第4話 峰崎鞘華
研究所のエージェントと名乗った委員長は何故か笑顔だった
だが俺は笑顔ではいられない。
俺を実験動物の如く弄った研究所から来たと言っているのだ。
しかもエージェントという事は何かしらの使命が課せられているはず。
俺を連れ戻しにやってきたのだろうか?だが、それよりも疑問に思っている事を
思考を読んだ委員長が説明してくる
「研究所で霧矢くんがされた事は聞いているわ。非人道的な実験が繰り返されてい
た事も」
やはり委員長は俺の過去を知っているらしい。
「その数々の実験や研究の成果がどうなっているかも知ってるわ」
なるほど、研究所の事は全て知っているって事か。
俺には小さい頃から不思議な力が使えた。その力を使えば不可能等皆無だった。
小学四年生の頃に俺は研究所に買い取られた。
文字通り両親から俺を買ったのだ。
戸籍も研究所の霧矢陽佳きりやようかが母親になっており、俺は養子になっている。
今も霧矢陽佳からの資金援助で一人暮らしをしている。
俺が十五の時研究所を出る事になったが、霧矢陽佳はせめてもの償いとして俺が
成人するまでの資金援助を申し出てきたのでそれに乗っかった形だ。
研究所は俺の様な力を人工的に作り出せないかと研究していた。
その過程で俺は色々な実験や薬品投入等を受けていた。
しかし一向に成果が見られず研究所は研究を諦めて俺を制限付きで開放した。
研究は失敗に終わったはずなのだが目の前の委員長は研究所から来たエージェン
トと名乗り、しかもスキルを使えると言っている。
『対象物に触れる事で思考や嘘が見破れる』
今までのやり取りを思い出してみると委員長のいうスキルを使える可能性が高い。
スキルを持つ委員長
研究所は研究を続けていた?そして研究は成功し、委員長はスキルが使えるよう
になったのだろうか?
まぁこの疑問は委員長が教えてくれるだろう。まだ俺の肩には委員長の手が置か
れているのだから思考を読んでいるはずだ。
「いいわ、教えてあげる」
やはり思考を読んでいる
「でもここで話す内容ではないわね。場所を変えない?」
「ここに連れてきたのは委員長なんだけどね」
「最初は正体を明かすつもりじゃなかったからね」
なら何故正体を明かしたのだろう?
「それも含めて話すわ。誰も人が来ない所がいいわね。此処も人は滅多に来ない
けど絶対に来ないという訳じゃないから」
確かに他の人間に聞かれるのはマズイな
「と、いう訳で、これから霧矢くんの部屋に行きましょう」
「は?何で俺ん家なんだよ。他にいくらでも場所はあるだろう?」
「それはダメよ。街中は防犯カメラだらけだし、人が居ない所を見つけたとして
も話してる最中に人が来る可能性だってある。ホテルなんかの個室でも盗聴器や盗撮
カメラ がある可能性だってあるわ。その点、霧矢くんの部屋ならセキュリティーは
万全だし、途中で邪魔が入る事はないじゃない」
「俺の部屋は木造アパートの一室だし隣の部屋に声が漏れたりするかもしれない」
「それは大丈夫よ」
「何か対策でもあるの?」
「そのアパートは研究所が用意した物だって忘れてない?」
そうだった。研究所を出る時今のアパートを紹介してくれたのは霧矢陽佳だ。何
かしらの細工をされているに違いない。
「そういう事。それじゃあ行きましょうか」
と言ってやっと委員長の手が俺の肩から離れた。
思考を読まれるのはあまりいい気分じゃないので安堵した所で重大な事に思い当
たってしまった。
もし、もしあれが俺の部屋にあったら俺は羞恥で悶え死ぬかもしれない。
俺は前を歩いている委員長に恐る恐る聞いた。
「俺の部屋に監視カメラがあったりするのでしょうか?」
何故か敬語になってしまった。
「……」
少しの沈黙の後
「霧矢くんのエッチ」
やっぱりあったのか! っていうかエッチって! え? あの行為も見られていたのか! エロゲーをプレイしている姿だけでなく、ソロプレイも見られていたという事か! いや、まて! とんでも発言だったんじゃないか?
『霧矢くんのエッチ』
オーケー、落ち着け俺。
クラスの同級生にエロゲーをしながらソロプレイをしている所を見られました。
うわあああああ!どうしよう!どうする?死ぬか?死ぬしかないのか?
俺が一人で羞恥に悶えながらどうやって死のうか真剣に考えていると
「何暗くななってるのよ、着いたわよ」
委員長の声で現実に引き戻される。
いつの間にか俺の部屋の前まで来ていたようだ。
「わ、悪い。ちょっと考え事しててな」
言いながら玄関の鍵を開け部屋に入る。
部屋に入るなり委員長は俺の部屋を所狭しと動き回り何かを集めていた。
俺は来客用の座布団を置き、ベッドを背もたれにして座る。
しばらくして委員長が目の前のテーブルにドサドサッと何かを置いて委員長もや
っと座る。
俺が訝しげな顔をしていると
「これ全部監視カメラと盗聴器よ」
おいおいマジかよ。多すぎじゃない? こんなにあったら俺の性活丸裸じゃないか!
