第5話 次の依頼へ

「ほら! 朝だよ!!」


「んぅ……あと1時間……」


「それ1時間前にも聞いたから!!」


 グータラ生活を送っていた俺だ、昨日は無駄にテンションが上がっていたが今の俺は言ってしまえば冷めていた。

 昨日はテンションに任せて依頼を受けてクリアした、飯を買ったおかげで俺の今の所持金は1000z、小学生の小遣い程度しか持ち合わせていない。


「はー……」


 ベッドから転がり落ちる、布団がクッションとなりダメージはない。

 何の気なしにネックスプリングをしようと足を曲げる、前世で試した事があったが全然起き上がれずに背中を打ち付けた苦い思い出がある。

 もしもこれで起き上がれたら何かしら依頼でも探しに行くとしよう。


「ほっ」


「お、起きた」


 軽々と起き上がれた、筋力や身軽さなどのステータスが上がっているのもあるのだろうが、寝起きとは思えないくらい体が言う事を聞いてくれる。


「とりあえず顔洗うか」


 俺は洗面所へと向かい水を出す、どうにも一部は前世と似たようなもののようで蛇口をひねれば水が出る。

 どうなっているのかミネルヴァに聞くと「まぁ、魔法の世界だし」と割と適当な答えが返って来た。


「うおっ」


 鏡を見ると黒髪に碧眼のイケメン少年がいた、俺はキャラメイクは全く凝らずにプリセットから選ぶようなタイプの人間だった、その為にどんな顔にしたかなど覚えていなかった。


 水気を拭きとってアイテム欄から装備を着込む。


 顔を洗ったおかげか頭がスッキリする、この世界では平和にすがっていては生きていけない可能性は十分にあり得る、折角力がある上に前世で望んだファンタジーな世界だ、やれるところまではやってみよう。


「やる気は出た?」


「あぁ、一応はな」


 序盤のレベリングは重要だ、幸いにもこの世界はレベルアップ時に自分で能力を振り分けたりはしない、振り分けるタイプであった場合は極振り正義だとか色々出てくるが、オートの場合はそれを気にしなくていいのだ。


「さてと、今日も掲示板でも見に行ってみるか」


「今日も1日頑張ろう!」


 ミネルヴァがいつものテンションに戻る、パンにジャムを塗りたくって頬張りつつ掲示板へと向かう。

 行儀が悪いかもしれないが細かい事は気にしない主義だ、さっさと稼いで美味い飯を食いたいものだ。


「さーてと……」


 掲示板を眺める、しかし冒険者向けの討伐だとかの仕事は見当たらない、見た所平和なこの村では魔物に襲われるような事も少ないという事だろうか、それはそれでいいのだが仕事が無いというのは考え物だ。


「荒事となれば門番とかその辺りか」


「大きな街にでも移動したら? その方が仕事もいっぱいあるだろうし」


「仕事がなかったらそうするさ」


 どうせなら普通の人とは違うプレイをしたいものだ、流石にポリゴンの隙間を探すだとかはする気になれないが、洞窟の幻影の壁や話かけないと発生しないような隠し要素だとかはあってもおかしくはないはずだ。


