第2話
夕方の日差しを背中で受けながら黙々とパソコンのキーボードを叩く。
そろそろ目が疲れてきたので目頭を軽くつまむ。よしっ。あと少し。気合を入れるように頬を叩く。
パシッ。
遠慮がちな音が生徒会室に響いたのを合図にしたかのように会計が立ち上がる。
「会長先上がりますね」
「お、おお」
会計の坂本が書類を俺の机の上に置いて帰っていく後ろ姿を見てつい、舌打ちが出そうになったが堪えた。
この会計はろくに仕事もせずに毎日遊び呆けていると聞いたことがある。あいつは何故会計という地位まで登り詰めたのだろう。
しかしこうして面と向かってしっかりと言いたいことが言えないのが俺の弱みなのかもしれない。改善していこう。
「書記。少し手伝ってもらえないだろうか」
「あ、ああ~。やば。す、すみません」
「なんだ用事か?」
「祖母が危篤なもので」
「そ、そうかお大事に」
ねえ。そのセリフ49回聞いた。俺覚えているかならね。まあ、やはり面と向かって俺がお願いしたり注意したり出来ないのが悪いのだろうか。
はあ。
おっと。ついため息が出てしまった。幸運が逃げると言われるしな控えよう。
「しまっていくぞぉぉー!!!」
「おおおおおお!!!!」
今日も今日とて運動部員は元気があって何よりだ。その掛け声を心の中で俺も叫ぶことにした。『しまっていくぞぉ!!』『おおお!!』さて、そろそろ俺も部活に顔を出しに行くとするかな。
日の刺さるリノリウムのきいた廊下を歩き最上階の端っこに位置する教室に入る。
カラン。
ドアノブに引っかかった『異世界部』の名前を見て苦笑してしまう。この部活に入った時はどうなることかと思ったが、まあ、何とかなりそうである。
「アンジョーン!息をしろ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「開始早々うるさいぞ」
この部活に入部してはや1ヶ月。この光景もそろそろ慣れてきた。
机が無造作に並べられていらなくなった選挙ポスターが黒板に貼られているこの教室も愛着が湧いたものだ。
そして、美少女(笑)こと米屋未来は、今日も一人寂しく何かをしていた。
傍から見たらそれは等身大ぬいぐるみを抱き抱え泣き叫ぶ感動的なシーン(爆笑)であった。等身大のぬいぐるみには顔が、かお…………あ!
「お、お前! それは俺の選挙ポスターの写真ではないか!」
「おおーこのブサ……寝起きみたいな顔が会長さんなんですね」
「聞いたぞ。お前、ブサイクと言ったな!」
こう見えて自己評価クラス内1位2位、学年なら4位5位と中々の成績ではないか。その顔をブサイクと、ブサイクといった。このアマ、許さん。
まあ、怒りを抑えて、こういうやつなのだ悪気はない。広い心を持ってみればこいつなんてまだまだ大したことないだろう。許す。
「して、今日は何をするんだ?」
早速今日の部活方針を聞いてみた。俺はまるっきり知識がないものだからこいつに頼る他ない。
別にちょっと、こいつとやる異世界ごっこが楽しい訳では無い、未知のことをしてくれるこいつが少し面白いだけだ。なので決して、決して楽しい訳では無い。
「そうですね!私はギルドマスターなので会長さんは、駆け出しの冒険者で」
「なんの話しをしている?」
「モ○八ン」
「何してんの!!! アンジョーンはどこ行ったの?」
パクリ! いいのそれで。てかそれ異世界なの?
ゴソゴソ。何やら袋を持ってきて、なにか取り出して、武器?
