第12話 サーシャ

 翌朝、目を覚ますと目の前に鞘華の顔があった。


「おはよう、正樹」

「おはよう、さや……んっ」

「へへ~、おはようのキスだよ」


 昨日、俺達は恋人同士になった。

 昨夜の事を思い出して恥ずかしくなってしまう。

 だが、俺の決心は揺るがない。


 俺の決心のせいか、恋人同士になったという事実のせいか、鞘華が今まで以上に可愛く見える。

 おはようのキスとかこれなんてエロゲ?

 そんな事を考えていると、鞘華が佇まいを正して俺に向き直り


「昨日は話が途中になっちゃったから、改めて言わせて」


 俺も自然と鞘華に向き直る


「私も正樹の事大好き! これからよろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げて言った。


「俺も返事が遅れてごめん。俺も鞘華が大好きだ! こちらこそよろしく」


 鞘華はうん! と笑顔で頷いた。


 朝食を終えたあと、エリーを部屋に呼んだ。


「何か御用でしょうか?」

「昨日モンスターを何匹か倒したんだけど、どうすればレベルは上がる?」

「モンスターを倒す事でレベルが上がるのは、所有している奴隷だけです。マサキ様とサヤカ様のレベルは所有している奴隷の数がレベルとして反映されます」

「という事は、奴隷が一人ならレベル1、二人ならレベル2になるって事か?」

「左様で御座います」


 今俺達は奴隷を有していない。

 あれ? レベル0ってことか?


「それと、領主のレベルが奴隷に加算されます。奴隷のレベルが1、マサキ様のレベルが1の時、戦いの時に奴隷のレベルは2になります。」

 

 所有している奴隷が多ければ多いほど、戦いが有利になるという事か。

 巧が侵略をしてくるとの話だ。

 こちらも奴隷を確保しておきたい。

 しかし、無一文だしなぁ。


「巧の侵略に対抗したいんだが、どうすれば奴隷は手に入る?」


 基本的かつ重要な質問だ。

 ここでお金が必要となれば、何かしら金策しなくてはならない。


「基本的には奴隷は金銭のやり取りで手に入れます」


 やはり金か! 異世界でも世知辛い。


「しかし、マサキ様は領主ですので、商人に声を掛ければ無料になります。」

「え? マジで?」


 領主の権力すごいな!


「自分の店から出した奴隷が領主様の元で功績を残せば、かなりの宣伝効果になりますから。その後は、購入した商人に『お前の所の奴隷はよくやってくれている』と伝えればよいかと思われます」


 持ちつ持たれつってやつか。


 エリーの話を聞き終えて自室に戻る

 

「とりあえず奴隷を何人か雇おうかと思ってるんだけど」

「やだ! あんな怖そうでむさ苦しい人達と一緒に居たくない!」

「昨日も言ったけど、鞘華は俺が必ず守るから」

「ん~、それでも嫌!」

 

 どうしたものか。

 なるべく鞘華の意見は聞いてやりたいが、それだと攻略が出来ない。

 確かに奴隷の男達は皆強面だらけっだったから鞘華が嫌がるのは分からないでもない。俺も気が休まらないと思う。だからといって、奴隷を雇わなければ一方的に領地を奪われるだけだ。


 誰か鞘華でも受け入れられるような奴隷は居ないものかと考えた。

 奴隷が一人でも居ればシナリオは進められるはずだ。

 と、ここまで考えて、重大な事を見落としていた事に気が付いた。

 

 ここはゲームの中だ。

 ゲームの中なら居るはずだ。

 このゲームのヒロインが! このゲームのヒロイン達はみんな奴隷の設定だった。

 なら、奴隷市場にヒロインが居る可能性がある。

 女の子の奴隷なら鞘華も文句は無いだろう。


 「鞘華、奴隷市場に行こう」


 嫌がる鞘華を無理やり連れだして奴隷市場へとやって来た。

 昨日はあまり見ないで通り過ぎたので、今回は一つ一つ丁寧に見て回る。

 鞘華は終始俺の後ろに隠れていた。


 いよいよ最後の店までやって来た。

 これまでの店ではヒロインの奴隷どころか、女性の奴隷すら見かけなかった。

 やはり俺達が転移してきた所為で、設定が狂ってしまったのだろうか?

