78話 銃撃戦
「お、あいつは……」
「知り合いか?」
「うん、私を尋問してた人だね、下手だったけど」
サラへ行われた尋問は暴力を振るうようなものではなかったらしいが、それでも強い口調や机を叩きつけるなど威圧的な行為はやはり行われていたようだ。
正直その程度であれば普通なのではと思う、サラも正直なところ思いっきり殴られるくらいの覚悟は決めていたようだが意外にも不当な尋問は行われなかったのだそうだ。
「お前っ……!」
「さっきぶりだね、どうする? やり合う?」
「クソッ……俺じゃ勝てない事くらい分かるさ、尋問の為にもお前については調べさせてもらったしな」
男は武器を納めて両手をしぶしぶと上げた、彼に戦意は無さそうだ。
「張り合いの無い人だなぁ……上司に叱られるよ?」
「はっ、慣れてるさ」
「へぇ……ま、いいや、私たちは帰る前に手土産にこの要塞の地図を持って行こうと思うんだけど場所知らない?」
「地図? そういえば見た事は無いな……」
どうやら地図は下っ端に渡される事は無いらしく、何度も歩いて頭で覚えさせられるのだそうだ。
サラは銃口を彼へと向けて言葉を続ける。
「じゃあ資料保管室はどこ? 知ってるなら案内してくれるよね?」
「慣れてやがんな……」
「サラ、あんまりモタモタしてると囲まれるぞ」
「分かってるって、ホラ、死にたくなかったらさっさと協力して!」
時折俺達に向かって魔法や矢、銃弾が飛んでくるのをカオリと俺がそれぞれ打ち落としたり武器でガードする等して2人に攻撃が当たらないように援護する。
男に要塞を案内させているとその目の前にミズガルズのプレイヤーが立ちはだかっていた。
ミズガルズ軍の紋章が胸に刻まれた軍服を着ており、その手にはリボルバーの拳銃が握りしめられており、躊躇う事なく案内させている兵に向かって拳銃を向けた。
「なっ……!?」
困惑する兵士をよそに乾いた銃声が響き渡る。
「っつぅ……案外効くね、これ」
男の前にサラが立ちはだかり、腕をブンブンと振っていた。
どうやら弾く事はせず単純に庇っただけのようで、腕に回復魔法をかけていた。
「見た所脱走した加護持ちってところか」
「プレイヤー同士仲良くとはいかないみたいだねえ」
「プレイヤー? まるでゲームみたいな言い草だな」
「ゲームみたいな世界なんだしいいんじゃない? 実際私よりゲーム感覚で楽しんでる人って結構いるみたいだし」
サラはレーヴァテインを拳銃へと変化させて二丁の拳銃を相手へと向けていた。
案内させていた兵士は味方に殺されそうになった事がショックなのか、それとも他の要因か、無防備なサラの背中に武器を突き立てるような事はせず、放心状態にあるように見えた。
「ゲームみたい? ふざけるのも大概にしろよ、遊び感覚で人を殺してんのか?」
「酷いな、私はあくまで生きる為に殺すだけだよ、それに殺しに理由なんか別に必要なくない? 残るのは結果だけだよ、殺したか、生かしたか……どんな理由があれそれは変わらないでしょ?」
「そうだな、ま……脱走者、そして裏切り者には死を与えるだけだ」
そう言うと同時にサラとプレイヤーは同時に引き金を引き、激しい銃による撃ち合いが始まった。
「ほら、こっちだ」
「っ……あぁ」
遮蔽となる壁に男を引っ張りレーヴァテインをライフルに変形させて壁から体を出そうとした時に、腕を兵士に掴まれた。
「待て! あいつは新入りだがかなり強い……いくらお前らが強いとは言っても……」
「だったら余計サラを助けないとダメだろ、アイツは既にお前を裏切り者と割り切ってんだ、俺たちが負ければお前だって死ぬんだぞ?」
「ぐ……」
「安心してください、私があなたを守りますから」
カオリは兵士に優しく微笑みかけると男はそれ以上は何も言わなかった。
正直なところあのプレイヤーは俺達よりもステータスで言えば弱いのは確かだ、しかし彼からすればそれでもかなりの脅威であり、恐らくは彼の実力というものを実際に目にしているのだろう、となれば恐怖心を抱くのも仕方のない事だ。
「張り合いないなぁ、こんな程度?」
「ナメやがって……!」
「私の変装も見抜けなかった人だしね、それに銃の扱いなら私の方が慣れてるだろうし」
サラは遮蔽を上手く使いながら敵の攻撃を回避し、食堂に敵を誘い込んでいた。
食堂は非常に広く、そして遮蔽が多いものとなっている為に攻撃を当てづらいが、同時に攻撃を当てられ辛くもある。
「さて……と、ミネルヴァ、敵の位置は分かるか?」
「うん、丁度正面にいるよ!」
俺達の位置関係は敵から見て俺が3時の方向、そしてサラが12時の方向と非常に理想的な立ち位置にある。
「エリスさん、サラはいつでも撃ってくれて構わないそうですよ!」
「だってさ、どうする?」
「そりゃぁ撃つさ」
敵は完全にサラに注意が向いている、サラも俺に気を利かせてくれているようで遮蔽を上手く使いつつ敵をどんどんと俺が狙いやすい位置へと誘導してくれているのが分かる。
俺は照準を敵の頭へと定めつつ引き金に指をかける。
人は集中する瞬間に隙が出来る、ただでさえサラに注意を引かれている上にそのサラを撃つ瞬間というのはかなりの集中力を使う場面だろう。
あくまでこれはゲームからの経験則だが、これはゲームに留まらず様々な事に言えるだろう。
「ッ――邪魔するな!!」
「タイマンなんて一言も言ってないんだからいいでしょ、彼は私の仲間なわけだし」
「騎士道だとか武士道の精神は美しいとは思う、ただまぁ……生憎俺はそういった高貴な輩じゃないんだよな」
試合なら話は別だ、ただ実戦は何でもありだと俺は思っている。
俺とサラからの銃撃を敵は対処しきれず、更にはステータス差による火力によって回復魔法の回復量以上にHPを削られてしまったようでついには地面に膝をついた。
「卑怯者どもめ……!」
「勝手にルールを決めた気になってたのはそっちでしょ? さ、行こっか」
「トドメも刺さないってのか!」
「生憎プレイヤー……いや、加護持ちは殺せないんだよね、神様に教えてもらってないの?」
「クソッ!」
まだHPが残っていたのか銃を咄嗟に構えようとするが、それよりも早くサラから放たれた銃弾が敵の頭を的確に撃ち抜き、彼はまるで引っ張られるかのように仰向けに倒れた。
「どっちが卑怯なんだか」
「チッ……」
動けず舌打ちをするプレイヤーを置いて、俺たちはカオリと案内兵の元へと戻った。
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