第11話 恋人
鞘華にこのゲームについて一通り説明した。
「そういう事だったのね。てっきり可愛い奴隷を買って色々するのかと思った」
汗が滝の様に流れる。
このゲームはエロゲーだ。
当然奴隷の女の子と色々するイベント等がある。
「じーーーーっ!」
自分でじーーーっと言いながら俺を凝視している。
汗が止まらない。
シナリオ通りに行動しないとクリアできないかもしれない。
「おいおい、疑ってるのか? 言っとくけど奴隷は屈強な男しかいないぞ」
「確認だけど正樹は女の子が好きなのよね?」
「当たり前だろ!」
「そう。なら安心ね」
鞘華の頭の中で何が描かれていたのだろう?
いや、深く考えるのは辞めておこう。
「とりあえず、レベル上げに行こう」
俺達はベルを鳴らしてエリーを呼び、草原に行くと伝えると
「それでしたら此方をお使いください」
と言って、銅の剣の様な物を渡してきた。
草原までやって来た俺達は早速モンスターに出会った。
「え? なにこれ? 気持ち悪い」
「こいつは多分スライムだな。初心者向けのモンスターだよ」
ドラ〇エに出てくる様なプルプルしたモンスターだ。
雑魚中の雑魚である。
「よし、幸い相手は一匹だ。二人で一気に倒そう」
そう言って俺はモンスターに駆け寄るが、鞘華は動こうとしない。
「鞘華、何やってるんだ。早く仕留めるぞ」
「無理無理無理、正樹やっつけて!」
相当ビビってしまっているようだ。
相手はスライムなのに。
仕方なく一人でスライムに切りかかる。
何度か切りつけているとスライムはポンッと音を立てて煙になって消えた。
倒したという事でいいのだろう。
「ふう、何とか倒したな」
「さすが正樹! 伊達に日ごろからゲームやってないわね」
「それは褒めてるのか?」
「褒めてるに決まってるじゃない。惚れ直したわ」
「はいはい」
鞘華を軽くあしらって考える。
モンスターを倒した事で経験値は溜まるはずだけど、どの位でレベルアップするのだろう?
とりあえずもう少しモンスターを倒してみるか。
その後四匹のスライムを倒した。
何も変化は起きない。
まあ、スライムだしな。
後でエリーにでも聞いてみるか。
草原からアルカナの街に帰ってきた。
ゲームだと一瞬だけど実際に移動するとなると結構面倒だな。
「せっかくだし、街を見て回らない?」
「そうだな。何か情報も手に入るかもしれない」
俺がそう言うと鞘華は早速露店を見て回っている。
「ねぇねぇ、これカワイイ」
「そうか? 鞘華にはこっちの方が似合うとおもうぞ?」
そう言って青い石が埋め込まれたブローチを手に取る。
「綺麗、これ欲しいな~」
「プレゼントしたいけど、今俺達は無一文だ」
「うっ!」
俺達は無一文なのである。
モンスターがお金やアイテムを落とすかと思ったが何も落とさなかった。
あのシステムはゲームだけだったようだ。
その後色々な所を見て回った。
最後にとこれからの事も考えて奴隷市場にやってきた。
これまでの場所とは空気というか雰囲気が違って感じた。
「さ、さっさと見て早く帰りましょ?」
「そうだな」
鞘華も異質な空気を察したのか、早く帰ろうとしつこく言ってきた。
俺もあまり居心地がよく無かった為、速足で歩きながら市場を見て回る。
店のカウンターの横には檻があり、その中に奴隷達がいた。
どの奴隷も目つきは悪く、中には威嚇してくる者までいた。
やはりと言うべきか、奴隷は男ばかりだった。
女の奴隷が居たとしてもすぐ買われてしまうのだろう。
奴隷で何をするかは敢えて考えない様にした。
市場の出口に差し掛かった所で声を掛けられた。
「あの! すみません!」
後ろを振り返るが誰も居なかった。
気のせいかと思い、歩き出そうとした所で、また声がした。
「こっちです、領主様!」
振り返り、辺りを見回すと、出口近くにある店の奴隷の檻から声が聞こえてきた。
檻に近づいてみると、ブンブンと手を振っている奴隷の女の子がいた。
最初、女性の声だったので奴隷ではなく、ただの市民かと思って檻の方は確認しなかった。
手を振っていた女の子は檻の中にいるのできっと奴隷なのだろう。
服装も他の奴隷達が着ているような、麻布で作られた質素なシャツのような物だけだ。
しかしよく見ると整った顔立ちに豊満なバスト。
髪は長く綺麗な金髪で、クリクリとした大きな瞳は青く輝いていた。
俺がじろじろ見ていたせいか、鞘華から肘鉄を食らう。
マジで痛いから勘弁して欲しい。
「えっと、俺に何か用かな?」