「こんなにあったのに気づかなかった。委員長はよく見つけたな」
「見つけたというか、事前にカメラとかある場所を知ってただけだけどね」
そうだった。委員長は俺のソロプレイを見てるんだからカメラの位置を知ってい
てもおかしくないな。でも何でこれらを外すのだろう? 研究所の人間はカメラを外す事は同意しているのだろうか?
というか、部屋で女子と二人きりなのですが。
ヤバイ、何か緊張してきた。何か話さないと!
「ふ、二人きりだね」
何口走ってんの俺? 絶対変な意味に聞こえちゃったよ。
「カメラを全部外したとは言ってないわよ?」
すっごい笑顔で言われた。逆に怖い。
話題を変えなければ!
「委員長って何者なの? 研究所から来たみたいな言い方してたけど」
いきなり本題をぶつけた。楽しく二人でおしゃべりする為に俺の部屋き来たわけ
ではないのだ。委員長が何者で、研究所は今も研究を続けているのか聞かなければな
らない!
「いきなりね。もっと楽しく話しましょうよ? せっかく二人きりなんだからさ」
いやいや、あなたさっきカメラとか全部外してないよって言ってなかったっけ?
「いや、とりあえず学校で出来なかった話をしよう。その為に部屋まできたんだか ら」
雰囲気に流されてはいけない。雰囲気に流されて委員長に少しでも手をだそうも
のなら明日から俺は暴漢魔として全国にしれ渡るだろう。理性をしっかり持ってあま
り委員長の方を見ないようにしよう。
委員長は端正な顔立ちをしていて美人と可愛いを両方兼ね備えた美少女である。
尚且つ出る所は出て締まる所は締まっている。
改めて見るとけしからん身体だ! 思春期真っ只中の男子には刺激が強すぎる!等と思考していると
「そんな凝視しないでよ!きちんと答えるし、霧矢くんの敵でもないから安心て」
おっと、いつの間にか委員長に見とれてしまっていたようだ。幸いエロい目で見
ていた事には気づかれていない様だ。一安心。
ふう、と一息ついて委員長に問いかける。
「委員長は何者なんだ?」
一番最初に疑問に思った事を聞いてみたが、予想外の返答が帰ってきた。
「その委員長って呼ぶの止めてくれない?」
少し怒気を含んだ声色で言ってきた。
「でも、委員長はクラス委員長なんだから委員長でいいんじゃないか?」
俺がそう答えると委員長がさらに怒気を含んで言った。
「なら霧矢くんの事をNo.0《ナンバーゼロ》と呼んでもいい訳ね?」
No.0《ナンバーゼロ》とは研究所で俺が呼ばれていた呼称だ。
「ごめんなさい。でも何て呼べばいいんだ?」
素直な疑問を口にした。
「霧矢くん、私の名前覚えてる?」
質問を質問で返されてしまったが俺は答えに詰まった。
「えっと、桐崎さん? だっけ?」
委員長の名前が出てこない。
ずっと委員長と呼んでいたので名前は正直忘れてしまっていた。
「はぁ」
と委員長が溜息をついた後
「私の名前は峰崎鞘華みねざきさやか! 一年以上同じクラスにいて名前も覚えて
ないの? 信じられ ない!」
委員長もとい峰崎鞘華は興奮した様子で言ってくる。
「で、でも、一年の時もクラス委員長だったし委員長はクラスで一人しか居ない
から委員長でも通じると思って。事実今日まで委員長で通ってきたわけだし……」
せめてもの抵抗を見せるが
「はぁ!? それで名前を覚えなくていいという理由にはならないでしょうが! 今日
からちゃんと名前で呼びなさい! さもないと盗撮した動画を世界中にばらまよ!」
もう恐喝である。しかし俺には拒否権はない。動画をばら撒かれたらそれこそ自
殺するしかなくなる。仕方なく苗字で呼んでみる。
「えっと、峰崎さん……」
ギロッ!
めっちゃ睨まれた。
「名前で呼んでっていったわよね?」
なんだってんだ。苗字だって名前の一部だろう。
「さ、鞘華さん?」
恐る恐る下の名前で呼んでみるが表情は依然として不機嫌なままだ。
「鞘華って呼び捨てでいいわよ」
プイッとそっぽ向きながら言ってきた。
女子を呼び捨てとか難易度高い気がするがしょうがない。
意を決して名前を口にした。
「鞘華!」
ビクッ! と反応したがその後何も反応が見られないのでもう一度名前を呼んだ。
「鞘華!」
少し声が大きくなってしまった。
鞘華の様子を伺うと顔が若干赤くなっている。
やはり怒らせてしまったのだろうか?
どうフォローするか考えようとして思考が中断される。
「や、やればできるじゃない」
俯きがちに顔を伏せながらそう言ってきた。
顔は少し赤いままだ。
「あなただけ名前を呼び捨ては平等じゃないわね。これからは私も正樹って呼ぶ
から。よ、よろしく」
さっきよりも顔が赤くなっていた。恐らくさっきから顔が赤いのは怒っているの
では なく、羞恥で赤くなっているのだ。
そんなに恥ずかしいなら名前で呼び合うとかしなけ ればいいのに。
等とは決して口にできない。俺は空気が読めるのだ。わざわざ地雷を踏み抜く必
要もないだろう。
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