第5話 明かされる真実
何だか分からない内に下の名前で呼び合う事になってしまった。
あれ? 俺に気があるんじゃね? と思ってしまう。
あまり女子との接点がなく女性に対しての耐性がない為仕方のない事だろう。
誰でもこの子自分に惚れてるんじゃないかという勘違いはしたと思う。
否、しているに違いない! だって男の子だもん!
色々な事が頭を回る中、急に体を揺さぶられた。
「正樹、ちょっとどうしたのよ? 急に黙り込んだと思ったらブツブツよくわかんない事を口にしながら真剣な顔でニヤつくとか意味が分からないんだけど!」
体を揺さぶられた事で意識が元に戻っていく。
軽くトリップしていたらしい。
っていうかヤバイ! 鞘華に体を触られている! 俺の思考が読まれたか?
俺は慌てて
「ご、ごめん。ちょっと考え事してただけだからもう大丈夫だよ」
「そうなの? ならいいけど」
と言い彼女は簡単に俺の体を放した。
どうやら思考を読んでいた訳ではなく本当に心配してくれていたらしい。
何か凄い優しく見える。今までの俺たちに向けられていた虫けらを見る様な目をしていた毒舌女子と同じ人物とは思えない。
ッ!?
これがギャップ萌えという奴なのだろうか?
おっと危ない。また思考の波に飲まれる所だった。
鞘華を見てみると心配そうな怒っているようなよく分からない表情をしていた。
やはり男の俺がリードしなくては。
「いや~、今日はいい天気だね」
「は? ふざけてんの?」
メッチャ睨まれた
「いや、ふざけてないよ。何か会話しなきゃと思って」
そう、今はふざけている場合ではない。最初が肝心と聞くからな
「はぁっ」
溜息を付かれた
「私がどうして正樹の部屋にいるか覚えてる?」
え? 何でだっけ? と少し逡巡すると
「あーーーーーーっ!?」
そうだ。鞘華が研究所から来たエージェントという事について詳しく聞く為だった。
「忘れてたみたいね」
鞘華が呆れ紛れにいう
すっかり忘れてしまっていた。
恐るべし男女密室効果!
「それはともかく、さ、鞘華が研究所から来たっていうのは本当か?」
無理やり本題に入った。
やはりまだ名前呼びがおぼつかない。
「何処から話そうかしら。そうね、順を追って話すわ」
鞘華は少し考えたあと語りだした。
鞘華が言っている研究所と俺の居た研究所は別だという事。
鞘華にも生まれつき能力があり今の研究所に目を付けられた事。
その研究所は鞘華に対して問診のような事しかせず特別な事はしなかった事。
俺や鞘華のような能力をスキルと呼んでいる事。
俺のいた研究所は無くなったがそこから何人か今の研究所に移った事等が語られた後
「結構話したから喉かわいちゃった。何か飲み物ある?」
「気が付かなくて悪い。コーヒーしかないけどいい?」
俺もちょうど喉が渇いていたのでコーヒーを入れる。
「お砂糖とミルクいっぱい入れてね」
「いつもブラックしか飲んでないから砂糖とミルクはないな」
砂糖とミルクを沢山入れたらそれはもはやコーヒーでは無い気がする。
「えー、他に飲み物ないのー?」
文句を言いながら可愛らしく聞いてくる。
ってか可愛いなチクショウ!
