第14話 封印解除

「気持ちいいですか?」

「ああ、気持ちいいよ」

「良かったです」


 俺が完全にサーシャに身を任せていると


「わ、私も洗ってあげる!」


 鞘華も俺の背中を洗い出した。

 恐らくサーシャに対抗心を抱いたのだろう。


「どう? 気持ちいい?」

「気持ちいいよ、鞘華」


 一生懸命に体を洗っている鞘華を想像して笑みが零れた。

 やっぱり鞘華は可愛いな。

 体を洗って貰ったお礼にと鞘華とサーシャの背中も流した。


 風呂も無事に終わり今は各自部屋に帰りくつろいでいる。

 俺と鞘華は今までと変わらず一緒の部屋だが。


 二人きりになるとドキドキしてしまう。

 風呂あがりのせいか、妙に色っぽく見える。

 長い髪をタオルで乾かしている姿に見蕩れてしまう。


「ねぇ、正樹」

「は、はい!」


 急に話しかけられたのでビックリして敬語になってしまった。


「ふふ、何ビックリしてるよ~」


 そう言いながら鞘華は俺の隣に腰掛ける。

 なんか良い匂いする。


「いや、ちょっと考え事してて」

「もしかしてエッチな事考えてたんでしょう~?」


 うりうりと頬っぺたをつついてくる。

 わざとなのか素でやっているのか分からないが可愛すぎる!


「ち、違うって!」


 思わず声が大きくなってしまった。


「ごめん、調子に乗りすぎたね……」


 シュンとする鞘華も可愛い!


「鞘華は悪くない! って言うか、か、可愛かった」

「ホントに?」

「ああ、可愛かった」

「へへ~、ありがと」


 ああ~、もう抱きしめちゃっていいかな?

 いやいや、鞘華を大切にするんだ! 我慢我慢。


「昼間の事考えてたんだよ」

「何を考えてたの?」

「スキルを使ってモンスターを殺しただろ?」

「そうね」

「それで思ったんだけど、この世界ではどこまでスキルが通用するのかなって」

「確かに気になるわね」


 う~ん、と人差し指を顎に当てて考えた後


「私も気になる事があるのよね」

「なんだ?」

「サーシャの事よ」

「まだ攻略の事納得してなかったのか?」

「そうじゃなくて!昼間、正樹がスキルを使うとき霧みたいなのが見えるっていったたじゃない?」

「そういえば言ってたな。俺から黒い霧が出て、それがモンスターに触れた瞬間にモンスターが死んだって」

「そうそう」

「そうだな。それに、昔から他人には見えない何かが見えるって言ってたな」


 何故かは分からないが、サーシャには俺達がスキルを使う時に霧の様な物が見える。

 スキル以外にも何かしら見える様だがそれが何か自分でも分からない。


 スキルを使う時、一度頭で念じる必要がある。

 サーシャは思念が見えるという事なのだろうか?


「鞘華はどう思う?」

「ん~、正直お手上げね。霧がどうこう言われても私達には見えない訳だし」

「取りあえず、サーシャはこのままでも問題ないか」

「そうね」


 霧が見えている本人がよく分かっていないのだ。

 俺達がいくら推測をしたところで所詮推測に過ぎない。


 霧が見える事で俺達に害は無いのだからこのままでいいだろう。

 俺がそう整理していると


「それより、正樹のスキルの事よ」


 鞘華がそう切り出した。


「モンスター相手に、というかこの世界に対してもスキルは使えたな」

「そうなのよ! だ、だからね……」

「ん?」


 鞘華は俯き、指をモジモジさせている。

 顔が赤くなっていて、口元もモニョモニョさせている。


 やがて意を決した様に俺に向き直り


「正樹の封印解除、し、しましょ?」


 それで何やらモジモジしていたのか。

封印解除には解除の鍵である鞘華が必要で、しかもキスでの唾液交換が条件らしい。


 何で陽佳さんはこんな解除方法にしたんだ。


「い、いいのか?」

「恋人同士なので、何も問題ないと思います」


 緊張からなのだろうか、何故か鞘華が敬語で返事する。


「じ、じゃあ、いくぞ……」

「ちょ、ちょっと待って!」

「どうした?」

「その、部屋の明かり消して欲しい……」

「わ、分かった」


 俺は慌てて部屋の明かりを消す。

 すると、月明かりに照らされた鞘華が浮かび上がる。


 こうして見ているだけで吸い込まれそうだ。

 ベッドに座る鞘華の横にすわり、鞘華の方に向き直る。


 そして、鞘華の両肩に手を置く。

 すると鞘華の身体がビクッと一瞬跳ね上がる。


 「大丈夫か?」

 「私なら大丈夫だから……」


 そう言い、鞘華は目を閉じる。

 柔らかそうな唇が少し震えている。

 俺はその震えを抑える様に唇を重ねた。


 最初は昨日の様な唇と唇が触れるだけのキスを数回繰り返した。

 鞘華の緊張がほぐれていくのを感じ、控えめに舌を入れる。


 鞘華の舌も中に入ってくる。

 温かく、ヌルヌルとした舌が絡みつく。


 キスってこんなに気持ち良かったのか。

 脳が痺れてまともに思考できない。


 鞘華の腕が俺の背中に回されて、離さないといった感じに抱きしめてくる。

 俺も手を肩から離し、腰に回して鞘華を引き寄せる。

 俺の五感全てが鞘華で埋め尽くされていく。


 どれ位そうしていただろうか。

 数秒のような気もするし、数十分の様にも感じた。


 どちらからともなく唇が離れる。

 キスで興奮してしまったのか、少し呼吸が乱れる。

 それは鞘華も同じようだった。


「こ、これで封印解除できたな」


 何か喋ろうと必死になってやっと口にしたのが雰囲気も減ったくれもない言葉だった。

 すると鞘華が


「あっ!」


 と、声をだした後、照れたように言う。


「そ、その、キスが気持ち良すぎて封印解除って念じるのわすれてた……」


 そう言うと手をモジモジさせながら


「だから、も、もう一回……して?」


 その言葉を聞いた瞬間に俺の理性が吹き飛んだ。

 鞘華をベッドに押し倒して少し強引なキスをした。


「鞘華、ごめん……俺もう……」

「いいよ?」


 そう言って鞘華は俺を抱きしめる。

 俺も鞘華を抱きしめ返して耳元で鞘華に囁く。


「鞘華、好きだ」

「私も大好きだよ」



 その夜、俺達は一つになった。

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