃は基本的に大振りだ、見切りやすいものではあるが下手な回避をすれば彼は簡単にそれに合わせてくる上に、下手に弾こうとすれば武器の耐久力が大きく削られてしまうという危険性がある、しかし私はその一撃に対して思い切りレーヴァテインとロングソードを叩きつけた。


「やるじゃねえか!」


「私はこう見えても魔法使いですから!」


 ステータス的には私だってパワータイプと呼ばれるそれなのだ、そして何よりバートのような強敵の剣を真っ向から受けるというのはどうにも気持ちがいい、危険だがそのスリルが私の戦意をより掻き立てる。


「はあぁっ!」


「うおおおぉっ!」


 私とバートの間で激しく剣戟を打ち合う、手数は言うまでもなく私の方が多いのだがバートの守りはやはり非常に堅牢だ、剣の腹で攻撃を受けつつそのまま押し出して私の体勢を崩そうとしてくるのだ。

 しかし私も慣れたもので、その剣の腹を足場にしてバートの後ろへと回り込みながら空中で魔法を叩き込む。


「チッ……小癪な!」


「使える技は使う、戦闘の基本ですよ!」


「はっ! ちげえねえ!」


 間合いの外だがバートは剣を振るい、その斬撃を波動として私へと飛ばす。

 その斬撃は不自然なほど素直に私へと向かってきた、その斬撃を回避するとやはり囮だったようで目の前には大剣が迫っていた。

 私はその大剣を無理やり2本の剣で迎撃する、しかしその感触は非常に軽いものだった。


「これはっ……!」


「だらぁっ!」


「カハッ……!?」


 次の瞬間私の横腹に激痛が走った、そのまま地面を転がされるがどうにか体勢を立て直す。

 バートは追撃せずに落ちた剣を拾いなおし、ニヤッと自信ありげな表情で私の事を見ていた。

 

 恐らく剣を投擲したのだ、剣の波動によって集中を削がれた私は投げられた剣を追撃として振られたものだと想定してしまった。

 バートはその際剣に体を隠しながら私の死角へと潜り込み、私の横っ腹を思い切り蹴り上げたのだ。


「ただの蹴り……のようですが、かなり効きました、やはりあなたも徒手戦術は使えるみたいですね」


「当たり前だろ、俺みたいな大振りの武器を使うとなれば必然的に小回りが利かなくなる、その対策に体術はイヤでも覚えなくちゃならない」


「その辺の筋肉バカとは違う、という事ですね」


「中々言うじゃねえか、その方がやりあってて楽しいだろ?」


 再び構えを取ったバートへと私は地面を強く蹴って斬りかかる、私もバートも無意識のうちに笑い合いながら剣戟を交わしていた。


「はっ……そろそろ一発かましてやろうか、シヴァ!!」


 バートは私との距離を少し取ると神器解放を即座に行った、妨害しようにも決め打たれれば流石にどうしようもないという所だ。


「ティウ!」


「待て待て、勢いに流されていいのか? まずはエリスと合流した方がいいだろ」


「っと……そうですね、申し訳ありません」


「ま、俺としても真っ向からぶつかり合いたい気持ちは分かるけどな、ここで俺達が使っちまったら全体的に不利になるのは事実だ、ここは我慢だ」


 ティウに諭されて私はエリスさんへと合流する為に周囲を一度見渡す。

 どうやらエリスさんは戦いながらも周りを見ていたのか、クリフさんと戦闘しながらではあるが徐々にサラさんの方へと向かっているようであった。


「このっ! ここで逃げんのか!?」


「逃げるわけではありませんよ、ただ貴方の神器解放は危険すぎますからね!」


「守ってもらおうってか! まとめて吹き飛ばしてやる!」


「エリスさん!」


「分かってる!! ミネルヴァ!!」


 辺りに轟音が響き渡った。

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