67話 潜入
「そういや敵はどうすんだ? 殺すのか?」
「可能な限り殺しはしたくないな、死なない程度に加減して気絶させるのが一番だろう」
「ってなると加減しないとダメか、結構難しそうだ」
「これやるよ、武器の性能さえ落とせば案外簡単だからな」
低性能のハンマーをパウリへと渡す、最近は武器の売却が面倒になってきていてインベントリにこうした低性能の武器は結構な数がある。
正直なところゴチャゴチャしているのはどうかとも思うがこうして役に立つ事があるというのが困るところだ。
「基本的には俺が前を行く、パウリは周囲警戒をしてもらっていいか?」
「OK,任せろ」
捕虜が収容されている建物がどれかは分からない、絆の腕章もダンジョンではないからか効果を発揮してはくれないようだ。
俺達は可能な限り気配を殺しながら裏門へと回り込む。
「見張りは2人、どうやら交代してはいないようだな」
「あぁ……そういやもしも相手が死んだらどうするんだ?」
「その時はその時さ」
正直なところ隠密攻撃による補正もある為に低性能の武器とは言っても俺のステータスの高さでは一撃で葬ってしまう可能性と言うのは十分あり得る。
俺は銃を消音化し、照準を見張りの1人へと合わせて機を伺う。
「俺にも銃のスキルがありゃ楽だったんだが」
「仕方ないさ、俺達みたいに全部手を付けてるヤツなんてそうそういないはずだしな」
「撃つぞ」
「おう」
俺の放った銃弾が見張りの1人へと命中する、見張りは光になる事無くそのままドサッという音と共に地面へと倒れ込んだ。
その音が聞こえたのかもう1人の見張りがそちらを見るが、それと同時に俺が次弾を放つ。
銃弾を受けたもう1人も上手く気絶させられたようで同じようにして地面へと倒れた。
「OK、ナイスショットだエリス」
「サンキュ、とりあえずあの2人を隠すか」
治療されない限り、死ぬことは無いだろうが起きる事も無いだろう。
見張り小屋の隅へと2人を担ぎ込みこの場を去る、どの建物に捕虜がいるか、そして荷物が保管されているかはどうにかして情報を引き出さなければならない。
「サラなら結構すんなりいけるんだろうけどな」
「サラってあの金髪の子か?」
「あぁ、こういう手の事なら得意そうなヤツでな」
「へぇ……」
窓を開けて一番大きな建物へと侵入する、どうやら物置のようで中は薄暗く、そして埃っぽかった。
ここから先はお互いの相棒を使用した会話へと変更する。
「俺たちが代弁するなんて変な気分だな……」
「ま、実際私たちが見えるのって後は2人だけだし理にはかなってると思うよ」
「それなら2人の相棒に叫んでもらえばいいんじゃないか? どれだけ大声だしても他には聞こえないなら大声で話しても問題ないだろ」
エンキの発言はもっともだ、アマテラスかティウに叫んでもらうか2柱のどちらかと合流できれば捕虜として収容されている場所は簡単に割り出すことが出来るだろう。
「アマテラスー! ティウー! いるー!?」
「うおっ!?」
「ちょっ……」
「流石にデカすぎやしないか……?」
思わず俺とパウリは耳を塞ぐほどの大きさでミネルヴァが叫んだ、しかしその声に対する応答は無く、ただ俺たちの鼓膜へとダメージを与えただけであった。
そもそもそういう声だとかも遮断するものである可能性だってある、ゲームであればパーティー有利を打ち消すための調整がされていてもそこまで驚きはしない。
「うーん……どうなんだろう」
「エリスは何だって?」
「そういう類の事が出来ないようになってるかもってさ」
そして先ほどミネルヴァの声に驚いてしまったパウリの声を聞かれたのか誰かがこちらへと歩いてきているようだ。
「隠れるぞ」
「そうだね!」
俺たちは適当な物陰に隠れて見回りに来たミズガルズ兵を観察する、どうやらごく一般的な兵士のようで強さで言えばパウリでもどうにか出来るような強さだ。
「エリス、いっそ仕掛けて情報を聞き出してみるのもアリじゃないか?」
「どうだろうね、こいつが何かしらの指示を受けて見に来たならこのまま潜んでた方がいいと思うけど……エリスも同感だって」
下手に手を出すのは正直なところ怖い、今はまだ様子見しても問題ないだろう。
「気のせいか?」
男は首を傾げつつも部屋から出て行った。
俺はその足音が遠ざかるのを確認してから続いて外へと出る。
内部は捕虜施設とあって複雑であると想定していたのだが、これが意外とシンプルな作りになっていた。
例えるならば小学校や中学校のようなものとでも言えばいいだろうか、しかし同時にそれのせいで視界が通りやすく、相手の足音を聞き漏らせばすぐに見つかってしまうような危険な場所だ。
「空き部屋は多いみたいだからここを使って見張りをやり過ごすのもいいかもね」
「だな……っと、エリス、早速隠れた方が良さそうだ」
とは言ってもこちらには相手には見られないミネルヴァとエンキがいる、彼らに少しだけ先行してもらう事で鉢合わせるという事態には現状至ってはいない。
俺達は時々こうして空き部屋に隠れつつ施設の中を探索していく。
地下へと下りてみるとそこは牢屋が多く並んでいた、まるで大衆用の監獄のようなものではあるが、清潔感があり、俺達の姿を見たエルフのNPC達が驚いた表情をしつつも声を出さずにいた。
「エリスさん……?」
そんな中聞き覚えのある声がした、普段着姿のカオリの姿がそこにあった。
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