第3話 予兆

 スマホのアラームの音で目が覚める


 まだ寝ていたいという欲求が身体を支配するが、学生という身分の為嫌でもおきな

ければならない。


 まだボーッとする頭で身支度を整えて朝食のパンを齧る。

 朝食を済ませ学校に向かうべく家を出る。


 学校までの道のりはおよそ二十分程度だが普段よりも足取りは重かった。



「クソゲーのせいで貴重な土日を無駄にした」



 独り言ちながら重い足を運びようやく学校に着いた。


 教室に入り自分の机に突っ伏す。

 また授業という拷問が金曜まで続くと思うと余計に気分が落ち込んだ。

 こんな時は秀儀達とバカ話して気分を少しでも変えたい所だ。


 そんな事を考えていると予鈴のチャイムが鳴る。

 まだ三人は来ていなかったがそんなものはお構いなく担任の先生が教室に入ってきた。


 SHRが終わり机に突っ伏していると珍しく女子から声を掛けられた。


 「霧矢くん、ちょっといい?」


 顔を上げると声を掛けてきたのは委員長だった。

 一瞬金曜の事を思い出す。


 もしかして見つかっていたのだろうか?


「何? 委員長」

「今日他の三人はどうしたの?」

「俺は特に何も聞いてないよ」

「本当に?」


 何でそこで疑うのだろう?


「本当だって、何の連絡もきてないよ」

「そう、わかった」


 と言い残し委員長は去っていった。


 実を言うと三人が休んだ理由は何となく知っている。

 今回のようにたまに三人同時に休む時があるが、それは決まって新作のゲームが発

売された翌日だ。ゲームを攻略するまで学校を休むのである。


 エロゲーマーの鏡だね


 しかし今回は土日を挟んでいるので俺も三人とも休むとは思わなかった。

 まさかあのクソゲーをまだやっているのだろうか?

 まぁ三人共エロゲー歴は俺より長いので何か攻略法でも見つけたのかもしれな

い。


 あんなゲームバランスボロボロでも心が折れないとは恐れ入った。

 レベルを上げようと草原に出てみれば主人公は何も装備しておらずモンスターに一

撃でやられてしまう。


 死んだらまたキャラメイキングからやり直さなければならず、セーブやロードと

いった類の物はあのゲームには無かった。


 主人公に装備を買いそろえようとするが所持金ゼロである

ならばとRPGよろしく民家のタンスや壺を調べて装備やお金があるか調べると衛兵

がやって来て牢屋に入れられた挙句に死刑エンド


 何とか工夫をしてモンスターを倒してもお金や装備等を落とすわけでもなく、それ

でいて経験値すら入らない。


 経験値を得るには領地を拡大させるしか方法がなく、領地拡大には他の領地との争いに勝たなければならないのだが、領地同士の戦闘には奴隷しか参加できず、当然レベル1の所持金0では奴隷は買えないので実質的に攻略不可能とおれは判断してゲームを止めたのが昨日の夜である。



 LHRが終わり今日も無事地獄を耐えきった。

 途中の休み時間や昼休憩の時に何度か委員長と話した。



『三人が居ないと静かなのね』

『机に突っ伏して楽しいの?』



 等散々な言われようだった。

 止めてくれ、その口激は俺に効く。


 そんな地獄を経ての放課後である。



 部活や委員会等に所属していない俺は放課後は秀儀、葉一、巧の四人で談笑したり

ゲーム等して過ごしているが、生憎今日はその三人が休みの為、真っすぐ家に帰る

事にした。


 決して他に友人が居ない訳ではない。他の友人は皆部活に入っているのだ。


 もう一度言う、決して友人が居ない訳ではない!


 教室を出ようとすると


「霧矢くん」


 委員長に呼び止められた。


「ん?」


 今日は委員長によく話しかけられるな、怖いな~


「今日もゲームショップ行くの?」


ドキ!?


 やはり金曜見られていたのか?


「い、いや、行かないけど」


 動揺してしまった。


「ふ~ん、金曜に買ったゲームはやった?」


 やっぱりバレてたーーーーーー!?


 どうする? ごまかすか? いや、ゲームショップに委員長が居たのは確かだ。下手に誤 魔化さない方がいいだろう。


 その前に少し探りを入れてみるか


「よく金曜にゲーム買ったってしってるね」

「!?」



 しまった!という顔をしている。


 これはもしかして……。



「もしかして委員長もゲームショップに居たの?」

「い、居ないわよ! 居る訳無いでしょ! た、たまたまあなたたちが帰りにゲーム

ショップに新作買いに行こうと話していたのを聞いていたのよ!」


 凄い慌てようだ。うん、これはあれだ。俺と秀儀の予想が当たってしまったのだ

ろう


「そうなんだ、ゲームショップで委員長に似てる女子がいたけど見間違えだったの

かな」


 今日の仕返しとばかりに俺の口は動いていた。

 まさか俺の性格がこんな意地が悪いとわ。


「似ていただけでしょ? それだけで私と思い込むなんて、馬鹿々々しい!」


 俺は更に畳み掛ける


「そうだよね、クラスの委員長しか付けられないバッジを付けてて、委員長に似て

る女子なんて沢山居るもんね」


「そ、そうよ!」


「それに委員長に良く似た女子が居た場所はBLゲームコーナーだから委員長じゃ

ないね。委員長には似合わないs「顔貸しなさい」」




 恐ろしく冷たい声で言われた。目も完全に据わっている。

 ヤバイ、言い過ぎた。


 どうする? 謝って許しを乞う? 許してくれるか? 土下座で済むだろうか?

