64話 甘い思考
俺たちは2人のプレイヤーを捕虜施設へと預け、補給地点である集会所へと来ていた。
「早速捕虜を獲得するとは……流石だな」
「レベリング依頼と練習のために訓練場を貸していただいたおかげさ、戦況はどうだ?」
「まだ開戦したばかりだからな……ただ予定よりはかなり善戦しているのは確かだ、君たち以外の冒険者も予想以上の成果をあげてくれている」
机には作戦地図が広げられており、現状の戦況が確認できるようになっているらしい。
アルフヘイムはどうにか拮抗できているようで犠牲は出つつも戦線を維持しているようだ。
「戻るか」
「だね、ここで休んでるヒマはないよ」
魔導ボードに跨り前線へと復帰する。
人間もエルフもそれぞれが雄叫びをあげつつお互いを攻撃し合う、当然悲鳴をあげつつ光となって消えていく者が視界から消える事は無かった。
「クソッ……」
「今更怖気づいてんのか? 後ろにいていいんだぜ?」
「エリスさん、中途半端な覚悟ではいくら力があっても危険ですよ」
「分かってる、でも俺が前に出ないと助からない命もあるんだろ?」
「当然だ、どっちを殺してどっちを生かすか決めるんだ、お前が後ろに退くってんならその分エルフを殺す事になる」
「私とサラさんは先に行きますよ、うかうかしている暇はありませんからね!」
サラは魔導ボードに乗ったまま両手に銃を構えて連射し、カオリは魔導ボードから降りてロングソードとレーヴァテインによってミズガルズ軍を一掃する。
その攻撃にためらいはない、2人によって攻撃された人間の殆どが光となって消えていく。
俺が前に出れば同じようにNPCの人間は光となって消えてしまうだろう、過去に1人殺しておいて今更と思うだろうが英雄適正はどういうわけか都合よくこの不安を打ち消す事は無かった。
「ミネルヴァ、戦争前はあんなに自信が湧いたってのにどうしてこういう時に限ってこうなんだ?」
「戦わないと、とは思ってるんでしょ? 単純に最低限の補助しかしてくれないんじゃないかな」
「思ってはいるさ、でもそれ止まりじゃ意味なくないか?」
「参加しただけでも意味はあるよ、実際敵の大物は捕らえてるしね……あの活躍だけでも十分英雄的だと思うよ、私は」
こうしている間にも人間とエルフが次々と死んでいく、もしもこれが本当にゲームなら俺も躊躇なく殺す事が出来ただろう、しかし上っ面だけの覚悟で実際に大量殺人の英雄となるだけの覚悟は俺は抱けてはいなかったらしい。
俺へと矢を射るNPCの目は完全に殺意が籠っている、当然だ、殺さなければ殺されるのだ、俺はその矢を軽く大太刀で切り落として対処する。
俺がここでこうして無駄に考えられるのは皮肉な事に強いからだ、もしも弱かったならばこんな事を考える余裕も無く戦う事が出来たであろう。
「助け……ぐあッ!!」
「なっ……」
不意にエルフのNPCを目が合った、特に話した記憶もない正真正銘モブと言ってもいいような存在だが、それでも彼の助けを求める目は俺に完全にすがったものであった。
俺が助けるかどうかを判断する前にNPCである人間によってそのエルフは光となって消えてしまった、エルフを殺した人間は俺へと武器を振りかざして攻撃を加えようとしてくる。
「死ねええぇぇっ!!」
「クソッタレ……!!」
たった今俺はエルフを見殺しにした、誰も傷つかず死なない戦争なんてものは無いのだ。
俺の中で何かが弾けたように体が勝手に動き出す、相手の剣を体を軽く捻って躱し、そのまま敵に背を向けつつ刀を自分のわき腹近くへと突き刺す。
「ガハッ……クソ……野郎……」
レーヴァテインはNPCの腹を深々と突き刺し、その一撃だけで彼のHPは0になったらしく光となって彼は消えていった。
