第四章 ミズガルズ戦争

63話 開戦

 俺たちが騎士団に加わってから9日でついにミズガルズからアルフヘイムへと宣戦布告され、戦争が始まった。


 俺たちは根を詰めてレベリングをしたおかげで開戦までにレベル38まで上げることが出来た為に、並大抵の雑兵に苦戦するという事は無いだろう。

 俺たちはここから国境に近い戦場へと配置される事となり、今は敵に動きがあるまで待機している形だ。


「本当に戦争になってしまいましたね」


「あぁ、ま……参加してしまった以上やるしかないよな」


「だな、気を引き締めていくぞ」


 シーグルの指示では俺たちは自由に動いていいという事になっている。

 他にもプレイヤーは10人ほどいるようで、彼らの強さは俺たちよりは下のようだ。


「あんたらもプレイヤーか?」


「あぁ、お前もそうみたいだな」


 声をかけてきたのは長身のエルフプレイヤーだ。

 細身な体つきではあるが背中には大きなハンマーを背負っている、タンク系か物理火力系のプレイヤーなのだろう。


「俺はパウリだ、フルネームならパウリ・ヤンホネンだ」


「へえ、フィンランド人か?」


「よくわかったな! ひょっとしてお前も同じか?」


「いや、俺は日本人だ……ここでの名前はエリスだけどな、友人がラリー系が好きでな」


 大抵〇〇ネンという名前はフィンランド人だと教えてもらった事がある。


「女の子が2人もいるなんて贅沢なヤツだな!」


「はは、パウリはソロなのか?」


「あぁ、誰かと一緒に行動するのは苦手でな」


「その気持ちは分かる、一人なら行動もしやすいしな」


「だよな……っと、指揮官様から何か話があるみたいだな」


 馬に跨ったシーグルが戦列の前へと出る。

 騎士団の兵士たちは皆それに気付くと雑談をやめてシーグルの方を見やる。


「先ほど伝令から情報があった! 間もなくこの地を無理やり開拓しようとするミズガルズの野郎共が姿を見せるだろう、我らの自然を守る為遠慮せずヤツらをぶちのめせ!」


 NPC達がその言葉に雄叫びをあげる、どうやら他の地では既に戦闘が始まっている箇所もあるらしい。


「それじゃあ頑張ろうぜ、もし捕まったら助けに行ってやるよ」


「そっちこそやられるんじゃないぞ、それじゃ健闘を祈る」


 パウリと別れて戦闘開始に備える。


 まず俺たちは後方から弓術による一斉範囲攻撃を仕掛けるつもりだ、バフはかけず可能な限り敵NPCを先頭不能状態に留めるという考えだ。

 この戦い方だがほぼ俺のワガママだ、サラとカオリは最初からバフをかけて一掃するという考えであったのだが、家で帰りを待つ家族が相手にいると考えるとどうしても俺はそれをするだけの気にはなれなかったのだ。