 

 そう考えていると、聞き覚えのある女の子の声が俺を呼んだ。


「領主様、こんにちは」


 昨日俺が財布を落とした事を教えてくれた女の子だった。

 やぁ、と返事をして檻の中を覗いてみたが女性の奴隷は彼女だけだった。

 市場は此処で終わりである。

 という事は、彼女がヒロインなのだろう。


 俺が彼女に話しかけようと近づくと、今まで俺の後ろに隠れていた鞘華が俺の隣にやって来た。

 同性という事で緊張も和らいだのだろう。


「今日はどうしたのですか?」


 彼女は奴隷とは思えないほど明るく問いかけてくる。


「今日はちょっとした用事でね」

 

 さすがに奴隷を買いに来たとは言いにくい。

 しかし、彼女がヒロインなら手に入れないと話が進まない。

 どう切り出そうかと悩んでいると、鞘華が彼女に話しかけた。


「あなたは奴隷なの?」

「はい」

「それにしては随分明るいわね」

「笑っていればいつか幸せになれると信じてるので」

「そう」


 二人のやり取りはそこまでだった。

 鞘華も嫌悪感を抱いていないみたいだ。

 彼女を手に入れるにしても、鞘華の意見も聞いておこう。


「彼女を買い取ろうと思うんだけどどう思う?」

「逆に、何故彼女にしようと決めたの?」

 

 質問に質問で返されてしまった。


「彼女がこのゲームのヒロインだからだ」


 このゲームはエロゲーでヒロインを攻略しなければならない事ははなしてある。


「やっぱりそうだったのね。奴隷にしては綺麗すぎるし、女の子の奴隷は彼女しかいなかったものね」

「そういう事だ。シナリオを進めるには彼女を手に入れなければならない」

「そうなるわね。一つだけ質問してもいい?」


 そう言い、鞘華は俺の肩に手を置いた。

 思考を読む為だろう。


「いいよ、何?」

「彼女の事が好きになったとかじゃないわよね?」


 確かに彼女は可愛く、スタイル抜群で性格も良さそうだ。

 だが、今の俺にとってそんな物はどうでもいい。

 

「俺が好きなのは鞘華だけだ!」


 嘘偽りのない、俺の心からの答えだ。

 俺の思考を読んだであろう鞘華の顔が赤くなる。


「正樹が私を見てくれるなら、私は大丈夫」


 鞘華は彼女を攻略する事を了承してくれた様だ。

 それから彼女に振りかえり、告げる。


「今日は君を買いにきた」


 彼女は驚いた表情を見せたあと、恐る恐るといった感じで聞いてきた。


「私でいいんですか? 自分で言うのもなんですが、売れ残りですよ?」

「問題ない」

「その、奥様は?」

「その事について今話したけど大丈夫、問題ないよ」

「そうなんですか。懐が広い奥様なんですね」


 一通り彼女と話した後店主を呼び、彼女を貰い受ける事になった。

 エリーの言った通り、店主は上機嫌で契約書にサインをしていた。


 手続きを終えて、外で少し待つ様に言われた。

 丁度いいので鞘華と今後について話した。


「彼女は俺の所有物扱いになるらしい。奴隷の衣食住は主人が面倒を見る決まりになってるらしいから、今日から宮殿で一緒に暮らす事になるけど大丈夫か?」

「さっきも言ったでしょ? 正樹が私だけを見てくれるなら大丈夫よ」

 

 頼もしい返事が来た。

 これならキャットファイトは見なくてすみそうだ。


 それから少しして店主と彼女が出てきた。


「この度は当店を選んで頂き有難う御座います。躾はきちんとしておりますのでご満足頂けると思います。ほら、お前からも何か言いなさい」 


 店主は満面の笑みで営業トークをし、彼女にも挨拶しろとせっつく。


「この度はわたくしを選んで頂き有難うございます。精一杯がんばります!」

「こちらこそよろしく」

「よろしくね。えっと、名前は何て言うのかしら」


 鞘華がそう言って初めてまだ名前も知らない事に気づいた。


「紹介が遅れて申し訳ありません。私の名前は『サーシャ』といいます」

「俺は正樹だ」

「私は鞘華よ」

「これからよろしくお願いします!」


 自己紹介を終え、サーシャを引き連れて店を後にした。

 取りあえずヒロインは仲間にしたけどこの後はどうすればいいのだろう?

 隣を歩く鞘華に聞いてみた。

 

「とりあえず、サーシャのレベル上げじゃないかしら? 侵略された時レベルが低いと話にならないわ」


 なるほど、鞘華の言う通りだ。


「そんな訳でこれからサーシャにはモンスターと戦って貰うけど大丈夫か?」

「はい、大丈夫だとおもいます。ご主人様」

「だからご主人様は止めてくれって」

「いえ、ご主人様はご主人様なので」


 自己紹介したにも関わらず俺の事をご主人様と呼んで止めてくれない。

 しかし、鞘華の事は様付ではあるが、ちゃんとサヤカ様と名前で呼ぶ。

 俺が主人だからか? でも、エリーもご主人様って呼ぶな。

 領主だから遠慮しているのだろうか?