あまりじろじろ見るのは良くないと思って、奴隷の女の子に話しかける。
「何か落としましたよ?」
言われ指刺された方を見ると、俺の財布が落ちていた。
慌てて財布を拾い、再び女の子の元へ戻りお礼を言う。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、流石に領主様の物をくすねる輩は居ないと思いますが、一応念のためにお声を掛けさせて頂きました」
「俺の事知ってるの?」
「???。はい、存じ上げております。領主のマサキ様ですよね?」
「まぁ、そうだね。俺って結構有名人なの?」
「領主様ですから、おそらくこの世界で知らない人は居ないかと」
「そ、そうか。悪いな変な事聞いて」
「いえいえ」
「それじゃあ、俺達はもう行くから。元気でな」
そう別れの言葉を言いその場を後にした。
奴隷になって日が浅いのか、あんな可愛い子がまだ売れ残ってるとは。
しかし、すぐに色好きな者に買われるだろう。
せめてもの思いを込めて、元気でな。と別れを告げた。
しかし、俺がこの世界でそんなに有名だとは思わなかった。
これなら、この世界に転移させられた三人の内の一人から何か連絡があるかもしれない。
そうすれば、一々シナリオを進める事無く救い出せるかも。
しかし、救出するには封印解除しなければならない。
そうなると必然的に鞘華とディープなキスをする事になる。
俺も覚悟を決めないとな。
日が落ちかけて、所々に明かりが灯される。
俺の住む宮殿に帰ると、エリーが扉の前で立っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「もしかしてずっとここで待ってたの?」
「いえ、日が傾いても中々帰られないので、先ほどお出迎えに上がろうかと外に出た所でございます」
「遅くなって悪かった。今度からは気を付けるよ」
「お心遣い有難うございます」
そんなやり取りをして宮殿に入った。
中に入ると何やらいい匂いがした。
「いい匂~い。ねぇ正樹、お腹空いた~」
「確かに腹減ったな」
放課後から今まで何も食べていなかった。
現実世界とこの世界が同じ時間だとしたら丁度夕食時だ。
それに今日は色々ありすぎて疲労も溜まっていた。
「お食事と湯浴みのご用意はできておりますがいかかなさいますか?」
食事は、なんと現実世界の現代と変わらない物が出てきた。
恐らくゲームなので、細かい設定等はしていないのだろう。
次に湯浴みとなったが、そこで問題が発生した。
「悪いけど、もう一回説明して貰えるかな?」
俺は聞き間違いじゃないかと思い、エリーに湯浴みについてもう一度説明する様に促した。
「湯浴みは基本的に夫婦の場合、一緒に入るのが常識です。なので、マサキ様とサヤカ様は一緒に湯浴みする方が宜しいかと思います」
ここに来て夫婦という設定の壁にブチ当たった。
「一緒に入らないと何かマズイか?」
「一緒に入らなかった場合、奴隷の身分まで落とされます。きちんと一緒に入っているか私の様なお付きが監視します。これをお決めになったのはタクミ様と聞き及んでいます」
「巧だって?」
思わぬ所で俺達同様、この世界に転移させられた人物が判明した。
「はい。今現在、最も領地の多いヴァギール地方の領主であるタクミ様がお決めになられました。大変色好きな方で、拒む者は容赦なく奴隷に落としていて、余り良い噂は聞きません。近いうちにわたくし達のアルカナに侵略するという情報も流れています」
聞く限りだと、まるで独裁者だ。
「悪い、風呂は後にする」
「かしこまりました」
俺は自分の部屋に戻り、鞘華に状況を説明した。
「と、言う訳なんだ」
「なるほど、大体状況は分かったわ」
「どうすればいいと思う?」
「決まってるわ、攻められる前に攻めましょう!」
「攻めるって言ったって、こっちは戦力ゼロだぞ?」
領地同士の争いは奴隷同士が戦うのがこのゲームの決まりだ。
俺達はまだ奴隷を一人も有していない。
戦力ゼロなのである。
「そこは正樹の能力に頼るわ」
「今の俺じゃ殆ど役に立たないぞ?」
「そこで、封印解除よ。さっそくお風呂一緒に入りましょ」
「ちょっと待て。風呂は関係なくないか?」
「この世界では夫婦って設定だし、元の世界でも恋人なんだからお風呂位一緒に入るわよ」
この世界に転移させられる前にも聞いて演技だと思っていたけど
「俺達、付き合ってないよね?」
「え?!」
いや、ビックリするのはおかしいよ?
