第9話 自分以外の転生者
「はーい?」
来客のイベントがあるのだろうか、ミネルヴァの言っていた友人が遊びにでも来たのだろうか。
「あの、エリスさん……ですか?」
「……どちら様?」
見覚えのない少女が立っていた。
年齢は俺と同じくらいだろうか、金髪をポニーテールにまとめ、瞳は茶色の混ざった黒、そして少女らしくない金属鎧を装備していた。
「衛兵団長とか何か……?」
「私はサラ、冒険者だよ、入ってもいい?」
「え、あぁ……まぁ、何も出せないぞ?」
イベントというわけではなさそうだ、冒険者のNPCっているのだろうか?
茶を出そうにも俺は絶賛貧乏生活中だ、パンを出すのも気が引ける上に水を出すというのもなんだかな。
「うわぁ……何にもないね」
「そんな事言いにきたのか?」
「ごめんごめん、んでさ、君って転生者?」
「……君もか?」
そう聞くと彼女は頷いた、俺以外のプレイヤーに遭遇してしまった。
見た所敵意は無いようだ、転生者という事は彼女にも神がついているはずだ。
「しかしどうして俺を? 接触するメリットがあるのか?」
「単純に気になってね、メタル鳴らしてたでしょ」
「そんな事でか……」
「それに一緒に行動すれば俺も安全だしな」
「俺?」
「おっと」
気付きたくない事には気付きやすいという、こいつまさかネカマってやつじゃないだろうな。
「ついてないからカマではないよ! でもまぁ……男の人が容姿決める時に女の子を選んだらどうなるかはわかるでしょ?」
ミネルヴァが説明してくれた、つまり目の前のコイツは美少女の見た目をした野郎だ。
「悪い、騙すつもりはなかったんだ、ただホラ、俺美少女だろ? 傷つけたくなかったんだよ」
「まぁ気持ちは分からんでもないけどなぁ……アレだろ? 可愛い女の子のキャラでグフフと」
「ちげえよ! 俺の相棒に頼んだらこうなったんだよ!」
「ちなみにその相棒ってなんて名前なんだ?」
「何だっけな、アマ……そう、天照大神だ!」
「はぁ!?」
「知ってんのか?」
天照大神と言えば日本神話の主神だ、オーディンだとかゼウスみたいなもんじゃないのか、超大御所じゃないか、伊勢神宮でゆっくりしていてくれよ。
「詳しい事は知らないけどな、日本神話の主神だ、超大物だぞ!」
「マジか、すげぇな!!」
どんな世界だよここは。
とりあえずそれは置いておこう、天照大神を知らないとなれば彼は外国人である可能性が高い、ミネルヴァの事も知っている可能性は十分にある。
「なぁ、ミネルヴァって知ってるか? 俺の相棒なんだが……」
「はぁ!?」
「知ってんのか?」
今度は彼が驚いていた、名前は聞いたことがあるから有名どころではあるんだろうが。
「お前……ミネルヴァつったらアレだろ? アテナ」
「アテナ? ギリシャ神話だっけか?」
なるほど、だから聞いたことがあったのか、しかしいざ答えてみるとどんな神なのかはハッキリ出てこなかった。
「俺も詳しくは知らないが……確か戦略の神とかだったはずだ、かなり強かったと思うぜ? 盾のアイギスとか有名だな」
「マジかよ……アイギスってゲームでもよく出てくるヤツじゃねえか」
「なんだ、知ってたの? 知らないんだーって思ってたんだけど」
ミネルヴァがフヨフヨと漂う、そりゃ筋力だとかのステータスの伸びがいいわけだ、強いのだから。
「折角の機会だ、パーティー組もうぜ!」
「そういうのあるのか?」
「あるよ! ただし組める人数は4人まで、組んだ相手の神様が見えるようになってお互いの攻撃が干渉しなくなって……あと何かあったかな」
「アイテムのドロップとかはどうなんだ? 取り合いになったりすると問題だしな。」
ドロップ共通のゲームは大抵ドロップの問題で解散であったりSNSへの晒しだとか悲惨な事が起きるものだ、平和的なシステムであって欲しいところだがここはどうなのだろうか。
「そこは個別だから大丈夫! アイテムの取引はお互いの同意があれば問題ないし、依頼もパーティーだから減額されるっていう事はないよ!」
聞いている限りでは問題は無さそうだ、むしろパーティーを組む事によるメリットしかないようにも思える。
「よし、じゃあパーティーを……って思ったが1つ聞いていいか?」
「ん?」
「俺はまだしばらくこの村に留まるつもりなんだ、サラがもしもギルドに登録しに行くってんなら組まない方がいいだろう」
「ギルドには行くつもりだったけどいいよ、何か慣れてそうだしな!」
「ゲームはそれなりにやってたからな、それでもいいならよろしく頼む」
差し出した手を強く握り返される、言動は完全に男だが声と見た目は完全に女の子だ。
こういうの流行ってたよな、TSだったか? TSって何の略なんだろうな、俺はノーマルな女の子が好きなんだ。
「うちのサラをよろしくお願いしますね」
「こっちこそ! エリスをよろしくね!」
オレンジ色に光る小さな太陽のようなものが浮かんでいた、彼女が天照大神なのだろう。
「あー、天照大神様」
「アマテラスでいいですよ、敬語も使わなくてもいいんですよ?」
「いや、流石に知ってる神様に敬語ナシってのはね……気になった事を1つ聞いてもいいでしょうか?」
「なんでしょうか?」
「どうして彼を女の子に?」
任せると言ってしまった彼の責任だろうが、普通はそのままの性別でキャラクリすると思うんだ、特に転生となると性別を変える度胸のある人間はそういないだろう。
「楽しみじゃないですか……」
「何がです?」
「男の子と女の子になった男の子、どんな展開になるか気になりませんか?」
「あー……」
神様も結構進んでるんだな、俺よりも進んだところにいるようだ。
日本の神様は全体的にフランクだとか聞いたことがあるがここまでとは、これってフランクなのだろうか?
「すげぇ……アテナがこんな近くに……信じられねえぜ!」
「ふふん! 崇めなさい!」
「ははぁ!」
美少女が小さな光の玉へと両膝をついて拝んでいた。
「そうだ、ちなみに転生前はどこの国にいたんだ?」
「アメリカさ、エリスは?」
「俺は日本だ」
「日本か! アニメ文化とかスゲェよな!」
前世の話で盛り上がりつつ夜更けまで話倒し、いつの間にか疲れて眠っていた。
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