第13話 湯浴み

 エリーの言葉でしばし固まってしまって居たが、何とか正気を取り戻し


「おかしいだろ! 俺はサーシャを引き取っただけで、所有物とかじゃないから!」


 奴隷商から引き取っただけで夫婦になるなら世の中大変な事になる。

 俺の声で鞘華も正気に戻ったのか声を上げる。


「そうよ! それに正樹は私と夫婦なんだから!」


 俺と鞘華が口々に異議申し立てる。

 しかし、そんな物はどこ吹く風と言わんばかりにエリーは告げる。


「領主が女の奴隷を引き入れるという事はそれだけで下衆な輩が下衆の想像や噂を生みます。そういう事が無いように、領主が異性の奴隷を買う事は夫婦になり、幸せに暮らしますという意味を込めてそういう決まりが作られました。それに、サヤカ様の事は何も問題ありません。基本的に一夫多妻制ですので」


 俺と鞘華は開いた口が塞がらなかった。

 サーシャはどう思っているのだろうとかと思い、サーシャの方を向く。

 赤面させて俯きながらモジモジしている。


「サーシャは知っていたのか?」

「は、はい。ですが私は第二婦人ですし、元奴隷なので私にとってはご主人様す」


 うぁー、と天を仰いだ。

 ここはゲームの中でヒロインの攻略やイベントは必須。


 俺達がどう言ったってシステムは変えられない。

 それを鞘華に説明して納得するだろうか?


 それにゲームのクリア条件がヒロイン全員攻略のハーレムエンドしか無い。

 つまりサーシャ以外にも妻が増えるという事になる。


 俺は意を決して鞘華に話しかける。


「鞘華、ちょっといいか?」

「なに? 何か良い案でも浮かんだの?」

「えっと、その事についてなんだけど……」


 俺は鞘華に自分の知る限りのゲームのクリア条件を話す事にした。

 途中途中で鞘華の顔が青くなったり赤くなったりしていた。

 そして全ての説明が終わった。


「……という訳なんだ」

「そっか、そういうシステムならしょうがないわね」


 どうやら納得してくれたらしいと安堵しようとすると


「なんて言う訳ないでしょー! なんなのよ! 折角正樹と付き合えたと思ったら次の日には別の女が正樹の奥さん? しかもそれが今後増えてくなんてどうかしてるわ!」

「お、落ち着けって」

「落ち着ける訳ないでしょーが!」

「落ち着けって言ってるだろ!?」


 俺の怒声で鞘華がビクッとし、俯きがちに黙る。

 無理やり落ち着かせる。

 そして鞘華を諭すように語り掛ける。


「昨日、俺が言った事覚えてるか?」

「……うん」

「鞘華も思考を読んだから分かるだろうけど、あれが俺の本心だ」

「……」

「今もその気持ちは変わってない。これからも変わる事は無い」

「……」

「鞘華は俺の事嫌いになったりするか?」

「……正樹を嫌いになるなんてありえない!」

「俺も同じ気持ちだよ。だから鞘華」

「なに?」

「俺をずっと鞘華に惚れさせ続けてくれ」

「へ?」

「どんなヒロインやイベントがあっても、鞘華が一番だと思わせてくれ」

「……」

「駄目か?」

「……いいわ! 今以上に私に惚れさせて、私無しじゃ生きられない様にしてあげる!」

「それでこそ俺の好きな鞘華だ」

「ふん。他の女なんかに負けないんだから!!」


 どうにか鞘華を説得できた。

 異世界ヒロインとの修羅場は見たくないからな。

 どうにか俺達の話がまとまって、再びエリーに話しかける。


「俺達も覚悟はできたよ。サーシャを第二婦人として認める」

「左様でございますか。安心しました」

「心配してくれてたんだね」

「このような事で決断が鈍る様では領地の統一などできませんから」

「手厳しいな」

「私の役目はご主人様の領地統一のサポートですから」


 エリーとそんなやり取りをした後、サーシャにも声を掛ける。


「悪かったな、色々騒いだりして」

「いえ、私は気にしていませんので」

「改めてこれからよろしく」

「はい、マサキ様」

「サーシャが最初のライバルね。一応よろしく」

「サヤカ様もよろしくお願いします」


 改めて挨拶を交わした。

 そしていよいよ風呂の時間である。


「正樹は先に入ってて!」


 と、鞘華に言われたので現在一人で入浴中である。

 昨日は結局入れなかったし、色々ありすぎて疲れた体が沁みる。


 風呂はレンガのような石造りになっていて、なんと魔法で湯を沸かすらしい。

 もしかしてエリーは魔法使えるのだろうか?

 エリー以外の使用人を見た事がないし。


 と、考えていると扉の向こうから声を掛けられた。


 「正樹ー、は、入るわよー?」

 「お、おう」


 ついに鞘華達が入って来る。

 心臓の鼓動が早くなる。


 ガララ、バタンッ


 「お、お邪魔しま~す」

 「失礼します」


 タオルの様な布で前を隠した鞘華とサーシャが入って来た。

 アニメ等で湯気や奇妙な光で隠されている部分がしっかりと見えてしまった!


 鞘華は隠しているつもりなのだろうが、いかんせん布が小さい為隠しきれていない。


 サーシャに至っては隠そうともせず、堂々と裸体を晒していた。

 これは目のやり場に困る。


 「ちょっと、あまりこっち見ないで」

 「ああ、気を付け……」


 鞘華から目を逸らそうとした先にはサーシャの裸があった。


 「ちょっ、そっちも見るな!」


 しょうがないので目を瞑る。

 しかし、目を瞑る事で先ほどの光景が脳裏に浮かんでしまう。


 冷静になれ!  心を無にするんだ!

 そんな俺の抵抗などぶち壊すよな言葉が聞こえた。


「マサキ様、お背中流しますのでこちらへ来てください」

「ちょっ、サーシャ本気なの?」

「はい」

「行かなきゃダメか?」

「主人の身体を洗うのが妻の仕事です」

「うぐっ!」


 こんな予感はしていた。

 していたが敢えてスルーしていたのに。

鞘華は鞘華で妻の仕事という単語に何故か同様している。


 「やはり、私ではご不満でしょうか?」


 涙目上目遣いで見ないで!

 くっそ! こうなりゃヤケだ!


 立ち上がりサーシャの前まで行き、椅子に座る。


「じゃあサーシャ、頼む」

「初めてですので至らない点があるかもしれませんが」


 そう言い、石鹸を使って泡立てる気配を感じる。


「では、失礼します」


 他人に体を洗われるのはいつ以来だろうと考えていたら背中に電流が走る!

 二つの柔らかくて大きな物が背中を上下に動いている。


 こ、これはもしかして!

 確認の為サーシャに声を掛けようとした所で、鞘華が声を荒げる。


「サーシャ、あ、あなた何してるのよ!」

「マサキ様の身体を洗っていますが何か?」

「何か? じゃないわよ! その洗い方はおかしいでしょ!」

「そうなのですか?ご主人様を洗う時はこうする様に教わりました」

「普通はこの布に石鹸付けて、布で体をあらうのよ。わかった?」

「わかりました。では、あらためて」


  そう言い、今度はちゃんと布で洗い出した。

  安心した様な、勿体なかった様な。

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