73話 狙撃手

 相手は慎重なタイプなのか、それとも単純に射線が通っていないのか現状次弾が撃ち込まれるという事は起きてはいない。


「とりあえず次の武器庫を目指そう、防御バフは切らすなよ?」


「分かっています、次に撃たれる事があったら今度は位置を割り出して見せます!」


 俺達は出来るだけ視線の通らない路地を警戒心をフルに発揮して街中を駆け抜けていく。

 次の目標地点は開けた場所にある為にどうやっても最終的には敵の射線に乗ってしまう事になるにはほぼ確実だ。


 この世界ではキロ単位でのスナイプどころか200mでも射程がそもそも足りなくなるような銃しかないはずだ、何かしら例外的にユニーク武器として実銃に近いスペックのものが存在するかもしれないが、その可能性は極めて低いと見ていいだろう。


 どこかしらからか狙われているというプレッシャーは大きい、特にいくら死なないとは言っても痛いものは痛い、こんなものを再び受けるというのは御免被りたいものだ。


「くっ……!?」


「撃たれたのか!?」


「はい、しかし不意打ち補正は入らなかった上に防御魔法もかけていたのでダメージは問題ありません!」


「なら良かった、位置は分かったか?」


「勿論、やられてばかりでは悔しいですしね……ただ常に屋根の上を移動しているようで見つけるのは厄介そうです」


「屋根の上か……どうにかして登るか」


 この辺りの建物の高さはほぼ一定であり屋根も若干の傾斜があるが足場として利用できないわけではないようだ。


「位置が分かったならやりようはある……が、詠唱させてくれるかどうかが問題なんだよな」


「屋根の上に範囲魔法を使うつもりですか?」


「そりゃな、屋根の上に民間人はいないだろ」


「わかりました、では私が詠唱します」


「頼んだ、カバーする」


 刀で矢打ち、弾打ちする事は可能だが弾丸で弾丸を弾けるのかはまだ試してもいない、ちょうどいい機会だろう。

 恐らく敵は死角から射撃してくるはずだ、足場は決していいとは言えず足音を立ててしまう可能性というのは非常に高い。


「魔力展開、氷界構築、全てを凍てつかせ――」


「詠唱中の射撃はご法度だぜ!」


 甲高い銃声が鳴り響くと同時に俺も反射的に銃口を上へと向けて発砲する。


「アブソリュートゼロ!」


「クソッ……!」


「ぐぁっ!?」


 流石に銃弾同士をぶつけるという事は出来なかった、というか弾打ちは正直なところ剣術スキルによって体が勝手に反応しているようなもので、視認して叩き落としているというわけではないのだ。

 結果としてお互いの弾丸がお互いを命中し、屋根上の男はさらにそこにカオリの魔法が襲い掛かった為に地面へと落下してきていた。


「スナイパーなんて厄介な野郎だ、まだやるか?」


「いや、降参だ」


「潔いですね、てっきり抵抗するものかと」


「俺はあくまで奇襲型特化さ、正面きっての戦闘なんて魔物相手ならまだしも対人なんて出来たもんじゃねえさ」


「ミズガルズの傭兵か? それとも気紛れ起こした冒険者か?」


「一応は前者さ、つっても弱すぎてこうして前線にも出されてないわけだけどな」


 男はその場で胡坐をかいてやれやれと言った様子で銃をインベントリへとしまう、男から戦意は感じられず、どこか諦めのようなものも感じ取られる。


「何ならアルフヘイム側に寝返ってみないか? こっちは人数不足だからすぐに前線にも出られるだろう」


「稼げんのか?」


「経験値って意味か? まぁ稼げはするだろうが……プレイヤーと鉢合わせする事も多い、引き際は大事だと思うな」


「なるほどな、悪くない話だ……一応俺のステータスを見せておく、手の内を明かした方が信用してもらえるだろうしな」


 男のレベルは32であり、スキルの名前を見た所隠密特化のスキルが並び、能力値は軒並み普通……とは言ってもNPCと比べればやはり高いものであり、ある意味理想的なもののように見えた。

 しかし対人戦闘はアクションゲームにおいて誤差のようなものだ、ステータスは重要だがそれ以前に対人戦闘では要求されるプレイヤースキルが高すぎるのだ。


 加護はマイナーどころのようで盗賊だとか商人に信仰された地方神のようなものなのだそうだ。


「ま、一先ずは一緒に行動してもらうぞ、あと一応言っておくが寝返りを認めてもらえるかどうかはこっち側の指揮官次第だ」


「分かってるさ、認めてもらえなさそうなら適当に逃げるとするよ、俺はルフレイだ」


「俺はエリス」


「私はカオリです」


 カオリは彼を警戒するような目で観察している、先ほどまで俺達に敵意を見せていた相手だ、この反応は普通だろう。

 俺は相手を知る為にも雑談をしつつ次の目標へと向かう、カオリも徐々に警戒心を解いてきたようで会話の輪へと加わるようになっていた。

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