 などと考えていると


「早くこっちに来て、私について来なさい」

「はい!」


 こえええええええええええええええええええ!!


 女子ってこんな低い声出るの? 声に温度があったとしたら絶対零度だよ!

 俺は大人しく委員長の後を着いていった。


 しばらくして部室棟の裏にある小さなスペースに着いた。

 ああ、ここでボコボコにされるのか。ここには人は来ないだろう。何せ俺も今初め

てこのスペースの存在を知ったのだ。委員長はよくこんなスペース知ってるな。


 小さなスペースに着いてから少しの静寂が続いたが委員長がそれを破った。

 俺の肩に手を置き、ギリギリと締め付けながら


「今から質問するから正直に答えて」

「は、はい」


 嘘はつかない様にしよう。


「ゲームショップで私を見てどう思った?」


 いきなりの直球ストレートが剛速球できた


「えっと……」


 しばらくどう言うか迷った後


「クラスではリア充ぶって、家ではBL大好きの腐女子だと思いました」


 正直に話す事にした。

 恐る恐る委員長の顔を見てみると


「……」


 耳先まで真っ赤になっており、プルプルと小刻みに震えていた。

 しばらくの沈黙の後委員長は少し涙目になりながらも俺を睨みつけながら。


「あの時霧矢くん以外に他の三人も居たけど、その三人も同じ考えだと思う?」

「秀儀が俺と同じ結果にたどり着いて他の二人に説明していました」


 顔色を伺ってみるとさっきまで赤かった顔が今度は青白くなっている。

 やはり知られたくない事だったのだろうが、俺の話はまだ終わっていない。


「そのあとに秀儀がクラスの奴らに言いふらして委員長への復讐をしようと俺た

ちに持ちかけました」


 仲間を売っている用でいい気分ではないが、今この瞬間の俺の命に関わるので正

直に全てを話す事にした。すまん秀儀、俺はまだ死にたくないのだ。


 等と考えていると、今度は最初よりも顔を赤くした委員長が俺の肩をガシッ! と掴み、俺を射殺さんばかりの眼光で睨みつけながら


「誰かに言いふらしたりしたの? どうなのよ! 正直に答えなさい!」


 ガクガクと俺を揺さぶりながら聞いてくる。


「ち、ちょっと、い、委員長……」

「は・や・く・こ・た・え・な・さ・い!」


 さっきよりも激しく揺さぶられてまともに話せない。


「は、話すから、やめ・・て・・・」


 委員長はハッ! と正気を取り戻したのか揺さぶるのを止めた。

 しかし、肩はまだ掴まれたままでギリギリと締め付けてくるが我慢して話す。


「誰にも言ったりしてないよ。第一今日は三人とも休みだっただろ?」


 委員長は少し考えるような顔をした後


「本当かしら? 霧矢くんは今日学校に来ていたじゃない」


 委員長はまるで覗き魔を見る様な目で俺を見た


「本当だって! 今日俺が誰かと話してる所みた?」


 言っていて悲しくなってくるが委員長の誤解を解くのが先決だ。

 委員長は右手を顎に持っていき考える様な仕草で


「む、確かに」


 納得仕掛けてる。今がチャンスだ!


「それにその事は金曜にちゃんとフォローしておいたよ。委員長がBLゲームを買

いに来たんじゃなく、エロゲーを買いに来た俺達を見つけるために見回りをしていた

んじゃ ないかって。そうしたら三人とも委員長ならやりかねないと思ったのか納得

してくれたよ」


 俺は捲し立てる様に言い切った。

 それを聞いた委員長がまた少し考える様な素振りを見せた後


「嘘は言ってなさそうね、一応信じてあげる」


 どことなく上から目線で言ってきた。

 やっと解放されると思っていたが委員長が口を開く


「次の質問よ。今でも私の事をホモが好きな隠れヲタクだと思ってる?」


 はい、思ってます。

 なんて言える訳ないので


 「今は思ってないよ、委員長の必死さが伝わったし、ゲームショップに居たのも見

周りだと思ってる」


 これで委員長の機嫌が戻ればいいなと思っていたら


「嘘ね」


 キッパリと言い放った。

 ここで同様したらマズイ。もっともっともらしい事を言わないと。

 と思っていると


「もっともらしい事を言っても無駄よ。あなたの考えてることはバレバレよ」


 今の言葉を聞いて滅茶苦茶同様してしまった。

 何故言おうとしていた事がわかった? エスパーなのか? それともリア充の勘なのだろうか? 俺が黙りこくっていると


「どうして考えてる事が分かるか不思議そうね」


 そりゃそうだろう。考えて言おうとした事が見事に的中されたのだから。

 やっぱりエスパーなのだろうか?エスパーマ〇的な


「ふふっ。エスパー〇ミっていつの時代よ」


 え? 今俺声に出してたか? 嫌、出してない! やはり俺の考えてる事が分かってるとしか思えない。委員長はエスパーだったのか?


「エスパーではないわ。でも近いと言えば近いかしら」


 委員長がまたも俺の思考を当てて少し笑顔を作り


「これはスキルよ。私は触れている対象の思考や嘘を付いているかわかるのよ」


 スキル? スキルって言ったのか? どうして委員長が?


「答えは簡単、私は研究所のエージェントよ」



 委員長は笑顔でそう答えた  

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