「私はハンマーです。会長さんも好きなの選んでください」
「お、おう」
手作り感満載の武器達が沢山でてきた。なんだ、刀みたいのから弓? 色々あるな。
男ならわかるだろうがこの武器という玩具は触ったり見ているだけで男心をまさぐる。
「お、これなんて格好良くないか?」
「ほほぉ、双剣。いいですね」
中々の出来ではないか? それでこれを使ってまさかと思うけどチャンバラごっこをする訳では無いよな。
そんなことしてるのがバレたら俺もう生徒会長辞める。
「これで何をするつもりだ?」
「あ、はい。用意してあるので外に行きましょう」
外に? やはりこれを振り回して遊ぶのか。
しぶしぶ付いていく。途中生徒達に見られそうになったが双剣ということもあり小さくて手頃でよく隠せた。
それに反してこいつはまあでかいものをよく持ち歩いていられるな。
「あ」
「え」
あと少しで昇降口。瞬間、未来が階段を踏み外して盛大にころげてしまった。ゴン! という鈍い音を立てて頭を抑えている。
「大丈夫か!」
「か、会長」
半目の状態で今にも意識が飛んでしまいそうになっている。よく見るとたんこぶが出来上がっていて腫れている。
未来は重い手つきで外に指さす。
「外に」
「外がどうした?」
「お、肉」
「肉! 肉がどうした!?」
それを最後に息絶えてしまった(ように見えた)
とりあえず外に出ればわかる。あいつを死なせてたまるか。
どこかの運動部員が走っている横を猛ダッシュで駆け抜ける。校舎の角を曲がったところになにかが置いてあった。
「はぁ、はぁ。なんだこれ」
そこにあったのはよくゴム人間の主人公が食べているような骨付き肉とそれを焼くためのセットがされていた。
あまりゲームに親しみのない俺でもわかる。焼けって言うんだな。モ○ハンだもんね。
グルグル。
「おっ、会長何してんすか?」
「肉焼いてる」
グルグル。
「会長~たのしいぃ~?」
「うーんめっちゃ楽しいぞお前もやるか?(棒)」
「やぁ~いい」
グルグル。
「会長」
「なぁに?」
「いえ、なんでもないです」
グルグル。
さてそろそろ焦げ目がついてきていい感じになったかな。おおー、いい匂い。
お肉のいい匂いが充満してそこら辺の部員がヨダレを垂らして見ている。貧乏の我が家ではこんなもの食べたことがない。垂れる肉汁が輝いて見える。
「上手に焼けましたー!!!」
早速かぶりつこうと思った時狙ったかのように大声を上げる。振り返ると案の定未来だ。
「わっぁ! びっくりした」
「おお、上手です」
「お前、怪我は?」
「見ての通り! いや、ちょっと盛大にこけすぎました」
頭をすりすりとしている。やはり少し腫れているようだ。
「私もやりたいです」
そう言うと肉を取り出してまた肉焼きセットにセットする。グルグル。グルグル。グルグル。しばらくそれを見ているといきなり大声を上げた。
「ウルトラ上手に焼っけました~!!!」
「何それ?」
「私、肉焼き名人のスキルを持っているので」
「なんかずるい」
まぁ、いい。こんな肉めったに食えないからな。美味しくいただくとしよう。
「会長」
「ん?」
1口かじろうとした時肩をぽんと叩かれ振り返ると満面の笑みで肉を差し出してくる。
「交換です」
「お、おお。ありがとう。」
何こいつ。意外と良い奴。こいつの肉の方が焦げ目良いし美味しそう。おっといけないヨダレが。
「会長。何があったか知りませんが元気だしてくださいね! これ食べればスタミナ150回復ですから」
「なんかよくわからんが、ありがとう」
もしかしてこいつは俺が毎日雑務におわれ生徒会内での悪い雰囲気を察してくれているのだろうか? こいつにしては察しがいい気もするが。まぁ、有難くいただくとしよう。
合掌。いただきます。
かじる。旨い。かじる。旨い。ジュワァーと弾けるように口の中いっぱいに肉汁が広がる。ああ、俺もうバイトしてこの肉買おうかな。
「あなたたち」
「はひ?」
怒気の気持ちを発している先生がそこに立っていた。眼鏡美人の櫻井先生が仁王立ちして僕らを見下げていた。怒った時の表情がめちゃくちゃ怖いと定評。
これはさすがに俺達も悪いので謝らなければ。生徒会長の威厳が。
「す、すみませ――」
「あなたは! かの有名な最強のキ○ン。火力の高さに度肝を抜かれるというあの、落雷は勘弁を」
「何言ってるのあなた」
「お前何言ってんの!」
「どうしましたか櫻井先生」
騒ぎに駆けつけたのは隣のグラウンドで野球部の監督をしていた山田先生。櫻井先生が理由を説明するとやはり怒りそうな気配が。
「ほう、火遊びとは」
まさにその山田先生から火の粉が飛び散りそうな感じである。
俺は平謝りを続けているが当の未来といえば。
「こ、こいつはまさか、炎龍テオ・テス○カトル!! スーパーノヴァは勘弁を!」
「何言ってんだ?」
「すみませんすみませんこいつが変なことばかり言って」
「あら、あなた、生徒会長じゃない。生徒会長が火遊びですか?」
「す、すみません」
「職員室で話し合いね」
「ひいい」
「して、古龍クシャル○オラはどこに?」
お前もうだまっとれぇ。
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