第3話 テーマカラーはピンク
弾けるような笑顔を見せた彼女は、ステージ上で岬千春と自己紹介していた。 目が合ってウインクされたのも、投げキッスされたのも、きっと俺の気のせいだろう。
4Seasonzは4人組のグループだが、4人それぞれが季節にちなんだ名前だった。
結構有名なグループだったのか、多くの観客がライブで一緒に踊っていた。 知らない曲もあったが、幼稚園児くらいの子供たちが一緒に歌っていたので、きっとアニメの主題歌か何かなんだろう。
20分ほどのステージが終われば、モールで一定額以上お買い上げの方限定の握手イベントなんかもあるようだ。 思わずレシートを見てみたが、バスクラのリード二箱では足りなかったらしい。
少し名残惜しい気もしたが、これ以上の用事はないので帰ることにした。
また自転車をかっ飛ばせば、10分かからずにウチに着いてしまった。 どうも気づかぬうちにテンションが上がっていたらしい。
「ただーいまー」
帰宅の旨を告げるも、返ってくる声はない。 買った荷物を机に置き、コンポにCDを食べさせてオーケストラのハーモニーを吐き出すのを待つ。
(アイドルの歌なんて初めてだったけど、結構楽しかったな)
(それに、岬千春もかわいかったし)
第一楽章が流れてくるのを聞きながら、Macで4Seasonzを検索する。 テレビにもちょこちょこ出ているらしいが、プロ野球を流すくらいしかできないウチのテレビでは見たことないのも当然であった。
(やっぱり同い年、なのか)
もう会うこともないだろうが、同い年というだけで何故か嬉しかったし、応援したい気持ちになった。 最近インターネット上では良いのか悪いのか、アイドルの通う学校なんかも載っていたりするものだが、岬千春についてはプライベートの情報はあまり公開されていないようだった。
そんなことをしているうちに、スピーカーは最終楽章を奏でており、クライマックスを迎えるところだった。
♪ピロリロン♪
(いいとこだったのに)
どうやらSMSを受信したようだが、いいところを邪魔されて若干不服であった。 開いてみても知らない番号だったから、きっと迷惑メールの類だろうと余計にイライラが募る。
しかし、その予想は思わぬ方向に裏切られた。
『岬千春です。 さっきはスマホ探してくれてありがとうございました。』
予想外の差出人に思わずスマホを落としそうになったが、すぐに冷静さを取り戻す。 スマホ探しで着信した時の番号を頼りに送ってきたであろうSMSに返事を打つ。
『すぐに見つかってよかったね。 あのおっちょこちょいさんがアイドルとは驚きだ』
『ひっどーい!』
『(スタンプを受信しました)』
しかし、どうやらおっちょこちょいと言われたことが不満だったらしい。 可愛いパンダが怒って顔を真っ赤にしている絵が画面で踊っている。
『罰として、今後も話し相手になってもらうからね!』
Macの画面に映るとびきりの美少女が、まさにいまメッセを送ってきているのかと思うと、思わず心臓の鼓動が早くなってしまう。 こんなテンポのマーチじゃ速すぎてきっと歩けない。
そう思いつつ、メッセなんか使わない普段の自分だったら絶対に返さないような文字を画面に打ち込んでいた。
『ヒマだったら、ってことで』
数日間のメッセのやりとりで、彼女のこともわかってきた。
姉が勝手に応募したことで、この仕事をしていること。
高校生だから平日は学校に行っていて、仕事は基本的に土日だけであること。
テレビには時々出るが知名度はそこまででもなく、変装なしでも意外とバレないこと。
仕事用のスマホは新しいけど、個人のスマホが古くてイライラすること。
アイドルだなんて言われていても、素顔はおしゃべり好きなフツーの女子高校生だった。
『んじゃ、おやすみ〜大地♪』
(恋人同士の挨拶かよっ!)
名前を呼び捨てにされて思わず心で叫び、なんだかむず痒い気持ちになってしまった。 最近のアイドルはみんなこんなに距離が近いのか? それとも彼女が特別なのか。 答えは出なかったが、悪い気分ではなかった。
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