65話 敗戦

 気が付いた時に残っていたのは俺とサラだけだった、詠唱によって効果を高めたアブソリュートガードとバフ魔法でかなり威力は殺せたはずなのだがそれでも三分の一程のHPを削られていた。

 見回すと少し離れた所に地面に大剣を突き刺してそれを盾にしたのかどうにかあの爆発を耐えたカオリの姿もあった、神器解放で無理やり耐えたらしい。

 他にも行動不能となったプレイヤーの姿が散見される、あの爆破の範囲内にいたNPCは全員やられたようだ。


「サンキュー、助かったぜエリス」


「あぁ……ただ守れなかった命も多い」


「失っちまったもんは戻らない、後悔するなら次が無いようにするべきだな」


「慰めてはくれないんだな」


 カオリはすぐに立ち上がり、こちらが無事なのを目で確認するとすぐに3人組へと攻撃を仕掛けていた。


「バートの一撃を耐えたのは3人か、結構タフなやつもいるじゃん」


「英雄様の攻撃を受けても倒れないか、向こうも英雄だったりしてな」


「はああぁっ!!」


「おぉっと」


 カオリが切り込むのと同時にバートが弓を霧散させて三叉槍でそれに対応する、サラは神器解放の効果が終了してしまったようでいつもの金属鎧姿だ。


「エリス、神器解放はいけるか?」


「あぁ、ただ相手もまだ2人神器解放を残していると考えていいだろう、下手に使うと負けるな……」


「とりあえずMP回復させてやれる事をするぞ、相手はプレイヤーだ、全力でやったって死ぬことは無い」


「おう」


 俺たちもMP用ポーションを飲みMPを回復させてからカオリへと続く。

 敵も俺達を警戒していたのかカオリとバートの殴り合いには参加せずに俺達がその場に来るのを武器を構えて待っているようだった。


「どうも、アルフヘイム側の加護持ちといったところかしら」


「そっちはミズガルズ側のプレイヤーってとこか? ワンチャン英雄適正持ち、ヒーローってところか」


「おたくらもヒーローさんか、ここはミズガルズ軍の勝ちって事で大人しく退いてもらえたりしないか?」


「難しい注文だね、雇われの身とは言っても仲間が殺されてるわけだし、おめおめと負けて帰って来ましたなんて報告が出来ると思う?」


「ま、ある程度はキチンとぶつかるのが筋ってとこだろうな、俺としちゃメンドイ事は避けたいんだよな」


「あんたらの名前だけ聞いておいていいか? 面倒事を避けたいってのは俺も同じでな……俺はエリス、コイツはサラで向こうで殴り合ってるのがカオリだ」


「あいつはバート、俺はクリフでこっちの大人しいのがカリーナだ」


 クリフはあまりプレイヤー同士の戦闘には好意的ではない印象を受ける、カリーナと呼ばれた女性も好戦的な性格というわけではないようで興味無さそうにしている。


「さて、自己紹介も済んだわけだし俺らも始めるか? エリス」


「やるなら悪いけれど速攻で決めさせてもらうわよ、無駄な消費は避けたいし」


「大した自信だね、でも私たちも簡単にはやられないよ?」


「神器解放が使えるとしたらエリスだけでしょう? こっちは私とクリフが使える、普通に考えればこっちが圧倒的に有利なのは明白よ」


「どうだろうな、ま……やるってんなら始めよう」


 カオリとバートはお互いに神器解放が切れている。

 バートの長髪は短くなっており、金属鎧に大剣を装備しカオリへと重く鋭い斬撃を繰り出している。

 それに対してカオリは双剣で相手の攻撃を流しつつ軽く素早い斬撃でこれに対抗しているようだ。


「向こうの戦いに手を出すのもなんだ、俺達は俺達だけでやろうぜ」


「OK、最初に神器解放してサラを狙うのは目に見えてるってのがイヤらしいな」


「エリスが彼女を守ればいいだけよ、それじゃ……いくわよ」


 カリーナが神器解放をする、その姿は和装であり、サラの神器解放と近い雰囲気を漂わせている。武器は所有していないようで、徒手、もしくは魔法に特化したものなのだろうと俺は推測する。

