29話 目標

「また黒水晶持ってきたよ!」


「土産感覚で持ってくるもんか? これ」


「あら、あの時の……」


 今回の受付はギルド試験の説明をしてくれたのようだ。


「冒険者試験には通ったよ!」


「あら、おめでとう! でも黒水晶はBクラスからの仕事だから無理に取りに行っちゃダメだよ?」


「私たちもうBランクだよ?」


「えぇ……? って本当だ!?」


 サラは基本的に街中では猫を被っている、前のラグナロクの時はかなり素が出ていたがそれ以外では可愛い女の子を演じている。

 何人かの男NPCが鼻の下を伸ばしつつサラに近付き、ボディタッチを試みようとした猛者も存在する。

 彼らの末路がどうなったかは想像するのはそう難しくは無いだろう。


「プレシオサウルスがいたがアレってギルドでも確認してるのか?」


「プレ……?」


「湖にいるその、何だろう、トカゲかなぁ?」


「もしかして湖底竜の事ですか?」


 どうやらプレシオサウルスという名前では無かったようだ。

 湖底竜、存在は確認されてはいたものの水中という特殊な環境の為に討伐されたという報告は近年無かったそうだ。

 稀に水面近くまで上がってくる事があり、その際に多数の冒険者が一気に襲い掛かって倒すのが基本なのだそうだ。


「もしかしてかなり変な倒し方しちゃったんじゃない?」


「一体どうやって倒したんです?」


「3人で潜った」


「はぁ!?」


 俺の発言にすごい声で驚かれてしまった、何となくこういうリアクションが来るような予感はしていたが自分でも何だかバカらしくなっていた。


「実際俺たちは討伐には成功して水晶を回収できた」


「でも考えてみたら確かにいちいち潜ったりはしませんね……今回は状況が状況だったのでそこまで頭が回りませんでした」


「時には常識に囚われない方法が世界を救うんだぜ? あぁいう時にすぐに飛び込めるってのは良い事だ」


 カオリは手をポンと叩き自分達の行動がいかにバカげたものだったかに気付いたようだ。

 ティウは自信満々な声で俺たちの行動を褒めてくれた。


「潜るというのは正直かなり驚いたけど……君たちがいなければこれは回収できなかったかもね、ちゃんと上には伝えておくよ!」


「ありがとな、今度からは多少は考えるようにするよ」


 不要な素材を売却しギーヴルの討伐依頼報酬と共に受け取る。

 素材の売却はそれぞれ需要のある所へ持ち込んだ方が高く売れるのだが正直なところ面倒くさい、その為に少し値は落ちるもののギルドが仲介となり買い取ってくれるのだ。

 ギーヴルの宝石はすんなりと売る事となった、持っていても使い道が無いのだ。


 そしてラグナロクだが、どうやら他のプレイヤーやNPCの冒険者も着々と黒水晶を集めているようだ。

 どうやら水晶の数でスコアがあるのか依頼表示欄に集めた水晶というものが表示されていた。

 水晶の量は単純な個数計算ではないようで、その魔力結晶の質で決まっているのか俺たちのスコアは5万点のようだ。


 俺たちは一度カオリの家へと戻りそれぞれソファや椅子に座り会議となった。


「多分水晶がある程度集まったらこの事態は収束すると見ていいだろうな」


「思うんだがこういうのって最後にデケェボスとか出るんじゃねえのか?」


「そうなんですか?」


「ゲームならそういうのは多いな、すんなりと終わったら面白みがないだろ?」


「現実でされちゃたまったもんじゃないですよね……それ」


「あぁ、ここは現実だ、でもすごくゲームの世界に近いと俺は思っている」


 そもそもだ、ギルドは黒水晶を集めているがどうやって処理するのか明確にされていない。

 考えたくはないが集めるだけ集めてどうしようもなくなった結果、巨大な魔物が街中に……という展開も正直予想出来る、ギルドマスターはそこまでバカじゃないとは思うがすんなりと事態を収束させられる気はあまりしないというのが本音だ。


「お前のそういう考え方、狂人じみてはいるがこの世界じゃ結構役に立つかもな」


「あくまで勘だから外れる時は外れるけどな」


「エリスさんの考えは正直私はどうかと思います、しかし……否定しきれないのも事実です、万が一何かが起こるとしたら私たちがするべき事っていうのはエリスさんの考えではなんです?」


「レベル上げだ、レベルの概念のあるものではとりあえずレベルを上げて殴ればどうにかなるって相場が決まってると思うしな……それと情報収集、もしかしたら過去の文献だとかに手掛かりがあるかもしれない」


 セオリーは恐らくこんなところだろう、大抵の場合は情報収集をすっぽかしてもレベルを上げまくっていれば力でどうにかする事が出来るはずだ。


 ある意味俺は主人公適正のスキルを持ってはいるものの主人公には向いていないだろう、主人公はこんなメタ的な情報読みなんてものはしないはずだ。

 しかし俺はどうにも心に火がついていた、メタだろうが何だろうが関係ない、生き残る為に手段というものを選んでいる余裕は無いのだ、そして俺はどこかこの状況を楽しいとも思っていた。


「何も起きなかったとしても上げたレベルは無駄にはならない、明日からボードを使って広範囲の水晶探索をしようと思うがいいか?」


「俺は構わないぜ、このまま世界一の冒険者にでもなってやろうぜエリス!」


「私も構いませんよ、この世界を守るにはそれが今できる事っていうのはわかりますからね!」


「世界一の冒険者か、なんていうか主人公の抱きそうな目標だなそれ」


「何言ってんだ、俺たちのスキルからして既に主人公、スーパーヒーローみたいなもんだろ?」


「なるほどな、悪くない……手始めにラグナロクを終わらせるとするか!!」


「頑張りましょう!!」


 俺たちは拳を突き合わせる、世界一の冒険者になるというベタな目標だが何もないよりはずっといい、それにスケールは大きく持っていた方が夢は膨れるというものだ。 

 この時俺たち3人の主人公適正のスキルが変化した。


 スキル:【英雄適正】


「なっ……!?」


「コイツはすげぇな……!」


「レベルアップ……とはまた感覚が違いますね」


 確認してみるとステータスの大幅な上昇が確認できた、どうやら英雄適正は主人公適正のスキルの上位互換のようだ。

 俺だけだったが英雄は魔法が使えなければならないのか使用可能な魔法が増えて魔法の欄が《中級魔法》と纏められていた。


「面白くなってきたね!」


「英雄適正ですか、サラも成長しましたね……」


「カオリは俺がついてるんだから当たり前の事だがな! がっはっは!」


 神々のメンツもそれぞれ色々と会話しているようだ。

 翌日から水晶探しをする事に変わりはない、ラグナロクを確実に終わらせるという目標を胸に抱きつつ一日を終えた。

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