人間を殺してエルフを守る、俺はそう誓ったのだ。
「ミネルヴァ、力を貸してくれるか?」
「言われなくても、ただ甘やかすつもりはないからね?」
「ありがとうな」
カオリとサラは散開してそれぞれNPCを蹴散らしているようだ、カオリは地面を自らの足で駆けて討ち漏らしなく敵を殲滅し、サラは魔導ボードに乗ったまま大雑把にではあるがかなりのペースでNPCを2丁の銃で撃ち抜いている。
「よし……いくぞ」
「頑張ろう!」
俺は魔導ボードに乗り、レーヴァテインを槍へと変化させる。
プレイヤーのいない場所へと向かい、NPC同士の争いに割って入る。
「お前らに恨みはないが……討ち取らせてもらう!」
魔導ボードですれ違い様に槍を人間へと振るう、エルフに当たらぬようあまりにも味方に近い人間は屠れないがそれでも敵の兵をかなりの数をなぎ倒す事が出来た。
「おおおおぉっ!!」
「今だ! 一気に攻めろ!!」
エルフから歓声が上がり、崩れた敵へと一斉に魔法が放たれる、俺たちのいる戦場は少なくとも現状は優勢だ、更にその攻撃に拍車をかけるように俺たちを優しい光が包み込む。
「サラとアマテラスか」
「だね、にしてもすごいねあの鏡」
「日本に来るときは三重県の伊勢神宮を参拝してやってくれ、内宮はいいぞ」
サラが神器解放をし、アルフヘイム側の兵士の傷が一斉に癒され、さらにこちら側の勢いが増す。
しかしその攻勢と同時に魔導ボードに乗った人間の3人組が姿を現す。
「神器解放なんて厄介な事しやがって……回復系か? 回復と俺の破壊、どっちが先か勝負しようや」
「無理はしないでねバート、味方まで巻き込んだら流石に怒られるし」
「心配すんなって、味方はほぼ壊滅状態……ぶっ放すなら今だろ?」
能力看破で彼らの強さはすぐに分かった、俺たちと同等、もしくはそれ以上だ。
男2人に女1人だ、男の1人から強い魔力が放たれ、弓を手に腰に1枚布を巻いた長髪の容姿へと変化する。
「神器解放……? マズい!」
「あの弓かなりヤバいよ! いくら神器解放中でもまともにくらったら……!」
「分かってる!」
俺は咄嗟に魔導ボードに乗り、サラのもとへと近付く。
サラの八咫鏡のおかげで神器解放までのゲージは溜まりかけてはいるものの発動はまだ出来ない。
「守護神アテナの力を借り、今こそ絶対の守護を! 我らアルフヘイムの民を破壊の手から守りたまえ! アブソリュートガード!」
「エリス!?」
サラがアブソリュートガードの範囲に入ると同時に詠唱し終える、アブソリュートガードの防御範囲は魔力消費を増やす事で拡大する事が可能だ。
丁度魔法が展開されると同時にバートと呼ばれていた冒険者から矢が放たれる、その矢は天へと高く飛翔したかと思うと、閃光を放った。
「敵の神器解放だ! みんな防御姿勢を!」
基本的に魔法は展開した後に維持する必要は無い、これは一度展開すれば気を抜いても大丈夫と言うメリットがあるが、同時に力比べで魔力を流し込んで耐えるという事が出来ないというデメリットがある。
アブソリュートガード内部の味方兵は生きているが恐らくこれの外にいる兵士は即死だろう。
「クソッ……破られる!」
「死ぬ気で防御しろ! 手を抜いたら文字通り死ぬぜ!」
俺たちは防御バフを惜しみなく行使する、サラも八咫鏡に全力を注ぎ込んでいるようでかなり強い光を放っている。
アブソリュートガードが破られるその時はすぐであった、ピシッとヒビが入ったと思うとほぼ同時に俺たちの視界は真っ白に塗りつぶされた。
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