30話 戻りゆく世界

 外回りへと行く前に英雄適正のスキルについてわかる範囲で分析をしてみた。


 どうやら英雄適正のスキルを持っているとどの武器も上級クラスの扱いが可能なようだ。

 この上級クラスの扱いというのは微妙にややこしく、例えに剣術を出すが上級剣術並みの武器捌きを行う事は出来るのだが、上級剣術の戦技を発動させるという事は出来ないようだ。

 魔法も英雄だから全部スゴいのが使えるのかと期待もしたが、俺の使用可能な魔法欄はゴチャゴチャとしたもののままであった。


 英雄適正があっても俺のものぐさな性格やサラの口の悪さなどはそのままではあったものの、強くなりたいという衝動や何かをしなければならないという使命感を感じるようになっていた、カオリも同じようで今であれば街を守る、という事に強い使命感を感じる。


「さて、まずは街道を魔導ボードで飛ばしてパトロール兼魔物退治だ」


「質問だ、もしも襲われている商人や冒険者がいて助けたとする、その後はどうするんだ?」


「む」


 ゲームであれば助けてそのままサヨナラーといった形で終わらせることが可能だ、しかしこの世界、それもラグナロクのような魔物の湧き率上昇中にそんな事をすればその先で人生からサヨナラーという形になってしまうだろう。


「まぁ……無事に送り届けるしかないな、目的地が遠いなら引き返させて護衛を雇わせる、無理にでも進むのあれば……止めはしない」


「ま、そうなるよな」


 英雄適正があるから絶対に人には優しくしなくてはいけない、という縛りのようなものはないようだ。


「ゴーレムだとか作れたらそれに護衛させたいんだけどな、この世界にそんな魔法あるのか?」


「私は知りませんね、エルフであれば精霊魔法が使用可能かもしれませんが……」


「エルフか」


 ドワーフが存在するようにエルフも存在するのだそうだ、エルフの国はギムル王国の北西に位置するらしく妖精に近い種族なのだそうだ。


「エルフについては俺も知ってはいるが……ま、俺の知ってるエルフとは若干違ったはずだ、人間と似たような存在って認識でいいぞ」


 正直エルフについては全然知らなかったのだが北欧神話に登場するのだそうだ。


「とりあえず行くか、他に話す事も現状は無いしな」


「スーパーヒーローの出動だな」


 俺たちは街の外へと出て魔導ボードに乗る。


 街の周囲は既に水晶が殆ど回収されたのか魔物の量は通常時よりもやや多い程度にまで落ち着いていた。

 魔物の数が落ち着いてきたという事もあってか低レベルの冒険者が意気揚々と雑魚の魔物を狩っている所を何度か目撃した。


「思っていた以上に落ち着いていますね、もうそろそろラグナロクも終わるのではないでしょうか?」


「そういうのをフラグって言うんだぜ?」


「嵐の前の静けさとも言うな、上手くいってると不安になる気持ちはわかるぜ」


 街道をボードで走りつつ街道にたむろする魔物を槍で切り裂いていく。

 

 途中黒水晶特有の嫌な感じがして様子を見に行ったものの他のプレイヤーが既に対応に入っていた為に俺たちはその場を離れた、横取りと言うのはあまり印象のいいものではない。


「折角やる気になったってのにコレじゃ拍子抜けだなあ」


「ま、動き出すには遅かった気もするしな、とりあえず集められるだけ集めようぜ」


 稀にだが魔物も水晶の欠片をドロップするようで思っていたよりもスコアは稼ぎやすいのかもしれない。

 街から遠く離れると流石にまだ水晶が残っているのか魔物の湧きが多くなった、しかしこの場所は丁度他の大きな街との中間地点にあり、ここも近いうちに漁り尽くされそうなものだ。

 魔導ボードから降りて周辺を探索すると水晶の欠片をいくつか拾い集めることが出来た。


「ラグナロクの雑魚ラッシュはもう終わりそうと見てよさそうだな、なぁティウ、もしも最後の最後に出てくるヤツが超大物だとしたら何だと思う?」


「そうだな……やっぱスルトじゃないか? ただそんなのが出たら世界の終わりだ」


「神話は何となくしか知らんが……そんなのが出てきたらどうしようも無さそうだな」


 俺もスルトについては少しだけ知っている、炎で世界を焼き尽くした巨人だったはずだ。


「でもアレだろ? この世界で常識は」


「犬にでも食わせろってな」


 雑談をしつつも俺たちは水晶の放つ特有の雰囲気を感じ取っていた、それはまるで来るものを拒絶するかのような強いもので魔物が大量に湧くはずなのだがその雰囲気を感じてからは何故か魔物との接敵は無くなっていた。


「これはただものじゃない気配ですね……常識を犬に食わせ過ぎて欠片も残さないって事だけは勘弁してくださいね?」


「安心していいさ、常識はそんな簡単に捨てられるもんじゃないからな」


 流石にヤバげなものをヤバいと感じられないほど捨てられるものではない、英雄適正のスキルがあっても怖気づいてしまう事や発狂してしまう事を抑えられるかと言うとそうではないはずだ。

 そう思う根拠の1つに、思い返してみればキャラクリエイト時にある程度のスキルは見た記憶があるのだ。

 その中の1つに【鋼鉄の心】というスキルがあった為だ、これは動揺や動悸を抑えられるというものであった。


「この中……か」


 そこにあったのはまるで地獄への入り口かのように口を開けた大きな洞窟だ。


「イヤな予感がするな……スキルが成長したとは言っても油断はするなよ? ヒーロー達」


「あぁ、こりゃこれまでのとは比較にならなさそうだ」


 正直な事を言えば今にでも逃げ出したい気分だ、ゴブリンや湖底竜もそんな雰囲気はあったがここまで大きなものではない、まるで入れば死ぬと体が勝手に認識しているようなそんな強い不快感がこの洞窟から放たれている。


「おいエリス、カオリ」


「どうした?」


「背中は任せろ……んでもって背中を任せる」


「はっ、いつもの事だろ? 帰って美味い飯でも食おうぜ兄弟」


「良かったら私が料理を作りましょうか? 自信があるんですよ!」


「いいね! 女の子の手料理ってのは好きだぜ俺は!」


 サラが嬉しそうに笑いながら銃を手に取る。


「じゃ、行くぜ!」


 俺たちは洞窟へと足を踏み入れた。

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