75話 脱獄
時間は少し巻き戻り、丁度エリス達が陽動作戦を実行しようとしている頃へと戻る。
「オラッ! エルフの手先め……知ってる事を全部吐け!」
「ったいなぁ……知ってたとしても吐くわけないでしょ?」
「生意気な!」
目の前の男は机を強く叩き、俺を睨みつける。
俺は今絶賛尋問中だ、ミズガルズの人間からすれば私は悪魔のようなものだろう、数多くの兵を殺し、そして彼らの敵であるエルフを大勢回復させたという事も知られている。
「バート達がどうにかしてくれたからいいが……貴様の回復能力くらいは暴いてやる」
「魔法みたいなもんだよ、しようとして出来るものじゃないし」
神器解放についてはプレイヤーの中でも一部しか使えない為にNPCの中では上級魔法の一種だとか言われているらしい。
一部のNPCは神器解放を研究し、自らの技として身に着けようとしているようだ。
「単純に消費魔力が大きすぎて使いたくないってだけなんじゃないのか? エルフどもの秘術の一つなんだろ?」
「バート達のアレはミズガルズの秘術?」
「話を逸らすな!」
ダメだ、こいつはめちゃくちゃ頭が悪い、上から神器解放について聞いて来いだとか言われてそれを頑張って実行しようとしているのだろうがこの聞き方は無いだろう。
「ああいう技ってのは選ばれた人にしか出来ないよ、努力でどうこうできるようなものじゃないし、そもそも私たちとあなた達には決定的な違いがあるんだよね」
「その違いってのはなんだ!」
「言わないよ、知りたいってならそれこそバート達に聞けばいいんじゃない?」
「クソッ……!」
俺を殴ろうと思ったのか手を振り上げるが、彼はその手を机へと叩きつける。
正直何発かは殴られるとは思っていたが彼は思いのほか粘り強い、あまりレベルの高くは無いNPCではあるがそれでもレベルは20、世間的に見れば十分な実力者と言ったところだろう。
「一つ言えるのは私だとかバート達みたいな……規格外の人ってのは何かしら抱えてるものだよ、例え記憶に残っていなくてもね」
「記憶……?」
「イタい役は私の役じゃないとは思うけど、まぁ……イチモツ抱えてるって事だけは確かだよ」
隙でもあれば鍵でもスッてやろうかと思ったがどうにもそこまで甘ちゃんというわけではないらしく、最低限の警戒はつねに私へと向けているようだった。
「牢に戻れ」
「ん、お疲れ様」
特に手錠などはされておらず、脱獄の難易度は現実のものと比べればかなり低いと見ても良さそうだが、ステータスの概念がある事を考えると、絶対に気付かれてはならないという点があり、結局のところ高難易度である事に変わりはなさそうだ。
私は牢へと戻り天井を見上げる、ここの牢はカオリと一緒に入っていたところと違い個室のものとなっている。
牢の扉は何度か挑戦すればピッキングで牢から出るという事はそう難しくはなさそうだ。
「さて……どうしたものか」
針金などのアイテムは尋問などで牢から出る際に入手してインベントリの中に隠してある、エリスの言う通りゲームのような警備の緩さであり、ここに入ってからはインベントリのチェックは一度もされていない。
私の考える脱獄ルートはまずピッキングをし、そしてダクトへと侵入してその中を進むというものだ。
「ベタベタなルートだとは思うがどう思う? アマテラス」
「問題ないと思いますよ、しかし装備の場所は分かっているのですか?」
「あぁ、見張りの兵士が場所をベラベラ話してたからな」
兵の密度は高いようではあるが、その分暇を持て余した兵士がベラベラと色々な情報を吐いてくれるのが今いる収容施設だ。
正直なところ情報が大量に転がってくれているおかげで前の所よりも脱獄するという意味では楽に感じてはいる。
「よし、じゃあ早速こんな所とはオサラバといこうじゃねえか」
ピッキングツールを取り出して牢の外へと手を出して鍵穴へとそれを突っ込んで適当にいじくり回す。
いくら俺が元強盗とは言ってもここまで器用な事は生前は出来なかった、しかし今ではステータス補正もあってか錠前破りだとかのスキルが無くとも簡単な鍵であればそれっぽい動きをすれば解錠できるようになっていた。
「手際がいいですね、ステータスは軒並み大きく低下しているので注意してくださいね?」
「分かってるさ、とりあえずは脱出が最優先だ」
俺はアイテムの場所には向かわず、敵兵士の視線を躱しながらダクトへと侵入し、そのまま外へと向かう。
「いいんですか? アイテムの所有権が失われてしまいますが……」
「問題ない、もしも盗られるようなら盗り返せばいいだけだしな」
まずはこの貧弱な状態をどうにかしなければならない、装備を取り返したところで素のステータスが貧弱ではアリが爪楊枝を装備したようなものだ。
となればリスクはあれど一度脱出し、ステータスを元に戻してから急いで装備の回収に向かうのがいいだろう。
俺は通気口から抜け出して、そのままステータスを確認しながら外へと走り続ける。
「っと、ここで脱出判定か」
ステータスが元に戻ったのを確認すると同時に俺は足を要塞へと向けて走り出す。
「さて、どう攻略してやろうかな?」
俺は無意識に口角を上げながら再びダクトへと侵入する事とした。
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