 生憎俺はご主人様と呼ばれて喜ぶ趣味は無い。


「サーシャ」

「はい、ご主人様」

「これからはご主人様と呼ぶな。名前で呼んでくれ」

「ですが……」

「これは命令だ。いいな?」

「はい、わかりました。マサキ様」


 奴隷は主人には逆らえない。

 ちょっと卑怯だけど、ずっとご主人様ではこっちが疲れる。


「そういえば、どうしてサーシャは奴隷になったの?」


 鞘華がとんでもない事を聞き出した。

 そこは俺も気になったけど敢えてスルーしてきたのに!


「分かりません。物心付いた時にはもう奴隷でした。その後はあちこちの奴隷商店をたらい回しでしたね。誰も私を買おうとしないので店主からは厄介者扱いでした。」

「そうだったの。辛い事を思い出させてごめんなさい」


 物心付いた時には既に奴隷だったのか。

 きっと俺が想像しているよりもずっと苦労してきたのだろう。


「大丈夫です。領主であるマサキ様に引き取られて嬉しいです」


 眩しい位の笑顔でサーシャはそう言った。

 流石はヒロイン、滅茶苦茶可愛い!


 その後取り止めのない話をしている内に草原にやって来た。

 サーシャのレベルを上げる為である。

 道中サーシャから聞いたが、なんとサーシャは魔法が使えるらしい。

 まさにファンタジーといった感じだ。


「とりあえず、この銅の剣を渡しておく」

「有難うございます。大事にします」

「モンスターが出たらよろしく頼む」

「はい、頑張ります」


 しばらく草原をあるくと昨日と同じスライムが一匹出た。


「では、行きます!」


 サーシャはそう言って駆け出し、モンスターに向かって剣を振るう。

 ポニャンッという音と共にサーシャの剣が弾かれた。

 昨日俺が戦った時はこんな事は無かった。

 昨日とは違うモンスターなのか、モンスターのレベルが高いのか。

 剣が通じないなら魔法に弱いはずと考えサーシャに指示を出す。


「サーシャ! 魔法で攻撃してみてくれ」

「む、無理です。私が使えるのは回復魔法なんです」


 魔法が使えるとは聞いたが攻撃魔法とは限らないもんな。

 そう考えてるうちにサーシャがスライムに体当たりされて蹲っている。

 これはマズイと思いサーシャの元へ駆け出そうとした所を鞘華が引き止める。


「どうした鞘華? 早く助けに行かないと」

「回復魔法が使えるならしばらくは大丈夫よ」

 

 それよりも、と鞘華は続ける


「正樹のスキルをモンスターに使ってみて。モンスターにも通じるかどうか試しておかないと今後にも影響がでるわ」

「確かに。具体的にはどうすればいい?」

「そうね、即死させて。そうすればこちらがダメージを受けずにすむわ」

「やってみる」


 即死か。

 心臓麻痺では駄目だな。

 即死する確率を変更してみるか


   ≪目の前のモンスターが即死する確率100%≫


 スキルを使った。

 するとスライムはポンッと音を立てて消えた。

 昨日スライムを倒した時と同じだ。

 どうやら成功したようだ。


「モンスター相手でも通用するみたいね」


 満足そうに鞘華は頷いている。

 サーシャは突然モンスターが死んだ事にビックリしていたが、すぐにこちらに戻って来た。

 凄い目がキラキラしてる!

 俺の目の前に来て興奮気味に喋り出す。


「今の魔法ってマサキ様が使ったんですか?」


 俺と鞘華が固まる。

 俺がスキルを使った事が分かっている?

 いや、俺や鞘華がスキルを使える事は話していない。

 とりあえず話を聞いてみるか。

 鞘華を見ると頷いた。


「魔法なんて俺は使えないぞ? 勘違いじゃないのか?」

「いえ、マサキ様から出た黒い霧がモンスターに触れた瞬間モンスターが死にました。マサキ様が何かしたのだと思います」


 それを聞いて今度は鞘華がサーシャに問いかける。


「魔法を使う人は皆サーシャが見た霧のような物を出すのかしら?」

「魔法を使うところを見たのは数回程度ですが、霧は出ていなかったです」

「なら、正樹が魔法を使った事にはならないと思うけど?」

「そうですね、魔法じゃないかもしれません。でもマサキ様から出た霧で魔物は死にました」


 サーシャへの警戒が高まる。


「申し訳ありません、変な事を言ってしまって。私昔から他の人には見えない物が見えるんです。それが何なのか自分でも分かりません。気分を害されましたならどんな罰も受けます」

