68話 救出
牢に手をかけてこちらへと声をかけてきたカオリは、まるで友人が遊びに来たかのようなテンションであり、特に何かされたような様子は無さそうだ。
見張りの兵士も近くにはいないようでミネルヴァ達による間接的な会話を一度中断する。
「大丈夫か? それにサラの姿が見えないけど……」
「サラさんは別の収容所へと昨日移動させられました……ここに残っているのは私を含めた一部のプレイヤーと他の兵のみなさんだけです」
「思ったよりも大所帯になっちまうな、こりゃ静かに逃げるってのは難しそうじゃないか?」
「一気に逃がすとなるとそうだな、ただちょっとずつ逃がすくらいなら大丈夫だろ」
「おいおい、何もせず逃がすってのか? ここも敵国の基地なんだ、いっそ荒らしちまった方がいいだろ?」
どうやらカオリ以外の兵はここで一矢報いたいと思っているらしく、ただでここを出るつもりはないようだ。
「カオリは一回外に出さないとダメなんだろ?」
「そうだね、何かするなら一回外に出てから戻って来るって形になるよ」
「となると……まずカオリだけ脱出、その後に皆を連れ出すって形になるか」
カオリが無力化状態ではNPCの兵よりも貧弱という事になってしまう、しかし手間ではあるが一度連れ出してしまえば強力な戦力として1人加わる事になる、暴れるにしてもこちらの方が圧倒的に有利になるだろう。
「とりあえずここから出すには……ま、鍵が必要だよな」
「持ってきてなかったんですか?」
「すっかり忘れてた」
「はぁ……恐らく鍵は看守室にあると思います、あまり強くは無いみたいなので苦労はしないと思いますが……この基地にもプレイヤーはいるみたいなので注意してくださいね」
「そいつらの実力ってのは分からなかったか?」
「正直言ってそこまで強くは無いですね、条件次第では一撃でも倒せるかと」
「ヒュウ、イイコト聞いたなエリス」
「ええと……パウリさんでしたっけ、あなたでは厳しいかと思います」
「マジかよ……てか名前覚えててくれたんだな、嬉しいぜ!」
「そういやティウの姿が見えないけど……あいつ元気か?」
「ここにいますよ? 恐らくこの牢越しでは干渉できないのではないでしょうか」
ミネルヴァが叫んでも返事が無かったのはこの檻のせいなのだろう、ちなみにカオリにもミネルヴァの姿が見えないらしい。
一先ず俺達は看守室へと向かう事にした、ここに来るまでにそれらしい部屋は見なかった為に恐らくそれがあるのは上層階だろう。
さらに俺達は荷物が保管されている場所も探さなければならない、看守室に地図でもあるといいのだが。
巡回の兵士をやり過ごしつつ俺達は上層階へと向かう、そして2階にてついにそれらしい部屋を発見する。
その部屋は普通の部屋となんら変わりないのだが、中にいる兵士の強さが他に比べると強い兵士であり、壁には鍵入れの箱が設置されているのだ。
さらにその部屋には宝箱が設置されており、何かしらのアイテムが入手できる可能性もあるようであった。
「それっぽい部屋だね、どうする?」
「制圧するのが一番じゃないか? どっちにしろ暴れるなら数を減らしておいた方がいいだろう」
「エリスが範囲魔法を使うってさ、今回は手加減できそうにないみたい」
「了解だ」
魔術師のスキルのおかげでこの部屋だけを攻撃する事は可能だ、しかし全員似たような強さとは言ってもやはり個人差というものがある。
気絶というのはあくまで死にかけの状態である為に、それを武器品質の関係のない魔法で作り出すという事は出来ないのだ。
俺は意識を集中させて魔法を発動させる、気付かれてしまっては隠密攻撃によるボーナスが入らない為に詠唱は行わない。
「――ッ!?」
部屋の中の兵士達を凍てつく空気が襲う、俺が今回使用したのはフロストバイトだ。
一瞬で兵士達が凍り付いたかと思うとそのまま氷漬けとなった兵士が光となって消え、部屋が静寂に包まれる。
「部屋に入らなくても攻撃可能って強いよねえ」
「極端な話敵しかいないなら基地を丸ごと攻撃するのも可能だからな、ま、そんな事する機会なんてそうそうないだろうが」
パーティーを組んでいなければ味方も巻き込まれてしまう、更にそれほどの広範囲を攻撃できる魔法となると詠唱込みの上級魔法、もしくは神聖魔法くらいしかないだろう、コスト面、隙の大きさを考えても現実的な手段ではない。
看守室には鍵がかかっていないようでアッサリと入ることが出来た。
宝箱の中には大量のアイテムが入っているようではあったが、それを入手する事は出来なかった。
どうやらこの宝箱には捕虜のアイテムが保管されているようで、他の宝箱とは違い、俺達では中を確認する事しか出来なかった。
「カオリを連れてまたここに戻って来る感じになりそうだな」
「そうだな、とりあえず戻るか」
道中の兵士を気絶させて空き部屋へと放り込みつつ牢へと戻る、カオリの装備を取り戻すまでは何も問題なくスムーズに事は進み、カオリはいつもの魔法使いのような恰好へと戻っていた。
他に捕まっていたプレイヤーも解放し、彼らも装備を取り戻してそれぞれの見た目が冒険者らしい見た目へと変わっていく。
「ありがとな、助かった」
「いいって事よ、さて……普通の兵士達はひと暴れしていくみたいだけどお前らはどうするんだ?」
「俺は素直に逃げるよ、別に恨むような事はないしな」
「私は戦うよ、一応アルフヘイム騎士団所属なわけだしね」
他のプレイヤーの中では意見はバラバラのようで、基地制圧に参加するプレイヤーは半分ほどのようだ。
「それじゃ暴れるヤツらは戻るぞ」
「俺たちは先に戻る事にするよ、また捕まるんじゃないぞ?」
「大丈夫さ」
一部のプレイヤーは脱出した後に自分達の拠点へと戻っていった、NPC達は俺たちが合図するまで大人しくしておいてくれと伝えてある為に今の所大きな騒ぎにはなってはいない。
俺たちは基地でひと暴れしてから帰る組だ、助けるだけ助けて放っておくのもしのびないものだ。
NPCと一部プレイヤーによって始まった捕虜の脱走による攻撃は清々しい成功を見せ、敵のプレイヤーの攻撃も俺とカオリによって全て簡単に受け流され、こちらの損害は多少の怪我人だけという結果となった。
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