第24話 二人目のヒロイン

 リーンの火傷の痕を消してトラウマを解消し、宿のオーナーからリーンを買い取り、リーンは自分の好きな様に生きられる様になったのだが、どうしてこうなってしまったのだろう。


『私、マサキ様に惚れてしまいました。なので御一緒します!』


 このセリフを聞いた鞘華とサーシャが絶賛猛反対中である。


「あなた確か宿のメイドよね? どういうつもりかしら?」

「マサキ様にはもう立派な妻がいます。貴女の出る幕はありません」

「さっきからあなたとか失礼だと思うわ。リーンって名前があるのだけれど?」

「そんな事はどうでもいいのよ! 正樹に惚れたから着いてくるってなんなの?」

「それは私の自由じゃないかしら?」

「ぐっ! でも! 正樹は了承してないわよ!」

「マサキ様は私が一緒ではご不満ですか?」


 一斉に俺の方を見る。

 リーンは瞳を潤わせている。

 鞘華とサーシャは何かを訴える様な視線を送ってきている。


「なぁリーン、俺は自由に好きな様に生きろって言ったんだけど」

「さっきも言ったじゃないですか、マサキ様に惚れてしまったのです」

「だからって一緒に来る事はないだろ? アルカナで待っててくれないか?」

「嫌です。離れたくありません」

 

 自由に生きる中で俺と一緒に過ごす事を選んだ。

 他にも色々選択肢があるのに俺を選んだ。


 何故? 俺に惚れたからだと言う。

 鞘華とサーシャは猛反対しているし、どうやってリーンを納得させよう。

 そう考えていると再び鞘華達が騒がしくなる。


「ほら! 正樹も来ないでくれって言ってるじゃない!」

「来ないでくれとは言われてませんが?」

「同じようなもんでしょ!」

「全然違うわ」

「どうしてそこまで正樹に拘るのよ!」

「それは……」


 リーンは顔を赤くして俯いてしまう。

 いや、その反応おかしいよね? 俺何もしてないよね?!


「昨夜『俺の前では強がらなくていい!』と言われ抱かれました」


 その言葉を聞いて再び鞘華とサーシャが俺に熱い視線を向ける。

 確かに言ったけど! 抱きしめたけど! 言い方が悪いよ!?


 「その後、私に一生消えない傷を……」


 変な所で言葉を区切るリーン。

 これ絶対分かってやってるよ!


「ま・さ・き~? 浮気は許さないって言ったわよね~?」

「私は未だに抱かれていないのに、こんなポッと出の女に先を越されるなんて」

「お、落ち着いて俺の話を聞いてくれ! リーンとはそんな関係じゃないから!」

「サーシャ! 正樹を取り押さえて!」

「わかりました!」


 こんな時だけ絶妙なコンビネーションを見せる二人。

 あっさりとサーシャに背後から抑えられてしまう。

 

「スキルで正樹の記憶を読み取るわ。いいわよね?」

「だ、大丈夫だ! 俺は何も悪い事はしていない!」


 前回はこれでなんとかなった! だから今回も。

 と考えていると、鞘華の手が頭に置かれた。

 え? 本当にやるの? 俺の事信用してくれないのか?


「私も信用したいわ。だからこそ白黒ハッキリさせましょ?」


 顔は笑っているが目が笑っていない……。


「ん~まずは、昨夜リーンを抱いた事は本当かしら?」

「いや、それは誤解で…」

「正樹は黙ってて!」


 ピシャリと黙らされた。

 それから鞘華は質問を繰り返す。


 俺は何も答えないが、鞘華は記憶を読み取っているので問題ない。

 幾つか質問し、しばらくして鞘華が手を離す。


「はぁ~」


 溜息を吐かれた。


「まさか正樹がこんなジゴロだったとは」

「いやいや、ジゴロとかじゃないから!」

「あのね! あんな事されたら誰だって惚れちゃうわよ!」

「えぇ? 俺何かした?」

「しかも天然でそれをやってるなんて。思い返せばサーシャの時も色々あったわ」


 俺の記憶を覗いた鞘華はあろう事か俺を天然ジゴロと言い出した。

 俺にそんな技術があれば高校生活はもっとバラ色だった筈だ。

 そんな俺達のやり取りを見ていたサーシャが疑問を口にした。


「あの、何があったのですか?」

「ああ、それは……」

「私から説明するわ。スキルの事も含めて」


 俺が説明しようとすると、鞘華が割って入り自分で説明すると言い出した。

 サーシャには俺達が魔法の様な物が使えるとは話してあるが、鞘華のスキルについては話していなかった。


 鞘華は人の考えている事や過去等が読み取れてしまう。

 勿論常に読み取る訳ではなく、特定の条件の下で正確に読み取る。


 しかし、考えている事や過去等を読み取られてしまうんじゃないかという恐怖から、鞘華に近づく者が居なくなる事もある。

 サーシャは鞘華に対してどう感じるのだろう。


 鞘華が全て話し終わった後、サーシャが


「まったく、マサキ様は優しすぎます。しかし、私には彼女の気持ちが分かります」


 サーシャも元奴隷という事で共感する部分があったのだろう。

 鞘華のスキルについて何も思わなかったもだろうか?


