80話 元通り
俺達は馬を駆けさせて来た道を戻る。
ミズガルズ軍の配置は分からないが、アルフヘイム軍の配置であればある程度分かる、最寄りの味方へと合流するのが一番だろうが、今の俺達はミズガルズ軍と見間違えられてもおかしくはないだろう。
「馬も結構乗り心地は悪くないんだな」
「まぁ乗り心地が悪いなら軍事利用もされないだろうよ!」
「視界も高くなりますし私は好きですね、馬」
欠点と言えばミズガルズ軍の軍馬の為に馬は言う事は聞くものの、判定としては敵として認識されている。
つまり騎手である俺達3人以外、馬とイナルタは敵として見られているという事だ、いきなり内地に敵が現れれば俺達が味方であるという事に気付かず攻撃を仕掛けられる可能性と言うのは十分にあり得るのだ。
「何なら捕虜らしく縛ってくれてもいいんだぞ?」
「そんな事したら手土産の馬が1頭減るじゃねえか、捕虜らしく言う事聞いとけ!」
「サラ、どうにも機嫌がいいな」
「久しぶりのシャバなんだ、テンション上がるに決まってんだろ?」
「シャバ……ですか?」
「なんでそんな単語知ってんだよ……まぁあれさ、外の事だ」
任侠ものの映画で覚えたらしく、絵にかいたようなその手の人の発言をしてのける。
地面を蹴る馬の蹄の音というのは意外といいものだ、しかし魔導ボードと違いその場に残す痕跡が非常に分かりやすいというものがある。
正直言ってしまえば魔導ボードの方が実用的なように思えるが、NPCにはインベントリという概念こそあるものの、そのアイテムの収容量は俺達に比べるとかなり少ない物となっている。
その為にアイテムの積載量を稼ぐと言う意味でも馬は彼らからすればかなり実用的なものなのだ。
「そろそろ合流できると思うんだけどな」
「見えてきましたよ、とりあえず間違えられなければいいんですが……」
「ミズガルズの斥候か!? この野郎生きて帰れると思うなよ!!」
「おまっ……パウリ! 落ち着け!」
「ってエリスか、なんだってミズガルズの軍馬に?」
不思議そうな顔をしているパウリに状況を説明する、その間に周囲の兵士がシーグルに話を伝えてくれたのか、シーグルが姿を見せた。
「よく戻ったな、んで……ミズガルズの兵がいるってのはどういう事だ?」
「亡命者みたいなものだよ、案内させてたら裏切り者って向こうのプレイヤーに言われちゃってたからね」
「なるほどな……殺されない為にも自ら捕虜になったというところか」
「俺はイナルタだ、情けない話だがサラの言った事は事実だ、ミズガルズのやり方にはどうかとも思う所もあったのも確かだ、もし受け入れてもらえるならアルフヘイムの為に力を尽くそう」
「ありがたい言葉ではあるが……しばらくの間監視が付く事は了承してくれるか?」
「あぁ、それくらいは覚悟してるさ」
思っていた以上にすんなりとイナルタはアルフヘイムへと受け入れられるようで、俺たちが連れて来た軍馬も一先ず厩舎の方へと連れて行かれた。
「シーグルさん、これが依頼されていたものです」
「内部関係者をこちらへと引き込んだ上にしっかりと地図まで持ってきたのか……」
「それだけじゃないよ、ホラ」
サラが軍事資料を大量にドサドサと地面へとバラ撒く、最近のミズガルズ軍の計画についての書類のようでこの戦争における重要なキーとなりそうなものだ。
「いつの間にこんな……」
「大事なものの隠し場所だとか保管場所なんて意外と簡単に見つかるものだからね、慣れれば、だけど」
「俺も一部持ってきた、役に立てそうか?」
「こんなに大量に……潜入したんだよな?」
「潜入するつもりだったんだけどなぁ……サラが勝手に抜け出した上に暴れてたもんで」
「はぁ……それで戦いながら持ってきたと?」
シーグルは頭を抱えながらも書類を拾い上げてしっかりと内容を読んでいるようだった。
「敵のプレイヤーも1人いたけど大した強さでは無かったね、弱かったってわけでもないんだけど」
「レベル差もあったしな、それにこっちは2人がかりでやったんだ、負ける確率の方が低い」
「騎士道精神もあったもんじゃないな……ま、そんなもの気にしてる間は戦争には勝てないんだが」
「だよね!」
「試合ではちゃんと意識してもらいたいところだがな」
「それはそれ、これはこれだよ」
「分かっているのなら問題はない……また何かあれば伝えるとする、それまで各自休んでいてくれ、情報の奪取の報酬はまた追って支払おう」
軽く礼を言うとシーグルは場を去って行った。
戦況を確認してみると現状はアルフヘイムの優位にあるようで、ミズガルズ軍は各地での陽動や奇襲もあり撹乱され、敗走を重ねているそうだ。
「とりあえず休むか……流石に疲れた」
「そうですね、馬は楽しいですが意外と疲れましたし」
「じゃ、また後で!」
いつもの3人での賑やかさが戻って来たせいか、妙に体が鉛のように感じるほどに重い。
そのせいか体を横にすると、気付かぬうちに眠りへと落ちていた。
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