「冷蔵庫にはミネラルウォーターしかないな」
「しょうがないからそれでいい。次からはちゃんとジュース用意しといてね」
鞘華にミネラルウォーターのボトルを渡しながら
え? 次があるの? これってもう恋人同士なんじゃね? 等と考えてしまった。
俺ってもしかしてチョロイのかもしれない。
鞘華が水を三分の一程飲んだ後
「じゃあ、話に戻るね」
と言いまた話す姿勢に入る。
「正樹はどうして今の学校に入ったの?」
唐突な質問だった。
「それは研究所が学校の入学手続きをしたからだけど」
俺は研究所に引き取られた後学校には一度も行っていない。家庭教師の様な人がいてその人から勉強等を教わった。
研究所の外に出る事は無く、全ての事は研究所内で行っていたが、研究所が閉鎖する時に今の部屋と資金援助、高校入学手続きをしてもらったのだ。
「私も研究所から今の学校に行きなさいって言われたわ」
鞘華もか。
「霧矢正樹を監視するという目的でね」
やはり完全に開放された訳ではなかったのか。
「だからって監視カメラや盗聴器はやりすぎじゃないか? お、俺のアレも見ていた訳だろう?」
俺がそう言うと
「わ、私は見てないわよ! 研究所の人が『またヤッてるよ。すきだねぇコイツも』って会話してるのをたまたま聞いちゃったのよ! 私の監視はあくまで学校でのあなたなの! 勘違いしないで!」
バンッ!? とテーブルを叩きつけて必死に弁解してくる。
「へー、そうなんだー」
気のない返事を返す。
「ちょっ、信じてないでしょう?!」
「ゲームショップのBLコーナーに居た人にいわれてもねぇ」
俺がそう口にすると、鞘華は待ってました! と言わんばかりの表情で
「そう、それよ!」
どれよ? と思っていると
「あの時買ったゲームはやったの?」
「興味津々じゃないですか、やだー」
とおどけた調子で返事をすると鞘華は真剣な顔つきで
「どうなの? やったの?」
としつこく聞いてくるので素直に答えた
「やったけどそれがどうかしたの?」
今まで散々監視カメラで見られているのだから今更エロゲーをプレイしたかどうか答えるのは簡単だった。
「それでどうだった? 面白かった?」
何この娘、すごい食いついてるじゃないですか。
「全っ然面白くなかった。開発者は死ねばいいんじゃないかな」
素直な感想を言うと、何故か鞘華は安堵したように見える。
「そっか。つまらなかったんだ」
何故そこで安心しているのだろう? 俺は買った事を後悔しているのに。
「何でそんな安心した表情してるの? 俺がクソゲー掴まされて落ち込んでるのを見たかったの?」
だとしたらとんだドSだ。
「違う違う。そのゲームの評判をネットで見てみなさいよ」
言われるがままに俺はスマホでゲームの批評サイトを見てみた。
そこには目を疑う文字が並んでいた。
『新作最高! エロすぎ!』
『酒池肉林とはまさにこの事だな』
『制作者は神!』
等々ゲームを賛辞する物ばかりだった。
あのクソゲーが? 一体どういう事だ?
俺の考えを読み取ったのか、顔に出ていたのかは分からないが鞘華が説明してくる。
「正樹が持ってる物はクソゲーよ、チートでも使わない限り。その他のゲームは普通
に販売されているゲームね。きちんと攻略できるわ」
どういう事だ? 俺だけがクソゲーを掴まされたという事なのか?
まて、今違和感ある言い回しだったぞ?
「普通に販売されているゲームって言ったか?」
「気づいたのね。そうよ、正樹が買った物だけ研究所で弄って普通では攻略できない
ようにしておいたのよ」
なん……だと……!?
「これが私がゲームショップに居た答えよ。きちんとあなたがそのゲームを買うか見
届けていたのよ」
何て酷い事しやがるんだ! 俺があのゲームをどれほど楽しみにしていたことか!
惨い、惨すぎる。これが人間のする事かよ!?
俺は知らず知らずのうちに鞘華を睨んでいたらしい。
「そ、そんなに怖い顔しないでよ。これには訳があるんだから」
俺の迫力におされ若干引き気味の鞘華が弁明を始める。
「実は月曜日に突然全ての監視カメラと盗聴器が壊れたのよ。当然研究所の人達は正樹が何かしたんじゃないかって疑ったわ。当然よね、全部の機器が同時に壊れたんだもの。そして私には今までより注意深く監視するように言われたわ。監視している内に正樹達が今回のゲームを買うという情報を手に入れた。そうしたら研究所の人が既存のゲームに手を加えてスキルでも使わない限り攻略不可能な内容に書き換えて正樹にプレイさせようとしたの。もし機器が全部壊れた事が正樹の仕業なら攻略不可能なゲームも簡単に攻略してゲームを楽しむ事ができた。でも正樹は攻略不可能なクソゲーと言ったという事はスキルを使わなかったという事だから安心しているのよ」
何と言う事だ。そんな事の為にあんなクソゲーをやらされたのか。
「それって俺に言っちゃっていいの?」
「よくないわよ」
即答だった、そりゃそうか。
「なら何で話したの?」
素朴な疑問だった。
監視されていると知っている状態と知らない状態では行動が変わってくるからだ。
監視されていると知っていたらきっとゲームもやらないし、ソロプレイもしないだろう。
「正樹が私の事をBL大好き女だと勘違いしたからよ!」
えー。何故か怒られた。
「それはしょうがないだろう? あんなところでキョロキョロしてたら誰だってそう思うよ。ってか、凄い個人的な理由だな!」
学校で汚名を被るよりマシと考えたのか?