「なぁサーシャ、鞘華の能力はどう思う?」


 つい質問してしまった。

 

「凄いと思います。これなら拷問等しなくても色々聞き出せますから」

「思考を読まれたりしないかなぁとか思わないのか?」

「思いません。サヤカ様は無暗にそんな事はしないと思いますから」


 サーシャの言葉を聞いて驚いた半面、嬉しさもあった。

 普段は色々言い合いをしているが、きちんと鞘華の事を理解していてくれたのだ。

 

 「ビックリしたでしょ? サーシャも正樹に負けず劣らずお人好しなのよ」


 そう言っている鞘華の表情は穏やかだ。

 きっと自分を理解してくれていた事が嬉しいのだろう。

 俺達が話していると


「あの! 私の事忘れてませんよね?」


 リーンから声を掛けられた。

 

「悪い、色々事情を話しててな」

「あなたの過去や昨夜の事を聞いてたのよ」


 鞘華の一言で、リーンの表情に一瞬暗い影が差すが直ぐに元に戻り


「だったら私がマサキ様に着いて行く事に異論はないわよね?」

「あなたを買った正樹が自由に生きろの答えがそれなら私がとやかく言える立場じゃないわ」

「なら決定ね。私もマサキ様に着いて行くわ」

「ただ、正樹の妻として、あなたの同行は嫌よ!」


 リーンの過去を知って、自由に生きる事の邪魔は出来ないのだろう。

 しかし、俺の恋人、妻としては俺に惚れている女性を近づけたくないという事だろう。

 そんな二人を見ていたサーシャが、鞘華を挑発する様な事を言った。


「サヤカ様は器が小さいですね。忘れたのですか? 一夫多妻が認められているという事に。そして私もマサキ様に惚れている事に」

「どうしてリーンの肩を持つのよ!」

「私は元奴隷ですから、彼女の気持ちが痛いほどわかるんです」

「だとしても、正樹に惚れている女を一緒にさせたくないの!」

「私もマサキ様に惚れていますが、いいのですか?」

「うぅ! サーシャは特別なのよ!」

「何故私が特別なのですか?」

「それは……」


 ゲームのヒロインだからとは言えず、黙ってしまう鞘華。

 しかし、二人の会話を聞いて思い出した。


 このゲームのヒロインは皆奴隷である事に。

 そしてリーンは元々ヴァギールの奴隷だった。

 という事はリーンがヒロインの可能性が高い!


「リーン、一つ聞いていいか?」

「はい」

「ヴァギールの奴隷の中に女性の奴隷は居たか?」

「女の奴隷は私しか居ませんでした。なのでタクミ様は私に目を付けたのだと思います」


 やっぱりか! 

 巧はリーンがヒロインと分かっていたからリーンを買ったんだ。

 俺の質問の意図が分かったのか、鞘華が恐る恐る聞いてくる。


「ね、ねぇ正樹。まさかとは思うけどリーンって……」

「ヒロインの一人だと思う」


 俺の言葉を聞き、頭を抱えてうずくまってしまった。

 鞘華には以前、今後ヒロインが増える事は話してあるが、相当ショックを受けている様だ。

 まぁ俺もまさかリーンがヒロインだったとは思わなかったが。


「う~~~~~~~っ!」


 鞘華が急に唸り出した。

 心配になり鞘華に声を掛けようとしたら、勢いよく立ち上がって


「リーンのプログラムを解除しましょ!」


 そう言い放った。


「リーンの今の言動がプログラムされているならそれを解除しちゃえば解決じゃない?」

「落ち着け鞘華! サーシャの時を思い出せ!」

 

 サーシャのプログラムを解除した時、解除する前より積極的になったのだ。

 リーンも同じになるとは限らないが、サーシャ同様に今よりも積極的になったらどうなってしまうのか分からない。


「それじゃあどうするのよ! このままあの子を連れて行くの?」

「クリアするには連れて行くしかないと思う」

「うぅ~~~っ」


 再び鞘華が唸り出した。

 俺が逆の立場でもそうなっていただろ。


 或いはもっとヒドイかもしれない。

 鞘華には申し訳ない気持ちで一杯だ。

 だからこそ、俺がきちんとしないとな。

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