84話 強敵の群れ

「どうやら本陣を攻めてきてるってわけでは……ないみたいだな」


「そうみたいですね、良かったと言うべきか戻るべきではなかったと思うべきか……」


「まだ徒労に終わったって決まったわけじゃないよ、有益な情報があればそれだけで戻った価値はあると思うし」


 ここが襲撃されているという様子は無く、負傷者が治療の為に一時運ばれてきている為に忙しそうではあるが特に問題らしい問題はなさそうに見えた。

 すれ違う怪我人に回復魔法をかけつつ俺達はシーグルのもとへと向かう。


「エリス、それにサラとカオリまでどうしたんだ?」


「イヤな予感がしたもんで戻ってきただけなんだけどな、杞憂だったよ」


「そうか、その予感っていうのは根拠のないカンか?」


「いや、根拠はある……ミズガルズ軍にプレイヤーが全くいない、どこかに戦力を固めたのかとも思ったんだがな」


「シーグル、負傷兵が妙に多い、もしくは全く報告されていないってところはない?」


「そういえば左翼側からの報告が無いな、伝令妖精の応答も無い為に今確認の者を向かわせているところだが」


 俺達は中央よりやや右翼側で戦闘をしていた為に左翼側の事は把握できていない、状況から見て左翼側にプレイヤーが集中しているという事だろう。


「俺達も左翼側へ行こう、俺たちがやられなくても俺たち以外が全滅したら意味が無い」


「悪いな、出来る事ならアルフヘイムの者たちだけでどうにかしたかったのだが」


「国絡みの事はよくわからないんだよな、ま、国とか関係なしだ、仕事を受けたから助ける、そんだけさ」


 俺達は魔導ボードに乗り、全速力で左翼側前線へと向かう。


「エリス! 避けろ!」


「分かってるさ!!」


 前線に入ろうとしたその瞬間、サラの注意と同時に俺は魔導ボードから飛び降りつつ銃弾を弾きつつ魔法を回避していた。


「中々やるな、アルフヘイムについたプレイヤーってところか」


「おうともよ、俺こそはアルフヘイムのー……って名乗り中に攻撃すんな! 武士道精神は無いのか!」


「知ったこっちゃねえ! これは戦争なんだよ!」


「そうですね、どこから攻撃されるか分かったものではありません」


「グハッ……!?」


 俺に攻撃を加えてきたプレイヤーは背後に回り込んだカオリの二本の剣で突き刺され、トドメと言わんばかりの斬撃を浴びて無力化されていた。


「卑怯な……騎士としての誇りはないのか!?」


「これは戦争、ですよね?」


 左翼側には予想通り多くのプレイヤーがいるようで、NPCも混ざってはいるものの総じて練度が高く、かなり偏った戦力のように見える。

 アルフヘイムの兵はかなり押されているようではあるが全滅はしていないようであった、しかしやはり苦戦しているようでエルフ達の悲鳴がハッキリと聞こえてくる。


「エリスさん、別れて行動しませんか? その方が助けられる命は多いでしょうし」


「ダメだよ、半端な戦力になっちゃったらバート達だけじゃなくて、連携の取れるパーティーもかなりの脅威になっちゃうからね」


「だな、とりあえず助けられる者は助けつつ左翼の指揮官を捜すぞ!」


 プレイヤーとは言っても今の所見えるプレイヤーの強さは弱い、あくまでステータス上というだけで実力のある者であればそれでも脅威にはなるが、レベルが俺達よりも低いのは確定事項だ。


「邪魔だ!」


「ちょっと道を開けてもらうよ! ほらスナイパーは撃ったら動く!」


「あの辺りは味方はいないようですね……ならば! すべてを吹き飛ばす嵐をここに! テンペスト!」


 ステータス差があるのであればゴリ押し正義だ、俺達はプレイヤーをなぎ倒しながら先へと進んでいく、進めば進むほど敵プレイヤーの数は増え、そして強さも徐々に簡単に倒せるようなものではなくなっていた。


「撤退だ!! この場は放棄する!」


「っと、左翼側の指揮官か!」


「お前は……右翼側にいたんじゃないのか?」


「向こうにプレイヤーがいなかったからな、伝令妖精の反応も無いらしいし様子を見に来たってわけだ」


「伝令妖精か、話しかけてもどうにも反応が無くてな……ほら」


 伝令妖精はまるで心ここにあらずといった様子で飛んではいるものの情報を伝えようとしてもうんともすんとも言わなかった。


「妨害電波みたいなヤツでもいるのかもな、魔法が使えるって事は情報制限のスキルだとかそんな辺りじゃないか?」


「可能性はありそうだな……ところで指揮官、バカみたいに強いプレイヤーとかいなかったか?」


「俺は見たわけじゃないが一瞬で部隊が壊滅したという報告を受けた、しかしいくら君たちがバケモノじみた強さとは言っても行くのはオススメしないぞ」


「忠告ありがとう、撤退の手助けの為にも俺たちは残って敵を足止めする」


「恩に着る、死ぬんじゃないぞ!」


「死なないさ、まぁそうだな……生きていたら美味いメシでも奢ってくれ!」


 指揮官は俺達と別れて撤退していった、残りのエルフの兵たちも撤退する中で追撃をかけるプレイヤーが俺達の方へとそれぞれ武器を構えて向かってきていた。


「こっからはプレイヤー狩りだ、ポジティブに考えれば本気で暴れても死人は出ない」


「そいつは好都合だな、誤射したところでエリス達にダメージも無いしな」


「撤退中の兵だけには気を付けないといけませんがね、まぁ……動きやすい事に変わりはないでしょう」


 俺たちはそれぞれの武器を強く握りしめながら、向かい来るプレイヤー達へとの戦闘に備えた。

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