しかしそんな理由で研究所が了解するとはおもえないけど。
「研究所はこの事について了解してるのか?」
素直に聞いてみた。
「ああ、研究所なら金曜日の夜に壊滅したわ」
「ああ、そりゃそう……え?」
研究所が壊滅? 何で? 何かの事故か何かか?
「それも説明しないといけないわね」
是非説明してもらいたい。
「私のいる研究所はスキルを持っている人材を保護するのが主な仕事なの」
保護か。
ただ保護をしていた訳ではないと思うけど。
鞘華に続きを促した。
「研究所でスキル持ちは私だけだった。あとは将来スキルに目覚めそうな人材の監視と、保護ね。私達は候補生と呼んでいたけれど」
候補生ねぇ。
「その候補生が正樹もよく知る斎藤秀儀、高田葉一、須藤巧の三人よ」
思いがけない名前が出てきた。
あいつらが候補生? スキルに目覚める可能性があるという。
「あいつらがスキルに目覚めるという根拠は?」
「それは私にも分からないわ。ただ研究所の調査で目覚める可能性があるというだけよ。必ずしも目覚めるとは限らないわ」
研究所の方も目覚めればラッキー程度なのだろう。
それよりも気になるのは
「どうして研究所は壊滅したんだ?」
核心に迫る。
「研究所で人工的にスキルを手に入れた奴がいたのよ。正樹や私のDNAサンプルから細胞を作り出し、それを自分に移植する事でね」
確かに研究所でサンプルとして色々取られた経験がある。
はっ!?
鞘華も色々取られたのか? そうなのか?
またしても俺は顔に出してしまっていたのだろう。
鞘華に睨まれた。
「私は髪の毛を数本取られただけよ。変な想像しないでよね」
既に変な想像をした後だが、わかってるよ。と答えた。
「そいつのスキルが厄介で、触れた相手を任意の場所に転移させられるのよ。それが例え異世界だろうと宇宙の果てだろうとね」
そいつを紹介して欲しい。異世界ハーレム作るんだ!!
「そいつにはもう一つスキルがあって、触れた生物を自分の支配下、又は洗脳できるのよ」
スキルの能力が二つある? どういう事だ?
「普通スキルの能力は一人一つしか開花しないと聞いてたけど?」
「そいつは正樹の細胞と私の細胞を移植してたみたいでね。それのおかげかは分からないけど、そいつは二つの能力に目覚めたんじゃないかという感じね」
それが本当なら研究所の連中は狂気乱舞したに違いない。
人工的に能力者を作るのが目的と言っていたからな。
しかしそれが本当なら
「研究所を壊滅させたのはそいつか」
「その通りよ。職員達はどうして能力に目覚めたのか色々やろうとしていたみたいだけど、それを察知した奴は、研究所ごと転移させて消滅させたわ」
まぁ、今まで自分がしてきた事を自分がされる側になり、怖くなって研究所を消したか、複数のスキに目覚めて自分は特別なんだと思い込み、今後自分の様な者が作られないように研究所を消したといった所だろう。
「しかし、鞘華はよく無事だったな。普段は研究所に居ないのか?」
「私も正樹と一緒で一人暮らしをしているから被害には合わなかったわ。正樹の保護者である霧矢陽佳も無事よ」
今のところは研究所内部にいた人達だけが犠牲になったというわけか。
しかし厄介な事になったな。
もしそいつが自分の事を特別な存在だと思い込んでいるなら
「次は俺や鞘華が狙われるかもしれないな」
「私も同じ考えよ。これからはお互い協力して身を守りましょう」
まぁ、協力するのが妥当だろう。
俺と違って先日まで研究所と繋がりがあった鞘華の情報は大事だ。
「そいつの名前や見た目は知ってるのか?」
「正樹も見た事あると思うわよ。ゲームショップで正樹にゲームを売った店員がそうだから」
あの眼鏡を掛けた青白い店員がそうっだったのか。
名前はなんて書いてあったっけなぁ。ネームプレートでいちいち確認なんかしないからな。
「そいつの名前は
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