「付き合うとか言った覚えがないんだけど」
「私の事どう思ってるか聞いたじゃない? そしたら正樹が私でエッチな想像するって言ったわよね?」
「そんな恥ずかしい事言っちゃってたね! わすれてたよ!」
「私は正樹が好き。正樹は私でエッチな事考える位に好き。これはもう恋人じゃないかしら?」
「違うと思う。少なくても俺は鞘華の事今は恋人として見てない」
俺の言葉にショックを受けたのか、鞘華は項垂れてしまった。
これは早くも俺の決意が試される時が来たようだ。
「鞘華、俺の話を聞いてくれ」
返事が無いが俺は構わず話を続けた。
「俺の初恋の相手は鞘華だ」
「でも今は好きでも嫌いでもない、興味の無い女なんでしょう?」
「興味が無いとまではいってないが、続きを聞いてくれ」
ようやく鞘華は顔を上げて俺に向き直り話を聞く姿勢になった。
「研究所で見た写真の女の子に一目ぼれをして、その子の言葉で勇気を貰った。その時に誓ったんだ。今度は俺が女の子を守れるようになろうって。結局、研究所は無くなって、写真の女の子に会う機会が無くなってしまった。そして俺は普通の学生として今の学校に入学した。俺、思い出したんだよ。入学式当日に鞘華が写真の女の子だと気づいて鞘華に話しかけた事や、その時の喜びとかを」
そう、それはこの世界に転移させられた時にみた過去の記憶。
「どうしてそれを……?」
「この世界に転移させられた影響かは分からないけど、思い出したんだ」
「そう……なんだ……」
鞘華はイタズラを叱られる子供の様に縮こまってしまった。
だけど、ここで話を終わらせる訳にはいかない。
「入学式の時、俺は鞘華に一目惚れしていた。同じ女の子に何回惚れるんだって話だけど、すぐに鞘華が写真の女の子だと気づいた。バカみたいと思うかもしれないけど、運命さえ感じてしまったよ。そして気づいたら鞘華に話しかけて、記憶を消されてしまった」
「ごめん……なさい……」
涙を浮かべながら謝ってくる。
「それから今日まで鞘華が写真の女の子だと忘れていた。だから、鞘華への告白の返事が曖昧になってしまったんだと思う。記憶を失っていたという事や、鞘華が写真の女の子だと判明して、思考が追いつかなかったのかもしれない。いや、これは言い訳になっちゃうな」
未だ涙を流している鞘華の正面に立ち、鞘華の両肩に手を置いて、しっかりと彼女の目を見つめて言う。
「俺は峰崎鞘華が大好きだ! 今度は俺が鞘華を守る! だから……」
緊張のせいか、心臓がバクバクいっている。
息が苦しい。
だが、ここで立ち止まる訳にはいかない!
鞘華の悲しむ顔は見たくない!
「俺と付き合ってください」
静寂が場を支配する。
沈黙がこんなにも怖いなんて思いもしなかった。
やがて鞘華が口を開く。
「嘘じゃ……ない? 無理してない?」
涙を流し、震える声で聞いてくる。
「っ!?」
俺は自分の意思表示とばかりに、鞘華の震える唇に唇を重ねた。
鞘華もソッと俺の背中に腕を回す。
どれ位そうしていただろう?
長くそうしていた気がするし、一瞬の事の様にも感じる。
お互いの唇が離れ、再び鞘華に問う
「これで信じて貰えたかな?」
「も……かい」
鞘華の顔を見ると、相変わらず涙は流れているが、その涙は悲しみの涙ではないとわかった。
そんな彼女の目を見つめていると
「もういっかい……して?」
その夜、俺達は何度も唇を重ねて眠りについた。
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