第13話 怒りと後悔
杏南の報告から一週間だ経った。
俺は放課後の食堂で、ガックリと肩を落として落ち込んでいた。
そんな俺を、たいちが慰めてくれていた。
「まあ、そんな落ち込むなって。」
「…」
「はぁ、明日朝いちばんの飛行機だから今日しか会えないんじゃねーの?」
「…」
俺は、杏南とあの日以降まったく話していない。
杏南も留学の手続きなどで色々と忙しいらしく、学校にもあまり来てなくて話すタイミングがなかったのもあったが、あんな出来事があったら話すにも話しづらいというものである。
今日は杏南が学校に登校する最終日であった。教室でお別れの挨拶をクラスの前で済ませ、友達やみんなから「元気でね!」とか『連絡してね!』とお別れの挨拶をされていた。俺は自分の机で頬杖をつきながら杏南のことを眺めているだけだった。
そして、放課後になり俺はHRが終わりすぐに教室から逃げ出して、食堂で一人落ち込んでいるところをたいちに見つけられ、今に至る。
「行かなくていいのか?」
「別に。」
「まったくお前は、素直じゃねーな。好きなんだろ?あいつのこと」
「…」
俺は一週間前の杏南との会話を思いだしていた。
◇
「私、アメリカに留学する」
図書室に風が吹き、杏南の髪がなびいた。
俺は驚きの表情を隠せずにただただ杏南を見つめていた。
風が止んだところでやっと俺は声を発した。
「え・・・?はぁ?い、いつ?」
「来週の土曜日には日本を出る」
来週!?俺はあまりにも話が急すぎて焦った。
「そんなに早く…他の奴らは知ってるのか?」
俺が尋ねると、杏南はコクリとうなずいた。どうやら留学の話は前から出ており、俺だけには言っていなかったみたいだ。
「どうして、どうして俺にだけ教えてくれなかったんだ?」
俺は手を力強く握りしめた。
「それは…いうタイミングがなかったというか…」
だんだんと体の奥底から怒りがこみあげてくる…
「いつも一緒にいるじゃねーか、タイミングならいつでもあっただろ!」
俺は気が付いた時には、怒鳴り声のような大きな声を発していた。
図書室にいた人は、驚いて俺の方を見ていた。だが、今はそんなことも気にならなかった。
「違うの…」
「え?」
ボゾっと杏南が言うので、俺は強い口調で聞き返した。
「違うの!だって…だって!…」
杏南は必死に何かいい訳をしようとしていた。しかし、俺はいい訳なんか聞きたくなかった。そうかよ、俺には言ってくれなくて、他の奴は知ってたんだからよ…
あんなに取って俺はそんな程度にしか思われてなかったのかよ…
「そうかよ」
「…え?」
俺はこのとき、冷静に物事を考えられなかったのであろう。
「よかったじゃねーかアメリカ留学、楽しんで行って来いよ」
「俊太?」
気が付いた時には、俺は取り返しのつかないセリフを言い放っていた。
「お前なら、十分やっていける力あると思うしな、まあ俺もこき使われ役を終わらせることができてせいせいするしな!」
「ばか!!!!!」
すると、今度は杏南が思いっきり俺に怒鳴りつけた。
再び図書室に沈黙が訪れる。
「はぁ?」
「ほんとに信じらんない、もうあんたの顔なんか見たくない!」
杏南は俺の方へ近づいてくると、手を思いっきり振りかざし、俺の頬をビンタした。
突き刺さるような痛みを覚え、俺は頬を手で押さえる。
俺は杏南の方を睨みつけた。しかし、杏南の目から零れ落ちている水滴を見て、俺は衝撃を受ける。杏南は自分が泣いていることに気が付いていなかったようで、はっという表情を浮かべ、とっさに体を背け、そのまま走り去り図書室から出ていった。
俺は杏南の姿が見えなくなり、ふぅっと肩の力を抜いた。
これですべてが終わった。そんな感じがした。俺は口角を無理やり上げ、苦笑いを浮かべながら、
「…勝手にしやがれ。」
と独り言をポツリと言い放ったのであった。
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