79話 脱出

「ここか、とりあえず探すとするか」


「要塞建設時の設計図があればベストなんだけどな」


 ドタドタとせわしない足音と怒号が資料庫の外で響き渡っているのを特に気にせず俺達は資料を漁っている最中であった。


「資料庫の中にすぐ入って来るかとも思ったのですが、案外そうでもないのですね」


「まぁ暇だったから他のやつも助けたしな……何人かは自力で脱出してたみたいだが」


 サラは身内しかいないからなのか猫を被るのをやめていた。


「お前……口調」


「あぁ、コイツは中身は野郎だ、何かしら期待してたなら諦めた方がいいぞ」


「マジかよ、随分と肝の据わった子だとは思っていたが……」


 案内させた兵は複雑な表情をしつつも資料漁りを手伝ってくれていた。

 最近や過去の戦況、物資のやり取り、様々な情報がここにはあるようで地図以外にも価値のありそうなものを片っ端からインベントリへと入れていく。


「そういやあんた名前は?」


「イナルタだ、お前がエリスであの子がカオリだろ?」


「あぁ、しっかし何でサラだけこっちに移したんだ?」


「単純さ、あの戦闘の記録でダントツで目立ってたのがコイツだったからさ、カオリについての記録はあんまりなかったから移さなかった、それだけさ」


「エリスさん、地図ありましたよ」


「お、見てみるか」


 カオリが要塞の見取り図を見つけたようでテーブルの上に数枚の羊皮紙を広げた。


「まぁ分かってはいたけど結構な量だなぁ」


「見ろよ、お約束と言わんばかりの隠し通路があるみたいだぜ、通気口もそうだったがこの要塞……どうにも緩い気がするんだよな」


「この要塞が緩い? 冗談キツいぜ」


 ある程度注意すれば正直なところ敵もあまり強くない為に攻略そのものに大きな苦労はしないだろう、というのが正直な感想だ。

 ただもしも敵の練度が上がり、簡単に倒せないような兵ばかりとなれば流石に話は変わってくるとは思うのだが、どうやらサラの見立てでは忍び込む分にはかなりザルなのだそうだ。


「ザルな部分を人数で補うって印象だな、その辺の拘置所の方が多分出づらいぜ」


「俺には無縁だった場所だから何とも言えないなあ」


「ま、正直桁外れな力に魔法があるから正直何とも言えないっちゃ言えないんだけどな」


「逃げられないなんてあまり考えたくはありませんね、そもそも捕まらないようにするのがベストだとは思いますが」


「その通りさ、捕まった時点で実質詰みだ、どう捕まらないようにするかってのがコツよ」


「この世界じゃ強くなるくらいしか無さそうだけどな」


 カオリがインベントリに要塞の地図をしまうとUIの依頼が達成可能へと変化した、どうやらこれ以上この要塞に居座る理由は無さそうだ。


「さて、イナルタ……俺達はそろそろアルフヘイムに帰るとするがお前はどうする?」


「連れて行ってもらえないか? 裏切り者だと言われてしまった手前残った所でロクな事になはならないだろうしな」


「そう言うと思ってたぜ、エリス、連れてって問題ないだろ?」


「あぁ……ただどうやって連れて行くつもりなんだ? 馬でも攫うつもりか?」


「なるほど、その手があったか」


 どうやら抱きかかえながら魔導ボードで移動するつもりだったらしく、馬と言う単語を聞いてサラは指を鳴らした。


「厩舎はどこだ? 流石にあるだろ」


「そんな事しなくても魔導ボードなら保管庫にあったと思うが……」


「じゃあ魔導ボードをいくつか頂戴した上で馬に乗って帰るか、土産は多い方がいいだろ?」


 サラは悪い笑みを浮かべながら二丁の銃を握りしめて立ち上がる。

 どうやら魔導ボードの保管庫には鍵がかかっているそうなのだが、俺達の器用さのステータスであればピッキングは容易であろう上に、そもそもイナルタが鍵を持っているらしい。


「それじゃ、最後にひと暴れしていくか!」


「応!」


「ではいきますよ!」


 資料庫から飛び出し、カオリが先頭を走る。


「そこを右だ! 見張りは多いと思うから変に突っ込むんじゃ……ってもう遅いか」


「そんじょそこらのヤツらには負けないくらいには鍛えてるから大丈夫さ」


 保管庫には多くの兵士がいたが全員がレベル30程度のNPCであるが為にカオリとサラによって完全に蹂躙されていた。

 何人かは光となってしまっていたが、大多数は苦痛を上げてはいるものの死んではいないようであった。


「さ、鍵を開けてもらえるかな?」


 笑顔でイナルタに語り掛けるサラからは殺気を全く感じられなかった。

 俺はサラと一緒にいた時間が長い為か慣れてしまっていたのだが、イナルタからすればそれは完全に異常な事であり、サラに恐怖してしまったのか少しだけ硬直した後、ぎこちなく鍵を開けた。


「結構あるねえ! しかも結構いいヤツじゃん!」


「あまり時間をかけたくはありませんし、持てるだけ持ったらいきますよ!」


 倉庫の扉が開くと共にカオリは強く地面を蹴って中にいた敵兵を二振りのロングソードですぐに無力化し、射手には魔法を放ち1人だけで倉庫内部を制圧する中で、サラはカオリがそうすると分かり切っていたかのようにすぐに魔導ボードの吟味を始めていた。


「ロックがかかってるんだね、まぁ軍用品なら当然か」


「インベントリにいくらでも入るかと思ったけどそうでもないんだな」


 魔導ボードは種類が違うのであれば問題ないようなのだが、同種のものは1つしか持てないらしく軍用魔導ボード(ミズガルズ)という形で一つだけ回収した時点でインベントリに追加できなくなってしまった。


「ま、これのおかげでトンズラが楽になるってわけだ!」


「厩舎はこっちだ!」


 イナルタの案内で俺たちは厩舎のドアを蹴破り、颯爽と馬に跨り要塞から飛び出した。

 この時は気付いてはいなかったが、俺達のステータスであれば馬を操るのはもはや難しい物ではないらしく、4人でアルフヘイムにまで馬を駆けさせる事となった。

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