 

 鞘華はサーシャから離れ、近くの岩まで行くと、俺を呼んだ。

 きっとサーシャをどうするべきか話すのだろう。


「率直に聞くけど、正樹はどう思う?」

「スキルが目視できるなんて聞いた事がないからなぁ」

「サーシャには私達のスキルを伝えておくべきだと思うわ。此処でごまかしてもこれから先スキルを使う機会が増えると思う。彼女にはスキルを使う時に霧が見える。スキルを使う度に誤魔化すのは大変よ。ならここで、私達の能力を説明して納得してもらった方が楽だわ」

「それもそうだな、魔法のような物が使えるという事にしておこう」


 俺達はそう決断してサーシャの元へ戻る。

 サーシャは罰を受けると思っているのか、体が震えている。


「サーシャ、ちょといい?」

「はい……」

「実は俺と鞘華は魔法の様な物が使えるんだ。黙ってて悪かったな」

「いえ、とんでも御座いません」

「この事は誰にも言わないでくれるか?」

「かしこまりました。どんな拷問を受けてもしゃべりません」


 そこまで重要でない気がするが、これが主人に対する忠誠なのだろう。

 それよりも、屈んだ胸元から丸見えである。

 いい眺め……じゃなくて、服をどうにかしないとならないか。

 ずっと奴隷服のままという訳にもいかないだろう。(理性が持つかわからない)

 エリーに言えば作ってくれそうだ。


「二人とも、今日はもう宮殿に帰ろう」

 

 二人にそう告げ、宮殿へ向かう。

 街の中では昨日同様に鞘華は露店を色々見ている。

 あれだけじっくり見て何も買わないのだから店からしたら迷惑極まりない。

 サーシャはサーシャで、目にする物全てが新鮮らしく、目を輝かせていた。

 途中で鞘華に連れられて露店巡りに付き合わされていたが楽しそうだった。

 市場を出るまで二人とも終始ハイテンションだった。

 女性の買い物に付き合うには覚悟がいると聞いたことがあるが、その理由の一端を垣間見た気がする。

 常にあのテンションを保てそうに無い。


 気が付くと宮殿の前まで来ていた。

 今日は帰りが早かったのでエリーが門の前で待っているという事は無かった。

 扉を開けて中に入ろうとした瞬間に


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 エリーがタイミングを計ったように挨拶してくる。

 相変わらずの神出鬼没ぶりである。


「ただいま」


 と、俺と鞘華が言ったあとエリーはサーシャを見て


「奴隷を買われたのですね」

「ああ、サーシャって言うんだ。よろしく頼む」

「あ、あの、サーシャと言います。よろしくお願いします」


 サーシャは慌てて自己紹介する。


「エリー、サーシャに服を作る事は出来ないか?」

「一から作るとなると数日掛かってしまいます。服の在庫でしたら衣装部屋に何着か御座いますので、そちらから選ばれてはどうでしょう?」

 

 衣裳部屋なんてあったのか。

 なら、作って貰うより衣裳部屋で適当に似合いそうな服を選べばいいだろう。


「じゃあ、衣裳部屋まで案内頼む」

「かしこまりました。こちらです」


 エリーに案内されて衣裳部屋にやって来た。

 何着かあると言っていたが、大き目の洋服店並みに服が並んでいる。

 しかもどういう訳か現代の洋服だ。

 セーラー服にブレザー、スクール水着からブルマまで揃えてある。

 こういう所でゲームの中なのだと実感させられる。


「サーシャ、好きなの選んでいいぞ」

「よろしいんでしょうか?」

「俺が良いって言ってるんだからいいの」

「わ、わかりました。有難うございます」


 そう言って服を選ぼうとしているサーシャに鞘華が割って入り


「私が選んであげる。此処には現実世界の服しか無いみたいだからサーシャじゃよく分からないと思し」

「じゃあ鞘華、頼む」

「まっかせて~」


 そう言って二人は衣裳部屋の奥に消えていった。

 きっと露店を見ていた時のテンションになってるんだろうな。


 一時間程待っただろうか。

 鞘華が衣裳室の奥からやって来る。


「おまたせ~」

「ホンッットに待ったよ。ってあれ? サーシャは?」

「見たい~?」

「せっかく着替えたんだから見たいに決まってるだろ」

「結構自信作よ。サーシャおいで~」


 そう言って衣裳室の奥に声を掛ける。

 わかりました、と奥から返事が返ってくる。

 足音がだんだんと近づいてきて一番前にある衣裳がめくられた。


「あ、あの、どうでしょうか?」


 超絶美少女がそこに居た!

