69話 休息

「2人だけで捕虜の救出、そして敵基地の壊滅……2人共よくやってくれた!」


「俺は何にもしてないんだけどな! すげぇのはコイツさ!」


「観測してくれるってのは結構助かるもんさ、ありがとなパウリ」


「へへ、照れるぜ!」


「ただ……いい話ばかりでもない、こちらも捕虜施設が襲われて一部の捕虜を奪還されてしまった、うちの管轄ではないもののアルフヘイムとしては痛手に変わりはない」


 アルフヘイムとミズガルズの戦況はまだ戦争が始まったばかりで何とも言えないが、各所からの情報によるとやや状況不利といった状態のようだ。

 一部アルフヘイムの領土への侵攻を許してしまっているが、これの奪還は他の部隊が作戦に向かうようだ。


 俺達の次の作戦はミズガルズにある分拠点として利用されている村の攻略、そのままミズガルズへの侵攻の足掛けへとするというもののようだ。


「今は負傷兵の回復、次の作戦決定まで休暇だ、休暇とは言っても自主トレーニングは怠るなよ?」


「それに関しては問題ないさ、とりあえず休むか」


「あぁ、カオリも救出出来たし俺はパーティーから抜けるぜ」


「もう抜けるのか?」


「あぁ、また機会があったら組ませてもらう事にするさ」


「分かった、カオリには伝えておく、短い間だったがありがとな」


「おう、こっちこそいい経験になった、ありがとな」


 この場にカオリはいない、カオリは一人別室へと呼ばれており、恐らくそこで捕虜として過ごしていた時の事を聞かれているのだろう。

 パウリはパーティーを解除し、どこかへと去って行った。


 負傷しているNPCに回復魔法をかけてHPを回復させる、他のプレイヤーも同じように兵士の回復を手伝っている者がいるようだ。

 しかし負傷兵の数が多く、ハイペースで回復させたとしても立ち直るのは数日先にはなりそうだ。


「サラの神器解放が使えればな」


「非戦闘時だし難しいんじゃないかな、ダンジョンってわけでもないし使うための専用魔力が溜まらないと思うよ」


「それもそうか」


 通常時では神器解放するためのゲージは溜まらない、それに溜まるとしてもサラがいない現状どうしようもないものだ。

 現在は人のいなくなった村を拠点としており、俺達は屋外テントで生活をしている。


 一応家を借りることも出来たのだが、部隊の人数が多い為に当然シェアハウス状態だ、俺とサラは稀にBGMを流して遊ぶ事もある為に他の兵士に迷惑だろうという事で家は借りていない。


「エリスさん、ここにいたんですね」


「カオリ、話は終わったのか?」


「はい、正直知っている事は殆ど無かったのですぐ終わりましたよ」


 特に情報を引き出されたりという事もなかったらしい、そもそも俺達はただの傭兵のようなもので戦況を大きく変えるような情報は渡されてはいない。

 相手もそれが分かっているのか捕まって装備を剥がれた後は特に何も問題は無かったそうだ、提供される食べ物も味の良い物であったようだ。


「しかし……それも今回収容された場所がそういう所だった、というだけで、場所によっては非人道的な事もされるという噂は耳にしました」


「なんてこった……」


 捕虜の扱いはやはりその場の最高権力者によって変わるそうだ、噂では一部の収容所では捕虜に対しての扱いが酷く、拷問のような事を行う者もいるとの事だ。

 幸いにもアルフヘイム側でそういった事は聞いたことが無いが、ミズガルズ側に捕らえられたままのサラの安否が心配だ。


「一先ず今は私たちのするべき事を優先……するべきなのでしょうね」


「あぁ……サラの救出も早くしたいところなんだが」


「情報が無いですからね、サラさんなら意外とアッサリ自力で脱獄するかもしれませんよ?」


「ま、可能性としてはあるな」


 消費したMPは自然回復するのを待つため、俺は正直なところもうする事は殆どない。

 狩りによってレベリングを試みるという事も可能だが、戦争中はどうにも魔物の湧きが渋いようでレベルを上げるという事は出来そうにない。

 その為に適当に音楽を聴く程度の事しか出来ないのが痛い所だ。


「それって演奏は出来ないのでしょうか」


「どうなんだろうな、ミネルヴァ、ティウ、どうなんだ?」


「んーと……どうだっけ?」


「出来たはずだぞ、暇つぶしにリズムゲームのような事だって出来たはずだ」


「へぇ、それはいいな!」


 リズムゲームをする場合は譜面は自動生成されるらしく、暇つぶしにはもってこいのようだ。

 自分で演奏する場合は楽器を自分で作る必要があるようで、この時の楽器は特に何とは決まっておらず、ギターやキーボード、好きなものを作れるのだそうだ。


「演奏か……面白そうだが出来るかな」


「見た目はあくまで雰囲気だから問題ないぞ、この世界で演奏は2つの方法がある。1つは自分の魔法で演奏する方法、もう1つは楽器を演奏する方法だ」


 前者の場合楽器はただのハリボテとなり、ただ単純にBGMの垂れ流しに近い形となるが、後者の場合はキチンとした楽器を入手する必要があるらしい。


「何か落ち着く音楽でも流すのもいいのではないでしょうか、エリスさんは色々音楽を知っていらっしゃるみたいですし」


「なるほどな、迷惑にならないなら何かしらやってみるか」


 とは言っても落ち着いた雰囲気の曲というのはあまり知らない。

 俺はキーボードを出現させてハードコア調のレクイエムを演奏する。

 レクイエムは本来死者の安息の為の曲であった気がするが、正直なところ俺はこういった哀愁漂う曲というのは好きだ。


「いい曲ですね、どこか悲しくなるような気がしますが」


「そういう曲だからな、やめといた方が良かったか?」


 今回はBGMの魔法の垂れ流し状態だ、リズムゲーム感覚でしてもよかったのだがそれでめちゃくちゃな演奏になってしまっては大問題だ。

 鍵盤を適当に叩きつつも非常に透き通った音色がその場に響き渡る、兵士達は目を閉じて俺のハリボテキーボードから流れる音楽にリラックスしているようであった。


「いずれはちゃんと自分で演奏したいもんだな」


「練習あるのみ、ですね」


「カオリも何かしらしてみたらどうだ?」


「考えておきます」


 お互いMPを使い果たし、それぞれのテントへと入り次の行動命令が出るまで俺たちは待機する事となった。

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