 続いてクリフが神器解放を行う、こちらも同じような和装ではあるもののこちらは矛を持っており、その矛をこちらへと向けて構えている。


「俺の相棒はイザナギだ」


「私はイザナミよ、さ……そっちの神器解放まで待ってあげる、時間切れを狙うようなら容赦なく襲うわ」


「日本神話の有名どころさんじゃないか、コイツは骨が折れそうだ」


 俺も神器解放を行う、うろ覚えだがイザナギとイザナミは最終的には離縁していたはずだ、神同士の相性で言えばある意味最悪の組み合わせなのではないだろうか。


「見た所西洋か? こっちは教えたんだ、教えてくれよ!」


「そう言いながら攻撃してくるヤツがあるか!」


 俺が神器解放を行うと同時にクリフが強く地面を蹴って俺へと矛を振るった、それと同時にカリーナが魔法を発動させて周囲に弾幕のような青白い玉が展開されたかと思うと一斉に俺とサラへと向かって射出された。


「一気に決めさせてもらうわ!」


「アテナ! 守りは十八番だろうし期待してるぜ!」


「任せて!」


 サラをかばいつつ盾で矛を防ぎつつ弾幕を槍と魔法で迎撃する、サラも俺が対処しきれない箇所の玉を見極めて射撃によって2人からの猛攻をどうにか凌ぐ。


「よりにもよってアテナか、面倒な野郎だな!」


「タダでやられるわけにはいかねえってんだ!」


「でもこれならどうかしら?」


 そうカリーナが言うと周囲に醜い姿をした女性が現れる、その数は10人ほどだろうか。


「ヨモツシコメです! 黄泉の者を召喚できるとは……」


「アマテラス、知ってんのか?」


「はい、イザナギ、そしてイザナミは私の両親ですから」


「マジかよ!」


「やっぱりそうですよね……サラ、俺から絶対離れるなよ!」


「おう!」


 ヨモツシコメの移動速度は非常に速い、しかし神器解放をしているおかげか2人の攻撃をいなしつつでもどうにか数を減らす事は出来ていた。

 しかしクリフとカリーナ、そしてヨモツシコメからの攻撃は激しいのは確かで、僅か10秒の時間を数分と勘違いする程度にはそれは激しかった。

 そしてついにこの戦況が動く。


「はぁっ!」


「クソッ……!」


 渾身の矛による一撃が俺の体勢を崩させる、そしてそこに放たれたのはクリフによる蹴りだ。

 俺はその蹴りを躱せず大きく吹っ飛ぶ、ダメージこそ殆ど受けてはいないがサラが孤立してしまったのだ。


「サラ!」


「こいつぁ無理だな……」


 次の瞬間、クリフの振るった矛がサラの体を捉え、連撃を加える。

 サラは苦痛に顔を歪めながらも数発はどうにか剣へと形態変化させたレーヴァテインで弾くも、カリーナの援護射撃がそれを許さない。

 さらにはヨモツシコメがそこに加わり俺が妨害する隙というのは完全に潰されてしまっていた。


 お互いに神器解放も切れ、いつの間にかカオリとバートの戦闘も終わっているようであった。

 倒れているのはカオリだ、どうやら俺達のパーティーで生き残っているのは俺だけのようだ。


「まだやるか?」


「クソッ……」


「私たちの負けだよ、エリスも倒すつもり?」


「エリスとやら、俺はバートだ、もしお前が望むなら3人で相手になろう……ただ、もしもその気が無いなら俺はお前を見逃す」


「どうしてだ? 俺とやり合った方がミズガルズは有利になるだろ?」


「まあな、ただ俺は戦争そのものはどうでもいい、ただスリルある戦いが出来ればそれでな」


「NPC達はその為なら死んでもいいってか?」


「あぁ、ただ勘違いはするな、好きで殺しをしているわけでもない、ここにいるって事はそういう覚悟は済ませたって事だ、それを生かして恥をかかせるのもどうかと思うからな」


「あんたはしっかり覚悟出来てんだな……」


「さて、どうするんだ? やり合うか、負けを認めるかだ」


 ここで全員倒れれば双方にとって利はない、サラは俺の事をじっと見て何かを訴えているようだ。


「2人は絶対助けるからな」


「そうしてもらわないと俺も張り合いがないってもんだ、次やり合う時を楽しみにしておくとするか」


「待って、これを君にあげるよ、ミズガルズ軍の捕虜収容施設の場所だ」


「いいのか?」


「あぁ、それじゃまた会うその日まで」


 3人はカオリとサラを担いで撤退していった、カオリは完全に気絶しているようでぐったりとしていたが、サラは俺の方を見てウインクをしていた、余裕のあるヤツだ。


「助けないとね、2人」


「勿論、1人でもやってやるさ」


 俺は2人を救出するために一度拠点へと引き返す事を決めた。

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