第19話 いじめ


 俺は杏南と別れた後、下校時間を過ぎた暗闇の教室で自分の席に座り一人佇んでいた。

 すると、誰もいないはずの夜の廊下に足音が聞こえてきた。

 その足音は段々と教室の方へ近づいてきて止まった。

 教室のドアがガラガラっと開かれ、誰かが教室へ入って来た。

 足音が再び響き、俺の方へとさらに近づいてきた。


「これで、よかったのか?」

「ええ、これでけいこへの償いができるわ。あとは、最後の仕上げよ。」


 俺はゆっくりと後ろの方で止まった足音の人物の方へを顔を向けた。


「まったく、手の込んだ計画ですねーまゆまゆ」

「当たり前でしょ、を殺したあなたたちへの10年越しの恨みなんだから。」


 そこには、黑い装いに身をまとい、瞳孔を開きながら、俺を鬼の形相で睨み笑みを浮かべるまゆまゆが立っていた。


「まさか、俺と杏南だけでなく、みかやんやたいち、また慶太先輩までを利用するとは…」

「私はただ、のためにいるにすぎないわ、5年前があなたのことを頼っていたようにね、だからどんな手段であろうと利用するわ。のためにね」



 ◇



 この話は、5年前、俺が小学生のころまで遡らなくてはならない。


 当時小学校に、けいこちゃんという女の子がいた。

 けいこちゃんとは、クラスが一緒で当時隣の席だった俺は、いつもけいこちゃんと教室で話したり、遊んだりしていた。

 ある日、俺はけいこちゃんに「好きだと」告白された。

 俺は嬉しくて「うん!」と返事を返した。

 当時の小学生の恋愛なんて、ただ楽しいというような感覚で恋愛感情などはほとんどなかったのかもしれない。

 だが、次の日、学校に行くと。けいこの机が落書きされ、机に入った教科書は全部隠され、黒板には『うらぎりものの、けいこ。マジ死ね』と書かれていた。


 その首謀者こそ、何を隠そう杏南だったのだ。

 杏南は俺が撮られた腹いせにけいこちゃんをいじめたのだった。

 その日以来けいこちゃんへのいじめはヒートアップを続け、しまいには、クラス全員から白い目で見られるようになった。

 けいこも精神的に落ち込み、一日中机で俯いている日々が続いていた。

 俺はそれでも隙を見計らい、けいこちゃんに声を掛け続けた。


「けいこちゃん・・・大丈夫?」

「うん、俊太君。平気。」


 その時は俺に対して何度もニコっと笑って返していたが、とある日の放課後だった。

 俺が忘れ物をして教室に向かうと、席ですすり泣きをしているけいこちゃんの姿があった。


 俺は慌ててけいこちゃんの元へ駆け寄った。


「けいこちゃん、どうしたの!?」

「俊太くん・・・助けて・・・ヴェェェン!!!!」


 けいこちゃんは泣きつくように俺に顔を埋め、号泣していた。

 俺はけいこちゃんの頭を抱き寄せて、ただただ泣き止むまでそばにいることしか出来なかった。


 俺はその後、幼馴染で首謀者である杏南に詰め寄った。


「けいこちゃんに謝れ!」

「はぁ!?なんで私が謝らなきゃいけないの?」

「お前が最初にいじめだしたんだろ?」

「知らないし、私の勝手じゃん。」

「俺は助けてって言われたんだ。謝るまで絶対に杏南のこと許さないからな!」

「…ッチ。あんたね・・どうして私が気に食わないか分からないわけ?」

「何がだし。」

「元々は、あんたが・・・あんたがけいことばっかり仲良くしてるのがいけないのよ!なんで私とは遊んでくれないわけ?なんで私のこと好きじゃないわけ?いい加減にしてよ!」


 杏南は教室の机をけっ飛ばして怒りをものにぶつけた。

 息を荒げ、髪も乱れて涙を流していた。


 杏南がけいこをいじめた理由の原因が俺だったなんて思ってもいなかった。

 俺は何も言うことが出来ずただただ舌唇を噛んだ。


「わかったわ…そこまで言うならけいこには今後一切いじめはしない。ただし!今後、あんたはけいこと一斉関わらないで、それが条件。」


 俺は悩んだ。けいこちゃんのことは好きだが、俺が関わらなくなれば、けいこちゃんはいじめられることもなくなり、楽になれる。

 当時の俺はその場しのぎのことしか考えることが出来なかった。

 歯を食いしばり、両手を力一杯握りしめて、俺は杏南を睨みつけた。


「わかった、今後一切けいこちゃんと関わらない。」

「本当だね。」

「あぁ、約束する。」


 こうして、俺は好きな女の子を守るために、今後一切けいこちゃんと関わらないという約束を交わし、けいこちゃんをいじめから解放した。





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