74話 寝返り

「お前らは一体何でこんな街を攻略しに? 落とせてもすぐに取り返されるんじゃないのか?」


「どうしてでしょうね、私たちも詳しい事は聞かされていないので」


 カオリがウソをついた、あくまで彼はまだ寝返る可能性があるというだけで確実にこちら側というわけではないという懸念からだろう。


「シーグル、こういうわけで一人捕虜を取った」


「ふむ、共に行動して様子を見て欲しい、君たちからの報告も考慮に入れておこう」


「作戦は続行でいいのか?」


「あぁ、もうしばらくは行動して問題無さそうだ」


 ルフレイには聞こえないように伝令妖精を介してシーグルへと現状を報告する。

 どうやら全体的に見ても作戦は上手くいっているようだ、敵の一部兵力がこちらへと向かってはいるものの一番早い部隊でもまだ数時間はかかるようだ。


「攻撃にかなり部隊を割いてるのか?」


「恐らくはそうだな、噂で聞いたが一気に全力を叩き込むって話だったしな」


「出し惜しみナシってか」


 攻撃全振りとは大胆な指揮だ、補給地点などを上手く叩いていけばミズガルズを押さえ込む事は簡単なのでは無いだろうか。

 少なくとも今回の子の攻撃で一部NPCの武器の品質が落ちるという事も期待できるとシーグルは言っていた、他でも食糧庫の破壊や馬の奪取といった作戦が実行されているのだそうだ。


「そういやルフレイ、捕虜が収容されてる施設って知らないか?」


「いくつかは知ってる、誰か捕虜に取られたのか?」


「あぁ、サラってんだけどな、見た目は可愛らしい金髪ポニテの女の子だ」


「悪い、あくまで場所を知ってるってだけで捕虜についちゃなんも知らないんだ」


「まぁそうだよな」


「最近移動させられたらしいんですが、こう、捕虜の輸送現場を見たとかそういう噂はご存じありませんか?」


「それなら……あるな」


 どうやら街で捕虜の移送の噂が一度持ち上がったらしく、最近各所から実力のある捕虜が要塞の牢獄へと移送されたのだそうだ。

 拷問するだの仲間へと引き入れるだの様々な憶測が飛び交ったらしいのだが、確かな筋の情報というのは流れなかったようだ。


「その要塞ってのは?」


「オリンポス山にあるって言われてる、ミズガルズでもかなり内地になる場所だから救出は難しいだろう」


「そこにサラさんも移送されているとすれば厄介ですね、ただ実力者が集められているという事は助けてしまえば大きな戦力を得られそうですね」


 俺達は武器庫を破壊しつつミズガルズの兵を無力化していく、ルフレイも雑兵相手であれば十分に戦えており武器庫を2つほど新たに破壊する事に成功した。


「オリンポス山かぁ」


「オリンポスつったらミネルヴァ達の住んでる山とかだっけか?」


「まぁね、名前だけ一緒なんだろうけどさ」


 オリンポス十二神という単語は俺も知っている、とは言っても十二柱全員は知らないのだが。

 ミズガルズの内側に位置するその山は標高も高く、通常時であればミズガルズの観光名所でもあるそうだ。

 しかしミズガルズの防衛時の主要拠点という一面もあるらしく、その守りは周辺諸国でも有名なのだそうだ。


「ミネルヴァ? ミネルヴァってあの守護女神の?」


「あぁ、つっても大御所だからって当たりだとかハズレって事はないらしいけどな」


「失礼な事言うなあ」


 パーティーは組んでいない為ルフレイにミネルヴァの姿は見えていない、彼もやはり記憶を引き継いでいるようでミネルヴァという名前には聞き覚えがあるそうだ。


「ギムル王国に顔出してみるといいさ、ハデスの相棒は面白い人だったしな」


「ゼウスとかオーディンもいそうなもんだな、神話大戦か何かか? この世界は」


「ありそうな話だな、いずれはプレイヤー同士のデカい戦いとかありそうなもんだ」


「エリスさん、撤退の合図ですよ」


 シーグルから撤退の合図が出たらしく、伝令妖精の頭を撫でるカオリに声をかけられる。

 門の方へと向かいつつマップを確認すると武器庫がある箇所というのは半分以下にまで減っているようであった、全破壊とはいかなかったものの相手には大きな打撃にはなっている事だろう。


「そういやお前らのレベルはいくつなんだ?」


「38さ、そこまで強いってわけでもないさ」


「6の差か……それであっさりと削られる辺り俺ってやっぱ弱いのかなぁ」


「そういうわけではないと思いますよ、私たちのスキルは全体的に戦闘向きですし」


「お前の初撃、あれはかなり俺達でもヤバかったしな、一撃必殺の不意打ちってスタイルいいと思うぞ」


 一人をほぼ確実に落とせると言う意味ではルフレイはかなりの脅威になる、無警戒な相手に対しての隠密攻撃というのはNPCだろうがプレイヤーだろうが問答無用で屠る可能性を秘めている。

 不意打ち中心のプレイというのはある意味最強のプレイスタイルの一つだろう、そもそも戦闘にまで発展させないというのはまさに理想形だ。


 俺たちは街を駆けて門へと戻ると既に大半の兵士が撤退を始めているところであった。

 森の中を駆け、無事に大きな部隊とは鉢合わせる事なく撤退する事に成功した、まだこの俺達の作戦がどういった効果をもたらしたかは分からないが、それはそう遠くない未来で分かる事になるだろう。


「シーグル、こいつが話に出したルフレイだ」


「ふむ、ちょっと二人で話をしても構わないか?」


「お手柔らかに頼むぞ、俺は戦闘は苦手なんだ」


 落ち着いた頃にシーグルの元へと向かい、ルフレイを彼に紹介する。

 シーグルは最低限は警戒しているようではあるが、そこまで強く警戒はしていないようだ。

 彼は俺達を含めた兵に労いの言葉をかけると、ルフレイと共にテントへと入っていった。

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