第20話 テスト勝負(罰ゲームつき)


『大地って学校成績いいの?』

『まぁぼちぼちかな。学年で100番くらい』

『100人中? 』

『400人! 』

『そっかぁ。 意外と頭いいんだね』

『意外とはなんだ、失敬な』


 岬はこないだ文化祭に来たから、ウチの高校のレベルもなんとなくわかるんだろう。

 失敬とかドラマ以外で聞いたことない、と笑い飛ばす岬をほっぽらかして、中断を余儀なくされた勉強の続きをすることにした。


 勉強するときにかける音楽は、決まってゲームの戦闘音楽だ。 テンポが良くて気持ちは高揚するし、なにより難問に立ち向かうときのBGMとして抜群。 テスト中にも音楽を頭の中で流せば、勉強した内容も思い出せるというオマケつきだ。

 区切りのいいところまで問題集を解き終えると、時計は夜10時を回っていた。 岬とメッセをしてたのが8時過ぎだから、2時間近く集中していたことになる。 背後のミニテーブルには、オカンが用意してくれたであろう皮を剥かれたリンゴと麦茶があった。


 リンゴを平らげたあと、風呂に向かう。この時間ならもう俺が最後だろう。リビングに向かうとそこにはオカンだけでなく親父も座って何か深刻そうに話をしていた。



(まさか――別れ話とかじゃないよな? )



 俺に気がついた親父が口を開いた。 おきょんも呼んでこっちに座ってくれ、と。親父の希望を聞き届け、『杏果』と札が下げられたドアをノックする。


「親父、話があるってさ」

「私以外そのパロディわかんないよ」


 扉を開いて出てきたおきょんもどうやら勉強をしていたようだ。ノックのあとガタガタと音がしていたから、真面目に、というわけではなさそうだが。




「父さんな、福岡に行ってくる」

「いってらっしゃい」

「お土産よろしくね」

「あ、いや母さんも一緒だ」

「何日間? 」

「3年」

「はぁっ!? 」


 俺とおきょんの声がハモった。正しく言えばオクターブユニゾンだ。だが、そんなことはいまはどうでもいい。

 つまり話はこうだ。親父は会社で昇進が決まった。ただ、それは福岡支社のそれなりのポジションで単身赴任になる。――が、壊滅的に家事ができない親父のためにオカンもついていく、と。


「しばらくすれば慣れるだろうし、2人とも受験もあるからその時は戻ってくるつもりよ。 お父さんの方が2人よりも家事できないから・・・」

「なるほどね、わかったよ。 別れ話じゃないから安心したよ」

「兄貴、そんなこと心配してたの? お父さんがお母さんから離れられるわけないじゃん」


 こうして年明けからしばらくの間妹との二人暮らしが決まり、今晩の風呂における考察テーマが決定されたのであった。





「菊野くん、期末試験の結果で競争しない? 」


 席に着くなり、隣の春山から珍しい提案がなされた。 あまり競争ごとに参加するイメージがなく、意外さに言葉を出せずにいたが、春山の方から提案が続けられた。


「あたしたちって、成績同じくらいでしょ? いつも100位以内に入ってるくらい。 だから、競争しながらならお互いのモチベーションになって、もっと成績伸ばせるかな、って」

「あれ、成績の話なんかしたっけ」

「こないだの中間試験のあと、山田くんたちと順位で騒いでるの聞いてたから」

「そうだったか? んまぁ、別にいいけど。 競争ってからには、なんか賞品でもつけるのか? 」

「お願いごと1つ、ってのはどう? もちろん無茶はなしで」

「オッケー乗った。 罰ゲームは結果の後でいいか? 」

「いいよ。 罰ゲームって言っちゃってるし。 もう、何をさせるつもり? 」


 やっぱりやめようかしら、と呟く春山を横目に、何故だか負ける気がしない俺は、何をお願いするか思案するのであった。


 とはいったものの、やはりモチベーションというのは大事で、昨日までよりも俄然やる気になっているのが自分でもわかる。 まして、対決の相手が他でもない春山なのだ。 ただ単純に勝ちたいというのもあるが、ちょっとカッコつけたいというのも男心だ。



 結局のところ、罰ゲームのことはすっかり忘れて集中して勉強することができ、岬と約束をしていた週末を迎えることとなった。

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