「上手くいくのかなあ」


「エリス、最悪の場合は私は本気でやりますからね」


「あぁ、最終的に決めるのは2人さ、綺麗事ってのは俺も分かってるつもりだしな……」


 そう会話していると同時に敵の姿が丘の上へと見られ始めたと思うと、すぐに敵の騎馬隊、そして魔導ボードに乗った敵のプレイヤーの姿がゾロゾロと現れ始めた。


「攻撃開始!!」


 シーグルの声が丁度響き渡る、それと同時にこちら側のNPCや弓などの武器を構えた射撃隊が一斉に射撃を開始する。


「一気に決めるぞ!」


 俺たちは上空へと矢を放つ、弓術のアローレインだがマルチショットを使っていない為にその降り注ぐ本数は大したことがない。

 それでもNPCからすれば脅威であり、次々と騎馬隊が落馬し戦闘不能に陥る。


「やっぱプレイヤーは突っ込んでくるよなぁ」


「迎撃しますよ!」


「援護は任せて!」


 魔導ボードで颯爽と矢を回避してすぐにこちらの騎馬隊とプレイヤーがかち合う。

 NPCの騎馬隊では歯が立たないようですぐに何人ものエルフが倒れ、光となって消えていくものもいた。


 俺たちも魔導ボードに乗り、それぞれが得意とする得物へとレーヴァテインを変化させて前線へと向かう。


「クソッ……人間風情が……ぐああぁっ!」


「このクソッタレエルフめ! なっ……!?」


 エルフと人間がそれぞれの武器を振るい互いを殺し合う、その中でも敵プレイヤーの殲滅力は非常に高く、まさにミズガルズ側からすれば英雄と呼べるそれだろう。


「コイツらは私たちが引き受けるから一回退いて!」


「っと、お前らプレイヤーか……人間なのにエルフ側についたんだな」


「あぁ、どこぞのヤツが巨乳美人好きでな……ま、死にはしないんだ、全力でどつき合いといこうぜ」


 まだ息のあるエルフに回復魔法をかけて一度後ろへと退いてもらう、範囲魔法に巻き込まれて死なれたら困るというものだ。

 敵プレイヤーは6人、恐らく男4人のパーティーと女2人の2パーティーだ。

 能力看破によると彼らは大してレベルが高いというわけではないようだ、恐らく2人までならシーグルでも相手出来るだろう。


「3人で俺たちを相手しようってのか、中々自信あるじゃねえか」


「あたし達もナメられたもんだねえ、それじゃ早速いくよ!」


「カオリ、サラ、やるぞ!」


「一気に削ってあげる! フロストバイ……ッ!?」


 魔法を発動させようとした所にカオリの蹴りが容赦なく女プレイヤーへと叩き込まれる、そのまま流れるようにして追撃にホーリースラッシュを発動させて一気にHPを削るような攻めをしていた。


「なっ!?」


「この女つええぞ……! ならこっちの女を狙え!」


「怖いなあ、そういうのよくないと思うよ!」


 サラはレーヴァテインを拳銃へと変化させ、さらに新しく購入した拳銃を装備し4人の冒険者へと発砲する。


「俺も女の子イジメは良くないと思うぞっ!!」


 さらにそこに俺が大太刀で一気に切り込む、相手がプレイヤーである為にバフはきちんとかけている。

 男パーティーはサラの発砲と俺の斬撃によって一気に連携が崩れてしまい、弾丸と斬撃をまともに受けた1人が早速戦闘不能状態へとなってしまったようだ。

 カオリの方も綺麗に速攻が決まったようで1人ダウンを取っていた。


「はぁっ!!」


 負けじと残った女プレイヤーがファイアボールを無詠唱で連発する、明らかに焦りが見えておりその連射ペースはかなりのものだ。


「ぐあっ!? お前何しやがんだよ!」


「射線に乗ってきたのはそっちでしょ!?」


「我が魔力にて凍てつけ! フロストバイト!」


「なっ!?」


 連射されたファイアボールが男プレイヤーへと命中しダメージを与える、パーティーを組んでいない相手には同陣営でもフレンドリーファイアがあるようだ。

 その隙に俺は早口で詠唱を済ませて一気に周囲を凍結させる。


「ヒール!」


 しかしその範囲魔法にすぐに反応して一人の男プレイヤーが全員に回復魔法をかける、どうやら戦闘不能状態はヒールでは起こせないらしく現状立っている4人しかHPは回復しなかったようだ。


「クソッ……俺たちでこの3人相手は無理だ! 退くぞ!」


「でもやられたヤツらを放っておけるか!」


「バカ野郎! ここで全員倒れたら誰が助けに行くってんだ!!」


「一理あるね、あとで絶対助けるからね!!」


「逃がさないよ!」


「いや、今は追わなくていい、こっちもそれなりには消耗してるからな」


 撤退するプレイヤーに対してサラが銃を構えるがそれを制する、カオリは神聖魔法を使用している為にドレインブレードで多少回復しているとは言っても消耗は激しいだろう。

 まずは確実にプレイヤー2人を捕虜として回収して相手の戦力を確実に削ぐのが一番だ。


「捕虜として身柄を確保します、良い戦いぶりでしたよ」


「へっ……こっちからすればボコボコにされただけなんだけどな」


「本当にね、何レベルなんだか……」


「ふふん、私たちはムグゥ」


「秘密だ、ほら行くぞ」


 サラの口を塞いでレベルの情報漏洩を防ぐ、漠然と強いとでも思ってもらった方が向こうも作戦がたてづらいだろう。

 俺たちは拠点としている近くの村まで2人を連行し、補給を行う事とした。

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