 門の近くへと行き門番に声をかける。


「ようエリス、なんかあったか?」


「仕事を探しててな、何かこの辺の魔物が危険だから退治してくれー、とかないか?」


「そうだな……確かゴブリンがいるがなかなか討伐しにいけないとか隊長がボヤいてたな、ここに行ってみるといい」


「ありがとう! 助かるよ!」


 やはりこの村での仕事はスライム狩りだけではなかったようだ、教えられた建物はそう遠くないようですぐに辿り着く事ができた。


「ここか……」


 衛兵の詰め所、わかりやすく言えば警察署のようなものだろうか。

 ただ警察署ほど大きくはなくどちらかと言えば交番だ、小さな村な為にそこまで多くの防衛力は必要としないのだろう。


「おじゃましますよっと」


「ん、何か用か?」


 中に入ると衛兵の1人が書類を書いているようだった、俺が衛兵から聞いた話をすると丁度その依頼について書いているところだったそうで紙を見せてくれる。


「見た所君は若いみたいだが……何歳なんだ?」


「14歳、名前はエリスだ」


「戦闘の経験は?」


「一回だけ、スライム相手だけどね」


 恐らくゴブリンは強敵ではないだろう、序盤の雑魚筆頭として登場するようなイメージが多い。

 弱点看破のスキルのおかげかゴブリンを頭の中に思い浮かべただけで弱点がわかる、スライムと同じで火と電気に弱いようで物理攻撃もそれなりに通るようだ。


「という事は攻撃的な相手との戦闘はまだ未経験か、俺と一回手合わせしていかないか?」


「ありがたい、でも他の業務は大丈夫なのか?」


「あぁ、見てわかると思うがヒマでな……戦闘の基本くらいは教えてやれると思う」


 この衛兵は見た所俺よりも強いのはすぐにわかった、ハッキリという事は出来ないが何というか……威圧感があるのだ。


「(相手のレベルとかってわからないのか?)」


「ん、わかるようになるスキルはあったはずだけど……何だったかな」


 ミネルヴァは覚えていないようで悩み始めた、あるというのがわかっただけいいだろう。


「手加減はしてほしいな、昨日フリーランスになったばかりなんだ」


「本気で叩きのめしたりはしないさ、安心してほしい、準備が出来たら声をかけてくれ」


 準備する事はない、そのまま衛兵に声をかけると先ほどの門番のいる門の前へと連れてこられた。


「武器はこれを使うといい、まずは構えてみろ」


「了解」


 木剣を受け取り構える。

 剣術に関しては殆ど知識はなかったが中級剣術のおかげでどう動けばいいかは直感的に理解でき、剣を正眼に構える。


「軽く打ち込むぞ、好きなように対応してくれ」


「よっ」


 相手がこちらへと剣を振るう、こちらから見て左上段から振り下ろされた剣に対し、それに対応するように剣を軽く振り上げつつ前進し、剣を防ぎながら軽く肩でタックルする。


「いいぞ、剣だけじゃなく体もしっかりと使えているようだな」


「ありがとうございます」


「もっと遠慮せず動いてもいいんだぞ?」


「では……」


 今度は突きが放たれた、その突き出された剣を絡めとるようにして軌道を逸らす、そのままの勢いで剣を振り下ろして寸止めする。


「もっと思いっきり振っちゃっていいんだよ! どうせダメージは無いんだしさ!」


「あ……(そうか)」


「ゴブリン相手に寸止めなんてしたら殺されるぞ、大丈夫か?」


「もう一回頼む、思いっきりやるさ」


 ミネルヴァが見兼ねたのか口を出してきた、しかしそれはもっともの事だ。

 この世界では例え斬られようともHPが減らなければ痛みすらないのだ、今手にしているのは木剣、攻撃力は0のようで思いっきり叩きつけても素の筋力のダメージしか入らないようだ。

 相手は格上、思い切り殴った所でダメージすら与えられないだろう。


 再び剣が振るわれる、俺はその剣を弾き全力でカウンターを仕掛ける。


「はああぁっ!!」


「なっ!?」


 相手のわき腹へと木剣が思い切り振り抜かれる、さらに返す勢いでもう1撃加え距離を取る。


「驚いたな、予想以上だ。」


「へへ、ありがとな。」


「ただ受けはできても回避はどうだ?」


 相手が地面を蹴る、明らかに先ほどよりも早く、打ち込まれる位置からしてガードしてもダメージを受けかねない。


「イチかバチだっ――!!」


 相手の攻撃が命中する瞬間に回避行動をとる、それは言い表すならば"瞬間的に魔力を放出したスライド移動"というのが一番すんなり来るだろうか、それを相手の攻撃に"向かって"発動する。


 普通ならば攻撃に当たらないようにするものだ、しかしゲーム脳の俺は無敵判定があるのではないかと予想して、あえて向かっていったのだ。

 もしも当たってもダメージを受けるかも怪しいしな。


「嘘だろ……?」


「マジか……」


 意外な事に予想は的中し結果は回避に成功した、それと同時に俺の中に1つのスキルが覚醒した事を確信する。

 ダメ元の実験を兼ねて行ったものだが


 スキル:【絶対回避パーフェクトドッジ】  


「大丈夫そうだな、ゴブリンだが群れの長がいる、そいつをどうにかしてくれれば追加で報酬を出そう」


「あぁ、期待せず待っててくれ」


 依頼が追加された、ゴブリンの群れの討伐。

 1匹辺り100z、ゴブリンロードの討伐で1000zの追加だ。


「やったね! 新スキルも手に入ったし良い調子なんじゃない?」


「スキルってレベルアップだけだと思ってたけどそうじゃないんだな、何か意外だったよ」


「スキルは特定の条件でも手に入るみたいだね、流石は元ゲーマーだね!」


「はは、とりあえず行くかぁ」 


 俺は新たな仕事をこなしに村を出た。

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