90話 型破り

「全く、サラも無茶な事考えますよね……この世界のルール上グレーゾーンと言ったところですよ」


「なっ……」


 俺の意識はそのままに、体と口が勝手に動いてカリーナの攻撃を弾いていた。


「思い切りやりますからね」


「貴女は……まさかッ!?」


 強く地面を蹴ったアマテラスはカリーナへと肉薄し、まさに流れる水のように剣を振るう。

 与えるダメージに差があるようには見えないが、身のこなしや魔法を挟むタイミング、といった動きに関する部分は俺のプレイと全く違うものであった。


「これは……マズイわね……!」


 カリーナにハッキリとした憔悴の表情が浮かぶ、流石にアマテラスの振るう攻撃を捌くのは難しいのかチラホラとアマテラスの振るう剣がカリーナを捉える。


「そろそろ時間ですね、体の使い方は覚えられましたよね?」


 俺の口が勝手に動く、俺の、サラの声でアマテラスが語り掛けてくるというのはどうにも違和感がある。


「正直やや怪しい所だがな、まぁお前のおかげで掴めたものはあると思うぜアマテラス」


「ここまでしたんです、負けたら承知しませんからね」


 神器解放が切れ、俺の手にはレーヴァテインがライフルの形として再び手に握られていた。

 アマテラスの憑依も終わったようで自分の意思で体を動かさなければならないようだ。


「厄介な神器解放ね、神に支配権を委るなんて……でもそれの間に勝負を決められなかったのが運の尽きね」


「ただのスキルだ、勘違いすんな」


 先ほどのアマテラスの攻撃のおかげで俺のMPは万全と言えるものではない、しかし彼女の戦いの組み方というのは十分参考になるものだ。

 あの一回で覚えろというのは無茶振りだろうが、生前犯罪ばかりしていた頃は警察の目を欺くために無茶をした回数はかなりある。


「最後にゃ捕まったってのがオチだが……ま、失敗したらそん時考えるのが一番だ」


 レーヴァテインを剣へと変形させて俺は一気にカリーナへと間合いを詰める。


「懲りない人ね……!」


「気付いた事は試したいってもんだろ?」


 アマテラスは力を入れすぎず、むしろ入れなさすぎる程にリラックスしていたように思える。

 正直合っているのかどうかは全く分からないが多分合っているだろう、相手の行動を理解する前に直観的に答えをはじき出してそれに対応する。

 まるで暗算だ、相手の行動を理解して様々なパターンを頭の中に組み立てるという途中式をすっ飛ばしていきなり行動に移す。


「考えずに突っ込んでくるなんて考えるのをやめたのかしら?」


「ある意味考える事はやめたな」


「ッ……こんなめちゃくちゃなっ!!」


「はぁっ!」


 相手の攻撃がスレスレで当たらない場合は回避行動すらとらず一気に突っ込む、当たりそうな魔法でもぶつけて対応出来そうであれば魔法、場合によっては防御力に物を言わせてカリーナへと接近する。

 相手の防御ラインの隙間を縫うようなイメージで剣を振るうだけなのだが、流石に相手に当てるのはまだ難しいようでその殆どが防がれてしまう。


「サラ、無理に剣を使う必要もないんですよ?」


「それもそうだな……俺は俺流で、だな!」


 剣をライフルへと変形させて銃口をカリーナへと向ける、銃の間合いというには近すぎるが狙うにおいて遠いよりは近い方が楽だというものだ。


 銃口を密着させるようにしながら弾丸をカリーナへとひたすら撃ち込んでいく、まとわりつく水のようにカリーナの攻撃をひたすらいなし、躱しながらこちらの攻撃を確実に当てていく。


「離れなさいッ!」


「断るッ!」


 爆破魔法を使われるが後方へと回避して爆風範囲から逃れ、再び強く地面を蹴ってカリーナへと肉薄する。

 アマテラスが行った戦い方は近距離のものだけだ、変に距離を開けてしまえば再び泥沼じみた戦いが繰り広げられるだけになるだろう、近距離戦闘のコツを掴んでいる今無理にでもそれを活かした方がいいだろう。


「距離を……ッ!?」


「やっと壊れたか、手こずらせやがって」


 カリーナが距離を取る為に同じように地面を蹴って後退しようとするが、カリーナはそれを行うことが出来ずにいた。

 神器解放後、俺はひたすらカリーナの足へと攻撃を集中させていたのだ、回復のタイミングをミスすれば彼女の足はひたすらダメージを負い続け、そして今破壊されたというわけだ。


「カリーナ、お前は強かったよ」


「どういたしまして」


 膝をつき項垂れるカリーナへと俺は迷うことなく銃口を頭に突き付けて引き金を引いた。


 無力化状態となったカリーナはその場へとうつ伏せで倒れ込んでしまった、流石に敵とは言ってもうつ伏せのまま放置するのも酷い話だ、俺は彼女を仰向けにさせてスキル欄をチェックしてみた。


「どう? スキルは追加されていたかしら」


「あぁ、神霊憑依だってよ、あんまり使わない方がいいスキルだろうな」


「どうかしら、スキルとして追加されたのなら使っても問題は無いと思うけれど」


「ところでカリーナ、目は見えてんのか?」


「一応はね、ボヤっとしていて正直見えていると言っていいのか微妙だけれど」


「しばらくしたらどういう形になるかは分からないがどうにかなるさ、しばらく休んどけ」


「そうさせてもらうわ」


 既にエリスとクリフは決着がついているらしく、エリスは武器を手に俺とカオリとの戦闘をクリフと共に見守っているようであった。

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