 グレーのブレザーに茶色と青を基調としたチェック柄のスカート

 胸元はボタンが閉まらなかったのか、大きく開いていて谷間が少し見えている。

 最初はボサついていた髪も綺麗にブラッシングしてあり、まるで金色の清流のように見える。

 足元は紺色のローファーにニーハイソックスとスカートとの絶対領域が堪らない!


「どう? 似合ってると思わない?」

「ああ、凄い似合ってる。何処かのお嬢様みたいだ」

「だってさ。サーシャの感想は?」

「奴隷の私には勿体ないお言葉です」

「もー、素直に喜びなさいよー」


 漫画やアニメに出てくるようなお嬢様にしか見えない。

 あ、ここゲームの中だった。


「でもどうして制服なんだ?」

「私達も制服着てるからその方がいいかな~って」

「鞘華、グッジョブ!」

「浮気したら許さないからね?」

「肝に銘じます」


 その後、衣裳部屋を後にした俺達は再びエリーを訪ねた。


「部屋って余ってる? サーシャの部屋を用意したいんだけど」

「お部屋でしたらご主人様の向かいの部屋が空いています」

「そっか、ありがとう」


 早速部屋に向かう。

 部屋のドアを開けて中を見るが、きちんと掃除がされていて綺麗だ。


「サーシャは今日からこの部屋を使ってくれ」

「よろしいのですか?」


 サーシャは服の時もそうだったが遠慮しすぎな所がある。

 きっと普通の奴隷はこんな扱いは受けないのだろう。

 しかし、今後何かする度に俺の許可待ちでは何かと不便だ。


「サーシャ、よく聞いてくれ」

「はい」

「これから一々遠慮とかするな。サーシャはもう俺の物なんだから、俺がOKといったら素直に従え。これは命令だ」


 物心付いた頃から奴隷として生きてきて、奴隷としての生活しか知らないサーシャにはこれ位言っておいた方がいいだろう。 


「かしこまりました。この服も部屋も有り難く使わせてもらいます」

「そうよー、遠慮なんかしちゃダメだからね?」

「はい、有難うございます」


 まだ堅苦しさは抜けないが、今はこれでいいだろう。

 

 気が付けばもう既に日が暮れようとしていた。

 そして、気が付けばエリーが立っていた。

 ホントに神出鬼没だな。


「お食事のご用意が出来ました」

「わかった。サーシャの分もちゃんとあるよな?」

「当然です。サーシャ様はご主人様の所有物ですから」


 所有物と言われると違和感を覚えるが、この世界では常識らしい。

 食堂へ行くとテーブルにはきちんと三人分の料理が並べられていた。

 俺の前の席に鞘華が座り、鞘華の右隣りにサーシャといった席順だ。

 席順にも色々決まりがあるらしい。


 食事を終えた俺達に待ち受けていたのは風呂だ。

 この世界では夫婦は一緒に入らなければならない。

 それを破れば奴隷の身分まで落とされてしまう。

 どうしたものかと考え、鞘華を見ると


「私は構わないわよ?」

「本気で言ってるのか? 昨日は嫌がってたじゃん!」

「今は恋人同士だしいいかな~って」

「本気か?」

「本気よ!」


 どうやら鞘華は意見は曲げない様だ。

 一緒に入りたくない訳じゃないが、きっと俺の息子が反応してしまう。

 それも覚悟の上という事なのか?

 もしかして付き合って次の日に大人の階段を上ってしまうのか?


 等と考えていると、エリーから声を掛けられた。


「ご主人様、湯浴みの件なのですが……」

「わかってる。鞘華と一緒に入るよ」

「サヤカ様もそうなのですが、サーシャ様もご主人様の所有物ですのでご一緒に入らなければなりません」

「「は?」」


 俺と鞘華の声が重なる。


「いや、サーシャは夫婦じゃないんだし、別に一緒に入らなくてもいいだろ」

「そうよ! サーシャには悪いけど一人で入ってもらうわ!」


 二人して抗議の声を上げるが、エリーの一言で凍り付いた。


「サーシャ様はご主人様の所有物となりました。それは事実婚の様な物で夫婦とみられます。破れば例えご主人様でも奴隷に落とされてしまいます」 




 俺は知らない内にサーシャと夫婦になってしまっていた。

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