第4話 初の報酬

「30匹も倒してくれたのか!?」


「あまり強い魔物じゃなかったしなぁ、いいって事よ!」


 俺はニカッと笑って親指を立てる。


「ありがたい……スライムと言えども下手をすれば殺されてしまうからな、これはほんのお礼だ」


 報酬を受け取る、その時に所持金を確認したのだが900z増えるはずのところが1000z増えていた。


「っと、おっちゃん100z多いぞ?」


「いい仕事をしてくれたんだ、ボーナスだよ!」


 ガハハと依頼者の男は笑っていた、そういうことなのであれば貰っておこう、変に断るのも逆に失礼だろうしな。


 依頼ファイルを確認してみるとスライム討伐依頼が灰色文字になっていた、達成済みという事だろうか。


「灰色になってるのは思っている通り完了済の依頼だよ、でもスライムって放っておいたらまた増えてきちゃうんだ、そうなったらまたそのリストから消えて掲示板に貼り出された……はずだよ!」


 何度でも繰り返し受けられる依頼というヤツだ、という事は一度しか受けられない依頼もあるという事とみていいのだろう。


「一回しか受けられない依頼もあるよ、でもその場合はずーっと依頼ファイルに残り続ける形になるから自分がどんな仕事をしたかはすぐ確認できるよ!」


 つまり依頼が消えていたらその依頼が再び貼り出されたという認識でいいようだ、それなりのペースで復活して報酬の上手い依頼があれば稼ぎに持ってこいだろう。

 転生攻略サイトでもあれば覗いてやりたいものだ。


「腹減ったな……」


「そうそう、空腹だとか喉の渇きも限度を超えると状態異常になるから気を付けてね。」


「変なところでリアリティ出さなくていいから……」


「これは現実リアルだよ!」


 そう言えばそうか、しかし所持金1500円では贅沢なものは食えない、店でパンとジャムを購入して自宅へと一度帰る。


 何も考えていなかったがギルドへ行くにしてもその道のりがどんなものなのか、用意しなければならない食事の量、どんな敵がいるのか……情報が無さすぎる、勝てる勝負以外はあまり挑みたくないものだ。

 もしもリスポーン可能なゲームであったならば大胆に動くのもアリだ、しかし実際に命がかかっているのであればゴリ押しというのは賢い選択かと言われれば素直に首を縦には振れない。

 ゴリ押しというのは勝つ算段があってこそするべき手段だ、先がわからない状態でそんな事をすれば押し切れなかった場合にどうしようもない状況に陥ってしまう。


「エリスって結構慎重派なんだね」


「まぁな、ミネルヴァも食う?」


「私は大丈夫だよ、そもそも食べられないしね」


 ゲーム、特にPvPで俺がとる行動は隠密だ、FPSを触る事が多かったというのもあるのだが俺はどうにもエイムが苦手だった、そこで勝つ為にとった戦法は"普通では明らかに近付きすぎなところまで近付いてぶっぱなす"だ。

 まともにやり合って負けるのは目に見えていたからこその戦法、気付かれた場合はどうしても撃ち合いに発展してしまうがそれでも気付かれた事に気付ければまだ有利な状況である事が多い。

 この戦法は自分が得意な分野でも活きた、普通の人が作らないアドバンテージというのは他でもアドバンテージになるのは当たり前のことだ。


「ま、結局は慎重になったところで最終的に物を言うのは力だけどな、ネズミが完璧にライオンに不意打ちしても勝てないだろ? 逆にライオンはどう攻められようがネズミには勝てる。」


「ま、確かにどんなにいい作戦でも決定力は必要だよね……でも策が練られないような状況だったらどうするの? 予想外を予想内にしようとしてもそれでも防げない事はあるでしょ?」


「その時は死ぬ気で頑張る」


 そうなったらどうしようもない、何回かやったバトルロワイヤル系のゲームでアンブッシュ(待ち伏せ)された時も変な声を出しながらまるで神が舞い降りたかのようなキルをした事は何回かあった。

 一応耳は良い方なのか微動だにしない相手以外なら気付ける事の方が多かったのがゲームでは幸いしていた、そのせいで自分のプレイスタイルを他人にされるのは非常に嫌だった、気配を殺して一方的に殴るなんて事はしたらダメだ。


「そういうタイプだったら私よりも他の女神の方が相性良かったかもねぇ」


「近接武器を振り回すってのも好きだけどな、詳しく武器について教えて欲しい」


「いいよ! まずエリスが気にしてた銃だけど――」


 この世界の銃は魔力を弾丸として発射する仕組みになっているらしくリロードは必要ない。

 同じようなレベルであれば武器で弾丸を弾く事はそうそう難しくはなく、もしも被弾したとしても現実のようにショック死するような事は無いらしい。

 ただダメージは受ける為被弾のしすぎは当然の事だが命の危機に直結する。


 武器だが耐久値が存在し定期的にメンテナンスする事でこれを修復することが出来る。

 最大値が減ったりだとかする事はないがもしも耐久値が0になり壊れてしまった場合は消失してしまう、もしもそうなれば買いなおす必要が出てしまうとの事だ。


「交渉で報酬の増加があったな、単純なNPCとして見ずにしっかりと人として接した方が良さそうだよな」


「そうだね、彼らもちゃんとした生きている人間だからNPCとはまた違ったものだよ。でも交渉で報酬に変化があるっていうのは知らなかったなぁ……流石私の相棒だよ!」


 仕事も適当に受けずにしっかりと吟味した方が良さそうだ、下心丸見えな事を言えば相手より低姿勢に出る事でより良い報酬が貰えるという可能性も十分にあり得るのだ。


「決めた、俺はしばらくこの村で感覚を掴むことにするよ……それから身の振り方を考えよう。」


 UIを起動して装備をアイテムポーチへとしまう、すると装備していた武器と防具が光に包まれて消えていった。

 念のために再び装備してみる、すると問題なくしまう前と同じように武器と防具が光を纏って出現した。


「色々便利だな本当に」


「でしょ? まぁ、まだまだ始まったばっかりだし気は抜かないようにね!」


「わかってるさ」


 俺は自宅のベッドに寝転んで目を閉じた、この世界はまだまだ分からない事が多い、しかし少なくとも前世よりは楽しいのは確かだ。

 ここから先何が起きるかはわからない、そんな不安が顔を覗かせそうになったがどうにか抑え込む、明日また依頼を探してみよう。

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